目次

  1. 【1】地域と調和しながら自社を改革:東多賀の湯
  2. 【2】仙台牛を通じた震災復興:肉のいとう
  3. 【3】「最古」の資産があるからできること:川越せんべい
  4. 【4】先進的な農業の教科書:米シスト庄内
  5. 【5】6次産業化で目指す雇用増:水産加工グループ・島のごちそう
  6. 【総括】地域とともに生きる
鳴子温泉郷の振興に力を注ぐ「東多賀の湯」2代目の遊佐翔さん

 温泉では旅館のお風呂や食事が楽しみですが、旅館単体だけでなく、温泉街の風情が良かったり、周りの観光資源があったりするともっと輝きます。つまり地域資源があってこそ、その旅館の魅力も増しますので、周りとの調和や協力も旅館ビジネスに重要と言えます。その観点から、地域を盛り上げながら温泉街の復興を進めているのがこの会社の良いところです。

 近くの旅館の後継ぎや土産物屋の店主、ボランティアなど、鳴子を盛り上げたいと思っている人たちと「NARU-Go!再生プロジェクト」を立ち上げましたが、その際素晴らしいのが、20代から70代まで多様な年代の人々が集まったことです。これがアイデアの多様性を生み、イベントの活性化などに寄与していることが注目に値します。

 また、ライトアップに着目し、地域全体を盛り上げるイベントとして活用していますが、こうした行動力にも頭が下がります。さらに空き家を活用したビジネスにも地域が取り組み始めています。もちろん、自社の構造改革について補助金などを活用し、時代に合った設備投資を行うなどの対応を進めています。地域おこしと自社の構造改革が詰まった面白い事例です。

肉のいとう本店店内での、2代目社長の伊藤直之さん

 仙台といえば牛タンが有名ですが、牛タンばかり注目された結果、それがかえって仙台牛をひのき舞台から遠ざけてきました。質も量もあるのに、牛タンに隠れていたのが仙台牛です。そこで牛タンではなく、仙台牛のポテンシャルに目をつけたのがこの会社のすごいところです。

 仙台牛が人々に浸透しない理由として「高級品のイメージが強かった」と分析し、1000円台のお弁当を出しました。一方でブランドイメージを守るためにも壱萬円弁当を発売しており、ラインアップの広さが光ります。さらに「お肉のおせち」も面白い取り組みです。全て肉であるので、肉好きにはお正月からテンションが上がる商品となっています。

 さらにオンラインを強化したことから、コロナ禍でも売り上げを増加させているのもすごいところです。中食・飲食業の強化や輸出拡大にも尽力するなど、いわば仙台牛の総合商社となっています。仙台牛が世界的に有名になれば、仙台の畜産業も活性化します。震災復興がモチベーションとのことですが、「仙台牛を通じた震災復興」でさらなる発展を期待したいところです。

川越せんべい店5代目の川越 将弘さん(写真はすべて同社提供)

 日本最古の南部せんべい店といわれるのがこの会社。そのため、南部せんべいの良さを後世に伝えることに並々ならぬ決意を感じます。その際のポイントはポテトチップスとは勝負をしないということ。広く世間に売られれば値下げ圧力にさらされますが、高い値段を出してくれるお客に集中してビジネスをしています。

 歴代店主の名前を打ち出した様々なせんべいを生み出していますが、これは「最古」という資産があるからできることです。風雪を耐えてきたこの会社のすごさが伝わるマーケティング手法であり、個人的にとても感心しました。

 さらに、手ごねや手焼きといった職人の技を大切にするといった工夫もこの会社のブランド価値を上げています。「高価な商品を買うお客様は商品性だけでなく、その会社の哲学を買う」という指摘を聞いたことがありますが、まさにそうした顧客にとって魅力的な商品といえます。

 コロナ禍で店頭の売り上げは減りつつも、卸ルートが伸びており、その結果、全体としての売り上げを伸ばすなど、きちんと結果を出しているところも素晴らしい。青森や岩手の伝統食である南部せんべいをさらに進化させていくことを期待します。

米シスト庄内2代目の佐藤優人さん

 いま農業は成長産業として注目を浴びています。こうしたなか、先進的な取り組みをする企業も増えていますが、この記事にはそのエッセンスが詰まっています。まさに農業ビジネスの近代化の教科書と思える内容であり、とても興味深く読みました。

 具体的には、①米粉を使った「かりんとう」という付加価値の高い加工食品を開発し、それを輸出商品にまで高めていること、②先代のときからすでにお米の輸出に力を入れていること、③田んぼオーナー制度を導入することで都市部の企業などに関心を持ってもらうと同時に、秋だけでなく春にも資金が入ってくるようになったこと、④栽培管理アプリを開発し、自社の経営効率を上げているだけでなく、一般向けにリリースすることでビジネスチャンスを拡大していること、⑤多角化によって天気や相場に左右されなくなり、経営の安定性が増していること、などです。

 商品開発だけでなく、資金調達やビジネスの安定性まで幅広く手を打っているところはまさに経営の教科書ともいえる取り組みです。こうした企業の存在によって、米どころ庄内のおいしいお米が一層世の中に伸展していくことを期待します。

「島のごちそう」社長の山下城さん(39)。獅子島で代々続く漁師の4代目でもある(画像は注記のあるものを除き山下城さん提供)

 わが国では過疎が問題になっています。この会社のある獅子島もその一つ。この状態を何とかしたいという思いがこの会社の原動力です。獅子島には「おいしい海産物」というキラーコンテンツがあり、それをうまく活用しています。

 もともとこの会社は先代が始めたようですが、オぺレーションがうまくいかずに休眠会社となっていました。もっとも、休眠会社とはなったものの、漁で取れた海産物を練り物などの加工食品にしたり、飲食店の経営や漁師体験など6次産業化に手をつけていたりというのは先見の明があり、復活できる実力はそもそもあったとみられます。そしてその旧会社の方向性のもとに、現在の社長によるオペレーションの高度化が加わり、ビジネスとして成り立たせることに成功しています。

 具体的には、①飲食店については盛り付けの方法や出すタイミングを変えることで顧客満足度を上げる、②加工品については「百年漁師ご飯のお供」などのリニューアル商品を出して訴求性を高める、③オンライン販売を強化する、④メディア出演やふるさと納税サイトでの大賞受賞などパブリシティーの面でも成果を出す、⑤知名度を高めると同時に都市部の事業者と連携を進める、などです。

 農業・漁業関係の多角化パッケージとしては大変洗練されており、6次産業化の先進事例と思います。島の子供たちの雇用の受け皿になりたいとのことですが、地方創生には雇用の確保が必須であり、ぜひともそのような存在になることを期待します。

 大企業は全国・全世界に展開します。その結果、商品やサービスは共通的なものとなり、一つの地域に根を下ろすということはあまりありません。一方で、中堅・中小企業は活動できる領域が限られる分、地元とともに歩む企業が多いという特徴があります。実際、2022年版小規模企業白書によりますと、約6割の小規模事業者が地域課題解決に向けた取り組みを行っているとのことです。

 また、地域性を出すことがその企業の味わいになるだけでなく、競争要因にもなります。その観点からは、地方創生に取り組むことは中堅・中小企業が大企業に勝つための成長戦略であるといえます。

 今回紹介した記事の企業は地域とうまく歩むことでより良い企業になっているのが印象的でした。大きな方向性としては、地域と一体になってイベントを行うほか、地域の名産品をブラッシュアップし、6次産業化まで高めるといった傾向がみられました。これらの記事に出てきた企業は様々な工夫を行うことで着実に実績を出しており、地域の商品・サービスのブランド化に大きく貢献しています。

 また地元での雇用を増やしたいという熱い思いを大事にしている企業もありました。さらにオンラインビジネスを強化することで、地元に根差しながら全国展開と両立しているところも印象的でした。

 自社の発展と地方創生の好循環を実現するような、志と経営能力がともに高い企業の多さが目立ったのが今回の記事の特徴であり、とても刺激を受ける事例が多かったと思います。