目次

  1. 電研4代目が六価クロム規制に対応した電解研磨技術を開発
  2. 「ほかがまねできない」に魅力感じた兄
  3. 「親と青春できる最後のチャンスやで」に心動いた弟
  4. アルマイトブラザーズ誕生へ
  5. 「あきらめていた理想を叶える仕事」
創業当時の旧工場前での家族写真
創業当時の旧工場前での家族写真

 電研の前身である生野電解工業所は、桐島兄弟の誠さん・豊さんの祖父金本国弘さんが1960年、大阪市生野区で創業したのがはじまりです。

 最初は眼鏡の部品を取り扱っていましたが、アルマイト加工技術を会得すると、化粧品のキャップなどのアルマイト加工に転換します。

 アルマイト処理とは、アルミニウムの表面に酸化被膜をつくることでさびにくくしたり、摩耗しにくくしたりする表面加工技術です。染料を吸着させることで色とりどりに着色することもできます。アルマイト処理は広く知られているわけではありませんが、アルミ製品の多くに施されています。

 アルマイトで光沢を出す際に行う前処理には、電解液に浸して電流を流す「電解研磨」と化学薬品に浸ける「化学研磨」という2種類の方法があります。元々は、より光沢を出しやすい電解研磨が主流でしたが、電解研磨をするときに使われてきた有害な六価クロムが禁止され、化学研磨に移行した企業も少なくありません。

 そんななかで、桐島兄弟の父でもある桐島張央さんは、六価クロムを使わない「クロムフリー」電解研磨技術を開発。ただし、積極的な営業活動はしておらず、受託している仕事の99%は化粧品や目薬のキャップと、限られた用途にしか使われていませんでした。

 父・張央さんの技術に着目したのは兄・誠さんでした。大学卒業、就職を経て個人事業主として独立します。SNSを活用した営業支援の仕事をしていましたが、新しい方法を生み出しては真似されて…という繰り返しでした。

 このままやっていけるのか、と不安を感じていた27歳のころ、母から「ほんまに(家業に)戻ってこないん?」と声をかけられます。

 同じ作業の繰り返しだし、誰に感謝されているのかも分からないし……と後ろ向きでしたが、父に詳しく聞いてみると60年近く、営業活動もしていないのに仕事が途切れていないこと、クロムフリー電解研磨技術という独自技術を持っていることを知ります。

 「ほかがまねできない」という言葉に魅力を感じ、入社を決意します。

工場で働く張央さん
工場で働く張央さん

 「クロムフリーなアルマイトがもっと使われてほしい」と新たな打ち手を考える誠さん。しかし、現場は朝から晩まで忙しく、これ以上、仕事を増やす余裕はありませんでした。

 そんなときにコロナ禍がやってきました。取り扱っていた化粧品や目薬の需要が落ち、一気に売り上げが下がります。

 誠さんは、新たな販路を広げたいという思いから、自社サイトの更新など情報発信を始めていましたが、現場で技術を学ぶ傍らの情報発信は、圧倒的に時間が足りません。そこで、スタートアップ企業の創業メンバーで、子会社3社の代表取締役を務めている双子の弟・豊さんを巻き込みたいと考えました。

現場で技術習得に力を入れる誠さん
現場で技術習得に力を入れる誠さん

 しかし、口の達者な弟に対し、物静かな兄が正面からぶつかっても勝ち目はありません。

 そこで的確に急所を突く作戦に出ます。弟・豊さんは子どものころから父のようになりたいとあこがれを抱きつつも、一緒にいては父を超えられないというジレンマを抱えており、あえて距離を置いてスタートアップの創業メンバーとして働いていたのでした。

 そんな相反する感情を抱く豊さんのことをよく知る兄・誠さんはJR大阪環状線の玉造駅近くのコーヒー店に呼び出して、こう切り出しました。

 「親と青春できる最後のチャンスやで」

 父はすでに62歳。助けられるのは、もう今しかない、と豊さんの心を動かしました。

 そんな経緯で2年前に家業に戻ってきた豊さんは古い設備ながらも、美しく流れる生産ラインに驚きます。電解研磨は、各工程の時間管理が大切です。「まるで指揮者のように無駄のない指示でした」

 ただし、それでも時間いっぱいで働いており、営業で新規開拓する余裕も、新しい仕事を受注する隙間時間もほとんど残っていませんでした。

 そこで、これまで手いっぱいだった仕事の一部を地元の福祉作業所に業務委託し、引き受けてもらうことを決めました。市場に合わせた価格で発注することで喜ばれているといいます。

 さらに桐島兄弟は「アルマイトブラザーズ」と名乗り始めます。自分たちのクロムフリー技術を広く知ってもらおうと、2025年度の中小企業庁主催のアトツギ甲子園に出場すると、決勝大会まで進出できました。

第5回アトツギ甲子園に登壇した桐島豊さん
第5回アトツギ甲子園に登壇した桐島豊さん

 豊さんは「登壇して何より良かったのが、審査員やメンターのみなさんのおかげで、技術そのものではなく、クロムフリーの電解研磨から生まれる装飾性の高さが強みなのだと気づくことができました」と話します。

 実は、そのヒントにつながる仕事を兄の誠さんも受けていました。自社サイトからの問い合わせで受注が決まったホビー用品や、SNS経由で注文が来た自転車部品の「スプロケット」は、これまでの仕事よりも高い単価で受注できていたのです。

自転車のスプロケットへのアルマイト
自転車のスプロケットへのアルマイト
色とりどりに着色した自転車のフレームとハンドルをつなぐ「ステム」
色とりどりに着色した自転車のフレームとハンドルをつなぐ「ステム」

 「これまで技術を安く売ってたんやなあ」とつぶやく父に対し、誠さんは「外」の世界の反応を知り「技術に見合った価格をつけてもいいんだ」と自信を持てるようになったといいます。

 いま、アルマイトブラザーズは、自分たちにしかできないデザイン性の優れた商品開発をさらに広めていこうとしています。

 豊さんは自分たちの仕事を「対応できる技術がなく誰かが諦めていた理想を叶える仕事」「企業の未来を形にする」と定義し、全国を忙しく動き回っています。6月末からは、自分たちの技術が国外でも通用するかもしれないと、海外進出についても準備を始める予定です。