コロナ禍でオンライン選ばず「駅ササイズ」 フラダンス教室の生徒数が3倍
新型コロナを契機にビジネス環境が大きく変わるなか「今の事業をこのまま守っていくだけでは難しいのではないか?」という相談が、木更津市産業創業支援センター「らづビズ」にも多く寄せられます。今回は、自社所有の物件改装をきっかけに、生徒数を3倍に増やしたフラダンス教室の事例を紹介します。
新型コロナを契機にビジネス環境が大きく変わるなか「今の事業をこのまま守っていくだけでは難しいのではないか?」という相談が、木更津市産業創業支援センター「らづビズ」にも多く寄せられます。今回は、自社所有の物件改装をきっかけに、生徒数を3倍に増やしたフラダンス教室の事例を紹介します。
目次
JR木更津駅西口近くでフラダンス教室「あーねらふらすたじお」を運営する梶千恵子さんは、2018年のらづビズの開始直後から定期的に相談に訪れています。実家で代々承継されている陶器店、フラワーソープなどを販売する雑貨店、そして自身が講師を務めるフラダンス教室、と多角的に事業展開しています。
新型コロナウィルスの感染拡大期、高齢の両親と暮らす梶さんは、しばらくは人との接触を控える「守りの経営」を決断しました。一方で、新たな打ち手となる「種まき」の作戦会議をらづビズで重ねていました。
梶さんは自社所有物件の空き部屋を改装し、フラダンス教室の第2スタジオとして利用しようと考えていました。そして、使用しない時間帯はレンタルスタジオとして貸し出すことも検討していました。この改装プランに対し、らづビズは相乗効果を得られる策を提案しました。
らづビズは、空き所有物件の潜在的な価値に着目しました。この建物は木更津駅から徒歩数分の旧中心市街地にあるものの、周囲はシャッター商店街となっていました。
ただし、木更津市は、木更津港付近の再開発計画を進めており、港まで徒歩圏内の木更津駅前には市による「街なか居住マンション建設補助事業」による分譲マンション新設と今後の居住人口増加が見込まれていました。
ビジネスモデルについても一緒に考えました。2020年当時、コロナ対策のひとつとして「オンラインレッスン」の必要性は多く叫ばれていましたが、らづビズは二つの理由からオンラインレッスン開始を勧めませんでした。
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オンラインレッスンは、教室に行かなくても生徒とつながることができる便利ツールですが、この場合の「競合」は既に有名な日本全国・世界のインストラクターとなります。
競合が多く「頑張っても短期的な集客施策」となる可能性があるため、「中長期的な種まき」を求めていた梶さんへの提案からは外しました。事実、オンラインレッスンが一般化した2021年以降、本場ハワイの講師からのオンラインレッスンも受講可能となっています。
もう一つの理由は、後述する「梶さんのフラ教室の強み」はオンラインよりも地域から積み上げていくことが効果的と考えたからです。
梶さんは、会った当初から「多様性を許容する」考えを持っていました。最近よく耳にする「ダイバーシティ(多様性)」と「インクルージョン(包含)」。性別や年齢、国籍、価値観の違いなどを超え、さまざまな人材が力を発揮して組織等の活力を上げていこうという考え方です。
梶さんは障がい者も楽しめるフラ教室、男性も楽しめるフラ教室を以前から開設していました。そして、梶さん自身が生徒として実感した体験から、自身のフラスタジオでは「純粋にフラダンスを楽しむ」ことを主眼に置き、「発表会をしない」「イベントへの参加は自由」「衣装はレンタル可能で購入不要」「仲間の悪口を言わない」というルールを決めていました。
フラダンスを途中で辞める理由は次のような理由があるといいます。
「純粋にフラを楽しみたいのに大会やイベントに参加しなければならない……」
「高額な衣装を買わなければならない……」
「踊れる、踊れないで批判をされるのがキツい……」
このことから「何も変えられずにこのまま続けていかれるのがいいと思います」と伝えました。
梶さんの「誰でもが参加してOK、純粋にフラを楽しもう」という、今で言うところの「インクルージョン(包含)」を重視したフラ教室は、会員からの支持を徐々に集め信頼できる口コミとして広がっていきました。フラを一度やめらた方が再度フラを始めるという動きを少しずつ生んでいき、フラ教室の生徒は増え続けていきます。
梶さんは理念や思いの伝わる指導を重視していましたので「講師と生徒が、互いを認め合いリスペクトし合う相互交流コミュニティスタジオ」とし、利用ターゲットは物件の特性から「駅前で運動をしたい方」、梶さんが苦手としていたオンラインツールは積極的には活用せず、「駅チカ」の「エクササイズスタジオ」、略して「駅ササイズスタジオ」というネーミングを提案しました。
「裏付け」として地域リサーチも実施しました。木更津郊外には広い駐車場付き、大手企業が経営するスタジオはありましたが、木更津駅周辺には「女性が気軽に様々な運動ができる場所」はありませんでした。
駅ササイズスタジオのもうひとつの魅力は、梶さんの営業力・人脈を活用した豊富なインストラクター陣です。梶さんはこれまで様々なインストラクターの方とつながりを持っていました。そこで、インストラクターの中から厳選した「女性が試してみたいエクササイズ」「新たな挑戦をしているレッスン」の講師を積極的に駅ササイズスタジオに招待しました。
らづビスで簡単なチラシ作成を手伝い、知り合いの講師へ声をかけ始めると、1カ月で10人以上のインストラクターがそろい、「40種以上のレッスンからご自分に合ったエクササイズが選べる」駅前エクササイズスタジオ「駅ササイズ」が2022年3月14日にリニューアルオープンしました。
フラダンス、ベリーダンス、タヒチアンダンス・クラッシックバレエといった「古典ダンス系」から、ダンスフィット・トランポリン・ボクササイズ・ヨガ・チアダンスといった「カジュアルな運動系メニュー」、そしてストレッチ・骨盤体操・美ューティBodyWaveといった「ビューティーサポートメニュー」、その他「子供用メニュー」「シニア向けメニュー」と多様性を許容した、幅広いメニュー展開が可能になりました。
駅ササイズスタジオでは「講師同士の連携」を強め、「自身の生徒の他講師への紹介」も強化しました。特にスタジオオーナーの梶さんは駅ササイズスタジオに参加した講師に自身のレッスン生徒を多数紹介していきました。
駅ササイズスタジオは魅力的なエキササイズメニューが1週間の中から選べるスタジオとして2022年3月のリニューアルオープン以降、順調に運営しています。そして梶さんの駅ササイズスタジオの生徒数は、口コミと他講師からの紹介を合わせ、以前の3倍以上に増えました。
そして、今後はマンション新設と近隣地域での居住人口増加も見込まれ、生徒数はさらに伸ばせる可能性があります。
非接触という守りの経営を決めたコロナ禍当初から、新たな挑戦への種まきを準備し続けること約2年。広告費をかけずに梶さんの多様性を許容する理念、そして「営業力・人脈」を生かして新規事業をカタチにした「駅ササイズスタジオ」からは、中小企業が学べることは多いのではないでしょうか?
駅ササイズスタジオに続く、次の芽も出始めています。女性が気軽に様々な運動ができる場所【駅ササイズスタジオ】に続き、同ビル3階では女性が気軽にビジネスに挑戦できるスモールスペースレンタルサロン【ビューティセブン】の工事が進んでいます。
この工事のタイミングでビルの外装は女性をターゲットに絞ったデザインにリニューアル工事予定です。2階の駅ササイズスタジオとの連携性を背景に、3階にはエステ・ネイル・サロンなどの女性経営者が関心を持ち始めています。
コロナ禍以降、らづビズでは目の前の「売上アップ」と未来に向けた「新規事業開発」をバランスよく提案することを強く意識してきました。今の時代、大手企業でも中小企業でも数年先がなかなか見通せない時代となっています。
先の見えない時代だからこそ、ターゲットを絞り、お金をかけずにリスク少なく、既存事業の強みを活かした新規事業をどれだけ生みだせるかが重要だと考えています。
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