年金制度改正法、2022年4月から段階的施行 変更点や企業への影響を整理
年金制度改正法が2022年4月から段階的に施行されます。4つの変更点のポイントは「長期化する高齢期の経済基盤の充実」です。より多くの人が長期的に働きやすい社会を作るという観点から、改正の内容と企業として対応すべきことを社会保険労務士が整理して解説します。
年金制度改正法が2022年4月から段階的に施行されます。4つの変更点のポイントは「長期化する高齢期の経済基盤の充実」です。より多くの人が長期的に働きやすい社会を作るという観点から、改正の内容と企業として対応すべきことを社会保険労務士が整理して解説します。
目次
2020年5月に年金制度改正法が成立しました。改正の目的は、働き方の長期化・多様化を推進する中で、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図ることにあります。
少子高齢化が進み、働き手の確保が必要になったことから、より多くの人がより長く働けるようにするというのが「働き方改革」ですが、それを年金制度に反映したもの、と整理するとわかりやすいでしょう。
高齢期の経済基盤の充実を図るため、年金制度の対象を拡大して年金受給額の確保・充実化が行われることになりました。
変更内容は大きく分けて次の4点です。
簡単に表にまとめました。
主な変更内容 | 具体的な変更点 | 変更前 | 変更後 | 変更時期 |
---|---|---|---|---|
①社会保険の適用拡大 | (1)短時間労働者を社会保険に加入させる必要がある企業の規模要件 | 従業員数500人超 | 従業員数100人超 | 2022年10月 |
従業員数50人超 | 2024年10月 | |||
(2)短時間労働者の勤務期間要件 | 1年以上 | 2ヶ月超 | 2022年10月 | |
②在職定時改定制度の導入 | (1)年金額の見直し | 退職時に実施 | 在職中であっても毎年実施 | 2022年4月 |
(2)65歳未満の調整開始額(=年金額の支給停止が始まる金額) | 月額28万円 | 月額47万円 | 2022年4月 | |
③受給開始時期の選択肢の拡大 | 年金の受給開始年齢の選択肢 | 60歳~70歳 | 60歳~75歳 | 2022年4月 |
④確定拠出年金の加入要件の緩和 | (1)確定拠出年金の加入年齢の引き上げ | ・企業型DC…65歳未満 ・iDeCo…60歳未満の被保険者 |
・企業型DC…70歳未満 ・iDeCo…65歳未満の被保険者 |
2022年5月 |
(2)確定拠出年金の受給開始時期等の選択肢の拡大 | 60歳~70歳 | 60歳~75歳 | 2022年4月 | |
(3)簡易型DC、iDeCoプラスを実施できる中小企業の範囲 | 従業員規模100人以下 | 従業員規模300人以下 | 2020年10月 |
改正の具体的な内容を項目ごとに見ていきましょう。
働き方の多様化を年金制度に反映するのが「社会保険の適用対象の拡大」です。
一定規模以上の企業には、短時間労働者を社会保険の適用対象にする義務が課されています。この企業規模要件(従業員数500人超)について、2022年10月に従業員数100人超、2024年10月に従業員数50人超と段階的に拡大します。
また、短時間労働者の定義についても一部緩和が行われました。具体的には、短時間労働者に設けられていた勤務期間要件(1年以上)が撤廃され、原則の被保険者と同じ2ヵ月超になります。
企業と働き手の双方にとって最もインパクトのある変更です。詳しくはリンク先の記事で解説しています。
老齢厚生年金を受け取りながら働いている65歳以上の労働者について、在職中に毎年1回、年金額の見直しを行う「在職定時改定」制度が新設されました。
社会保険については算定基礎届を提出し、実態の給与額に応じて社会保険料を見直しする「定時改定」が行われ、毎年10月に社会保険料が更新されます。この仕組みを、給与と年金額の支給調整においても反映させる制度が「在職定時改定」制度です。
現行は、退職時に年金額の見直しが行われることになっており、在職中は給与額が変わっても年金額は見直しがなされない仕組みとなっています。
改定後は、在職中であっても毎年見直しを行うことで、都度年金額が反映されることとなります。
在職中であれば、年金を受給すると同時に、毎月年金掛金を負担しています。これが、基準日時点での実績に応じて、都度更新されることとなるので、受け取れる年金額が増えていくという仕組みです。
また、65歳未満の労働者について、給与との調整額についても見直しが行われました。
60歳以上の労働者については、在職中、給与と年金の合計が一定額以上になると、支給調整が行われます。つまり、給与が高い労働者ほど、年金額が減額される仕組みです。
これにより、年金受給年齢以後には働くモチベーションが阻害されかねません。
そこで、受給開始年齢の選択肢を拡大するという変更と合わせて、調整開始額(=年金額の支給停止が始まる金額)の見直しが行われました。
現行制度では、60〜64歳は月額28万円、65歳以上は月額47万円となっています。改正により、60〜64歳についても、65歳以上と同じく、月額47万円に緩和されました。
社会保険の受給開始年齢は原則65歳ですが、本人が希望すれば、60歳から70歳までの間で変更することができます。
受け取り開始を65歳より早める場合には、繰り上げた月数に応じて減額された年金額を、受け取り開始を65歳より遅らせる場合には、繰り下げた月数に応じて増額された年金額を、生涯受け取ることになります。
今回の改正では、受給開始年齢の選択肢が、60歳から75歳までに拡大されました。受給開始を遅らせた場合、年金額に、次の計算式により計算された増額率をかけた金額を受け取ることになります。
繰り下げ増額率=0.7%×繰り下げた月数 |
つまり、75歳まで支給開始を繰り下げると、毎月受け取る年金額は年金額の184%となります。長く働いている人は、給与と年金との支給調整を考えると、受給開始時期を遅らせるメリットがあり、その選択肢の幅が広がった、ということです。
合わせて、受給開始時期を繰り上げた時の増減率は0.5%ですが、2022年4月1月以降に60歳に到達する方については、0.4%に改正されます。
確定拠出年金(DC)制度とは、老齢基礎年金や老齢厚生年金などの公的な年金制度に上乗せする形で、運用する制度です。
掛金の拠出額が確定しており、運用収益に応じて将来の給付額が変わることから、「確定拠出年金」という名称になっています。掛金を会社が負担する企業型DCと、掛金を本人が負担する個人型DC(iDeCo)があります。
ベースとなる公的年金制度が柔軟化したのに合わせて、確定拠出年金も要件が緩和されました。
より長く働く人が増える中で、掛金給付が行える年齢(=加入年齢)引き上げが行われます。企業型DC、iDeCoのいずれもそれぞれ5歳ずつ引き上げられます。
加入年齢一覧 | 〜2022年4月 | 2022年5月〜 |
---|---|---|
企業型DC | 65歳未満 | 70歳未満 |
iDeCo | 60歳未満の被保険者 | 65歳未満の被保険者 |
社会保険の受給開始時期と合わせて、確定拠出年金の受給開始時期も60歳から75歳までの間で選択できるようになりました。
簡易型DC、iDeCoプラスを実施できる中小企業の範囲が拡大される予定です。現在は従業員規模100人以下の企業が実施可能企業ですが、300人以下まで拡大されます。
簡易型DC、iDeCoプラスの制度概要は次の通りです。
参考:厚生労働省|確定拠出年金制度等の一部を改正する法律の主な概要
現行制度では、企業型DCに加入している人が同時にiDeCoに加入するためには、加入している企業において労使合意が必要とされています。この労使合意が不要となり、原則加入することができるように要件が緩和されます。
①社会保険の適用拡大、②在職定時改定制度の導入、③受給開始時期の選択肢の拡大、④確定拠出年金の加入要件の緩和、のうち、企業が対応すべきことは大きく、①にかかる実務への対応と、①〜④について社員への説明対応に分かれます。
社会保険の加入対象者が増加するに際して、対象者の把握、届出対応を行う必要があります。
また、社会保険料負担も増加する可能性があることから、負担額のシミュレーション、人件費の見直し等も必要となります。
対応手順について、リンク先の記事でも詳しく解説しています。
パートタイマーや年金受給年齢に達した社員の中には、今回の法改正が自身の働き方にどのような影響を与えるのか不安に思っている方も多いと思います。社員からの問い合わせも増えてきているのではないでしょうか。
会社としては、制度の概要について把握した上で、早めに社員説明会を行うのが良いでしょう。
給与や業務量の調整が発生しそうな社員について、あらかじめリストアップして備えておくことも望ましいでしょう。
高年齢者雇用安定法により、現在、65歳までの継続雇用が企業に義務付けられ、さらに、70歳までの継続雇用も努力義務とされています。
これまで見てきたように、本年金制度の改正は、長く働くことがプラスに働く仕組みであることがわかります。また、iDeCoの制度変更は、社員のライフプランを考える契機にもなるでしょう。
賃金や退職金制度など、会社全体の制度設計と照らし合わせて自社にどのような影響があるのか、把握することが求められます。
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