2025年の経済財政白書、中小企業の内部留保の蓄積と投資の鈍さを懸念

内閣府は2025年の経済財政白書(年次財政報告)を公表しました。2025年1月に発足したアメリカの第二次トランプ政権による関税措置により、世界経済の不確実性が高まるなか、日本経済は「賃上げを起点とした成長型経済」に移行できるかの分岐点にあると指摘。こうしたなか、政府はマクロ視点でみると、中小企業の内部留保の蓄積と投資の鈍さを懸念していることが見えてきました。
内閣府は2025年の経済財政白書(年次財政報告)を公表しました。2025年1月に発足したアメリカの第二次トランプ政権による関税措置により、世界経済の不確実性が高まるなか、日本経済は「賃上げを起点とした成長型経済」に移行できるかの分岐点にあると指摘。こうしたなか、政府はマクロ視点でみると、中小企業の内部留保の蓄積と投資の鈍さを懸念していることが見えてきました。
内閣府の公式サイトによると、「年次経済財政報告」(経済財政白書)とは、内閣府が1947年から毎年発刊されている年次経済財政報告の通称です。日本経済の抱える短期、中長期の課題解決のため、政策立案・遂行のための基盤として活用するものです。
日本経済はいま、「コストカット型経済」から「賃上げを起点とした成長型経済」への移行を確実なものにできるか否かの分岐点にあり、日本経済の基盤を支える中小企業の現状と課題は極めて重要な意味を持ちます。
経済財政白書によれば、2024年度の平均名目賃金上昇率は33年ぶりの高い伸びを記録し、2025年の春季労使交渉もこれを上回る堅調な結果となっています。しかし、食料品を中心とした物価上昇が続く中で実質賃金は横ばいにとどまり、消費者の賃金上昇の実感は広がりに欠けています。
賃上げの広がりという点で、中小企業内および大企業との賃金差は2009年からの推移でみると、縮小傾向にあると白書は指摘しています。ただし、中小企業の賃上げの勢いには減速感が生じていないか注意が必要であるといいます。
また、人手不足感が高くても賃上げを十分に行えていない産業・職種も散見され、これは市場メカニズムだけでは解決が難しい制約があることを示唆しています。
中小企業(特に従業員30~99人の企業)では、大企業に比べて欠員率が平均を上回って高く推移しており、これは労働需給のミスマッチが拡大している姿を映し出しています。このようなミスマッチの解消は、潜在成長率の引き上げと持続的な経済成長の実現にとって喫緊の課題です。
一方、経済産業省「経済産業省企業活動基本調査」と中小企業庁「中小企業実態基本調査」の調査票情報から、労働生産性と一人あたり賃金の状況を比較すると、全体として、大企業、中小企業共に生産性水準にばらつきがある中で、生産性の高い中小企業は、大企業に比べて遜色ない状況にあり、こうした中小企業では、労働者に対して、大企業と遜色ない賃金を支払っているといいます。
このように、中小企業の持続的な賃上げのためには、労務費の価格転嫁の更なる促進に加え、省力化投資をはじめとした投資促進による生産性向上、さらには事業承継・M&Aによる経営基盤の強化といった取組が不可欠であると指摘しています。
白書は、日本企業が過去30年間で経常利益を大きく増加させた一方で、設備投資の伸びは緩慢にとどまっているという構造的な課題を指摘しています。この利益増加は、主に生産効率化を含む変動費率の低下、人件費の抑制、過剰債務の解消、そして海外生産拡大に伴う営業外収益の増加によってもたらされてきました。
特に中小企業に焦点を当てると、あくまで全体的な傾向ですが、有利子負債比率は低下し、現預金比率が上昇し続けており、財務基盤は強固になっているといいます。
とくに借入金が大幅に減少し、その一方で現金・預金が大きく増大している点が中小企業の特徴です。この理由について、白書はいつくかの考察を示しています。
「規模が小さく経営資源に制約がある中小企業では、一般的に、大・中堅企業に比べて海外展開が難しく、したがって、投資有価証券よりは現金・預金での蓄積が進んだものと考えられる」
「1990年代後半の金融システム危機、2000 年代後半の世界金融危機、さらには2020 年のコロナ禍など様々なショックに直面する中で、将来何らかのショックが発生した際に、金融機関の貸出態度の厳格化に伴い資金繰りが悪化するリスクに備えていることが大きいと考えられる」
「中小企業の株主還元は、オーナー経営者への報酬と同義であることが多く、家族経営の中小企業においては、単年度のオーナー本人の課税額を調整する観点から、配当等の株主還元を増やさず一定程度に留めている可能性も考えられる」
しかし、中小企業の設備投資比率は大企業に比べて低く、横ばいで推移しており、利益率が高い中小企業でも、生産能力を高めるような前向きな設備投資が抑制されている実態が示されています。
さらに、中小企業における現預金の保有は設備投資の積極化にはつながっておらず、むしろ負の相関関係にある可能性も指摘されています。つまり、豊富な資金が、国内投資や賃上げに十分に振り向けられていない状況が読み取れます。
そのため、白書は「こうした予備的な動機に基づく現預金の保有は、危機時における企業の事業継続可能性を高める意味はある一方、現預金比率の高まりは、資金の効率的な活用が阻害されているということを意味するものであり、企業経営が過度に保守的なものとなることによる逸失利益も大きいと考えられる」と指摘しています。
そのため、中小企業投資促進税制などの税制活用は、設備投資の積極化に一定の効果をもたらしている可能性が示唆されています。また、中小企業においても、利益配分に関するスタンスに変化の兆しが見られ、内部留保の優先順位が低下し、従業員への還元や設備投資への重視度が高まっているといいます。
上記のような中小企業の課題に対し、トランプ関税による世界経済への不確実性が高まるなか、日本経済が「賃上げを起点とした成長型経済」へ移行するため、白書は以下の中小企業向け政策を提言しています。
• 労務費の価格転嫁・取引適正化の推進
• 省力化・デジタル化投資の促進を通じた生産性向上支援
• 事業承継やM&A等を通じた経営基盤の強化
• 蓄積された資金を国内投資や賃上げにつなげるための環境整備
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