目次

  1. 【1】M&Aを「おすすめしない」理由:マルヨシ
  2. 【2】相手を知るため現場で働く:足立いつき薬局
  3. 【3】グループをつないだ明確なビジョン:由紀HD
  4. 【4】平等な対話から生まれたシナジー:ニットー
  5. 【5】買収先の気持ちに寄り添う:諏訪商店グループ
  6. 【総括】心を通わすことがM&A成功の秘訣
吉塚二朗・マルヨシ代表取締役:グロービス経営大学院 卒業生。青山学院大学経済学部卒業後、株式会社ニコンにて海外事業に従事。6年間の米国・欧州駐在の後、家業である水産卸の会社を事業承継。赤字続きだった会社を代表就任後2年で黒字化し軌道修正。当時の経験を活かし、事業承継問題の社会課題を解決すべく、周囲の後継者不在の企業をM&Aにて引き継ぎ、現在グループ4社にまで事業拡大中。「中小企業の新しいカタチをつくる」をミッションに活動を続けている。

 M&Aを業容の拡大にうまく活用してきたのがこの企業です。もっとも、この記事で深く考えさせられるのが、M&A巧者であるこの会社が、基本的にはM&Aを「すすめない」としていることです。

 M&Aはノウハウや設備などが瞬時に取得できますので得したような気持ちになりますが、仲介手数料を考えると実はマイナスのスタートともいえます。そして、合併後の様々な調整も必要となり、決して楽な戦略ではありません。こうした理由でこの会社の社長は、M&Aを検討している企業人に冷静な判断と覚悟を求めています。そこまで分かったうえで、様々な選択肢を検討して、デメリットよりもメリットの方が大きいと判断した時に初めてM&Aを実施することが重要とのことです。

 さらに、事前に入念なシミュレーションを行って、少しでも不安なことがないような形で合併しているところも参考になります。合併後の企業とは時間をかけて統合作業を行い、「心合わせ」だけに3カ月も時間をかけるということです。合併される側の気持ちを徹底的に理解しようとしているところが合併を成功させている理由と考えられます。

 中小企業の後継者問題解決にも尽力したいということですが、たしかに、技術があるのにもかかわらず、後継者がいないために廃業する中小企業は多くあります。ぜひとも経験をいかして、後継者問題に悩んでいる企業を救済していくことを期待します。

地元の薬局を引き継ぎ、事業を広げる足立いつき薬局代表の海老沼徹さん(写真はすべて薬zaiko提供)

 薬局の事業承継のモデルとしてとても面白く読みました。まず参考になったのが、承継先の薬局について事前の知識が無かったため、数カ月社員として働いたことです。これによってM&A候補の薬局の良い点や問題点などに気が付くことができました。承継期間中は業務ができなかったようですが、再スタート後はスタートダッシュに成功したということであり、やはり現場で正確に経営状況を理解することの重要性を痛感させられます。さらに、前のオーナーと連絡を取っており、その方からの知恵などを借りることで経営を改善させていることも参考となります。

 薬剤師の資格を持つこの会社の社長が、薬局を自分で立ち上げるのではなく、後継ぎがいないオーナーから受け継ぐという第三者承継を活用して起業を成功させているところが非常に面白く感じました。薬局だけでなく、資格保有者が起業する際の参考になると思います。

由紀精密の3代目で、代表取締役の大坪正人さん。由紀ホールディングスを立ち上げ、代表取締役社長を務めている

 「ニッチだけれど高い技術力を持っている国内のものづくり企業に、イノベーション投資を行う」。このコンセプトのもと、会社をホールディングス化し、様々な企業をM&Aで傘下に収めているのがこの会社です。このグループ傘下に入れば、財務、総務、ITなどの間接業務は全て持ち株会社が行うこととなり、傘下企業は本業に集中できます。つまり持ち株会社としては経営効率化、傘下企業は本業への集中や面倒な間接業務からの解放といったwin-winの関係を築くことに成功しているところが強みと言えるでしょう。

 そして、①救済ではなく成長支援すること、②各社は自立を促すこと、③傘下企業はおのおのの個性を生かしながら、グループに所属することで、プラットフォームの恩恵を受けることができるというのもとても面白い取り組みと言えます。

 このように各社の個性の発揮とグループとしての一体性を両立できているのは、「世の中から無くなってしまっては損失とみられる日本の優れた技術を守ること」というビジョンがしっかりしており、それが各社の経営陣に安心感を与えているからとみられます。合理性を追求しながらも、「志」と「傘下企業へのリスペクト」の大事さも伝わってくる事例です。

ニットー2代目の藤澤秀行さんはM&Aでグループ化した会社とのシナジーを図っています

 後継者不足などで困っている会社を立て続けに3社も買収して経営基盤を拡大したのがこの会社です。M&Aにより、設備確保、販路拡大を成し遂げただけでなく、様々な技術者という貴重な人材を招き入れることに成功し、彼らをうまく交流させることで、会社全体の技術力を発展させています。例えば自動車産業では一般的な技術が、医療系では斬新で価値があるということがありますが、こういったかたちで、シナジーを働かせています。

 もちろんいいことばかりではなく、各企業で様々な認識相違があった模様です。それに対しては、社員全員で議論して経営理念を作るほか、自社のやり方を押し付けず、各社の強みが生かせるようにゼロベースで新しい仕事のやり方を考えたことで融和が進んだようです。買収する側、される側が平等な立場で対話を行い、合理性にのっとってルールを作っていくことが重要であるといえるでしょう。

 現在の社長が入社したとき約1億2千万円だった売上高は、M&Aを経て約6億円にまで伸びています。16年間で5倍です。また、業務範囲も広がっています。これからもM&Aを実施すると思いますが、「従業員全員で対話する」という姿勢を貫くことを期待します。

諏訪商店グループ2代目の諏訪寿一さんは、M&Aで家業とのシナジーを生み出しています

 商品を袋詰めするパッキング工場はあったものの、製造や加工用の工場がありませんでしたが、M&Aでその欠けたピースを埋めたのがこの会社の事例です。念願の製造工場だけでなく、高い技術力も吸収できるというとても魅力的な合併を実現しました。

 この買収話で参考になるのが、①買収される企業の看板を外さないこと、②従業員全員を継続雇用すること、③1年間ほど毎日欠かさず買収先に足を運び、従業員と一緒に朝のラジオ体操も行うほか、溶け込むために食事会や懇親会を開くなど、積極的にコミュニケーションをとって買収される企業社員の気持ちに寄り添った対応をしたことです。

 一方で、IT化を進めるなどの合理的な対応も進めています。「情」と「理」をうまく組み合わせているところに感心しました。そして、両者のシナジーをうまく生かすことで新商品開発を進めているとのことです。イノベーションは「新結合」と言われますが、合併という結合手段を通じて新たな付加価値を生み出していることはとても素晴らしいと思います。

 今回の記事はM&Aに関するものです。令和4年版の中小企業白書をみますと、M&Aの総数だけでなく、中小企業向けのものも増加傾向であり、いまやM&Aは大企業などの一部の企業だけでなく、全ての企業にとって非常に重要な経営戦略となっていることがわかります。今回の記事には、中堅中小企業の合併について、非常に示唆に富むものが多くありました。

 また、実力はあるものの、後継者不足などを理由に売却された企業を買収する事例が多くみられました。こうした企業にはプライドもあり、親会社の力でコントロールすることは難しいとみられます。そのため、今回紹介した企業に共通していたのは、買収される企業の従業員や売却した元オーナーに対して、必死に心を通わそうとしている姿でした。買収側と被買収側が対立していては1+1が2にならないどころか、場合によってはマイナスになってしまいます。それを避けるべく、マメに会話をしている企業の多さに大変感銘を受けました。

 M&Aというと洗練された世界を想像しますが、意外と泥臭いものです。また、規模拡大や高収益化の近道のように見えますが、必ずしもそうではありません。今回紹介した「マルヨシ」は基本的に「おすすめしない」と話しており、とても考えさせられました。もっとも、これは「M&Aをやるな」と言っているわけではなく、きちんと目的を明確化し、合併後も地道に従業員と相互理解に努めていく覚悟を求めていると考えられます。

 実際、中小企業白書でも、M&Aの障害としては、①事前に効果がわからないこと、②情報が少ないこと、③合併先の従業員などから理解を得られない可能性があること、などが指摘されています。今回の記事にはこれらの障害を乗り越える方法について、様々な関係者と心を通わせて対応している事例が多くあったと思います。

 M&Aの方法論では、置かれている状況によって最善策が変わります。まさにケース・バイ・ケースです。M&Aを考えている読者の方々においては、多くの記事の中から一番共感できる事例を見つけて、それを参考にして欲しいと思います。