働き方改革の目的とは 課題や推進に必要な対応・取組事例も紹介
政府が掲げる「働き方改革」。言葉自体は聞き慣れているものの、実際に推進できていると明言できるでしょうか。背景と目的を踏まえず個々の法改正に対応するだけでは、逆効果にもなりかねません。施行後の現状を踏まえ、改めて背景と目的を再確認した上で、実効性ある取り組みのヒントを提供します。
政府が掲げる「働き方改革」。言葉自体は聞き慣れているものの、実際に推進できていると明言できるでしょうか。背景と目的を踏まえず個々の法改正に対応するだけでは、逆効果にもなりかねません。施行後の現状を踏まえ、改めて背景と目的を再確認した上で、実効性ある取り組みのヒントを提供します。
目次
働き方改革とは、一言で言うと「誰もが個々の事情に応じて柔軟に働き続けられる社会を作ること」です。
その目的は、「一億総活躍社会」を実現することにあります。
人口の減少と少子高齢化によって、生産年齢人口が減少し続けていることから、従来の日本社会の働き方を抜本的に見直すことで、働き手を増やすことが急務となっています。
働き方改革の背景にあるのは、前述の通り、労働人口の減少です。人口が減少し、さらに少子高齢化が進展していることで、15〜64歳の生産年齢人口は大きく減少しています。
その人手不足への対応策として、就業機会を拡大し、誰もが個々の事情に応じた多様な働き方を選択できるようにすることがあげられています。
これまで労働市場に参加できなかった人たちには、出産や育児、家族の介護、病気の治療など、さまざまな理由があります(これは誰にでも起こり得ることです)。
そうした際に、仕事をやめてしまうのではなく、個々の事情に応じて柔軟に働き続けられるようにすること、これが働き方改革の目的です。
同時に、健康を保って高い生産性を上げて働き続けることも重要であり、そうした内容も含まれています。
この目的を実現すべく、働き方改革は次の3本柱から成っています。
そして、この3本柱の実現のために、これまで働き方改革関連法(正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)が施行され、さまざまな法律が改正されました。
働き方改革関連法の具体的な内容は、下記の通りです。
内容 | 概要 | 適用時期 | 改正された法律名称 |
---|---|---|---|
時間外労働の上限規制 | 法律で残業時間の上限が定められました (原則月45時間、年360時間) |
大企業:2019年4月 中小企業:2020年4月 |
労働基準法 |
年次有給休暇の確実な取得 | 会社が労働者に年次有給休暇を確実に取得させることが義務付けられました (10日以上付与される労働者に年5日) |
2019年4月 | 労働基準法 |
「勤務間インターバル」制度の導入促進 | 前日の終業時刻と翌日の始業時刻との間を一定時間確保する努力義務が明文化されました | 2019年4月 | 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法 |
月60時間超残業に対する割増賃金率引き上げ | 月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の下限引き上げが、中小企業にも適用されました (50%以上) |
中小企業:2023年4月 | 労働基準法 |
労働時間状況の客観的な把握 | 長時間労働者への面接指導等を適切に行うため、客観的な方法による労働時間の把握が義務付けられました | 2021年4月 | 労働安全衛生法 |
雇用形態に関わらない公正な待遇の確保 | 正規雇用者と非正規雇用者の差別的取扱い・不合理な待遇差が禁止されました (同一労働同一賃金) |
大企業:2020年4月 中小企業:2021年4月 |
パートタイム・有期雇用労働法 |
「フレックスタイム制」の拡充 | 清算期間の上限が延長されました (1ヶ月→3ヶ月) |
2019年4月 | 労働基準法 |
「高度プロフェッショナル制度」の創設 | 要件を満たした場合に労働時間・休日・深夜の規定を適用除外とする制度が新設されました | 2019年4月 | 労働基準法 |
企業にとっては、まずはこうした法改正への対応が求められます。
しかしながら、残業時間の上限規制や休暇取得義務について形式的に対応しようとすれば、コスト増加やモチベーション低下など、逆効果を招きかねません。
実際には、どの項目も、個別的・短期的に取り組もうとするとなかなか難しいものと思われます。
例えば、月45時間の時間外労働は、平均すると1日あたり2時間の残業に相当します。
また、1年間の年次有給休暇10日分は、1月あたり1日取得するペースです。これまで有給休暇を消化しておらず、長時間残業が恒常化している職場で、業務量や分担を変えずにこうした数値目標を達成するのは無理があります。
そこで、働き方改革の本来の目的、つまり、「従業員が自分の事情に応じて柔軟に働き続けられる会社を作る」という観点に立った上で、働き方改革を推進する上で企業が直面する課題に対して実効性のある対応を行うことが求められます。
課題については、次のようなものが挙げられます。
時間外労働の上限規制に対応するためには、出退勤時間を客観的に記録し、各月の残業状況をモニタリングすることが前提となります。単月の時間数だけでなく、2〜6カ月の複数月平均での時間数も把握しなければなりません。
また、有給取得義務を果たすためには、有給休暇の残日数と消化状況のモニタリングが必要です。
こうした管理コストの増加は、とりわけ、従業員数の多い企業や紙ベースでの管理を行っている企業において大きな課題としてあります。
この課題に対応するために、企業としては次のような対応が求められるでしょう。
【企業に求められる対応】
・残業時間や有給取得状況を「見える化」することで主体的な取り組みにつなげる
・自社に適した勤怠管理システムを導入する
残業削減や有給消化に伴い、一人当たりの労働時間は減少します。業務にかかる時間を減らせない限りは、新たな人員を確保しなければいけません。
また、従業員が育児休業や介護休業を取得する際には、代替要員の確保が鍵を握ります。
しかし、労働人口の減少の影響で、人材採用そのものが難しくなってきているのが実情です。そのため、企業としては、次のような対応が求められていると言えます。
【企業に求められる対応】
・必要に応じてスムーズに代替要員を確保できるような人員配置を行う
・採用においては、求人像や求人要件を明確にし、働く人の目線に立った魅力発信を行う
なお、下記パンフレット内の「人材を確保するために中小企業が行うべき5つのステップ」も参考になります。
長時間労働の削減や休暇取得については、「仕事が終わらない」従業員側からすれば有り難くない施策とも受け止められます。
また、遅くまで働いていた方が偉い、という価値観も、かつてほどではないにせよ、依然として残っています。
そうした中で、法律上の義務だからと形式的に改革を行うと、生産性の低下やモチベーションの低下につながり、逆効果を招きかねません。
【企業に求められる対応】
・なぜ働き方改革を進めるのか、会社の方針とメッセージを明確にし、発信する
・成果物や時間対効果、残業時間の削減を評価するなど、評価制度を見直す
働き方改革施行直後は予想できなかった新型コロナウイルス感染症の拡大も後押しし、テレワーク勤務は急激に普及しました。
一方で、ハンコを押すために出社する、従業員の自宅にはセキュリティ環境が整っていないなど、課題も浮き彫りになりました。
政府もペーパーレスをうたい、電子化を推し進めているところではありますが、IT機器に慣れていない場合にはハードルが高いのも現状です。
この課題に対しては、以下のような対応をすることをおすすめします。
【企業に求められる対応】
・ノートパソコン、携帯電話の貸与、VPNやクラウドサービスの整備など、オフィス以外でも働ける体制整備を行う
・適宜、都道府県や市区町村が実施するテレワーク専門家派遣支援を受ける
・テレワーク促進助成金やIT導入補助金などの助成金・補助金を活用する
柔軟な働き方を認めたり、テレワークで他の社員の働き方が見えにくくなることで、業務量の偏りや不公平感が生じやすくなります。
テレワークによってコミュニケーションの機会が減ったことも、こうした傾向を後押しします。
企業は次のような対応を行い、従業員のケアに努める必要があります。
【企業に求められる対応】
・不公平感が生じないように明確なルールを作成し、周知する
・従業員間での業務以外のコミュニケーションの場を積極的に設ける。たとえば、オンラインでのランチ会の開催や雑談用チャットを作成するなど
最後に、働き方改革を進めている企業の事例を2つご紹介します。
A社では、年次有給休暇を取得したことのある事例がほとんどなく、そもそも会社も従業員自身も年次有給休暇を何日有しているのか把握していない、という状況でした。
そこで、まずは全従業員の日数を確認する作業からスタートしました。
さらに、各自が年次有給休暇を何日有しているのか、同じ部署内のメンバーで共有し、取得日数・残日数を「見える化」し、3ヶ月に一回、見直しのミーティングを設けることにしました。また、時間単位での有給取得も可能にしました。
これにより、年間を通じた柔軟な「休み方」をチーム内で相談できるようになっただけでなく、他の従業員の業務内容や業務量を知る機会ができ、業務の偏りや属人化が解消され、メリハリをつけた働き方ができるようになったそうです。
年5日の取得義務を達成し、次の目標はチーム全員の年休取得率100%とのことです。
B社は新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言を機に、従前より考えていたフルリモートワーク制度に移行しました。
制度導入当時の課題として、在宅での勤務環境整備とコミュニケーション不足があがっていました。特に当初、一人暮らしの従業員を中心に、メンタルヘルス不調を訴える事例もありました。
そこで、入社時に在宅勤務手当を付与し、勤務環境を整えてもらうことに加え、バーチャルオフィス(=同じバーチャル空間にログインすることで、同じオフィスに出社しているように会話できるサービス)を活用することで、コミュニケーションが不足しない環境を整えました。
フルリモートワーク制に移行したことで、実家の近くに引っ越しをした従業員が現れたり、他の都道府県在住の従業員が入社できるようになり、以前よりも多様なメンバーが働いています。
上記でご紹介した事例だけでなく、特設サイトなどで、さまざまな実施事例が公開されています。どれも前向きでわくわくするような事例です。
読み進めていくと、「働き方改革」へのイメージも少し変わってくるかもしれません。
働き方改革の成功事例に共通しているのは、社員の「働きやすさ」という視点に立った取り組みを行っている点です。
さまざまな法改正項目がありますが、形式的な法令遵守では隠れ残業の蔓延や管理職の業務過多など、かえって綻びを生じさせかねません。
誰もが働き続けられる社会を作る、という社会の要請に従うという姿勢で取り組みを行うことが、結果的に企業にとっても良い結果をもたらすものと考えられます。
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