目次

  1. 職場結婚でやむなく退職、そういえば……
  2. 「親孝行な決断」に、母からまさかの返事
  3. 地域の店訪ね、物件情報まとめたチラシに反響
  4. 敷金・礼金不要 若手起業家支援ビルを発案
  5. 「きれいごと」より仕事や生活に必要なことを
  6. 高校で講演、電子掲示板、地元チームの支援も
  7. 福山を離れた娘が「戻りたい」と思える街に

 山陽不動産は1969年、千鶴さんの祖母・藤崎フサ子さん(2021年、101歳で死去)が病身の夫に代わって一家を支えるため創業しました。当時、女性の仕事と言えば縫製などが主流でしたが、男女の区別なく仲介手数料を稼げる不動産業に目をつけ、起業したといいます。

創業からまもない頃の山陽不動産。女性社長が珍しかった時代に、祖母のフサ子さんが設立した

 その後、母・溝入和子さん(71)が2代目社長に就き、千鶴さんは副社長を務めています。現在は買い取った物件をリノベーションして再販する事業を主軸に、物件の仲介や賃貸、管理など不動産業務全般を扱っています。従業員数は12人、直近の売上高は約5億円です。

 福山市で生まれ育った千鶴さんは、高校卒業後に横浜市の大学に進学。建築を学んだ後、東京に本社を置く東証プライム上場の不動産会社に就職しました。「いつか実家の役に立てれば」という気持ちはあったものの、家業を継ぐ明確な意思はなかったそうです。

幼い頃の千鶴さん(左)、母親の和子さん(中央)、祖母のフサ子さん

 24歳の時、職場で知り合った夫と結婚します。しかし当時、職場結婚した夫婦はどちらかが退職するという暗黙のルールが社内にありました。

 「今まで勉強して受験して就職して、仕事もがんばってきたのに……」

 そんな思いを抱えながら、千鶴さんは職場を去ります。自分と向き合う時間ができ、祖母と母が切り盛りする山陽不動産を誰が継ぐのか、気になってきました。

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