目次

  1. 皆勤手当とは?企業側に裁量のある手当
    1. 精勤手当との違い
  2. 皆勤手当の金額相場
    1. 飲食業界での事例
    2. サービス業界での事例
  3. 皆勤手当の支給条件と計算方法
    1. 皆勤手当の支給条件
    2. 支給額の決定・計算方法
  4. 企業が皆勤手当を導入するメリット
    1. 従業員の出勤率向上
    2. 従業員のモチベーション向上
  5. 皆勤手当を導入する際の注意点
    1. 課税対象となる
    2. 有給休暇は出勤扱いとなる
  6. 皆勤手当を理解し、自社に適した制度設計を

 皆勤手当とは、給与計算の対象期間中に皆勤であった従業員に対して支給される手当です。皆勤を奨励する趣旨で導入されています。一般的な皆勤の要件としては次の事項が挙げられます。

  • 対象期間中の欠勤が無い
  • 対象期間中の遅刻・早退が無い
  • 対象期間中の所定労働日数勤務した(年次有給休暇を取得した日は出勤したものとみなす)

 皆勤手当は、「精皆勤手当」や「出勤手当」と呼ばれることもあり、皆勤手当は法律による定義はありません。そのため、企業が任意で設定できる手当です。また、勤務状況によって支給の有無が変更となるため、基本給や月給とは別に変動的な手当として設定されるのが一般的です。

 2020年におこなわれた厚生労働省の調査では、回答した4,191社のうち、皆勤手当や出勤手当などを支給している企業の割合は、25.5%となっています(参照:令和2年就労条件総合調査 結果の概況 賃金制度 p.2|厚生労働省)。

2020年調査計 25.5%
1,000人以上 9.6%
300~999人 13.7%
100~299人 21.2%
30~99人 28.7%

 皆勤手当の支給割合は、従業員規模が小さい企業ほど高い傾向にあります。ただし全体的には、2015年度の調査(29.3%)から約4%低下しているといった特徴もみられ、減少傾向にあることがうかがえます。

 皆勤手当に似た言葉として「精勤手当」があります。皆勤手当と同義で使用されることがほとんどですが、2つの言葉の違いを強いて挙げるならば、支給有無を判定する期間が異なるという点です。

 日本労働研究雑誌に掲載された諸手当の歴史を特集した論文では、皆勤手当と精勤手当について次のように解説しています。

「皆勤賞」は1カ月間欠勤しない者に支給する賃金、「精勤賞」は半年又は1年間無欠勤の者、あるいは欠勤の少ない者に対して支給する賃金(又は賞品)であり、まとめて、今日の精皆勤手当に相当する。

引用:なぜ賃金には様々な手当がつくのか|独立行政法人労働政策研究・研修機構

 現在でも、皆勤手当は毎月の給与で支給を判定し、精勤手当は半年に一度の賞与時に支給を判定するというケースがあります。

 厚生労働省による2020年度におこなわれた調査によると、皆勤手当の平均支給額は9,000円です。ただし、皆勤手当は企業任意の手当であるため、金額は企業の裁量で決定できます。

 下記の表は、平均支給額の調査結果です(参照:令和2年就労条件総合調査 結果の概況 賃金制度 p.3|厚生労働省)。

2020年調査計 9,000人
1,000人以上 6,400人
300~999人 7,600円
100~299人 7,900円
30~99人 11,200円

 従業員規模が大きい企業ほど金額が低い特徴がみられます。2015年(10,500円)と比較しても支給額が1,000円減少しており、皆勤手当自体が減少傾向にあることがわかります。これには育児休業・介護休業の制度が整備されていることと、それぞれの取得率との相関が考えられるでしょう。

 多様な働き方の推奨や法改正による育児・介護休業の取得しやすさが向上した結果、出勤を促す趣旨の皆勤手当の支給に影響していると推測できます。

 しかし、このような社会的変化にもかかわらず、一部の業界では皆勤手当や同様の手当が設定されています。

 飲食店での事例です。アルバイトやパート従業員が多い飲食業界では、皆勤手当ではなく「出勤手当」として支給している企業が多くあります。

出勤手当の例
支給条件 遅刻・早退なくシフト通りに出勤した1日について支給
支給金額 100~500円/1日

 皆勤手当では、1日でも遅刻・早退・欠勤すると「もう貰えないから」と考え、ルーズになる従業員が出てしまいます。しかし、1日ごとに支給する出勤手当にした結果、出勤率が向上しました。

 繁忙期が明確である小売販売や理美容業界では、一般的な皆勤手当と併せて、繁忙期に1日出勤するごとに繁忙手当や大入手当を支給している事例があります。

繁忙手当・大入手当の例
支給条件 繁忙期に出勤した1日について支給
支給金額 1,000~3,000円/1日
皆勤手当の例
支給条件 給与計算の対象期間中欠勤なく出勤した場合に支給
支給金額 10,000円/1回

 繁忙手当・大入手当は、多少の遅刻・早退をしても出勤すれば支給されることがほとんどです。それほどに、繁忙期の人員不足は売上減少や従業員の疲弊の要因となるため、避けなければならない問題です。これらの手当を導入した結果、経営者が繁忙期の人員確保に頭を抱えることが減りました。

 皆勤手当の設定や支給条件は任意のため、企業の取り決めた内容によります。ただし、正社員へだけでなく、アルバイト・パート従業員にも支給する場合は、条件や計算方法に気をつけて設定する必要があります。

 正社員向けに皆勤手当を設定している企業は、アルバイト・パート社員への支給も必要です。

 アルバイト・パートの皆勤手当については「同一労働同一賃金」を知る必要があります。

 同一労働同一賃金は、アルバイト・パートなどの非正規社員の賃金や待遇について正社員と比較して不合理な待遇差を設けたり差別的な取り扱いを禁止するルールです(参照:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第8条、第9条 | e-Gov法令検索)。

 そのため、正社員にのみ皆勤手当を支給し、正社員以外には同じ意味合いの手当を全く支給しないとすることは同一労働同一賃金ルールに違反する恐れがあります。

 また、パート・アルバイトは正社員と異なりシフトで働くケースが多くあります。シフト制の場合は、皆勤の条件に「シフト変更を認めるか否か」も事前に決めておくべきでしょう。

 たとえば、急なシフト変更は条件を満たさないとし、企業が定めたシフト希望申出の期日内や、手順どおりに変更した場合は良しとするなどです。

 皆勤手当の支給額は、支給する目的や他の手当との兼ね合いを考慮して決定します。正社員には「皆勤手当の金額相場」から、従業員規模の平均を参考にして定額で決定するとよいでしょう。

 パート・アルバイト従業員に出勤手当を支給する場合は、正社員の皆勤手当と比較して整合性のある金額に設定します。

 たとえば、正社員の皆勤手当は月5,000円なのに対し、そうでない社員の出勤手当額が1日100円だとします。この場合、後者は20日勤務したとしても2,000円となり、同じ趣旨の手当であるのにもかかわらず2倍を超える差が生じることとなるでしょう。これでは、同一労働同一賃金ルールに違反する可能性があります。

 仮に、以下の条件で出勤手当を設定すると、給与日に出勤手当として3,000円が支給され、正社員との不合理な差も生まれません。

 雇用形態:アルバイト従業員
 出勤手当の額:200円/1日
 支給条件:遅刻・早退なくシフト通りに出勤すること
 シフト通りの月間出勤日数:15日
 遅刻・早退があった日:1日
 シフト変更があった日:1日

計算式
200円 × 15日 = 3,000……出勤手当の額

 皆勤手当は出勤・皆勤を奨励する手当です。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響もあり「体調が悪い場合は休む姿勢」が浸透した現在では、時代遅れとする風潮も見られます。とはいえ、皆勤手当は経営者側にいくつかのメリットがあります。

 従業員の出勤率向上は皆勤手当の導入で最も期待されるメリットです。従業員が毎日出勤することで、業務を計画通りに遂行できたり、トラブルが生じても支障を最小限に抑えられたりするでしょう。

 また、欠勤により周囲の従業員の負担が増え、それが悪化すると離職につながる危険性がありますが、出勤率が向上するとこういったリスクも防ぐことが期待できます。

 皆勤手当を導入することで、従業員の出勤に対するモチベーションを向上できます。また、遅刻・早退・欠勤のない出勤を促進することで、従業員が一体感を持って労働へ従事できるため、業務効率や生産性の向上にも期待できるでしょう。

 皆勤手当を新規に導入する場合は、前提として就業規則に規定することとなります。就業規則の変更には従業員代表の意見を求める必要があるため、手当の趣旨や金額の妥当性を合理的に説明できるよう設計しておきましょう。

 本章では、2つの注意点を紹介します。

 皆勤手当は、所得税の課税対象となります。また、労働保険料、社会保険料の算出に必要な標準報酬月額、時間外労働(残業)手当などの割増賃金の基礎額の計算にも含まれます。

 つまり皆勤手当が支給されると、その分の算出基礎額が上がるということです。従業員にとっては、時間外労働手当などの支給は増えるものの、所得税や雇用保険料も増加するということになります。

 企業側での給与計算も注意が必要です。給与計算システムで新規に手当項目として登録する際には、これらの設定を間違えないようにしましょう。

 有給休暇を取得した従業員に対して不利益な取り扱いをすることは労働基準法で禁止されています(参照:労働基準法附則第136条 | e-Gov法令検索)。そのため、基本的に有給休暇は出勤とみなされます。

 ただし、有給休暇を取得した従業員を、皆勤扱いとせず皆勤手当の対象外とすることが必ずしも違法になるとは限りません。たとえば、就業規則に定められた有給休暇申請の手続きをおこなわなかったり、欠勤後の有給休暇の振り替えであったりした場合は、欠勤扱いが妥当だとみなされることもあるでしょう。

 皆勤手当は、従業員に対して出勤を奨励する手当として支給されます。育児・介護休業の普及から導入率や支給金額は減少傾向にあるものの、従業員の出勤率とモチベーションの向上に寄与する効果が期待できます。

 ただし、他の手当との兼ね合いや、多様な働き方を考慮することも大切です。皆勤手当を導入する際は、これらの要素や雇用形態の違いによる不合理な差に留意しながら適切な制度設計をおこないましょう。