名産「明石だこ」とは

 明石だこは、明石市近辺で捕れるマダコの総称です。明石海峡には日本有数の好漁場である「鹿ノ瀬(しかのせ)漁場」があり、海峡の速い潮流に耐えた太く短い足で「陸でも立って歩く」とも評され、弾力ある歯ごたえとうまみが特徴です。

クラウドファンディングは目標額の4倍を達成

 樟さんが立ち上げたのは、「百年タコを茹で続けた職人たちが贈る『時を超える茹でだこ』」と題したクラウドファンディング です。

 樟さんによると、最もおいしいのは、ゆでた当日です。一方で「サクッ、プリッッッ!」という歯ごたえとうまみを両立するには、厳密なゆで時間と熱を通しすぎないための氷水が必要です。金楠水産の職人ならちょうど良いゆで加減になるものの、消費者に届けるまでに時間がかかってしまいます。ゆでたてのおいしさをどうにか味わってもらえないか……。その悩みが、今回の企画につながりました。

自宅でゆでる明石だこのイメージ

 今回は、職人が塩もみ後にゆでて真空パックに詰めたものと、職人が塩もみまでした加熱前のたこを消費者に送ります。加熱前のたこは自宅でゆでて食べ比べてもらうことにしました。

 支援者へのリターンには、ゆで方のコツを書いたメモを同封します。樟さんは「ゆで時間が30秒違うだけで、食感も味もまったく変わってしまいます。ミディアムレアが理想の状態です」と話します。7日現在で目標金額の400%を超える200万円が集まりました。

きっかけは明石だこの不漁

 金楠水産の加工する明石だこは、新宿伊勢丹や銀座三越、ミシュランの星を獲得した高級レストランとも取引があります。そんななかで、樟さんが消費者と直接つながるクラウドファンディングを始めたのには理由がありました。

金楠水産で加工される明石だこ

 理由の一つが、明石だこの不漁です。明石市などによると、2015年まで例年1千㌧前後の漁獲高がありましたが、そこから減り始め、2018年は319㌧となりました。海の環境の変化など様々な原因が指摘されています。金楠水産は引き合いがあっても取引量を増やせず、経営状態が悪化していました。

食べる人の笑顔が想像できるように

 百貨店に卸しても消費者の声は直接届きません。そこで、今後の展開を考えて始めたのがクラウドファンディングでした。クラウドファンディングなら支援者から直接コメントが届きます。いつもと同じはずの仕事でも、食べる人の笑顔を想像できるようになり、社員のなかでもおいしさを届けるという目標が明確になりました。

 「食べ比べ」というアイデアが出たのも、2019年に初めて試みたクラウドファンディングで「おいしすぎる!」といった声が寄せられ、「おいしさをもっと届けるにはどうすれば良いか」と社内で話し合ったからでした。

明石だこの魅力に気づいた修業時代

 樟さんが明石だこの魅力に気づいたのは地元を離れてからだったといいます。実家から工場は歩いて5分ぐらいの場所で、家族総出でタコの墨を取るなど、明石だこは日常風景でした。

 中学生になると、小遣い稼ぎにバイトする場に変わりましたが、当時任されていた仕事は単純作業で「退屈な仕事」という印象でした。

金楠水産

 そんな印象を変えたのが、高校卒業後に修行として働き出した築地市場でした。子どものころは食卓に明石だこが出ても、ありがたみをなかなか感じられませんでしたが、全国から一流の品が集まる市場で目と舌が鍛えられると「子どものころからこんなすごいもの食べていたのか……」と気づいたのです。たこは低カロリーで栄養が豊富です。「めっちゃ美味しいのに、いっぱい食べても太らないどころか、どんどん健康になる。まさに幸せを呼ぶスーパーフードだ」と思うようになりました。

目指すは、アフリカへの進出

 しかし、明石だこの水揚げ量の回復に向けて、抱卵した明石だこの放流といった取り組みが始まったばかりです。復調の兆しもみえますが、捕りすぎるわけにはいきません。そこで、樟さんは輸入物のたこに目をつけ「アフリカのセネガルに進出できないか」と考え、実際にセネガルまで足を運んだそうです。

セネガルへ視察に行った樟さん

 日本国内で売られている輸入物のたこの原産地には、モロッコ、モーリタニア、セネガルなどアフリカの国が並んでいます。樟さんは「衛生管理上、仕方ないかもしれないが、火が入りすぎて本来のおいしさが失われている。日本でよく消費されてるアフリカタコをもっとおいしくして、タコの美味しさを底上げしたい」と考えました。

 きちんとした鮮度管理と加工技術のある設備をセネガルに導入する計画を練っています。アフリカはいま、たこの捕りすぎによる不漁が問題になっています。「たこ1匹ずつの価値を高めつつ、資源管理の大切さも伝えれば、現地の暮らしも良くなり、持続可能な漁が続けられ、日本で食べるたこがおいしくなる。世界中の人に御多幸を届けたい」