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「営業所からFAXと紙が消えた」 ビッグカツ3代目が営業現場改革に奮闘
駄菓子の定番『ビッグカツ』の製造元として全国に知られているスグル食品(広島県呉市)は、創業1948年の食品メーカーです。3代目の大塩和孝さんは、クラウドサービス『kintone(キントーン)』で組織のデジタル化を進め、営業所では紙資料が大幅に減少しました。導入ハードルの低さが、1人で改革を担う後継者の心に響きました。(文:長尾和也 撮影:岩元崇)
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駄菓子の定番『ビッグカツ』の製造元として全国に知られているスグル食品(広島県呉市)は、創業1948年の食品メーカーです。3代目の大塩和孝さんは、クラウドサービス『kintone(キントーン)』で組織のデジタル化を進め、営業所では紙資料が大幅に減少しました。導入ハードルの低さが、1人で改革を担う後継者の心に響きました。(文:長尾和也 撮影:岩元崇)
社員数はグループ全体で約175名で、年間約1000万枚のビッグカツが生産されているほか、お酒のおつまみ「イカ姿フライ」や広島のソウルフード「ガンス」など、魚介加工食品の製造に強みがあります。
「駄菓子から惣菜まで幅広く手がけているスグル食品は、中小の食品メーカーとしては珍しいタイプです」と語るのは、専務取締役を務める大塩和孝さん(32)。3代目にあたるスグル食品の後継者です。2020年5月に発売された『おうち de ビッグカツ』はオリジナルのビッグカツを自宅で作ることのできる商品で、和孝さんが考案しました。コロナ禍のステイホームによる需要を捉えたアイデアが注目を集めました。
和孝さんは、「スターウォーズに登場したようなホログラムを開発したい」という夢を叶えるため、理系の学部を卒業した後は家業ではなく大手光学機メーカーに開発職として勤めていました。「実家は何かの工場をやっているという程度しか知りませんでした。社会人としてやりたいことがあったので、そっちしか見ていなかったんです」と和孝さんは語ります。当時、後継者になる考えがまだ芽生えていなかったということです。
大手メーカーの開発者という花形職種を務めていた和孝さんが、家業に戻ってきたのは2015年のことです。父である現社長・大塩俊さんと、二人きりで食事をした時に聞いた言葉が、家業に戻るきっかけでした。
「自分がもっと経営を勉強していれば、会社は今以上に大きくなっていたかもしれない」と父がふと漏らした弱音が、和孝さんの心の琴線に触れたのです。
「目立った親孝行をしていない私でしたが、その時、納得できる人生を父にまっとうしてほしいと思いました。そこで、父が経営者として行ってきたことの正しさを裏付けるため、私が後継者として会社を成長させようと考えたわけです」
家業に戻った和孝さんは東京営業所の勤務となり、はじめての営業職を経験します。「当初は名刺の渡し方すら知りませんでした。“営業のイロハ”すらわからない私が成果を出せるわけもなく、入社後しばらくの間、売上ゼロの期間が続きました。”数字を作れない社長の息子”と社内で冷たく見られているように感じました。心が折れそうでしたね(笑)」と語ります。和孝さんが営業の成果を出せるようになったのは入社から3カ月が過ぎたころです。
「交渉相手である営業担当者のロジックがわかり始めたからだと思います。組織の構造や担当者の権限を理解することで、目の前にいる交渉相手の心情をつかむ提案ができるようになったのです。“相手が上司に報告しやすい交渉結果とは?”と想像して、担当者の気持ちに寄り添った提案をしました。例えば、失敗の不安を払拭する販売のアフターフォローなどです」
和孝さんによると、交渉相手の気持ちに寄り添う経験が、営業マンの本音を学ぶ機会になったため、成長の土台となっているとのこと。「私が社内で聞くことのできないような本音を、他社の営業マンを通じて知ることができましたからね」と説明します。
営業職として成果を挙げた後、2018年、和孝さんは本社に異動します。任された業務は社内の改革という大きなテーマです。総合企画室という部署で和孝さんが働き方改革を推進し、評価制度の整備・製造現場の改善・営業組織の効率化など、多岐にわたる改革を進めていきました。「後継者の難しい立場を痛感する経験」と和孝さんは振り返ります。
「難しさには2段階ありました。第1段階は、後継者としての自覚です。私が自分のことを、他と同じ若手社員と思っていても、社内では後継者として見られてしまいます。このことをわかっていなかったのです。例えば、手書きの書類による非効率が目に付いたのですが、“こうやったらどうですか?”と私が気軽な気持ちで言ったため、現場を困惑させたことがあります。現場も知らない社長の息子が暴走しているという印象を与えてしまったかもしれません」
改革を進めるにあたって、社内の注目が和孝さんに集まる場面もありました。和孝さんは「お手並み拝見されるシーンが後継者の難しさの第2段階」と説明します。
「改革の担当者は私一人なので、他部署の協力が欠かせません。しかし、部署のリーダーは協力してくれるものの、通常業務がある中で積極的なサポートは難しい状況です。“社長の息子がなんかやってる”と他人事に捉えられて、改革が頓挫しかねない緊張感があります」
改革を一手に任された和孝さんが、特に課題を感じていたのが営業部門で多用されていたFAXによるアナログなコミュニケーションでした。手書きの書類をFAXでやりとりするため、様々な非効率が生じていたことを和孝さんは語ります。
「FAXの多用によって生じていた最大の非効率が、事務員の作業の中断です。例えば、営業所から申請書のFAXを受信する本社では、承認の進行度について確認の電話を受けることが日常茶飯事で、そのたびに事務員の作業がストップしていました。さらに、承認印を押した書類をFAXで返送したのち、その内容を基幹システムに打ち込んだり、パンチ穴を開けてファイリングしたりといった手間が生じていました。書類が重複したり紛失したりするなど、管理上のトラブルも悩みの種でした」
FAXによるコミュニケーションが、営業部門内の雰囲気を悪くすることもあったそうです。「今どこで止まっていますか?」という問い合わせの電話が本社にかかったり、忙しいタイミングでは雰囲気や口調が悪くなったりすることもありました。と、和孝さんは当時の状況を説明します。
2019年、和孝さんは営業組織の改革の検討を始めます。課題解決策として注目したのが、グループウェアによるコミュニケーションのデジタル化です。広島県の経営改革セミナーに参加したことがきっかけでした。さっそく、和孝さんは社長にグループウェアの導入を相談します。社長が真っ先に検討候補として挙げたのが、サイボウズが提供するクラウドサービス『kintone(キントーン)』だったのです。
「“僕が名前を一番知っているkintoneはどうだ?”と、社長から言われ、はじめてkintoneを知りました。その後、『申請書』や『ワークフロー』といったキーワードで比較検討の候補をリストアップしていきましたが、kintoneは月額費用が安価なうえに初期費用が無料といった点に惹かれました。導入ハードルが低いと感じたのです。失敗しても撤退しやすいと思ったわけです。
さらに、機能面ではkintoneの柔軟性に魅力を感じました。たとえば販売まわりの申請を電子化したい、と考えた場合、価格・数量・保管方法によって申請の条件がかなり複雑で、エクセルで管理すると非常に横長で分かりにくい資料になることが悩みでした。kintoneは入力フォームを簡単にカスタマイズできるため、シンプルな見た目で表現できるところも気に入りました。
サイボウズのオフィシャルパートナー企業の存在にも背中を押されたそうです。和孝さんによると「運用中の基幹システムを担当している地元のITベンダーさんが、kintoneのパートナー企業でした。詳しく話を聞いてみると、実はkintoneの知識が豊富とわかりました。システム導入時に必要な『業務の棚卸し』を自分はよく知らなかったので、信頼できる会社に任せたいという気持ちがあったのです。kintoneの導入は、ほぼ私だけで進めることになるので、頼れるパートナーが社外にいるとわかって心強いと思いました」とのことです。
2020年、「導入ハードルの低さ」や「信頼できるパートナー企業」といったメリットが決め手となり、和孝さんはkintoneの導入に着手します。「失敗したら辞めればいいと気軽に始めました。リスクが低いため社内の説得もスムーズでしたね」と語ります。そして、約1カ月の期間で導入した後、運用がスタートします。「業務の棚卸し」をITベンダーに任せる一方で、操作画面の作成は和孝さん自身が行いました。
「自分の営業経験を思い出しながら作成した操作画面は、営業マンの使い勝手を最優先しました。申請書や日報に入力できるほか、基幹システムから出力した受注データを閲覧することができます」
特に、効率化に貢献しているのが過去の提案を得意先ごとに一覧する機能です。提案の経緯がわかるため得意先対応のレスポンスが改善されています。
「以前は、取引経緯が分かる日報を印刷してファイリングしていたのですが、閲覧に手間がかかるため活用が進んでいませんでした。kintoneを導入してからは、受注に関して気になることがあればコメント機能ですぐ確認することができるので、重複や矛盾といったミスが減りました。引き継ぎ業務も、後任者が一覧を見るだけで済みます」
kintoneの費用対効果はすぐに実証されたそうです。「営業所ではFAXが不要になりました。コミュニケーションの手段が、紙からkintoneに変化したからです。さらに、データを紙に印刷する機会が大幅に減少しました。単純な話、削減した紙やインクのコストだけでも、kintoneの月額費用を回収できました」
各営業マンが営業先から帰社した後に手書きで記入していた書類は、現在、PCやスマホからkintoneに入力されているそうです。アポの空いた時間に事務作業を終えられるようになったわけです。「以前は1人あたりの月の残業時間が平均約27時間でした。kintone導入後は平均約20時間に改善されました」と、労働時間に現れた変化を説明します。
紙の書類が不要になったことに加え、電話確認が不要になり、コミュニケーションの効率化が加速していきます。「営業マンのストレスがなくなったことに加え、電話対応による事務作業の中断が少なくなりました。書類をファイリングする手間が減り、事務員の作業効率が向上して、営業部門のスピードが底上げされました」
コロナ禍で必要に迫られたリモートワークへの移行も、kintoneを使ってスムーズに進めることができたそうです。
「もしkintoneを使っていなかったら、リモートワークの広がりによって社内メールが急増するなど、コミュニケーションに支障が生じていたと思います。また、私や社長のフットワークが軽くなるという変化も起きました。オンラインで申請書を承認できるため、業務を止める心配をすることなく、会社を離れられます」
さらに、月1回、各営業所の責任者を本社に集めて開催されていた会議の場もオンラインに移行するうえで、kintoneが大きな役割を果たしたそうです。
「データの集計が自動で行われるため、会議資料を作成する手間が省略されました。kintone導入以前は100枚以上ある紙資料を、営業担当者が会議のために集計し直していたので、大幅な時間を節約できたということです。資料作成に時間がかからなくなったため、より詳しい資料を簡単に会議の前に共有できるようになりました。長時間のオンライン会議は難しいと感じていますが、kintoneの活用によって会議時間をコンパクトに収めることが可能になりました。コロナ禍が収束しても、全国の営業会議はオンラインで開催していく予定です」
システムを導入する際の工夫について「kintoneでデジタル化する業務は月1つまでと決めています」と和孝さんが語るように、移行ペースには配慮しているそうです。kintoneを社内に定着させていくうえで必要な工夫でした。
「各業務をデジタル化するたび、直後の1カ月間は従来の紙ベースのワークフローと併走する期間にしました。修正要望を短期集中で吸い上げました。実際にアプリを使ってみると、「この部分が入力しづらい」「半角全角を統一して欲しい」「入力の枠の大きさを変えて欲しい」など、さまざまな要望が出てきます。修正作業は主に私が担当していますが、要望を聞いたその場ですぐ修正できます。修正作業は3分もあれば十分です」
kintoneを使って成し遂げられた営業部門の効率化——その延長線上に「人間がやるべきことに、社員が集中できる会社」という理想像があります。
「現在、kintoneと基幹システムの連携を進化させています。基幹システムのデータの一部は、手作業によってkintoneと同期していましたが、RPAによって自動化しようとしています。kintoneだけで社内のほぼ全データを扱えるようになる予定です。その結果、後回しにしてきたデータ分析が高度化することを期待しています。お客様に対する提供価値の向上に繋がる業務時間を増やしていきたいですね」
理想像に向かう活路がkintoneによって開かれたというわけです。最後に、「後継者の立場から見たkintoneの長所」をたずねると、自身の経験にもとづいて次のように語ってくれました。
「後継者という立場は、社内の改革を1人で担うことが少なくないと思います。私がそうでした。改革を進めていく途上では、想定外の事態に多数直面しますが、1人でなんとかしないといけない場面がよくあります。時には、途中で手に負えないことがわかって、撤退を決意しなくてはなりません。改革を期待されていることについてプレッシャーを感じることが多いのではないでしょうか。kintoneの導入はハードルが低いため、楽な気持ちで進めることのできた改革と感じています」
kintoneは、日々の業務に必要なシステムをだれでも簡単に作ることができる、サイボウズのクラウドサービスです。
導入担当者の93%が非IT部門で、全国20,000社以上に導入されています。
プログラミングなど特別なスキルや知識は不要です。 データの登録・共有はもちろん、集計やグラフ化もマウス操作のみで行えます。
スマートフォンやタブレット端末にも対応しているので、外出先からも社内のデータを確認できます。
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