様々な気づきがある記事です。その中でも一番参考になったのは「みんなで議論する」という姿勢です。従業員が6人と少数精鋭だからできることかもしれませんが、全員で知恵を出し合うことで、会社が一丸となっていることが強みになっています。コロナ禍で売り上げがピーク時対比4分の1になるという危機を乗り越えたのはこの一致団結があってこそと思います。
また、個性や技術を持った従業員の意見をくみ上げて、それを形にするといったファシリテーションを社長がうまく行っていることが注目されます。こうしたファシリテーションによって、社員全員が意見や知恵を出し合い、自社ブランドの立ち上げやクラウドファンディングも成功させています。特に自社ブランド開発については、OEMのようなコスト削減ではなく、社員全体の熱を詰め込んだ靴を開発し、それを高付加価値商品とすることで、収益性を高めるだけでなく社員が誇りを持てる商品を生み出したことも優れたところです。
今後も様々なことにチャレンジされるとのことですが、この「全員で議論する」という姿勢を貫いて、靴の世界に新風を巻き込むことを期待します。
【2】 そうじをきっかけにニーズを聞き出す:アパート経営の長田穣さん
一言でいえば「アパート経営の教科書」といってもよいほど、様々なノウハウが詰まった事例です。特に目から鱗が落ちたのは「毎朝、業者ではなくオーナー自らが清掃すること」。これにより自分の保有物件の良いところや悪いところがわかるだけでなく、住民と触れ合いが生まれ、そこから住民のニーズを聞き出すことに成功しています。
さらに、こうしたヒアリングを踏まえた改修を実施することで、他社よりも魅力があるアパートを提供できています。毎朝掃除という、一見営業とは関係がない行為をマーケティングにまでつなげていることが非常に面白いと思いました。また、顧客の声をベースにして改修を進めている結果、初期費用がかかったとしても、付加価値の高さで家賃の引き上げに成功しているほか、建物の寿命が延びたことでメンテナンスコストの引き下げにも成功しています。
さらに自社サイトやSNSといった情報発信にも注力することで、成約率を一層高めていることも注目されます。毎朝の掃除を起点に、次から次に自ら動くことで状況を改善していった姿勢は本当に素晴らしい。この記事に出てくる様々な仕掛けは、多くのアパート経営者はもちろんのこと、他の業界の経営者にも大きく響くと思います。
【3】正確な課題診断をランチで:トレンドプロ
「社内のコミュニケーションを円滑にするため、社員とたくさん話してほしい」。現社長は、人事部長として入社した際、同社を経営する父からこのようなアドバイスを受けます。そして、会社の現状を把握し、社員との信頼関係を築こうと、毎回2人ずつランチに誘い、いろいろ話をするようになります。社員から徹底して話を聞き、三つの課題に気づきました。
一つ目は、自社が漫画制作にとどまり、その活用法や販促活動の提案まではしていないこと。二つ目は、職人系の会社にありがちですが、全て自分でこなした方が評価される考課制度だったため、多くの社員が仕事を1人で抱え込んでいること。三つ目は、これも「より良い商品を創りたい」という職人気質が生み出すものですが、顧客からの修正依頼に際限なく応じていたため、いつまでも仕事が終わらないケースがあることでした。こうした正確な課題診断を行い、それらに対して素早く手を打ったことが現在のこの会社の成長につながっています。
さらに有名企業とのタイアップや社員のコミュニケーションアップなど、様々な改革を行っていることも参考になります。今後は給料を上げて、過剰労働時間を減らし、余裕を持ってビジネスを行うことで顧客満足度を上げていきたいということですが。ぜひともそうした企業になることを期待します。
【4】行商で気づいた「値付けの重要性」:梅月堂
業績が厳しい実家を継いだ現在の社長は立て直しのためにある思いを強くします。それは、「創業者のような気持ちでないと回復はできない」というものです。その覚悟をもとに矢継ぎ早な改革を進めたのがこの事例です。
現社長夫婦は、外部の講演会で勉強するほか、行商をしてみることなどで知識を得て、様々なことを発見し、それに合わせて動きを加速します。その一つが「値付けの重要性」に基づいた経営革新です。故稲盛和夫氏は「値決めは経営」と喝破しましたが、値下げに慣れ切った日本企業は値上げになかなか踏み切れません。しかし、私がお会いした欧米の有名コンサルタントは「常に値上げを考えている」といっても過言ではありませんでした。
この会社は既存商品を値上げするだけでなく、新商品も高価格帯で売り出し、高収益化に成功しています。また、直販にこだわり、問屋を介さないようにしたことも自社の強さを生かすことになりました。こうすることで自社がコントロールしやすい環境を作っていることも、独創的な経営を貫くことができる要因となっています。
それ以外にも、給与アップ、設備のリニューアル、福利厚生の強化など、従業員の士気向上に向けた興味深い点もありますが、私としては、従業員と行動指針(クレド)を作成し、毎日これに基づいて成功事例や失敗事例を共有していることに感心しました。クレドを作る会社は多いですが、それを事例共有にまで高めており、それによって社長の考えが末端に浸透し、皆が同じ方向を向いてビジネスをすることに成功しています。社長夫妻が動くだけでなく、社員全体とベクトルを合わせていることが印象的な事例です。
【5】ゲリラ販売に表れる行動力:いわい生花
時代の流れで葬儀店も自前で生花を仕入れるようになるなか、この会社のような生花会社は存亡の危機を迎えました。しかし、持ち前の行動力を生かして難局を乗り切り、生花会社の代表的な存在とも言えるような優良企業になったのがこの事例です。
まずは2トントラックで人が多く集まるところに行き、ゲリラ的に生花の移動販売を行います。もちろん、移動販売先となるスーパーなどはこうした軒先での移動販売に対して簡単にOKとはなりませんが、何度もお願いをして、販売を認めてもらい、売り上げ拡大に成功させました。
また、かすみ草農家が廃業すると聞いた際、逆に、「競争相手がいないブルーオーシャンが生まれた」と判断して、この分野に乗り出すといった逆張り戦略にも驚かされます。もちろん、単にかすみ草を売るのではなく、4年間かけてかすみ草を七つの色で育てた「ロマンチックかすみ草」を開発し、それを仏花に入れて販売するなどの工夫で年間30万本販売する大ヒット商品にしています。
もう一つの注目点は廃棄率をわずか0.2%まで抑えていることです。生花業界では商品の廃棄率が30%〜35%ほどと言われていますので、まさに驚くべき水準です。高品質の商品納入とリードタイムの縮小で実現しているとのことですが、低い廃棄率がコスト削減につながり、それが価格競争力にもつながっています。
2023年にはかすみ草をテーマにした複合施設「いわいフラワービレッジ(仮称)」のオープンを予定しているとのことですが、この会社の強みである行動力と商品開発力で成功して欲しいと思います。
【総括】わたしが動く、みんなと動く
ビジネスパーソンにとって重要なことは自らが動くことです。主体的に動くことが新商品開発や売り上げ増加に貢献します。一方で、経営者やビジネスリーダーが一般社員と異なるのは、自ら動くだけでなく、それが周りを刺激し、社員全員が動くという波及効果を生み出さなければならないことです。今回の記事は自分が積極的に動いて会社をもり立てた話に加え、社員全員が動けるようにしていく努力が見られたと思います。
それでは「動く」「組織を動かす」とは具体的にどういうことでしょうか。今回の記事で気づいたのは以下の3点です。
1点目は、体全体を使うということです。①目を使って改善点や良い点を見いだす、②耳を使って社員と顧客の声を聴く、③口を使って、社員全員と何回も話し合う、④自分の手を動かすと同時に、部下の手を動かす、⑤足を使って現場に行く、といったことを毎日徹底している事例が多くありました。まさにアスリートのように全身を使って動くことが組織を動かすために重要と思いました。
2点目は自分たちが動けるフィールドを作ることです。OEMよりは自社ブランドの方がその企業のやりたいことや強みを生かせます。また、オンラインサービスに関しても、大手のプラットフォームではなく自社ホームページを使えば、自社の一番伝えたいメッセージや競争優位性を示すことができます。もちろん、全て自社でやることはリスクがあるだけでなく、逆に非効率になることもあります。一方で、そうしたリスクや効率性の判断をきちんと判断できれば、チャンスを大きくする選択ともいえます。大手企業に頼るのではなく、こうした努力を通じて、自分たちの良さを伸ばし、収益性を高めている事例が見られたのも感心しました。
3点目は熱い気持ちです。「創業者のように取り組む」、「天は自ら助くる者を助く」、「ゲリラ的に動く」など、やや粗削りかもしれませんが、非常に熱くパワフルな言葉が今回の記事にはありました。自分が動くにせよ、チームを動かすにしてもやはりリーダーの熱い気持ちが重要です。「サラリーマンシップ」ではなく、「アントレプレナーシップ」を発揮することが自分を動かし、従業員をも動かすと感じました。
自らの動きを出発点にして、それをきっかけに周りを動かしていく経営者が多くみられたのが今回の記事の特徴と思いました。
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