事務機器販売から働き方支援業へ 競合少なく若手社員も成果が出る営業戦略
倒産の危機を乗り越え、事務機器販売業から働き方改革を支援する会社へリブランディングした老舗企業4代目の石井聖博社長。社名や理念を変える中で営業戦略も変えました。ほかの企業と競合せず、若手社員でも成果を出せる戦略の背景に迫ります。
倒産の危機を乗り越え、事務機器販売業から働き方改革を支援する会社へリブランディングした老舗企業4代目の石井聖博社長。社名や理念を変える中で営業戦略も変えました。ほかの企業と競合せず、若手社員でも成果を出せる戦略の背景に迫ります。
ワクスマが、全国から注目されるきっかけとなったのがテレワークでした。新型コロナを機に、社会に浸透したテレワークですが、2016年当時は参考になる事例がほとんどなく、手探り状態でした。
そこで「自分たちが事例をつくろう」とワクスマが始めたのが、ノウハウを提案するサービスです。こうした結果、2016年に「テレワーク先駆者百選」、2018年には、中小企業で初めてとなる「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」に選ばれました。取り組みの特徴として下記のような趣旨で紹介されました。
主な効果として、ワクスマで開催した体験見学会の参加が累計1040社に上り、テレワーク導入により残業時間40%削減、売り上げ108%増加、1時間あたりの成果113%増加となりました。
ワクスマがテレワークを始めたきっかけについて、石井さんは「子育て中のパート女性が子どもの体調不良などで急に仕事を休まないといけないということがあったからです」と話します。当時17人ほどしかない企業で、一人欠けるだけでも周囲への負担は大きく、頻繁に続くとどうしても社内の雰囲気が悪くなり、申し訳ない気持ちで辞めていく社員もいました。
そこで、ワクスマは、2016 年5 月にテレワーク(当時は在宅ワーク)を始めました。当初はイレギュラー時のみにテレワークを行う予定でしたが、内勤の社員はテレワークのシフトを組んで全員で活用しました。すると、3か月後には内勤の社員の残業時間が60%削減できました。
2017 年6 月からは、外勤の社員もテレワークを活用しています。今までは日中、取引先に訪問し、夕方に会社へ戻って事務処理や打ち合わせをしていました。どうしても帰宅が遅くなりがちでしたが、テレワークを始めた後は日中の空いた時間で事務処理をしたり、訪問後に自宅に帰って事務処理をしたりすることで、生産性が向上しました。
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生産性を図る指標として、1 時間あたりの成果の指標を取り入れ、評価制度に連動させました。成果が数値化しにくい内勤に対してもなるべく仕事の成果を数値化するようにし、評価制度をブラッシュアップしました。
採用力もテレワークを導入したことで大きく向上しました。求人票に「在宅ワークを活用した柔軟な働き方が出来ます」と追記しただけで、中途の求人が前年の3倍ほどに増えました。新卒採用でも、テレワークを中心とした新しい働き方に取り組んでいることを伝えた結果、2020年度の岡山県内の新卒採用ランキングで4位にランクインしました。
テレワークを導入するときには「労務管理」「コミュニケーション」「情報セキュリティ」という3つの課題が出てきます。ワクスマは、既存の商材やサービスを活用しつつも、不足する部分はルールや規定で補えるように、テレワーク導入パックとして提案しています。
活用するためのステップや、就業規則の変更のアドバイス、評価制度などは実際にワクスマで解決していった課題であるため、同業他社が参入しにくいサービスを作ることができました。
テレワークの提案などで事業を拡大してきたワクスマの営業戦略には4つのポイントがありました。それぞれを詳しく紹介します。
1.顧客とは「ワークスタイルのアドバイスをする側、される側」
2.営業の受注率の平準化
3.競合不在による粗利率の向上
4.売る商材は自分たちで試してみる
ワクスマは、訪問ではなく「来社体験型」という営業スタイルです。これにより、売り手と買い手から「ワークスタイルのアドバイスをする側、される側」という関係性に変化しました。
ワクスマには働き方を向上させる取り組みが約70事例あり、その取り組みをワクスマのオフィスのなかで見える化しています。取り組みのなかには、新卒の内定辞退を防ぐための取組みや、評価制度、書類管理の仕方、社内表彰制度、コミュニケーション活性化の取組みなど、直接ワクスマの利益に直結しないものまでも紹介しています。
顧客は経営課題の解決に繋がるヒントを得ることができ、ワクスマ側もお客様の経営課題を共有でき、新たなサービスを増やすきっかけにつながっています。
来店体験型の営業にすることで、営業の担当者によって成果の偏りがなくなったのも大きなポイントでした。
以前は、入社したばかりの社員が成果を出せるようになるには、早くても2 年ほどかかっていました。さらに、売り上げの8割を作っているのが営業担当のうちの2割の社員で、仕事に不均衡も生まれていました。しかし、ワクスマを始めてからは3 社来社するとおよそ1 社から受注でき、しかも新入社員でもベテランでも成果の偏りがなくなりました。
ワクスマを訪れた顧客の声で、石井さんが手応えを感じた言葉が「これがしたい」という言葉でした。
かつては、カタログを使って営業担当が説明すると、顧客は「これが欲しい」と言って注文していました。しかし、ワクスマに来た顧客は、働き方の提案を実際に体験して「これがしたい」と言っていました。
石井さんは「『これが欲しい』ではお客様の求めていることがモノなので競合になりやすく価格の比較もされてしまいます。しかし、『これがしたい』はお客様の求めていることが『ワクスマのような働き方を社員にさせたい』という思いなので、競合が生まれにくいのです」と話します。
その結果、かつては一つ案件に対して競合のいる割合は約50%でしたが、現在は8%以下となり、すべての主力商材の粗利率が向上しています。また、業界平均粗利率が23%なのに対し、36%(2018 年時点)と1.5 倍となっています。
売る商材も変えました。これまでは、仕入れ先から新商品の案内を受けたなかから、売れるかどうか、もうかるかどうかで選んでいました。当然、使ってないのでその商品の良し悪しも分からず、使い方も知らない状態でした。
現在は、次の流れで商材を選んでいます。
新たな取り扱い商材はICT ツールが中心で、開発元のIT ベンチャー企業も販売網が出来ていないケースが多く、代理店になるときの条件も良いことが多くありました。
ICT 商材・サービスは中小企業のIT 知識レベルで活用できるかどうかが大事なポイントとなります。そのため石井さんは「選定のポイントとしては、価格はもちろんであるが、誰もが同じように使えること。自分たちで使っているので、使い方や導入のノウハウまで提供することが可能となります」と話します。
こうして、事務機器販売の会社の仕事を転換させた。石井さん。社員に向けたメッセージのなかで次のようにつづっています。
いまから5年前の社長就任時に、初めて会長に対して、会社の倒産の危機について、「そういう経験を30歳の時にさせてもらって良かったです。」と御礼を伝えました。
あの機会がなければ、いまの自分もいまの会社もありません。
誰に言われたわけでもなく、お金のためでもなく、ただ単純に絶対に諦められないビジョンが心の支えになり、自分の成長の原動力になりました。
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