ニーズ高まる遠隔臨場、コロナ禍でより注目

 奥村組は、大阪市阿倍野区に本社をおく総合建設会社。日本で初の実用免震ビルの建設や泥水式シールド工法の開発など、高度な独自技術を多数有し、二代目通天閣の再建や青函トンネル工事など、話題性の高い建設工事も数多く手がけてきました。
 2019年に同社は、将来のありたい姿を示す「2030年に向けたビジョン」を策定し、本ビジョンの実現に向け「企業価値の向上」を事業戦略の一つとしています。企業価値の向上には、現場の生産性を高め、競争力を強化していくことが必要であるため、20年4月に「戦略的なICTの推進」「スピーディーな問題解決」「各部門間の情報共有強化とICT導入推進のハブ機能構築」を目的として、ICT統括センターを創設し、さまざまな試みをはじめています。

 「ICT統括センターは、ICTの推進と実行を担う組織であり、国土交通省が発出した『建設現場における遠隔臨場に関する監督・検査試行要領』(20年3月)を契機に「遠隔臨場の推進にも力を入れています」と話すのは、同センターイノベーション部戦略課長の稲垣孝一氏。

ICT統括センターイノベーション部戦略課長・稲垣考一氏

 立ち上げ直後の20年4月から、ICT統括センターでは遠隔臨場推進のため、さっそく導入ツールの選定に取りかかりました。必要とされた要件は、まずハンズフリーで使えるものであるということ。そして、ミリ単位の数字がきちんと読み込める性能を持つカメラであるということ。
 契約図書などにもとづいて許容範囲の寸法でできているかを検査する「出来形検査」のように数字を担保する必要があるシーンでは、プロスペックを有するツールがどうしても求められます。そこで、奥村組が採用したのが「V-CUBE コラボレーション」。Real Wear社製の音声認識型スマートグラスとウェブ会議を組み合わせた、遠隔作業支援ソリューションでした。

ICT統括センターイノベーション部戦略課・増田貴之氏

 ツール選定時は、カメラを衣服に装着するタイプの製品も試したそうですが、カメラがその重みで傾くなどして、思った通りの映像が映らないこともしばしば。稲垣氏と同じ課で働く増田貴之氏は「スマートグラスはヘルメットに固定する専用アタッチメントがあり、目線に近い映像が送れます。もちろんハンズフリーになるので、現場側の使い勝手はさらに向上します。映像と静止画をクラウドに保管し、セキュアな環境で運用できるのも魅力です」と、類似製品と比較のうえでもスマートグラスとV-CUBE コラボレーションの優位性を実感しているようです。

トップ画像の作業をスマートグラスのカメラで映した画面。

音声のクリアさに驚き、未来の現場スタンダード

 では実際に、V-CUBE コラボレーションを使用している現場の声も聞いてみましょう。
 今回うかがったのは、愛知県内で進められている明治用水耐震化工事の現場。地盤の掘削に伴う湧水の排水量やコンクリート圧縮強度試験を「遠隔臨場」で行っています。

 明治用水耐震化工事所長の長坂一宏氏は「これまでノート型端末でウェブ会議をしたことはありましたが、こういったICT端末を活用したことはなく、見るのも初めて。『本当に使いやすいのかな』とややクエスチョンマークが浮かびましたし、現場とのやりとりもうまくイメージできませんでした」と、スマートグラス導入時を振り返ります。
 「使用してみて最初に驚いたのは、音声認識の精度でした。ノイズキャンセリング機能も優れており、相手が重機などの近くにいても、クリアな音声が伝わってきます」

明治用水耐震化工事所長・長坂一宏氏

 現場と事務所、そして発注者の監督官の3拠点をV-CUBE コラボレーションで結び、現場から送られてくるスマートグラスの映像を共有するというのが、現在の主な使い方。
 「事務所の担当者や監督官が、その映像に確認箇所などをリアルタイムで書き込めば、その内容が現場のスマートグラスのディスプレーに表示されるため、印を書き込んで『このあたりをアップにしてください』と言えば、現場もわかりやすいし、指示する側も細かな説明をしなくて済む。的確で間違いが起こりにくいと感じています」

 また、今回のV-CUBE コラボレーション導入により、これまで、監督官の現場臨場が必須だった、工事用道路に敷設する鉄板の枚数確認やコンクリート圧縮強度試験の遠隔臨場が可能となり、月に10回前後あった現場臨場回数が3割ほど減少したといいます。
 
 「コロナ禍で、移動や人と会うことに伴うリスクを考えると、今後はこのスタイルが建設現場のスタンダードになっていく感触もありますね」

 そのための課題として「今後はスマートグラス自体でも録画できるようにし、録画データのやりとりが簡易にできるようにすること、軽量化をはかって長時間の使用にも耐えうるようにすること」を、現場からの声として長坂氏はリクエストしてくれました。

ベテランの知恵を遠隔地の多くの現場にも

 今回のスマートグラスとV-CUBE コラボレーションの導入にあたって、大きな不満が出たところは一つもなかったと増田氏。
 「マニュアルを読んでもわからないような複雑な操作がほとんどないところが良いと思います。音声操作の際、決められたキーワードを言わないと作動しないなど、機械特有の融通の利かなさは感じることはありますけれど(笑)」

 「遠隔臨場時にはV-CUBE コラボレーションにログインして、アクセスするのですが、それをスマートグラスの音声操作で簡単に行えます。スマートグラスの画面上に選択肢が表示されているので、どのような音声指示を出すのかもすぐわかります。覚えることに労力がかかることはほとんどありませんでした」と、長坂氏も導入ハードルの低さを感じたそうです。
 最近では、長坂氏の現場から他の現場へ異動した職員から話が広まり、その現場でも導入することになりそうだとか。使い勝手の良さを実感した職員から“良いものである”という認識が広まりつつあるV-CUBE コラボレーション。操作が複雑で現場での使用を敬遠される製品も少なくないなか「自分も使ってみよう」という雰囲気が醸成されているといいます。

 今後は、生産性向上に加え、熟練者の技術継承という面でも使用していきたいと稲垣氏は語ります。「遠隔地にいる熟練者がスマートグラス経由で若手職員に指示を出せば、若手職員は熟練者の知恵を借りることができます。また、若手職員は熟練者から直接指導を受けることにより、高度かつ効率的に現場管理ができる人材へと成長することが期待できます。そのような人材が増えることが結果として、我々が目指す”企業価値の向上”に通じると考えています」

 ズームや露出、画質の調整といった細かなカメラ操作がパソコン側からリモートでできるようになるなど、さらなるバージョンアップを予定しているV-CUBE コラボレーション。遠隔臨場があらゆる建設現場で当たり前の存在になる、そんな便利な未来が、すぐそこまで来ています。

Rear Wear社製 音声認識型スマートグラス HMT-1

100%ハンズフリー、比類ないノイズキャンセリング、IP66の防水、防塵(ぼうじん)仕様、カメラコードやイヤホンコードなどが一切なく、音声で操作ができるため、完全ハンズフリーで遠隔操作を支援。