話を聞くと、これまで長年蓄積されてきた顧客名簿が十分に活用されていないことがわかりました。ネット販売で不特定多数の見込み客を相手にするのではなく、これまで長年のつきあいのある顧客との関係性をより強固にした方が良いのではないかと考えました。
古森さんは、以前よりSNSを通じてこまめに情報発信していました。そこで「ぜひ、ニュースレターを作って、お得意様とのコミュニケーションツールにしませんか?」と提案しました。ニュースレターとしたのは、チラシではなく古森酒店のできごとやイベントなどを伝える「お客さまへのお便り」と考えたからです。さっそく直鞍ビジネス支援センターが文章やデザインを支援しました。
「見て、見て~!」と古森さんが笑顔で刷り立てのニュースレターを持って訪れました。 提案してから、わずか数週間でニュースレターができあがりました。初回号の内容は、お正月の屠蘇にぴったりの子年デザイン寒北斗の販売情報をはじめ、ご主人が作った手作りの商品棚や、酒の肴のレシピなど。ほとんどはSNSに掲載した情報を再編集したものです。
ニュースレターに記載した季節商品(干支ラベルの日本酒)の売り上げが本数ベースで昨年比5倍以上に。生き生きとご商売されている様子を伝えたことでこれまでの客があらためてお店に足を運ぶきっかけとすることができました。
古森さんは継続的に相談に訪れており、新型コロナウイルスの影響で外出自粛が求められるなか、「オンライン飲み会」を提案したところ、さっそく5月29日に第1回を開催しました。
同じお酒を楽しむ場の提供として 「オンライン飲み会」は、事前に古森酒店おすすめの「試飲セット」を購入し、指定日時にパソコンやスマホを通じてつながったメンバーとお酒の感想や近況を語り合う飲み会です。エヌビズは、コンセプトの立案、プレスリリースの発信、チラシ作成を支援しました。
店主の古森寿幸さんは「久しぶりの方も、初対面の方も、お酒とおつまみでカンパイするとすぐに気持ちがほぐれて、時間があっと言う間でした」と語ります。オンラインなので、途中で参加者の家族や子どもの飛び入り参加もあり、お互いをより身近に感じられたことも楽しかったようです。今回の試飲セットには、直方産の純米吟醸酒「MONOGATARI」が含まれ、おつまみには地域の飲食店のテイクアウトを推奨するなど、寿幸さんは地域とのつながりを大切にしていました。
国語塾のノウハウを広めて事業を継続させる
福岡県宮若市で、幼稚園、小学生向けに国語塾を主宰している「こくごの学び舎ココの芽」代表の木村麻美さん。国語塾を始めて10年が過ぎ、蓄積したノウハウを広めるためのアドバイスを求めて直鞍ビジネス支援センターを訪れました。独自のカリキュラムを一緒に広めるパートナーを募集することをご提案。学習塾運営の経験が無い方でも安心して塾を開設できる仕組み作りをお手伝いしました。
その結果、3人のパートナーを得ることができ、新しい塾の立ち上げに成功しました。木村様が長い時間をかけて作り上げてきた独自のカリキュラムが新たなパートナーによって受け継がれました。
その後も継続的に相談に訪れています。新型コロナの影響で対面指導が難しい状況で「塾生との関係性を保つための取り組みをしましょう」と提案したところ、木村さんは往復はがきを用いた学習支援を考案され、すぐに「往復はがきによる国語問題の出題」の取り組みをはじめました。
家族みんなで考える時間を持てたことや回答をポストに投函するまでの体験が楽しいと子どもたちや保護者にも好評のようです。
出題は「優しいイメージの形を考えて書く」や「5色の日本の伝統色を示して『色に名前をつけて』」などです。子どもたちの回答はホームページで紹介したり、個別にコメントを送っています。木村さんは「これは、学びを止めるな企画の第一弾です。往復はがきを送って下されば、誰でも無料で参加できます」と呼びかけています。
自らの経験を生かした経営支援をしたい
センター長の私がこうした経営支援をしているのには理由があります。家業であった「たち吉」を投資ファンドに事業譲渡した経験があるからです。たち吉は江戸時代から続く京都の茶わんやで、荒物などを扱う雑貨屋から始まり、戦後は全国各地の百貨店やアウトレットに販路を広げていきました。京都で生み出したデザインや企画を、全国各地の窯元が持つ技術を生かして商品化し、和食器卸小売の最大手として多くの家庭に商品をお届けしていました。
その家業も2001年に入社する以前から業績不振が続き、2010年に代表取締役に就任後も売上減少に歯止めを掛けることができませんでした。金融機関との調整に追われるなどしている間にさらに状況が悪化。2015年には国内独立系のプライベートエクイティファンドであるニューホライズンキャピタル社に第二会社方式による事業譲渡をおこないました。取引金融機関や仕入先、従業員に支えられたからこそ実現できたことです。
新しいたち吉は外部のプロ経営者を入れて事業性を高めたのち、売却する方針だと聞いています。2020年5月現在、ニューホライズンキャピタル社から新たなオーナーに引き継がれたとのニュースは聞きませんが、再建が順調に進んでいることを切に願います。
家業を立て直すことができずに苦しんだ私ですが、現在は創業を志す方や、個人事業主、中小企業経営者の皆様に経営支援をおこなっています。家業をたたんで何をするともなく過ごしていたある日、新聞の求人欄で直方市が新たな産業振興施設を設置することを知りました。縁もゆかりもない土地でしたがこれだと実感しました。地方中小企業の経営をしていた自分の経験が何かの役に立つのではないかと応募し、採用されたのが社長退任から約2年後の2017年1月。妻子と共に移住し今に至ります。
直鞍ビジネス支援センターが目指すこと
直方市が制定した産業振興アクションプランに基づき、一般財団法人「直鞍情報・産業振興協会」を実施機関として2017年1月に設置されました。1回1時間の相談を繰り返し、事業者の売上アップを実現することを主なミッションとしています。直方市と隣接する宮若市、鞍手町、小竹町を含めた直鞍地域を主な相談対応エリアとしています。
初回の相談でセンター長が事業の概要をヒアリングし、支援の方向性を決定します。その際に重視しているのはすべての事業者が必ず持っている真の強みを見出すこと。表面上の言葉や事象に惑わされることなく、売上アップを実現するための「テコ」を探します。支援の方向性が決まれば、センター長が継続して支援し、必要に応じて各アドバイザーも関与し、相談者様の売上アップを実現するためのお手伝いを継続しています。
開設から4年目を迎えた直鞍ビジネス支援センターですが、2018年には商店街空き店舗を活用した創業支援事例が経済産業省「女性起業家支援コンテスト」で優秀賞を受賞しました。また福岡県主催のビジネスプランコンテストでは相談者様が複数、入賞するなどしています。直鞍地域の産業振興の拠点のひとつとして、今後も事業者様に寄り添い、事業の「足腰」を強くするお手伝いをしていきます。
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