「会社の継承がゴールですか?」21歳で父の進学塾を清算したCEOが問う
専門家に特化した人材紹介業「サーキュレーション」を率いるCEOの久保田雅俊さん(37)。進学塾を経営していた父が倒れ、21歳で会社の清算を経験しました。地方の中小企業の脆弱さ、経営における「経験・知見」の重要性を痛感したことが起業につながったといいいます。(聞き手・杉本崇)
専門家に特化した人材紹介業「サーキュレーション」を率いるCEOの久保田雅俊さん(37)。進学塾を経営していた父が倒れ、21歳で会社の清算を経験しました。地方の中小企業の脆弱さ、経営における「経験・知見」の重要性を痛感したことが起業につながったといいいます。(聞き手・杉本崇)
新規事業やマーケ、DXなど、高度な経験や知見をもつ外部のプロ人材を活用して企業の課題解決を支援するプロシェアリングサービスを提供。約1万5000人が登録し、2100社以上が利用している。
※サーキュレーションの公式サイトによると、久保田雅俊・前代表取締役社長は、2023年4月18日に辞任を発表。20日に、本人から違法薬物所持の疑いにより捜査を受けたとの申出と、辞任の意思表示があったことを明らかにしました。辞任理由の公表までに2日かかった理由については「顧問弁護士を通じて捜査機関に対して当該捜査がなされたことについて適時開示をすることが捜査妨害とならないことについての確認を求めたところ、本日(20日)、その確認が取れました」と説明しています。
――学生時代から起業志向だったんでしょうか?
地元の静岡県富士市で1番大きい進学塾の息子に生まれました。同じ学校の子に負けられないから、1~2年先の勉強もさせられて、成績はずっと1番。家に帰っても学校でも「1番をとりなさい」という環境です。父は「とにかく勉強しろ」という怖い鬼塾長で、母親も教員。勉強がすごく嫌いになりました(笑)。多様性のないレースを徹底的にすることに違和感を感じました。
本を読むことはとても好きでした。中学生の頃から、書籍に出てくるような、社会革命を起こして人を率いる革命家や、自分の夢を持って社会に尽くす発明家、思想を元にみんなを動かす哲学家にあこがれるようになりました。
高校生の時は美術部でしたが、特に憧れたのは、最も言語化しづらいアートや音楽のクリエーター。親との亀裂はこのときに走っていたかもしれませんね。僕のように性格が強くて自分で進んでいきたいという2代目に反抗されている創業者のお父さんも多いんじゃないでしょうか。
ただ、父は「学習塾を継げ」とは一切言わなかったです。父は京大の哲学科をでて、哲学と向き合う中で教育に取り組んだ人だったので、そこはビジョナリーだったと思います。
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高校生になって、現実的に革命家や発明家になれるかと考えたとき、この平和な日本で革命なんか起こせるわけない、今から哲学家になるのも難しいと思い始めました。しかし、起業なら自分の身一つで、自分が社会を救えるんじゃないかと憧れを持ち始めたのが原点です。
――厳しかったお父さまが倒れられたのが転機ですか
大学生のとき、父が倒れて、昏睡状態になりました。急だったので、事業継承に伴うプロセスをまったく経ることができませんでした。金庫も分からない、税理士も誰か分からない、どの銀行にどれだけ借金があるか分からない、父以外誰にも分からない、そんな状態でした。
それまで父の書斎には怖くて入ったことはありませんでした。入ってみると、教え子たちの成績がリスト化されて、どう教えようかというメモをつづったノートが何百冊もありました。
僕の前では父は厳格な教育者で、パジャマ姿を見たことがないくらい熱心でした。書斎に入って初めて、父が学習塾経営に思いをもって、一つ一つ仕事を丁寧に進めていたことに気づかされ、誇りに思いました。
父の経営復帰は難しく、後継者がいないため、父の学習塾を清算すると決めましたが、なんで僕だけがこんな苦しい目に遭うんだと思いました。でも、いろいろと調べていくうちに、これは日本の社会問題なんだと気づきました。
日本の企業の99%が中小企業で、経営者は65歳くらい、後継者不在を理由に廃業する企業も127万社あるといわれている。この問題は自分以外にも起きるだろうなと感じました。
経営には大きくヒト、モノ、カネが必要ですが、カネや税に関するサービスは税理士や銀行などがいます。しかし事業存続や事業の成長戦略を描く人材を雇うことは難しかった。M&Aもありますが、ヒトの問題をどうするのかと考えたときに、人材のマッチングに注目し、大手の人材業に入社しました。
――大手の人材業が、お父さまの会社のような地方の中小企業に人材を派遣することは難しいですか。
学生時代の僕は、経営人材が中小企業にきてくれると考えていました。しかし地元の富士市ではエリートは県庁や証券会社に勤めており、そういう人たちは会社の経営をしたことがない。地方に来る経営人材もいませんでした。大手の人材業も、自分で事業ができる人材が中小企業に正社員や役員として就職できるサービスを提供できていませんでした。
しかし、ビジネスのプロフェッショナル人材は、日本の中小企業に可能性があり、バリューアップしなくてはいけないことを知っています。プロ人材の職能と、中小企業にかける時間と課題を定義してマッチングすれば、常勤や雇用体系ではなくても、手伝ってくれる人たちはいます。
だから、僕らが手がける「プロシェアリング」では、中小企業を成長させるために、専門性の高いプロ人材をその企業の外部から招くことで、企業の課題を解決します。特に事業承継の場面では、M&Aや税のサービスを提供するマーケットはあっても、「ヒトをつなぐ」ことができていないことがポイントです。
――新型コロナウイルスの影響で、働き方はどう変わりますか
変化は2点あります。感染症拡大防止のためヒトとの距離感が変わり、テレワークなど働き方の価値観が大きく変わっていきます。コロナを引き金に、働き方改革に書かれていた9項目(①非正規雇用の処遇改善、②賃金引き上げと労働生産性向上、③長時間労働の是正、④柔軟な働き方、⑤治療・育児・介護と仕事の両立、障害者の就労、⑥外国人材の受け入れ、⑦女性や若者の活躍、⑧転職・再就職支援、⑨高齢者の就業促進)も、加速度的に進化を遂げると思います。非常事態宣言が解除されて、旧来の働き方に戻ってしまってはいけません。
私自身はハイブリッド型をお薦めします。完全テレワークや完全オフィスは現状出来ない会社が多いです。この2~3カ月で、働き方の改革をしていくことが大きなポイントです。中小企業の環境にも言えます。シスコのウェベックスやグーグルのハングアウトやズームが使えなくても、みんなスマホは持っています。スマホのフェースタイムでオンラインミーティングはできます。明らかにテクノロジーのインフラはそろっています。
――コロナは事業承継にどう影響するとお考えですか
コロナで働き方の価値観が変わる中で、中小企業に求められているのは、社長のDX(デジタルトランスフォーメーション)です。デジタルを扱えるようにしないと、事業承継すらも息子と話がかみ合わなくなります。自社の成長戦略に、DXを絡めて何をするのか、徹底的にいま議論するべきです。さらに新サービスや新領域に飛び込むべきです。
もう一つが、どのタイミングで自社を手放すかの判断です。異常なくらいキャッシュフローベースでリスクがある時期だと思っています。売るか、継承するか、第三者に贈与するか。スピードが速まり、売却先や提携先もアフターコロナには変わってくると思います。自分たちの成長戦略とキャッシュフローを意識したうえで、どこまで自社を継続するか、判断を迫られる時期でしょう。
――プロ人材の活用は、新型コロナでどのように変わるでしょうか
仮説設計ができなかったり、見通しが立たなかったりする時代は、今に始まったことではありません。ここ数年で指摘されていた課題のスピードやリスクが大幅に大きく上がっただけです。想定できない時代に重要なのは、リーダーシップと新しい領域における知だと思っています。知見や経験です。これまでは、家族で話し合うなかでのクローズド・イノベーションは繰り返しやってきたはずです。
だから、未来の見通しが立たない今だからこそ、専門性が必要とされます。外部の専門的知識や、マーケットにある対応策、自分たちだけではないプロフェッショナルの経営チームを、自社にいれることは非常に有益になります。成長戦略を描くときに、社長1人では難しい。そこにプロの人材が入ることで、事業をシフトしたり、テクノロジーを活用したりすることが可能になります。
――これから会社や事業を後継しようとする方にアドバイスはありますか
私がいつも、2代目や3代目のような後継ぎの方に言っているのが、「お父さまの会社を継承することがゴールになっていませんか?」です。お父さまの会社を継ぐことやお父さまに追いつくこと、が主語になってしまっている。しかしお父さまの会社は、お父さまの時代のマーケットやサービスなんです。
最高の事業承継とは、次世代のマーケットが求められていることを見据えて自ら起業し、事業を作り、キャッシュフローを作り出し、その中でお父さまの会社を買収し、バリューアップすることです。お父さまの「事業を継ぐ」ではなく、「買収する」ぐらいの起業家精神がある方が、本当の事業承継できる方でしょうね。お父さまの会社に自らの事業をピボットさせたり、イノベーションについてお父さまと話せないようなら、継ぐべきじゃない。イノベーションと事業承継はセットの時代です。先代の会社をそのまま経営するのではなく、何を変革させるのかを考えながら、変化を促して事業承継する時代です。
昔は、証券会社や銀行でお金の流れを学んでから、家業を継ぐケースもありましたが、いまならコンサルティングファームでしょうか。でもやはり1番は、自ら起業することです。先代と違う環境での経営や、事業の推進、事業の立ち上げを経験し、経営の決断を学ぶ。自分自身の軸を持った経営者になることが重要です。
一番大事なのは、お父さんが連れてこられない人材を、後継者が連れてこられるかどうか。自分がこんなイノベーションや成長戦略があるから、こういう仲間を連れてきた。そのくらいの覚悟で新しい経営陣をつれてこられるリーダーシップを持っていない限り、先代以上にはなれないでしょう。やはり、企業は人なり、事業承継も人なり、なんですよ。
1982 年静岡県生まれ。2005 年に人材サービス大手インテリジェンスに入社、2010年、最年少で部長就任。企業内ベンチャーとして、経営顧問の紹介会社も設立した。2014 年にサーキュレーション設立。コンサルタントとして講演も多数行っている。
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