目次

  1. 改正公益通報者保護法の概要
    1. そもそも公益通報者保護法とは
    2. 公益通報者保護法の改正内容まとめ
  2. 改正公益通報者保護法の各ポイント詳細
    1. 1. 公益通報対応体制整備義務と公益通報対応業務従事者指定義務の創設
    2. 2. 公益通報対応業務従事者に対する守秘義務の創設
    3. 3. 行政機関公益通報、外部公益通報の保護要件の緩和
    4. 4. 公益通報者として保護される者の拡大
    5. 5. 公益通報として保護される通報対象事実の拡大
    6. 6. 公益通報者としての保護の内容の拡大
  3. 中小事業者が改正公益通報者保護法に対して行っておくことが望ましい4つの措置
    1. 1. 内部通報窓口の設置
    2. 2. 通報対応における利益相反の排除
    3. 3. 通報を理由とする不利益な取扱いの防止に関する措置
    4. 4. 社内研修の実施
  4. 内部通報は事業者にとっての宝

 2020年6月に改正公益通報者保護法が成立し、2022年6月1日に施行されることになります。

 改正の内容は様々ですが、その中でも、従業員の数が300人を超える事業者に対して、内部通報に適切に対応するための必要な体制の整備と、内部公益通報を受け付け、内部公益通報に関して調査をし、または、その是正措置等を行う担当者の「公益通報対応業務従事者」(以下「従事者」といい、後ほど詳しく解説します)としての指定が義務付けられたことには、実務上大きなインパクトがあります。

 また、従業員の数が300人以下の中小事業者に対しても、内部公益通報に適切に対応するための必要な体制の整備と内部公益通報を受け付け、内部公益通報に関して調査をし、または、その是正措置等を行う従事者の指定について努力義務が設けられました。

 改正公益通報者保護法を受けて、中小事業者はどのような対応が求められるのか、解説していきます。

 公益通報者保護法とは、2004年にはじめて制定され、2006年に施行された法律で、一定の要件を満たす「公益通報」を行った従業員等が、通報したことを理由に解雇などの不利益な取扱いを受けることのないよう、通報者を保護するための法律です。

 しかし、改正前の公益通報者保護法では、内部通報制度等を設けることは法律上の義務とはされておらず、また、事業者に対するサンクションも明確でなかったため、十分に機能していないとの指摘がなされていました。

 そこで、内部通報制度の強化と通報者の保護を図るべく、今回の改正に至りました。

 なお、いわゆる「通報」は、その通報先及び公益通報者保護法の要件を満たすか否かによって、以下の図のとおり整理されます(公益通報者保護法の規定する内容よりも幅広く、概念整理をしています)。

通報の種類
1. 内部通報
→企業内部の問題を当該企業に申告する通報
a. 内部公益通報
→公益通報者保護法の定める要件を満たす内部通報
2. 内部告発
→企業内部の問題を当該企業以外に申告する通報
a. 行政機関公益通報
→行政機関に申告し、かつ公益通報者保護法の定める要件を満たす内部告発
b. 外部公益通報
→マスコミ等の外部に申告し、かつ公益通報者保護法の定める要件を満たす内部告発

 改正公益通報者保護法では、①事業者自ら不正を是正しやすくするとともに、安心して通報を行いやすく、②行政機関等への通報を行いやすく、③通報者がより保護されやすく、という3つのコンセプトにもとづき改正がなされました。主な改正内容につき、以下にて解説します。

 具体的には次のとおりです。なお、改正法の全文については、消費者庁HPにて公開されている条文をご確認ください。

改正コンセプト 改正内容
①事業者自ら不正を是正しやすくするとともに、安心して通報を行いやすく 1. 公益通報対応体制整備義務と公益通報対応業務従事者指定義務の創設(※従業員300人以下の中小事業者は努力義務)
2. 公益通報対応業務従事者に対する刑事罰のある守秘義務の創設
②行政機関等への通報を行いやすく 3. 行政機関公益通報、外部公益通報の保護要件の緩和
③通報者がより保護されやすく 4. 公益通報者として保護される者の拡大
5. 公益通報として保護される通報対象事実の拡大
6. 公益通報者としての保護の内容の拡大

 改正法の各ポイントについて、その内容を解説していきます。

 改正法により、従業員の数が300人を超える事業者は、公益通報対応体制の整備と公益通報対応業務従事者(従事者)の指定が義務付けられました。

公益通報対応体制整備義務
事業者は、内部公益通報に適切に対応し、また、通報者を保護する為に必要な体制を整えなければならないとする義務のこと

公益通報対応業務従事者指定義務
事業者は、内部公益通報を受け付け、内部公益通報に関して調査をし、または、その是正措置を行う担当者を従事者として指定しなければならないとする義務のこと

 消費者庁は、この体制整備義務と従事者指定義務について、指針と指針の解説を定めています。

 指針では、体制整備義務と従事者指定義務について、その適切かつ有効な実施を図るために必要な措置の大要が定められています。

 また、指針の解説では、指針を遵守するために参考となる考え方や指針が求める措置に関する具体的な取組例が示されるとともに、さらに自主的な取組みが期待される推奨事項が示されています。

 指針や指針の解説の全文については、消費者庁HPに公開されているのでご確認ください。

 体制整備や従事者指定が十分でないと、指導や勧告を受け、また勧告に従わない場合に社名等を公表されるなどの行政措置を受けるおそれがあります。

 そのため、指針や指針の解説の内容に沿った社内の体制を整えなければなりません。

 また、従業員の数が300人以下の中小事業者についても、公益通報対応体制の整備と公益通報対応業務従事者の指定の努力義務が定められました。

 ここでも、具体的な対応については、指針や指針の解説を参考にする必要があります。

 改正法では、従事者として指定された担当者に、法律上の守秘義務が定められました。

 法律上の守秘義務を負う従事者や従事者であった者は、公益通報者の氏名や社員番号など公益通報者が誰であるか認識することができる事項を、正当な理由なく漏らしてはなりません。

 もし法律上の守秘義務に違反してしまった場合には、その従事者は、30万円以下の罰金に科せられる場合がありますので注意が必要です。

 守秘義務違反にならない正当な理由としては、通報者が明示的に同意した場合や通報対応のために必要最小限の範囲で情報共有する場合が考えられます。

 なお、従業員の数が300人以下の中小事業者については、従事者の指定は努力義務ですが、従事者を指定した場合、その指定された従事者は法律上の守秘義務を負うことになるので注意が必要です。

 改正法では、行政機関公益通報、外部公益通報のそれぞれについて、その保護要件が緩和されました。次の表の下線部が緩和された部分になります。

行政機関公益通報の保護要件
改正前 改正後
通報対象事実が生じ、または生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合 通報対象事実が生じ、または生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合
or
通報対象事実が生じ、または生じようとしていると思料し、通報者の氏名・住所等所定の事項を記載した書面を提出する場合
外部公益通報の保護要件
改正前 改正後

通報対象事実について真実相当性があり、以下のいずれかに該当する場合

  1. 不利益な取扱いを受けると信じるに足りる相当の理由がある
  2. 通報対象事実に関する証拠が隠滅・偽造されるおそれがあると信じるに足りる相当の理由がある
  3. 生命・身体に対する危害が発生し、又はその急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある
  4. 事業者から正当な理由なく内部通報しないことを要求された
  5. 内部通報したが、通報日から20日経過しても、正当な理由なく事業者が調査を行わない

通報対象事実について真実相当性があり、以下のいずれかに該当する場合

  1. 不利益な取扱いを受けると信じるに足りる相当の理由がある
  2. 通報対象事実に関する証拠が隠滅・偽造されるおそれがあると信じるに足りる相当の理由がある
  3. 事業者が通報者を特定させる事項を正当な理由なく漏らすと信じるに足りる相当の理由がある
  4. 事業者から正当な理由なく内部通報しないことを要求された
  5. 内部通報したが、通報日から20日経過しても、事業者が調査を行わない
  6. 生命・身体に対する危害もしくは財産に対する回復困難または重大な損害が発生し、又はその急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある

 行政機関公益通報、外部公益通報の保護要件が緩和され、通報者にとっては、内部の問題を外部に申告するハードルが下がることになります。

 内部の問題が外部に申告されると、事業者としては、予期せぬリスクを負うことになりますから、内部通報対応体制を整える必要性が高まっています。

 改正法では、公益通報者として保護される者の範囲が広がりました。次の表の下線部が保護される者として広がった部分になります。

改正前 改正後
 
  1. 労働者
  2. 派遣労働者
  3. 下請事業者や他の取引事業者の労働者・派遣労働者
 
  1. 労働者+1年以内に退職した労働者
  2. 派遣労働者+1年以内に終了した派遣労働者
  3. 下請事業者や他の取引事業者+1年以内に退職・終了した当該他の下請事業者や取引事業者の労働者・派遣労働者
  4. 役員+下請事業者や他の取引事業者の役員

 改正法によって、公益通報者として保護される者の範囲が広がっていますので、事業者としては、これに合わせて、内部通報制度の利用者の対象を拡大するなどの対応が必要です。

 改正法では、公益通報として保護される通報対象事実の範囲が広がりました。次の表の下線部が通報対象事実として広がった部分になります。

改正前 改正後
刑事罰の対象となる犯罪行為の事実 刑事罰の対象となる犯罪行為の事実

過料(行政罰)の理由となる事実

 過料(行政罰)の理由となる事実が通報対象事実として追加されたので、例えば、当局からの許可や登録に基づく事業を扱う事業者などは、特に注意が必要といえます。

 改正法では、公益通報者として受けられる保護の内容が広がりました。次の表の下線部が保護の内容として広がった部分になります。

改正前 改正後
 
  1. 公益通報を理由とした解雇の無効
  2. 公益通報を理由とした労働者派遣契約の解除の無効
  3. その他公益通報を理由とした不利益な取扱いの禁止
 
  1. 公益通報を理由とした解雇の無効
  2. 公益通報を理由とした労働者派遣契約の解除の無効
  3. 公益通報を理由とした役員解任の場合の損害賠償
  4. その他公益通報を理由とした不利益な取扱いの禁止
  5. 公益通報者に対する公益通報を理由とした損害賠償請求の禁止

 事業者としては、これらの公益通報者として受けられる保護に反しないよう、内部公益通報対応体制を整えておく必要があります。

 改正公益通報者保護法によって、事業者には、公益通報対応体制の整備義務またはその努力義務が設けられることになりました。

 そのため事業者は、公益通報対応体制の整備に取り組まなければなりません。

 公益通報対応体制の整備のため必要となる措置については、指針の第4に掲げられていますが、次の表のとおり、その内容は多岐にわたっています。

公益通報対応体制の整備のため必要となる措置の概要
 
  1. 部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備
     a. 内部公益通報受付窓口の設置等
     b. 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
     c. 公益通報対応業務の実施に関する措置
     d. 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置

  2. 公益通報者を保護する体制の整備
     a. 不利益な取扱いの防止に関する措置
     b. 範囲外共有等の防止に関する措置

  3. 内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置
     a. 労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
     b. 是正措置等の通知に関する措置
     c. 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置
     d. 内部規程の策定及び運用に関する措置

 従業員の数が300人を超える事業者は、公益通報対応体制の整備について法律上の義務を負うため、上記のような措置についていずれも対応する必要があります。

 対して、従業員の数が300人以下の中小事業者は、公益通報対応体制の整備については努力義務であるほか、そのリソースの観点から、上記のような措置のすべてに対応することは困難な場合があります。

 そこで以下では、中小事業者が改正公益通報者保護法によって努力義務を負うこととなった公益通報対応体制の整備に関して、特に対応しておくことが望ましい4つの措置について解説します。

 内部通報窓口をまだ設置していない事業者は、内部の問題を早期に把握するため、内部通報を部門横断的に受け付ける窓口を設置することが重要です。

 事業者内部の問題について、通常の業務執行ラインに従い、部下から上司に報告・相談がなされ、適宜適切に調査・是正される体制を整えることは事業者が目指すべき1つの理想の姿です。

 このような通常の業務執行ラインに従い部下から上司に対してなされる報告系統を、指針の解説では、職制上のレポーティングラインと呼んでいます。

 しかし、発生した問題の内容や関わっている人によっては、この職制上のレポーティングラインでは、報告・相談が躊躇されてしまう場合があります。

 そのような場合に備えて、事業者は、公益通報対応体制の整備の第一歩として、職制上のレポーティングラインとは別に、事業者内部の問題を通報・相談することのできる内部通報窓口を設置することが求められているのです。

 内部通報窓口は、事業者内部の法務部やコンプライアンス部、人事部、総務部などに設置することが考えられますが、中小事業者の中には、内部通報窓口を事業者内部に設置する十分な余裕がないことも考えられます。

 そのような場合には、監査役を通報窓口とするほか、専門の民間事業者や外部弁護士など、事業者外部に設置することももちろん可能です。

 事業者それぞれの事情に応じて、現実的に運用可能な内部通報窓口の設置を検討しましょう。

 内部通報窓口を設置したら、通報窓口で受け付けた通報に関する調査や是正の業務について、その通報された事案に関係する者による関与が排除されているか確認しましょう。

 内部通報対応体制が実効的に機能を発揮するためには、その体制が利用者から信頼されるものでなければなりません。

 もしも、通報された事案に関係する者が、その通報に関する調査や是正の業務に関与することがあるとすると、その調査や是正に当たって、担当者としての利益と事案に関係する者としての利益が相反し、中立性や公正性を欠く対応がなされるおそれがあります。

 このような利益相反が起きてしまう体制は、中立性や公正性の点で利用者からの信頼を得られず、せっかく設置した内部通報窓口が実効的に機能しないことになってしまいます。

 そこで、内部通報対応体制の設計に当たって、内部通報対応の過程で、調査や是正の業務に対応する担当者が、事案に関係する者であることが判明した場合に、その者を担当者から外すことのできる規定を内部規程において定め、通報対応における利益相反を排除することが必要です。

 内部通報対応体制が実効的に機能を発揮するためには、その体制が利用者から信頼されるものでなければならないと述べました。

 同じ観点から、内部通報対応体制の整備に当たっては、通報を理由とする通報者への不利益な取扱いの防止に関する措置をとることが求められます。

 通報対象事実は、通報者が見聞きできる範囲の事実になるので、被通報者は、通報者の身近な人物になることが少なくありません。

 そのため、通報者は、自分が通報したことを理由に、不利益な取扱いを受けることが懸念されると、通報すること自体を躊躇してしまうおそれがあります。

 このような事態を防ぐため、事業者は、通報を理由とする不利益な取扱いを明確に禁止するとともに、不利益な取扱いの禁止が実効的に機能するよう、被通報者等への注意喚起を行いましょう。

 また、万が一、不利益な取扱いが生じてしまった場合には、適切な救済・回復の措置や処分等の措置をとることが必要です。

 このように通報を理由とする不利益な取扱いの防止に関する措置を実践することで、通報者の、通報を理由とする不利益な取扱いを受けることとなる懸念を払拭し、通報者の信頼を高めていくことができます。

 内部通報対応体制を整備しても、それが整備したとおりに実践されなければ、実質的に体制整備が十分でないといわざるを得ません。

 そのため、社内研修を実施し、整備した内部通報対応体制に対する事業者内の理解を深めていくことが必要です。

 社内研修の実施に当たっては、まずは、内部通報対応に携わる担当者に対して、整備した内部通報対応体制を実践するための具体的な対応や注意事項などを示していくことが考えられます。

 また、担当者に対する研修のほか、内部通報窓口の利用者となる従業員等に対する研修も有効です。

 利用者となる従業員等に対する研修では、組織にとっての内部通報の重要性や意義、通報者の保護などについて、理解度を深めることを目指すことが重要です。

 内部通報対応体制に対する信頼と周知を高めていくことで、より実効的に機能することが期待できます。

 この社内研修の実施に当たっても、経験豊富な専門の民間事業者や外部弁護士など、事業者外部に委託することも考えられます。

 中小事業者にとっては、内部通報制度は余計な仕事を増やすだけ、というようなネガティブなイメージもあるかもしれません。

 しかし、そのようなイメージは本質的なものではありません。

 事業者にとって、内部通報は、内部の問題を早期に把握し、自らのコントロールのもと、自浄作用を働かせて是正することができる貴重な機会であり、宝といってもよいものなのです。

 そして内部公益通報対応体制を実効的に機能するよう整備することは、この宝をすくい上げるシステムの整備といえます。

 ぜひ、この改正公益通報者保護法の施行の機会に、自らの内部通報対応体制を見直してみてはいかがでしょうか。