職務分掌とは メリット・デメリットや作成の手順、注意点をわかりやすく解説
職務分掌は、組織内の業務の重複や矛盾を省き、効率を高めるとともに内部統制にも役立つ組織開発の有効な手段の一つです。この記事では、職務分掌とはどのようなものか、どんなメリットとデメリットがあるのか、活用のポイントと職務分掌作成のプロセスを注意点とともにわかりやすく解説します。
職務分掌は、組織内の業務の重複や矛盾を省き、効率を高めるとともに内部統制にも役立つ組織開発の有効な手段の一つです。この記事では、職務分掌とはどのようなものか、どんなメリットとデメリットがあるのか、活用のポイントと職務分掌作成のプロセスを注意点とともにわかりやすく解説します。
職務分掌とは、組織のなかでどの部署や役職が職務を担当し、責任を負うのかを明確にすることをいいます。これが明確でない場合、組織に必要な仕事であるにもかかわらず、誰も「自分の担当職務」だと認識できず、対応が漏れたり遅れたりする状況に発展するリスクがあります。
近年、人手不足に伴う業務の多様化と増加に対応するための生産性向上や、中小の企業にも内部統制が求められる傾向があり、職務分掌を導入する企業が増加しています。
職務分掌で各担当者が担っている業務の範囲と役割を組織内で「明確化」「適切な配分」「情報を組織内で周知共有」「管理」することにより、リスク管理と内部統制を同時に実践することができます。
「職務分掌」に似た言葉に「業務分掌」があります。「職務」とは、組織のなかで個人が担当する仕事や役割とその責任の範囲を指します。一方「業務」とは、具体的な仕事の内容を指します。つまり、「職務分掌」で明確にした各個人の担当職務のなかで、具体的にどのような業務を行うかを明確にしてするのが「業務分掌」です。
職務分掌は、役職者の場合は特に、その人が遂行すべき「業務の範囲に対しての責任と権限の範囲」を明確にします。業務分掌は、「業務が適切に実施されるために必要な具体的な内容に沿った行動」まで明確にするという点が職務分掌と異なります。
職務分掌は、仕事の責任の所在を明確化して組織を効率的に運用することを目的としているのに対し、セグリゲーションは従業員のコンプライアンス遵守とミスを防ぐことを目的に分掌が行われる点に違いがあります。
仕事に関する責任の範囲や所在を明確にするという点では同じですが、セグリゲーションは、組織の経理や管理部門における業務上のミス、いわゆる「経営にとって致命的となるリスクを軽減するために行われる分掌化」と考えることができます。
職務分掌に対して、ジョブディスクリプションも比較して使われることがあります。ジョブディスクリプションは英語のJob Descriptionのことで、一般的に職務記述書と訳されます。
職務分掌は担当業務の責任範囲や役割を明確に整理した記述ですが、その役職や業務を適切かつ効果的に実践するために、必要とされる具体的なスキルや経験について、具体的に詳しく書かれたものがジョブディスクリプションです。
ジョブディスクリプションは、欧米の労働市場では頭文字をとってJDと略して広く認知されており、転職希望者は募集案件のJDの内容を見て自分の経験やスキルにマッチしているかを確認するのが一般的です。
規模がそれほど大きくない組織の場合、自社に職務分掌が必要かどうかをどう判断すればよいのでしょうか。
簡単にいうと、従業員5名以下でこれまでもこれからも各人が担う職務とその範囲、業務の内容が基本的に一切変わらず、従業員数も今後増やす可能性がほぼないという企業以外は、小規模事業者であっても職務分掌が必要になる時代がくると筆者は推察します。
例えば、自社で今後同じ職務を複数の人がそれぞれ異なるスケジュールで勤務している場合、組織として対応すべき業務範囲や役職者の責任の範囲を明確にしておかないと、突発的な業務やトラブルが生じたとき、人によって対応が遅れたり見過ごされたりするかもしれません。
そのようなリスクに対しては、次項で解説する職務分掌のメリットを享受できる可能性があると考えられます。したがって、組織の規模にかかわらず、職務分掌を定めることを検討してみる価値はあります。
職務分掌のメリットとして注目されている内部統制に加えて、職務分掌を定める主なメリットとして、以下のようなものがあります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
職務分掌によって職務や責任の範囲を明確にすることで、各自が自分の担当業務に集中でき、担当者が不明の業務が放置されるリスクを軽減できます。
また、職務分掌の実施結果を社内共有することで、業務が特定の人に偏っている問題が可視化できます。それをもとに、どのように対処すべきか検討する機会を設けることができ、結果的にリスク管理につながります。
職務分掌を実施することで、部署間または担当者間の業務の重複や不要な作業があることに気づくきっかけを作り、業務フロー全体を俯瞰することにもつながります。これにより、業務そのものが効率的な方法へと軌道修正するきっかけにもなるのです。
業務フローの見直しを各部署内で行うだけでなく、部署間、部門間で見直しの過程を共有することで、組織全体の業務効率や生産性の向上に役立つ可能性があることも重要なメリットの一つです。
職務分掌によって得られるもう一つのメリットは、人材育成にも効果が期待できる点です。これは、新卒社員だけでなく、中途入社の社員にもいえます。
職務分掌による職務範囲や業務内容が明確になり、それが会社の正式な文書の一つとして社内で共有されると、組織の一員となったばかりの社員は、どの部署の誰がどのような職務を担っており、その守備範囲がどの範囲なのかについてすぐに基本的な理解ができます。
これは、新人研修にも有用です。職務分掌で文書化された内容を適切に把握することで、自社の組織についてより効率的に理解でき、自分の所属部署の役割に貢献するために自分が何をすべきかを効率よく把握できます。
自分が所属する部署の役割を理解することは、組織のなかで各自がどのようにキャリアパスを進んでいくことが可能かも見えやすくなるため、成長意欲を刺激し、人材育成に前向きな効果をもたらす可能性があります。
職務分掌を作成して運用するうえで注意したい、主なデメリットを三つ紹介します。
それぞれ見ていきましょう。
職務分掌によって各部署の担当職務とその範囲が明確になると、その定義を守ろうとするあまり、担当の職務範囲外の業務をあからさまに拒否する傾向が従業員の心理的にあらわれることがあります。
従業員が各自そのような心理で仕事をするようになると、業務の押し付け合いが起こる可能性があります。そのような状態は、デメリットと考えられるでしょう。
特に、職務分掌によって明確にされたはずの職務や業務の説明表現が不明瞭な場合、結果的に誰の職務範囲なのか複数の解釈が成り立つ可能性も考えられるため注意が必要です。
職務分掌は、あくまでも作成時点で考えられた職務や業務について整理し明確化するものであるため、その時点で想定されていない業務や職務は含まれていません。
そのため、時間の経過とともに、既存の職務分掌の規定にはない業務については、担当者や責任者が明確にされないまま、見過ごされてしまう可能性があります。
自分の職務範囲や役割に忠実に業務を遂行しようとすればするほど、対象範囲外の業務には目が向かなくなる可能性が高く、職務分掌を行った際に存在していなかった業務については、自分以外の誰かがやるだろうとお互いに思ってしまい、見過ごされてしまうというリスクがあります。
職務分掌が実施されて自分に求められる業務や職務範囲が明確になることはよいことだと思われがちですが、人によっては明確にされたことで、かえってその職務や業務に対してモチベーションが下がってしまう可能性があります。
仕事へのモチベーションの持ち方は人それぞれですが、職務分掌を実施する前にある程度自分の興味や希望に基づいて業務を進めることが可能だった人にとっては、職務分掌によって明確にされた自分の担当業務の範囲や職務に不満を抱く可能性もあります。
人によっては仕事に対するモチベーションが一気に下がってしまう可能性が考えられる、これもデメリットの一つと考えられるでしょう。
職務分掌を定めるには、まず組織全体について、各部署の業務の現状を把握するところから始めることになります。実際の手順を、作成する人を決める手順を含めた、五つのステップで記載します。
具体的なステップの前に、職務分掌を作成するには職務内容について詳しい理解ができていることと、それを適切な文章で説明できる「職務分掌規程」や「職務文献表」などに記載できるぐらいの能力を持っている人が必要です。
職務分掌は組織全体について定める必要があるため、経営者の意思決定があることが前提となります。人事部や事業部長など、一部門長の判断だけで行うべきではありません。経営者の明確な意思と職務分掌の作成の目的を確認することが、最初のステップとなります。
例えば、内部統制を目的として作成する場合は、各職務の内容や責任について内部統制の基本的な要素が網羅されるように、法令順守や財務上の情報管理などを含めたものにするなど、経営者の指示を確認します。
職務分掌の作成に関して経営者の意思決定がなされて目的が確認できたら、組織全体の現状把握を行います。組織図などを元に、各部署の現在の担当職務と役職者の権限を大まかに書き出し、組織全体の部署間の業務分担の構成がどのようになっているかを把握しましょう。
組織全体の構成が把握できたら、部署ごとに自分たちの職務内容と役職者それぞれの権限と範囲などをできるだけ詳細に書き出していきます。
書き出した現状の職務範囲や業務の分担について、不都合や矛盾、重複などがないかをチェックして「要見直し」の項目を明確にします。「要見直し」の項目は、部署内で共有して検討しましょう。
部署ごとに現状の職務範囲や権限について書き出せたら、職務分掌規程や職務文献表を作成しておきます。書式はこだわる必要はありませんが、テンプレートなどを活用すると記入しやすいので、自社の組織構成に合ったテンプレートを使うのがおすすめです。
各部署の部門長に職務分掌規程などのフォーマットに現状把握の結果に基づいて業務をすべて書き出してもらい、「要見直し」の項目についての検討の結果を反映させます。実際の運用開始は一旦仮決めとして試す期間を設けるとよいでしょう。このお試し期間に検証し、新しい職務分掌を正式な運用とするかどうかを決定します。
正式運用開始後は、定期的に職務分掌を見直して新しい職務や業務が発生していたら追加したり、職務や業務の内容が変わっている場合は、職務分掌規程を更新したりします。
職務分掌を定めるときの注意点を、三つ紹介します。
MECEとは、英語の「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の頭文字を取った略語ですが、ビジネスでは「漏れなく、ダブりなく」という意味で使われます。職務分掌を定めるときは、現状の各部署の職務において該当する業務範囲に漏れやダブりがなく把握することが重要です。
目的を持って職務分掌を作成しても、その中身に漏れやダブりが含まれていては、効果的な運用ができません。MECEを意識して現状の職務内容を把握するようにしてください。
経営者が明確な目的を持って職務分掌を作成し活用する意思決定をしたら、その内容を正しく社内に公開し周知することが必要です。
内部統制を始め職務分掌の作成によって見込まれるメリットを得るためには、社内に正しく公開し理解を促すための透明性の確保が重要です。経営陣が一方的に作成して運用を強制しても、その内容に透明性がなければ適切な運用はできませんので注意してください。
一旦作成した職務分掌規程などは、定期的に内容を見直して適宜更新する必要があります。特に、内部統制を目的として作成する場合は、社会情勢の変化に応じて職務分掌の在り方や組織の体制が変わったときに速やかに更新できるよう、定期的なメンテナンスを計画しておく必要があります。
職務分掌の作成は組織の規模が大きければそれだけ時間と労力がかかりますが、将来の優秀な人材確保にもつながる大きなメリットがあります。
担当する職務の内容が文書化されていれば、中途採用によって入社した社員も組織内の各部署と所属部署との関係性や自分に期待されている役割をより明確かつ早く把握できると考えられます。
そのため、職務分掌規程がある会社は、ない会社よりも求職者に好意的に捉えられる可能性が高く、優秀な人材に選ばれる確率が高くなるといえます。
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