目次

  1. 執行役員とは
    1. 執行役員の役割、業務のスムースな執行
    2. 執行役員に支給されるのは役員報酬ではなく給与
    3. 執行役員と他の役職との違い
  2. 執行役員を設けるメリット・デメリット
    1. 3つのメリットを紹介
    2. 2つのデメリットを紹介
  3. 執行役員を設ける手順
    1. ステップ1.執行役員規程の策定と制定
    2. ステップ2.報酬・インセンティブの策定
    3. ステップ3.候補者のリストアップ
    4. ステップ4.候補者の面談・選定
    5. ステップ5.取締役会の決議
  4. 執行役員を設置したあとのポイント
  5. 執行役員制度、今後は中小企業にも

 執行役員とは、取締役などの役員の委任を受けて役員に代わって業務を遂行する役職のことです。1997年に大手電機メーカーが日本で初めて導入したのを皮切りに、2000年代初め頃から上場企業を中心に広く導入されるようになりました。

 大手電機メーカーは執行役員制度導入の理由について、「執行役員制度を導入することで、経営における監督と執行の分離をはかり、意思決定の迅速化を推進する」と説明しています。現在、多くの企業が同様の目的により執行役員制度を導入しています。

 なお執行役員は、英語ではエグゼクティブ・オフィサー(Executive Officer)と称されるケースが多いようです。

執行役員の概要と設置のメリット・デメリット
執行役員の概要と設置のメリット・デメリット(デザイン:増渕舞)

 執行役員の最大の役割は、文字通り業務のスムースな執行です。一般的な株式会社における意思決定機関は取締役会ですが、執行役員は、取締役会で決定された業務を実際に執行する任を負います。執行役員制度を導入することで経営における監督と執行の分離をはかり、迅速な意思決定が可能になります。

 執行役員は取締役などの役員ではないので、経営の意思決定そのものに関与することはありません。一般的には、取締役会や株主総会に出席して経営権や議決権を行使するといったことは行いません。

 執行役員は「役員」ではないので、執行役員に支給されるのは報酬ではなく給与になります。執行役員は立場的には「使用人」であり、会社に雇用契約に基づいて役務を提供する労働者です。一般的な使用人と同様、基本給、時間外労働手当、各種手当などの総額を労働の対価として受け取ります。

 一方、取締役などの「役員」が受け取るのは報酬です。役員報酬は通常、定時株主総会で決議されて支給額が決められます。役員は使用人ではないので、通常は時間外手当などは受け取りません。また、労働基準法が定める各種手当の支給対象にはならないのも特徴です。

 では、執行役員と他の役職との違いはなんでしょうか。ここでは、取締役・執行役・部長との違いを具体的に見てみましょう。

①執行役員と取締役との違い

 執行役員と取締役の違いは、上述の通り、執行役員は雇用契約に基づいて役務を提供する「使用人」であり、取締役は株主から委任を受けて会社を経営する経営者であるという点です。平たく言えば、執行役員は会社に雇われる側の人であり、取締役は執行役員を含む使用人を雇用する側の人です。

 また、執行役員は、取締役のような会社法による設置などの定めがなく、比較的自由に選任することができます。ただし、執行役員の選任は取締役会が決議して行います。

②執行役員と執行役の違い

 執行役とは、会社法が定める「指名委員会等設置会社」において、取締役会から委任された業務執行に関する意思決定を行う役職です。指名委員会等設置会社とは、3つの委員会(指名委員会・監査委員会・報酬委員会)を通じて、取締役と執行役が分かれた組織を形成する株式会社を指します。 役割や目的が執行役員と似ていますが、執行役は会社法が定める「役員」のひとつです。

③執行役員と部長の違い

 執行役員と部長は、いずれも「使用人」という点は共通しています。異なる点は負わされる業務内容や責任の範囲と権限などがあげられますが、会社によっては執行役員を部長より上位のポジションに設定しているところもあったり、ほぼ同じようなポジションに設定しているところもあったりとさまざまです。

 また、会社によっては部長よりも執行役員の方が響きがいいので、部長という肩書ではなく執行役員という肩書を付けている会社もあります。

 つづいて、執行役員を設けるメリットとデメリットをご紹介します。

①意思決定の迅速化

 日本で初めて執行役員制度を導入した企業の目的は、「経営における監督と執行の分離をはかり、意思決定の迅速化を推進する」ことでした。実際に執行役員制度を導入すると役員の業務負担の軽減や、業務執行のスピードアップが可能になります。

 これは、特に、会社の意思を決定する側と業務を遂行する側の間にさまざまな役職が存在し、ひとつの物事を進めるのに何人もの社員を介さなければならないような一定規模の企業においては、とりわけ顕著になります。

②登記の必要がない

 取締役を新規に選任する場合、株式会社変更登記を行う必要があります。また、取締役は通常、株主総会で選任するため、株主総会の開催と株主総会議事録の作成もしなければいけません。さらに、株式会社変更登記の申請には、就任承諾書や本人確認書類などの提出も求められます。

 執行役員は社内で相応の業務ポジションに位置している一方で、選任の際にそうした煩雑な手続きが必要ありません。

③モチベーションとモラルの向上

 会社によっては、執行役員を取締役のひとつ下のポジションとして位置づけ、取締役への登竜門として機能させているところもあります。次世代を担う若手社員などを執行役員に積極的に投入することで、彼・彼女らのモチベーションとモラルの向上につなげられます。

 また、執行役員という肩書を与えることで、取引先などへのインプレッションを高める効果も期待できます。

①組織構造が複雑になるリスク

 執行役員制度を導入すると、組織構造がかえって複雑になるリスクが生じます。

 日本で初めて執行役員制度を導入した企業は、従業員数10万人超の、日本を代表する大企業のひとつです。会社の組織構造も大きく複雑で、執行役員制度を導入することで実際に経営効率を高めました。

 一方、例えば従業員数が数十人程度といった中小企業の場合、執行役員制度を導入すると会社の組織構造が複雑になり、経営効率が逆に下がってしまう可能性があります。

②経営と現場が乖離するリスク

 執行役員制度の導入により、経営と現場が乖離(かいり)するリスクが生じるのもデメリットです。

 特に規模が小さい企業が執行役員制度を導入した場合、経営と現場の間に執行役員が介在することになり、両者の距離が広がってコミュニケーションが雑になりがちです。その結果、経営と現場の感覚が離れ、経営の意思決定に悪影響を与えるリスクが生じます。

 実際に執行役員を設ける場合、どのような手順をとればいいでしょうか。筆者は、以下のステップを辿ることをおすすめしています。

 最初のステップは執行役員規程の策定です。一般的な執行役員規程では、以下について定められています。

  • 総則
  • 執行役員の定義
  • 選任方法
  • 執行役員の地位
  • 退任事由
  • 辞任方法
  • 解任方法
  • 権限
  • 責務
  • 報告義務
  • 守秘義務
  • 禁止事項
  • 給与および賞与

 以上を他社の執行役員規定を参考にしたり、弁護士に相談したりするなどしながら、ドキュメントに落とし込みます。それが終わったら、取締役会で決議して制定します。

 執行役員規程が制定されたら、具体的な報酬・インセンティブを策定します。一般的に多いのは、既存の給与規程に新たに執行役員に対する手当やインセンティブの項目を追加して策定するケースです。個別に設定する場合は、代表取締役がしばしば決定するケースがしばしば見られます。

 いずれにせよ、執行役員は会社法が定める「重要な使用人」であり、相応の報酬・インセンティブを用意すべきでしょう。

 次に行うのが候補者のリストアップです。筆者は、執行役員は可能な限り社内の人材を優先して登用し、できれば自発的に応募してもらうのが理想的だと考えています。意欲に満ちた若手の人材などを思い切って登用してみてもいいでしょう。

 特殊な職種などで社内に人材がいないといった場合は、外部から引き入れることになりますが、委任型の執行役員を招聘する場合は、業務や責任の範囲をより明確にし、ジョブディスクリプションを細かく定めるなどして受入環境を整える必要があります。

 候補者がリストアップされたら実際に面談し、選定します。執行役員規程や報酬・インセンティブなどについて説明し、情報を共有した上で候補者の意思、モチベーション、モラルなどを確認します。候補者が複数の場合は、プレゼンテーションやディベートなどをしてもらって適正性を判断してもいいでしょう。

 執行役員の就任予定者が決まったら、取締役会で決議し、執行役員として選任します。正式に選任されれば、あとは直ちに執行役員として業務の執行開始です。

 執行役員を設置したあとは、執行役員に課されたミッションや担当領域にもよりますが、往々にして言えるのはKPIを設定し、KPIをベースにパフォーマンスを評価することが有効です。

 KPIとはKey Performance Indicatorの略で、「重要業績評価指数」と訳されます。執行役員が営業・マーケティング部門を担当するのであれば新規顧客獲得数や受注数、製造部門を担当するのであれば歩留まり率や不良品発生率などをKPIとして設定します。そして、あらかじめ設定した目標に対し、実際の数字を照らし合わせてパフォーマンスを評価するといったイメージです。

 評価を行うと、パフォーマンスが悪いなどの理由で執行役員を解任させなければならない場面に遭遇することがあります。その際、もし対象が雇用型の執行役員の場合は、執行役員を解任したとしても「使用人」のステータスが残される点に注意しましょう。また、そこで会社都合で使用人を解雇するとなったら、解雇要件を満たしているかにも十分に気をつけなければいけません。

 日本監査役協会によると、2021年時点で、監査役会設置会社で非上場企業の59.2%が、監査役会設置会社で大会社以外の企業の57.0%が執行役員制度を導入しています。前年と比較した場合、前者は3.3ポイント、後者は3.4ポイントも上昇しています(参照:監査等委員会設置会社版 p.26丨日本監査役協会)。

 これまでは大企業を中心に執行役員制度の導入が進みましたが、このトレンドは今後、中小企業に向かっていく可能性が高いでしょう。

 経営の効率化と円滑化を実現するために執行役員制度が有効です。経営のスピードが遅いと感じている経営者には、執行役員制度導入の検討をおすすめします。