目次

  1. 給与を全国水準に近づける
  2. 福祉施設が新たな生産者に
  3. パートナーシップから生まれた思わぬヒット
  4. 産官学でアシストスーツを実験
  5. 次世代が「やってみようかな」と思えるように

――2020年、社長に就任したきっかけをお聞かせください。

 兄から「そろそろ社長をやってみる?」とバトンを渡されました。それまでも二人三脚で事業を進めていたので、特に迷いもありませんでした。

――父も兄も健在のうちに承継されたのですね。

 おかげさまで皆元気です。父は相談役、兄は常務になりました。事業の決定権は私にありますが、相談しながら進めています。

――社内の組織づくりなどに取り組んだことはありますか。

 専務時代に従業員の待遇を変えました。以前から、「地方の企業だからそれなりの給与」というのはおかしいと感じていました。私たちの顧客は日本各地や海外にもいます。そこを相手にビジネスをしているのだからと、全国水準の給与体系に近づけました。併せて、希望する全員に正社員になってもらいました。

杉本商店の従業員たち

――従業員は地元の人が多いのですか。

 25人いる従業員のうち、Uターンしてきた男性2人の他は、全員が地元高千穂の女性たちです。創業後早くから、作業の改善方法を出し合う「QCサークル」活動に取り組んでいることもあり、現場からの意見はとても活発に出てきます。

 私が社長になってから、年2回、全従業員と面談をして、打ち上げられた改善提案にほぼ全て対応するようになってからは、離職率も減りました。

――待遇改善は、従業員の励みになりますね。

 従業員の処遇がきちんとしていない会社に、いい会社はありません。働いてくれる人たちが、楽しさや、やりがいを感じてくれるからこそ、私たちは企業活動ができています。仕事も任せられることは任せて、それをきちんと評価することが大切だと考えています。

創業間もないころから続けているQCサークル活動。コロナ禍ではリモートでおこなわれています

――高齢化による、しいたけ栽培の生産者減少が課題だと聞いています。

 これまでも高齢化が進む生産者を支援しようと、危険作業であるクヌギの木の伐採作業を手伝ってきました。あるとき、木を切ってしいたけ栽培用の原木を3千本用意したのですが、私たちの周知不足で引き取り手が見つからず、2500本が社内の敷地に山積みになってしまったことがありました。

 そんな中、近隣の障がい者支援施設の職員の方が「うちの施設で何かお手伝いできることはありませんか」と訪ねて来ました。

 するとうちの従業員も「ちょうどよかった。生産者から全量買い取っている干ししいたけのうち、使いきれなかったものを細断してドレッシングの原材料に加工する。その下処理の、軸取り作業を手伝ってほしい」と言うのです。

 食品なので衛生管理が必要だぞと、支援施設を見に行ったところ、お菓子作りができるぐらいの立派な設備でした。さらに施設内にはしいたけ栽培のためのホダ場もありました。聞けば「バザー用に、少しだけ栽培しています」と言うのです。そこで「うちで余っている原木を提供するので、植菌から栽培までやりませんか。できたしいたけは全量現金で買い取ります」と提案しました。

障がい者支援施設で始まったしいたけの植菌作業

――お互いにとって、よい話ですね。

 施設にとっては、軸取り作業の工賃やしいたけの代金が収入源になるし、うちにとっては、生産者が増える話です。軸取り作業の委託は、うちの従業員と同じ単価で発注します。おそらくそれを2、3人でシェアして作業してもらっています。しいたけを買い取る価格も、他の生産者と差をつけることはありません。

 この施設の工賃は、以前は宮崎県内でも下から2番目ぐらいでしたが、今は上から2番目です。この一連の活動を、林業と障がい者の就労を結びつける「林福連携」の事例として、林野庁が取り上げてくれました。

障がい者支援施設でしいたけの軸取り作業をする利用者

――コロナ禍の影響はありましたか。

 思わぬプラス影響がありました。施設が他の企業から請け負っていた作業がなくなり、「仕事が減った」と相談に来たので、新たな作業を依頼しました。しいたけに付着した木くずなどを掃除して、割って中に虫が入っていないことを確認したものを、粉砕して、しいたけパウダーに加工してもらったのです。

 正直どこで売れるかわからないまま、とりあえず通販サイトのアマゾンでアメリカ向けに出品したところ、爆発的に売れました。あわてて日本でも売り始めたところです。

コロナ禍でもヒットしたしいたけパウダー

――なぜ売れたのでしょうか。

 巣ごもり需要もありますが、何と言っても、高千穂郷の原木栽培のしいたけが持つ「うまみ」です。安い輸入牛肉に、しいたけパウダーをかけると「これ、和牛?」というほどに味わいが変化します。

 単純にしいたけを粉末にしただけなのですが、思わぬ価値を生み、商品として成立したのです。それが、障がい者支援施設とのパートナーシップで達成できました。

――現役の生産者を支援する、新しい取り組みも始めるそうですね。

 力仕事を助けるアシストスーツを使った、しいたけ栽培の実証実験を、年内に始める予定です。

 2019年に、生産者と「杉本商店有機出荷者協議会」を設立し、生産を維持するための活動をしています。その一環で、生産設備などの購入を、2020年度の林野庁予算の補助事業として行いました。

 想定していたのは、次世代の生産者のための設備投資でしたが、ふたを開けてみると、機械の導入を強く希望したのはほとんどが現役で、高齢の生産者たちでした。皆さん口をそろえて、「機械があれば、まだまだ頑張れる」と言うのです。

「機械があればまだまだ頑張れる」という生産者

 そのころ、東京理科大学発のベンチャーでアシストスーツを手がける「イノフィス」という企業を、国の団体を通じて紹介されました。私も数年前からアシストスーツの存在は知っていました。ただ、当時は50万円超と高額なうえ、機能的にもしいたけ栽培の現場で使うのは難しいと感じていました。

 それが大きく改良されて、イノフィスのスーツは値段も10数万円になっていました。すぐに団体に連絡してマッチングを依頼すると、翌日にはイノフィスとの打ち合わせがオンラインで行われ、その翌週には担当者3人がアシストスーツを持って高千穂に来てくれました。

――早いですね。

 うまくマッチングしたのだと思います。私たちは「現役の生産者を支援したい」という課題があり、イノフィスには「おそらく人の役に立つ技術と製品があるものの、どうやったら使ってもらえるのだろう」という課題がありました。早速、高千穂の山で試してみて、急斜面でしいたけの原木を動かす重労働で使えそうだと確認できました。

「マッスルスーツ エブリィ」を装着し、原木を動かすテストの様子

 また、実験データを他の自治体の人たちにも共有できるように、地元の宮崎大学農学部に、データ測定の協力をお願いしました。すると、宮崎大学の中に、ぴったりの技術と製品がありました。

――どんな技術と製品ですか。

 「腰の負担を見える化する」技術と、それを搭載したスマホアプリです。

 工学部の田村宏樹教授が開発したもので、スマホを持って一日作業をすると、人間の腰にかかった負担を計測して、見える化するというものです。先生も、アプリまでは開発したものの、これをどうすれば世の中の役に立つのだろうと考えていたところでした。そこに私たちが、実証実験ができる環境とともにやってきたというわけです。これから始まる実験が、とても楽しみです。

アプリ搭載のスマホを携帯して作業すると、腰の負担値が計測され、見える化されます

――生産者減少の根本的な解決策として、若い人たちの力が求められます。どんなことが重要ですか。

 「面白そうなことをやっているな」と、興味を持ってもらうことだと思います。

 今回の実証実験もそのひとつ。しいたけの原木栽培という伝統的な栽培方法を、先端技術でサポートするという組み合わせが面白いなとか、国際競争力があるから欧米に輸出できているとか、とにかく注目してもらって、興味を持ってほしいです。そうすれば「やってみようかな」と思う人が出てくるかもしれないし、出てくるように仕向けるのが、私の仕事だと考えています。

 私たちが目指す姿は、今の売り上げ規模を、これからも「続ける」ことです。現在の年商が4億円ほどですが、状況に応じて国内向けと輸出の比率を変えていけるように、常にアンテナを張って「もっといい方法があるのでは」と考えて行動していきます。

 高千穂郷のしいたけ栽培を次世代へつなげるために、生産者の皆さんが「杉本商店に持っていけば、いつでも全て現金になる」という状態を続けることが、何よりも大切です。生産者に「どこに売ろうか」という心配をさせずに、私たちが良質なしいたけをお客さんに届けて、多くの人たちに喜んでもらう。それをさまざまな形のパートナーシップで実現していきたいです。