目次

  1. 祖母の落花生畑、縮小を機にブルーベリー農園
  2. ブルーベリー栽培、副業でもできる理由
  3. 座右の銘は「人生ディフェンダー」
  4. 「もう続けられないかも」イノシシ被害を乗り越えて
  5. 集客の課題解決へ SNSで発信
  6. 子どもたちの笑顔が喜び
  7. マルシェの縁 生まれたコラボ商品
  8. コンサルで農地活用を支援
  9. 「体験」の提供で町おこしに貢献

 酒々井町は千葉県の北部中央に位置し、1889年(明治22年)の町村制施行で生まれて以降合併することなく続いてきた「日本で一番古い町」として知られています。藤崎さんは、自然豊かなこの土地で生まれ育ちました。

 藤崎さんは外資系企業の経理を務めながら、副業として週末農業をしています。以前は成田空港で旅客業務に従事していましたが、第1子誕生時に藤崎さん自身が10カ月の育児休業を取得したのを機に、働き方を見つめ直すことに。家族との時間を大切にしたいとの思いから、副業をするために転職しました。

 自分にできる副業を探していたとき、祖母が所有する落花生畑を縮小することを知り、その農地を活用し、ブルーベリー農園を始めることにしました。

ブルーベリーの収穫時期は6~8月。園内では16種類の品種を育てている(藤崎さん提供)

 「畑や農機具に関するノウハウを教えてもらえるというアドバンテージがありましたし、何より近隣の地主さんのコミュニティに入りやすいことが強みになると思い、副業として農業を選びました。また、酒々井町では農家の跡継ぎが年々少なくなっており、自分の取り組みが課題解決に役に立てるのではないかという思いもありました」

 藤崎さんが営む「藤崎ブルーベリーファーム」では、300坪の敷地に200本のブルーベリーを栽培。毎夏には観光客向けにブルーベリー狩りを開いています。

 「ブルーベリー栽培を選んだ最大の理由は、ほぼ放任栽培ができるからです。年間通して、基本的な手入れさえ怠らなければ、枯れることなく数十年果実をつけてくれます。そのため、本業と両立できます。また、初期投資が少額で済み、撤退するときは購入時より高値で販売できるというメリットもあります」

 帳簿付けなどの事務は、平日の通勤時間や隙間時間を活用。摘み取りの繁忙期のみ、家族に農園の受付を手伝ってもらっています。

 藤崎さんの座右の銘は、「人生ディフェンダー」。「失点しない生き方を目指している」といいます。35歳で転職した藤崎さんは、農園経営に向けて「まずは守備を固めよう」と、簿記を学び、行政書士の資格も取得しました。

 「失敗しない副業」を念頭に、ほぼ自力で農園を整備し、初期投資を最小限に抑えました。整備されていない空き地を駐車場にしたり、廃材を使って防護柵を手づくりしたりと、身近にあるリソースをできる限り活用しました。その結果、初期投資を150万円に抑えることができました。

 また、近隣の農家たちの応援も後押しとなりました。余った資材を提供してくれたり、口コミで広めてくれたりと協力してくれました。

 「当園は初期投資が少ない分、入園料を500円に抑えることができています。また、時間制限もなく、気軽に立ち寄ってもらえる雰囲気にしています」

 2019年からブルーベリー狩りをスタート。「これからだ」と思っていた矢先に、イノシシ被害に遭うというアクシデントに見舞われます。

イノシシに荒らされた畑(藤崎さん提供)

 酒々井町で初めてイノシシ被害を受けたのが藤崎さんの農園でした。毎朝、出勤前に畑を見回っても、3日に1度は荒らされるという日々が半年ほど続きました。

 「そのときは精神的にも肉体的にも本当に辛かった。もう続けられないかもとさえ思いました」

 その後、自治体の助成金を受けて電気柵を設置。猟友会にも協力を仰ぐことで、なんとか乗り越えることができました。

 農園経営をするうえで、最も苦労したのが集客です。「おいしい果実がつくれるようになったものの、どう広めたらいいのかが課題でした」

 そこで、まずホームページを作成し、InstagramやTwitterなどのSNSも開設。ブルーベリー狩りの時季には、農園の周囲にのぼりを立てるなど、できる範囲の工夫をしました。2021年11月からは、新たにYouTubeも始めました。

 「SNSを活用して、ブルーベリーだけでなく、生産者である私個人にも興味を持ってもらえるように発信を続けています」

 また、藤崎さんは、苗木や資材の販売も行っています。顧客に植え方や栽培、管理の方法を丁寧に伝えることで少しずつリピーターが増えてきました。茨城県などの県外から来てくれる顧客もいるといいます。

 「小規模のビジネスだからこそ、良い商品を届けるのはもちろんのこと、私にまた会いたいと思ってもらえるようなサービスを心掛けています」

 そうした工夫が奏功し、初年度こそ赤字だったものの年々売上が伸びているといいます。

 藤崎さんが育てたブルーベリーは、学童のおやつとしても提供されており、ブルーベリー狩りの時季には、地元の子どもたちが遊びに来てくれます。

ブルーベリー狩りの時季に訪れた地元の子ども(藤崎さん提供)

 「子どもたちが楽しんでくれるのが何より嬉しい」と藤崎さんは笑顔で語ります。園内に休憩用のベンチとテーブルを設置し、水飲み場もつくりました。「宝探しゲームなど子どもが喜ぶ仕掛けもつくりたい」と目を輝かせます。

マルシェに出店する藤崎さん夫妻(藤崎さん提供)

 ブルーベリー商品は、ネットショップをはじめ、マルシェでも販売しています。マルシェ出店時には、8歳と5歳になる藤崎さんの子どもたちも店頭に立って手伝います。

 「モノを売る体験やお金のやりとりを通して、社会勉強をさせてあげられるのも、農園経営の良いところです」

 マルシェに出店することで、さまざまな人とのつながりが生まれ、新商品開発にも結びつきました。

「高秀牧場」とコラボしたジェラートBOX(藤崎さん提供)

 2021年12月から、いすみ市の「高秀牧場」とコラボしたジェラートの販売をスタート。藤崎さんのアイデアをもとに3カ月かけて試作を繰り返し、6種類のギフトセットが完成しました。さらに、地元のセブンイレブンでブルーベリーを販売する機会も得ました。

 「農園経営は、楽しく健康的。仕事を通して仲間も増え、今は人生が充実しています」

 藤崎さんは自身の経験を生かし、農地活用のコンサルティングを手がけています。個人、法人問わず、苗や資材の発注から、造園、栽培指導、販売方法の相談まで一貫して請け負っています。

 個人の顧客の年齢層はミドル層がメインです。「相続した農地の活用方法を教えてほしい」「遊休地があり、何か栽培してみたいがノウハウがなく不安」という相談が多く寄せられるといいます。

 「私はよく『時間は買ってください』と伝えます。ブルーベリーも他の果樹も品種が多く、組み合わせを勉強するだけでも大変な上、結果が出るのに数年かかります。自分で調べて失敗する時間は無駄ではありませんが、最短で答えを教えるというスタンスでお話をしています」

 藤崎さんのブルーベリーは、ふるさと納税の返礼品にも採用されています。今後は、自治体と協力し、農地や遊休地を活用した、“その地域ならではの体験”を提供していきたいと考えています。

パッケージされたブルーベリー(藤崎さん提供)

 現在、果樹のオーナー制を検討しており、ラズベリーやアボカド栽培にも挑戦していく予定です。

 「農地は、農作物を栽培するだけでなく、人を呼び込むためにも活用できます。例えば、田んぼでは米の収穫体験やどろんこ遊びが楽しめるし、スケートリンクにしてもいい。こうして酒々井町に遊びに来てくれる人が増えれば、地元の飲食店の活性化にもつながります。アイデアと行動力で地元酒々井町の町おこしに貢献していきたいです」