スーパーを「サービスを楽しむ場所」に Z世代を呼び込んだベルク4代目
埼玉県を中心に展開するスーパーマーケット「ベルク」。4代目の社長となる原島一誠さん(44)は、2020年に社長に就任。Z世代に目を付けたマーケティング施策で、地元以外のファンも獲得し、これまで来店の少なかった男性ユーザーも増やしてきました。
埼玉県を中心に展開するスーパーマーケット「ベルク」。4代目の社長となる原島一誠さん(44)は、2020年に社長に就任。Z世代に目を付けたマーケティング施策で、地元以外のファンも獲得し、これまで来店の少なかった男性ユーザーも増やしてきました。
2020年、一誠さんは社長に就任します。その1年前ぐらいから抱えていたのが、従来の顧客層以外を取り込まないといけないという問題意識でした。
「主婦のイメージが強いスーパーマーケットですが、共働きの増加で統計的にも専業主婦世帯は減っており、そこだけをターゲットにしていても、先細りが見えています。また、昔は安い商品を求めて“買い回り”する人も多くいましたが、時間のない共働きの方が増えると1カ所で満足感を得てもらう必要があります。スーパーマーケットも、もっとお客さんの層を広げていかなければ、という危機感がありました」
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そういった思考の中、もっともスーパーを使っていない層として、Z世代に注目します。そこでZ世代のマーケティング施策に強い株式会社MMSマーケティングに連絡し、TwitterなどSNSで話題になるイベントを数多く打つように。ちなみに、MMSは、メディア(M)とモバイル(M)を通じて店舗(S)へ誘導して実売に結びつけるという意味を持ちます。
キャンペーンの第1弾は2020年の8月、商品を3000円以上購入したレシートの画像をベルクアプリから登録すると、抽選で“霊視芸人”として人気のシークエンスはやともさんに鑑定してもらえるという、かなりインパクトのある企画でした。
「最初だからありきたりないのはいやだなと。他では絶対にやらないようなことをやってみて、それで感触を確かめてみようと思いました」
イベント開催前からTwitterなどのSNSでも話題となり、応募者数は数千人に達したといいます。しかしコロナが始まった時期でもあり、150人入る広い会場を押さえていたにもかかわらず、当選者は8人に抑えたそうです。
鑑定で悩みや思っていたことを当てられた参加者は、皆すっきりした顔で、「ありがとうございました」「ほんとによかったです」と口々にお礼の言葉を述べたそうです。
その後も、ユニークな企画を続けました。「日清焼きそばU.F.O」とのキャンペーンでは、「東スポ」で知られる東京スポーツ新聞社とコラボし、「本物のUFOが現れた」という内容で架空の号外を作って店頭で配布。焼きそばの売り上げも2倍近くに伸ばしました。
インパクトのあるイベントをたびたび打つことによって、ベルクはエリアを越えて話題になるスーパーになっていきます。
「そこで目覚めたのは大きかったですね。商品を置いておけば、お客さんが来てくれて売り上げになる従来のパターンではなく、サービスを提供することでお客さんが来店してくれて、売り上げにつながることを初めて実感しました」
イベントによっては商品が前年に対して120%以上、多い時は2倍売れる直接的な効果もありましたが、それ以上に「0から1」、つまりこれまで来店しなかった新しい客層にアプローチできたことが大きかったと一誠さんは言います。
「これまでは、既存のお客さんが店に来なくなる、離脱ばかりを気にしていました。仕方ないという諦めもありつつ、離脱させないための施策に力点が置かれすぎていました。しかし、離脱率を下げようとチラシの枚数を増やしても、新しいお客さんを獲得するための原資がなくなってしまいます」
「そこで、Z世代向けのイベントで認知が広がり、普段の買い物にベルクを選んでくれるようになったのは良かった。実際、月の平均の離脱率は25%ほどなのですが、逆に新規の来店が28%あり、約3%の来店増と効果が出ています」
ベルクは、ラジオ番組の提供もしています。2020年10月にスタートした「ベルク presents 日向坂46の余計な事までやりましょう!」(TOKYO FMおよびインターネット放送AuDeeにて放送)は、これまでスーパーになじみのなかったZ世代の男性にアプローチできたといいます。
「招待された乃木坂46のコンサートで熱狂的なファンを見た瞬間、うちにはまったく来ていない客層だとショックを受けました。普段、スーパーでは見たことない顔ぶれでしたし、熱狂がすごい。彼らは100枚単位で写真集やCDを買うじゃないですか。そのお金を、もうちょっと食べ物にも使ってもらえればという思いから番組を提供することにしました」
一誠さんは、同級生の男性に「なぜスーパーに行かないか」理由を聞いたこともあるそうですが、そこで返ってきたのは、「広いので買い物をするのが大変」「どこに何があるかわからない」といった負のイメージでした。
しかし、一度きっかけができてスーパーに足を運ぶようになると、商品の場所も覚えて、「値段が安くて品ぞろえもいいし、コンビニよりもいいじゃないか」とポジティブな意見に変わったそうです。
実際、ラジオ番組をきっかけにベルクに通うようになった男性がじわじわと増えていきました。量販店のデータを専門に取っている会社から、「なぜベルクだけ若い世代の客数が増えているのか」と聞かれるほど、20代から50代までの男性客が増えたそうです。
「自分ではそれほど数字を意識していませんが、イベントを重ねるごとにボディーブロー的に効いてきた結果だと思います。もともと地域の人は、ベルクがあるのを知っている人が多い。場所はわかるけど入ったことがない、コンビニで十分だと思っている男性に、買い物の選択肢に入れてもらえれば、相当な脳内革命というか、行動変容が起きるので、そこを狙っている部分はあります。そして、彼らが家族を持てば、よりベルクが選んでもらえる可能性がありますし」
Z世代へのアプローチは男性だけに限りません。人気声優・歌手の内田優馬さんを、「2021年ベルク直輸入クリスマススパークリングワインキャンペーン」の店内放送のナレーションに起用するなど、若い女性向けの施策も打っています。こちらも、女性ファンがナレーションを聞くために初めてベルクを訪れる、といった効果が出ているそうです。
Z世代の来店が増えるようになると、プライベートブランド商品も、そこに刺さるものを作っていくことにしました。具体的には、プロテインやエナジードリンク、ビーフジャーキーなどです。
「これまで、プライベートブランドの商品は、どうしても分母が大きいものになりがちでした。しかし、特定のターゲットに刺されば、数は少なくても十分にプライベートブランドの体をなしているよねと価値観を変えていきました。SNSなどで話題になることが増えるにしたがって、商品部からも、売れないかもしれませんが“映える”商品を作りましょうといった提案が出るようになりました。社内のノリが良い意味で軽くなってきたのはいい傾向だと思っています」
スーパーマーケットのイベントとしては特異なのがメタバースです。世界最大級のVRイベント「バーチャルマーケット2022 Summer」で「ベルク VRニューヨーク店」をオープン。仮想空間の店舗内で、公式マスコットキャラクターの「ベルクック」と一緒に記念撮影もできるほか、ショッピングカートに乗ってタイムを競うレーシングゲームでも遊べる企画を用意しました。
「メタバースは社員からやりたいと提案された企画です。今まで同業はどこもやっていないからこそ、面白いと思いました。今回はカートで遊べるゲームのコンテンツを用意しましたが、メタバースのスーパーの中でコンサートをやってもいいし、サービスを楽しむ場所としての可能性は高いと考えています」
いずれは、メタバースの中で買い物ができるようになるのでしょうか。ただ、そういった発想は今のところ一誠さんにはないようです。
「僕らおじさん世代は、すぐ物を売ろう、どうマネタイズできるかと発想しますが、多分その価値観は違うんですよ。それでスタートすると、どんどんつまらなくなる。メタバースは売り場じゃなくて、まずはお客さんに楽しんでもらう場所であるべきだと思っています」
「これは社内のコミュニケーションでも同様で、若い社員の価値観も変わってきています。社長が、増収増益といった数字の目標や、言葉だけの理念を言っても、Z世代には響かない。メタバースもそうですが、社員がこの仕事をやりたいって言って手をあげた企画なら、おのずと頑張るじゃないですか。もちろん物を売る商売なので、本業には力を入れなければなりませんが、社内の若手世代に響く仕事を創出していくことも自分の仕事だと思っています」
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