目次

  1. コンティンジェンシープランとは
    1. コンティンジェンシープランが必要な理由
    2. コンティンジェンシープランの具体例
    3. コンティンジェンシープランとBCP(事業継続計画)の違い
    4. コンティンジェンシープランとBCPの違いまとめ
  2. コンティンジェンシープランを策定する手順
    1. リスクの洗い出し
    2. 発動基準の明確化
    3. 判断スキームの確立
    4. 対策の立案
    5. 関係者への周知・訓練
  3. コンティンジェンシープランを策定するときの注意点
    1. 余裕がある平時にリスク洗い出す
    2. 定期的なレビューと更新を行う
  4. コンティンジェンシープランを導入している企業事例
    1. ANAの例
    2. 日本取引所グループの例
  5. いざというときに慌てないために

 日々の生活や仕事において、何も起こらずに何十年も過ごせる可能性は限りなく低いでしょう。自然災害、パンデミック、テロ、金融危機、システム障害など、なんらかの緊急事態が発生するものです。コンティンジェンシープランとは、緊急事態に速やかに対応して、被害を最小限にして危機を脱するための考え方です。

 現在は、VUCA(ブーカ)の時代といわれています。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という四つの単語の頭文字から作られた言葉で、とりまく環境や状況が刻々と変わるような予測困難な状態を意味しています。

 リーマンショックのような金融危機、ウイルスによるパンデミック、戦争、物価変動、気候変動や地震など、いつ予測不能な緊急事態が発生しても不思議ではありません。また、個人の観点でも、病気になる、事故に巻き込まれる、突然仕事がなくなるなど、予測不能なあらゆる緊急事態が起こる可能性があります。

 VUCAの時代において、予測不能な緊急事態に対応するための一つの考え方がコンティンジェンシープランです。企業の経営者やリスク管理担当者だけでなく、日々の業務や日常生活においても多くの人が理解しておく必要がある考え方です。

 コンティンジェンシープランと聞くと難しく感じるかもしれませんが、実はとてもシンプルです。例えば、プレゼンテーションをするという仕事があり、会議室や会場のモニターに資料を投影して、話をする予定になっていたとします。そのときのコンティンジェンシープランとして考えるべきことはなんでしょうか?

 もしかしたら、会場のモニターやプロジェクターが壊れて使えないかもしれません。そのような事態に備えて、タブレットやスマホで資料を見られるようにすることや、紙でも資料を用意しておくということも、立派なコンティンジェンシープランなのです。

 一方で、コンティンジェンシープランは、通常、企業の取り組みにおいて使われます。例えば、新電力の企業の倒産について考えてみましょう。

 電力自由化によって、2021年4月までに登録された新電力の企業は706社ありました。しかし、2023年3月時点で706社中195社が、新規契約停止や事業撤退に追い込まれています(参照:「新電力会社」事業撤退動向調査〈2023年3月〉|帝国データバンク)。

 これは、2020年から21年の冬にかけて起きた電力市場の価格高騰や、ロシアのウクライナ侵攻などによる燃料価格の高騰による影響です。もし、コンティンジェンシープランを正しく立てていたら、撤退を免れた企業もあるかもしれません。

 そのためには、電力市場の価格高騰といったリスクを把握しておくことが必要でした。そのうえで、リスクが顕在化した場合にどう対応するかをあらかじめ対策しておくことが求められていたのだと思います。このように、あらかじめリスクを洗い出して、対応策を考えておくことがコンティンジェンシープランを立てるということなのです。

 コンティンジェンシープランによく似た考え方として、BCP(Business Continuity Plan)があります。日本語では事業継続計画と訳されます。

 コンティンジェンシープランとBCPは、どちらも緊急事態が発生したときに被害を最小限に抑え、復旧することを目指すものです。しかし、BCPの場合には、さらに「事業の継続性」まで担保できるように計画を策定します。

 つまり、コンティンジェンシープランが緊急事態発生時の短期的な対応なのに対して、BCPは緊急事態発生時だけでなく事業の継続性も見据えた中長期の取り組みというわけです。

 また、BCPを策定する際には、ビジネスインパクト分析を行いますが、コンティンジェンシープランではビジネスインパクト分析は行いません。ビジネスインパクト分析では、事業継続に欠かせない業務・リソースの洗い出し、早期復旧をする対象の優先順位付け、目標復旧時間の算出などが求められます。

 コンティンジェンシープランやBCPの違いをまとめると、下記の表のようになります。

コンティンジェンシープラン BCP
目的 緊急事態が起こったときに被害を最小限に抑え、復旧すること 緊急事態が起こったときに被害を最小限に抑え、復旧することに加えて、事業の継続性を担保すること
期間 緊急事態発生時の短期的な対応 緊急事態発生時だけでなく事業の継続性も見据えた中長期の取り組み
特徴 ビジネスインパクト分析は不要 ビジネスインパクト分析が必要

 なお、双方の違いを示したのは、コンティンジェンシープランの考え方を理解しやすいようにするためです。実は、筆者はコンティンジェンシープランやBCPという用語の違いにあまりこだわる必要はないと考えています。大切なことは、何が目的かということです。

 ライフラインに関わるような通信事業や金融事業などにおいて絶対にサービスを止めることができないという場合であれば、事業継続性にまで踏み込んだBCPが必須となります。

 他方、事業の継続性などはあまり考慮する必要がない場合には、コンティンジェンシープランで十分です。また、コンティンジェンシープランといいつつ、ビジネスインパクト分析も行うというような、どちらに該当するのか曖昧な場合もあると思います。いずれにしても、目的が何かに着目して、必要な対策を講じることが求められるのです。

 コンティンジェンシープランの策定は、以下の五つのステップで行います。

  1. リスクの洗い出し
  2. 発動基準の明確化
  3. 判断スキームの確立
  4. 対策の立案
  5. 関係者への周知・訓練

 順番に説明します。

 コンティンジェンシープランのはじめの一歩は、リスクの洗い出しです。ここでいうリスクとは、将来起こる可能性がある緊急事態のことです。

 顕在化していないリスクを洗い出すことは、とても難しい作業です。特に、現状に問題がないときや調子がよいときには、なおさら難しいと思います。こんなときに思い出して欲しいのが、京セラやKDDIの創業者である稲盛和夫氏の「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に行動する」という言葉です。

 何か目標を立てるときや行動するときには、楽観的であることが大切です。楽観的でないと、新しいことや意味のあることにチャレンジし、成果がでるまで行動することは難しいでしょう。

 しかし、楽観的なだけでは、予測不能な緊急事態が起こると対応できずに行き詰ってしまいます。しっかりと悲観的にあらゆる緊急事態を想定する、つまりリスクを洗い出すことが大切なのです。

 リスクを洗い出した後は、どのような状況になったら、コンティンジェンシープランを発動させるのか、という基準を明確にします。判断基準が明確でないと、対策を実行するタイミングを逸することになります。また、緊急事態が起こったときに慌てるだけで、なにもできないという事態になりかねません。

 例えば、会社において、古いシステムから新しいシステムに切り替える場合であれば、「切り替えるタイミングでシステムに障害が起こったら、コンティンジェンシープランを発動させる」というような基準を立てておくことが求められます。

 コンティンジェンシープランを発動するためには、基準を明確にするだけでなく、「誰がいつ、どのように判断するのか」という判断スキームを確立することも必要です。スキームとは、具体的な枠組みや方法のことです。

 企業であれば、事業の責任者や現場の責任者など、誰が判断するのかを決めておきます。迅速に意思決定ができるように、緊急事態における情報伝達の手段を決めておくのもよいでしょう。場合によっては、休日の深夜でも対応できるような体制の整備も必要かもしれません。このような手順を、判断スキームを確立するといいます。

 次に、緊急事態が起こったときの対策を事前に決めておきます。コンティンジェンシープランを発動したとして、その場で対策を考えてもよい案は出てきませんし、企業であれば組織的に行動することもできません。

 ですから、あらかじめ何をやるのかということを考えておくことが求められます。場合によっては、状況把握、コンティンジェンシープラン発動の判断、対策実行まで、細かくスケジュールを組んでおくことも必要です。

 コンティンジェンシープランを立てた後には、関係者に周知をします。緊急事態が起こってから対応を依頼しても、事前に何も知らされていない場合、上手く対処することはできないでしょう。

 また、事前に対応を準備しておく必要があるような場合には、なおさら、周知をしておくことが大切になります。また、緊急事態への対策として複雑なオペレーションが必要な場合には、リハーサルや訓練をしておくとよいかもしれません。

 コンティンジェンシープラン策定の五つのステップと重なる部分もありますが、特に注意する点について二つ挙げておきます。

 コンティンジェンシープランの肝は、リスクを洗い出すことです。余裕がある平時にリスクを洗い出すというのは、非常に難しいことです。

 しかし、調子がよいときに、クリアな頭でリスクを洗い出すことができれば、大きなアドバンテージになります。企業であれば、チームメンバーで事業のリスクを洗い出すワークショップを行ってもよいでしょう。

 コンティンジェンシープランは、一度作れば終わりではない場合もあります。現場の人の声を参考にしつつ、状況や組織の変化に応じて更新し、最新の状況を反映するようにしましょう。

 また、更新内容をふまえて、従業員全員がどうするべきかすぐに行動できるような教育をすることも大切です。

 最後に、コンティンジェンシープランを導入している企業を紹介します。

 ANAでは、長時間にわたって利用者を機内で待たせる場合のコンティンジェンシープランを設けています。機内で待たせる場面が発生してしまうリスクがあることを把握することが、コンティンジェンシープランの起点になります。

 そのうえで、お待たせ時間が2時間を超える前に、機内において飲食物を提供するなど、コンティンジェンシープランの発動基準や具体的な対策が立てられています(参照:長時間にわたりお客様を機内でお待たせする場合の対策〈コンティンジェンシープラン 〉丨ANA)。 

 日本取引所グループでは、東証市場、デリバティブ市場、先物・オプション取引等に対するコンティンジェンシープランを策定しています。東証市場における売買に関するコンティンジェンシープランは、システム障害や自然災害等による社会インフラの停止によって有価証券の売買が継続できないときに発動されます。

 リスクとして八つのケースを想定し、それぞれのケースにおいて、売買を停止する基準や売買を再開するタイミングを明確にしているのが特徴です。こちらのコンティンジェンシープランは、事前に売買停止の基準を明確にして周知することで、取引が停止するリスクと対応を企業側だけでなく、利用者にも理解してもらうという意味合いもあるように見受けられます(参照:コンティンジェンシー・プラン丨日本取引所グループ)。

 コンティンジェンシープランは、日常生活から企業における業務遂行まで幅広く適用できる考え方です。今は、VUCAの時代です。いつ、予測困難な緊急事態に直面するかわかりません。いざというときに慌てないために、余裕があるとき、順調なときにこそ、一旦立ち止まって予測不能なリスクについて考えることが大切です。

 そして、リスクがあるときには、コンティンジェンシープランを立てるという姿勢を身につけると、これからの時代においてサバイバルしやすくなるはずです。