ビジョンの作り方5ステップ 定義や会社で浸透させる方法や事例を解説
会社経営にはビジョンが必要だと多くの経営者が言います。ビジョンには一定の作り方があり、それに沿えば簡単に作成できます。しかし、大事なのは、なぜビジョンが必要なのかを先に知っておくことです。本記事では、ビジョンの定義やそれが重要な理由を踏まえた上で、ビジョンの作り方を解説します。
会社経営にはビジョンが必要だと多くの経営者が言います。ビジョンには一定の作り方があり、それに沿えば簡単に作成できます。しかし、大事なのは、なぜビジョンが必要なのかを先に知っておくことです。本記事では、ビジョンの定義やそれが重要な理由を踏まえた上で、ビジョンの作り方を解説します。
目次
ビジョン(Vision)とは、会社のステークホルダー全員が共有する、会社が目指す目標です。
メリアム・ウェブスター英語辞典はビジョンを、「あなたが想像するイメージ、または心の中で描く図」と定義していますが、ビジョンとは、「会社の未来のあるべき姿」と言っていいでしょう。
例えば、IKEAでは、次のようなビジョンを掲げています。
「私たちのビジョンは、多くの人々のより良い日常生活を創造すること」
シンプルですが、多くのバリューが詰まっています。特定の消費者層ではなく、「日常生活」を送る一般の消費者をターゲットにしています。
そして、「より良い日常生活」を創造するためのプロダクトカテゴリーを特に設定していません。「より良い日常生活」を創造できるものは何物も排除しないという姿勢が示されています。
また、以下は、Googleのビジョンです。
「全世界の情報にワンクリックでアクセスできる環境を提供すること」
これもシンプルですが明確なビジョンです。「情報」の範囲を設定していないので、サーチエンジンなどの特定のプラットフォームに限定されません。
Googleは現在もどんどん機能を拡張していますが、このビジョンあればこそのムーブメントであると理解できそうです。
会社経営においては、ビジョンのほかに「経営理念」「ミッション」「パーパス」といった言葉もよく使われます。
まず、「経営理念」との違いですが、経営理念(Corporate Philosophy)とは、文字通り会社が目指す姿と言うよりも、会社の哲学という意味です。
例えば、Googleは
「ユーザーにフォーカスすれば別の人も付いてくる」
「ひとつのことを最大限に行うことがベストな道である」
「スピードが速いことは遅いことよりも良い」
「スーツを着ていなくても仕事はできる」
などの経営理念を掲げていますが、これらなどは明確にビジョンとは違うことを示しています。
筆者は「ミッション」と「パーパス」はニアリーイコールであると考えています。
「ミッション」と「パーパス」もビジョンを実現するための行動指針であり、行動の理由です。
「ミッション」とは、ビジョンを実現するために「何を行うのか」定めたものである一方、「パーパス」はビジョン実現を目指す理由として認識してもいいかもしれません。
ところで、企業経営において、なぜビジョンが重要なのでしょうか。
まず、ビジョンを設定することにより、会社の全ステークホルダーに会社の進む方向性を示すことができるからです。
ビジョンを示すことで、長期的な目標および中短期的な目標を全社員で共有でき、株主にも会社の未来像を示すことが可能になります。
逆に言うと、ビジョンを設定せずにそうしたことを行うことは困難です。
次に、ビジョンを設定することで会社の価値観を表現することが可能になり、それに賛同するステークホルダーを引き寄せることが可能になることも重要な理由です。
先程のパーパスの記事でアメリカのアパレルブランドのパタゴニアをご紹介しましたが、パタゴニアのケースでも、パタゴニアの価値観に共鳴する多くのステークホルダーを引き寄せています。
さらに、ビジョンを設定することで全社員に会社のコミットメントの度合いを知らしめ、モチベーションを向上できることも重要な理由の一つです。
経営者が率先してビジョン実現のためにコミットすることで、社員にもより多くのコミットメントを促します。
では、実際にビジョンを作るための5ステップをご紹介します。
それぞれ具体的に見ていきます。
最初のステップは現在の事業内容の確認です。自社の現在の事業内容を正しく知ることで、今後進むべき方向や未来の姿をイメージしやすくなります。
現在の事業内容を確認するためには、次の質問に答える必要があるでしょう。
これらの問いに真摯に答えることで、現在の事業内容を確認できるでしょう。
次のステップは自社の事業環境の確認です。
自社を取り巻く市場の現状、競合状況、今後の成長性など、可能な限り客観的に把握して下さい。
市場の現状や競合状況を掴むには、まずは直接的に競合している企業をリストアップします。
次に、上場企業であれば公開された財務諸表やIR資料を入手し、未上場企業であれば市場調査会社のレポートなどを参照したりして情報を入手しましょう。
特に、売上高や強みや弱みなどをベースにしたポジショニングマップをつくるのがおすすめです。
今後の成長性については、競合を含めた市場全体の現状を把握し、今後の事業環境などを踏まえて予想します。
次のステップは会社の価値観を明確にすることです。
我々は何のために仕事をしているのか、お金を稼ぐためか、雇用を創出するなど地域社会へ貢献するためか、何らかの新しい価値を創造して人々の生活をよくするためか等々、経営陣のみならず社員も含めてしっかりと議論をして下さい。
議論においては、会社の歴史、伝統、文化などの会社のレガシーと言うべき情報を社員全員で共有し、その上で一人ひとりが何を大切にし、何を守ってゆくべきと考えているかを率直に話し合う必要があります。
そうした議論を繰り返すことで、共通の価値観の全体像が少しずつ見えてくるはずです。
会社の価値観が不明瞭な状態では、基礎となる共通の考えが希薄になるため、正しくビジョンを設定するのは難しいでしょう。
次のステップは会社の未来の姿をイメージすることです。
明確にされた「現在の事業内容」「事業環境」「会社の価値観」をベースに、5年後または10年後のあるべき会社の姿をイメージします。
「現在の事業内容」を維持したまま規模を拡大するのか、あるいは新規の分野へ進出するのか、対象とする顧客のターゲットを拡げるのか、サービスのラインアップを拡大するのか等々、事業計画などと照らし合わせて現実的なイメージを描いてください。
会社の未来の姿がイメージできたら、それを実際の言葉にする、つまりビジョン・ステートメントにまとめて下さい。
まとめ方は、会社の未来の姿を構成するワードを抽出し、それらを構成要素にしてステートメントするといいでしょう。
例えば、「世界の人々に日本の優れた農産物をお届けする」(会社の未来の姿)と描けたら、「美味しい」「安全」「野菜」「果物」というワードを抽出して、「私たちのビジョンは、世界中の人々に日本の美味しくて安全や野菜や果物をお届けすることです」といった具合です。
ビジョンを作る上では、次のポイントをおさえておくことが重要です。
第一のポイントはシンプルに、わかりやすく作ることです。
難解な言葉や専門用語を可能な限り避け、誰でも理解できるものにする必要があります。また、読む人によって解釈が異なる用語なども避ける方が無難でしょう。
第二のポイントは、ビジョンは実現可能なものにすることです。
高邁なビジョンを掲げるのはいいのですが、それが明らかに実現不可能なものであれば、ステークホルダーの賛同を得るのは難しいでしょう。
第三のポイントは、ビジョンを作る際は、できるだけ多くの社員にコミットしてもらうことです。
中小企業でありがちなのは、ビジョンを社長一人だけで作ってしまい、それをトップダウンで一方的に社員に押し付けてしまうことです。
社員のコミットメントなしに作られたビジョンは、往々にして社員の賛同が得られず、「あれは社長が勝手に作ったビジョンだから」と最初から相手にしてもらえません。
多くの社員にコミットしてもらうためには、経営者から社員へ積極的に呼びかける必要があります。社員が多い場合にはSNSなども活用し、会社のビジョンづくりへ参加してくれるよう働きかける必要があります。
ビジョンを作成したものの、そのままほったらかしにされて結局無駄になってしまうといったケースが少なくありません。
それを防ぐには、まずビジョンを作成した後は、ビジョンを社内外に浸透させるための活動を行うべきです。
そのためのキーワードは「コミュニケーション」です。ビジョンを作成したら、それを社内外に向けて情報発信しましょう。
ウェブサイト、ブログ、動画、SNS等々、利用できるツールを総括用して、積極的に情報発信を行って下さい。
ビジョンの内容、ビジョンを作成した理由や背景、ビジョン実現に向けた取り組み等々、ビジョンに関する多くの情報を発信しましょう。
また、社員のビジョン理解を促す働きかけや、社員のビジョン実践を促すインセンティブの提供、ビジョン実践のためのワーキンググループの運営なども、ビジョン浸透をアシストする有効な手段です。
さらに、社長自らによる率先垂範が、社内のビジョン浸透に向けた強力なドライバーになるでしょう。
現在、世界はVUCAの時代に突入したと言われています。
Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)で構成されるVUCAは、社会全体のみならず、現代を生きる我々一人ひとりが直面する厳しい時代です。
そうした中、明確で人々の賛同を得られる優れたビジョンを掲げた会社は、消費者を含む多くのステークホルダーの共感と賛同を得られるでしょう。
厳しい時代だからこそ、会社にビジョンが求められているのです。
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