「体験と交流」が手芸店の価値 デジタル時代の実店舗の集客とは
広島県に本社を構え、広島・福岡を中心に中四国・九州地方で16店舗の手芸用品店「手芸マキ」を展開する株式会社マキ。コロナ禍でECを中心に再燃した手芸ブームの中で、「実店舗」を活かしたファン作りで集客を伸ばしています。デジタル時代の実店舗の価値を模索し、戦略立案から伴走した東広島ビジネスサポートセンターHi-Biz(ハイビズ)が、その舞台裏を紹介します。
広島県に本社を構え、広島・福岡を中心に中四国・九州地方で16店舗の手芸用品店「手芸マキ」を展開する株式会社マキ。コロナ禍でECを中心に再燃した手芸ブームの中で、「実店舗」を活かしたファン作りで集客を伸ばしています。デジタル時代の実店舗の価値を模索し、戦略立案から伴走した東広島ビジネスサポートセンターHi-Biz(ハイビズ)が、その舞台裏を紹介します。
目次
コロナ禍の巣ごもり需要で手芸自体の市場規模は再成長していると言われています。
手作りマスクの需要から2019年まで減少を続けていた家庭用ミシンの販売が復調したり、「刺しゅう男子」のように細かな作業を趣味として楽しむ人が増えたり、さらには「脳トレ手芸」として認知症予防の一手として注目されたり、この2年ほどで注目される機会が増えています。
外出を控える行動習慣や非接触のニーズの高まりとともに多くのサービスがオンラインでの提供を開始。商品流通においては、ECサイトやフリマアプリが活況を呈し、WEB広告やTV-CMを賑わせています。
手芸用品もご多分に漏れず、これまでの通販サイトに加え、手芸用品の専門サイトなども広がり、さらには大手手芸用品チェーン店のWEBショップも展開されています。
ですが、マキのように実店舗を展開していた店舗は、その追い風を受けられていませんでした。マキの各店舗は多くがショッピングセンターのような商業施設に立地しており、外出を控えたため、来店客数の減少傾向は続いていました。
マキの代表である槇下賢さんが、広島地区統括マネージャー千早健太さんを伴い、Hi-Bizに相談に訪れたのは2021年の年末のこと。手芸用品のネット販売事業を拡大したいが、思うように成長させられていない、という悩みでした。
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槇下さんは「モール型ECに出店したり、自社ECの構築を進めたり、と手を打ってきたが、なかなか利益が出ていない。当社の商品の良さがうまくアピールできておらず、価格競争に巻き込まれてしまっている。本来の当社の強みを活かせていないのではないか」と悩みを吐露しました。
話を聞いている間、どうしても気になっていることがありました。それは「ネットで売上を伸ばさないといけないのだろうか」ということ。ネット販売に取り組むことは当然の一手のように感じられる一方、大手から専業までひしめく市場で勝負せねばなりません。また、論点である来店客数の減少ということに、もっと直線的な解決策があるのではないか、と引っかかっていました。
例えば、ネット通販の大手は、オートノマス・ストア(決済が自動化された店舗)として実店舗を出店、今も進化させ続けています。また世界的に著名な複数のナショナルブランドも常設店を持ち続けています。多くの大企業が、実際に触れられること、その場で買って持ち帰られること、偶然に商品に出会うことなどに価値を見出しています。
「手芸マキ」の特徴はその品揃え。一般的なものはもちろん珍しい生地や小物まで幅広く取り揃えています。手芸好きに言わせると「マキにしかない生地や糸がある」そうで、千早さんも「多くの方の趣味や志向に対応できるし、新たに取り寄せることもできる」と、仕入れや接客力への自信を覗かせます。
この強みを活かすためにも、手芸愛好家を実際に店頭に足を運んでほしい。ネットで購入する「利便性」に対抗する「来店価値」を特定し「みえる化」することで、手芸愛好家を誘客出来ないか。作家さんや愛好家の声を聞きながら検討を深めます。
手芸作家さんや手芸愛好家の方に実際にお話を伺う中で着目したのは、「手芸を始めたい人、始めた人の抱える不安」です。本来手芸は、「買って、作って、使う」までが1セット。
手芸教室の先生によると「作りかけの手芸品」の相談を持ち込まれることがあるそうです。実際に、制作が難航したため完成を断念した、という悲しい体験談がSNSやブログ上で語られています。
オンラインでレッスンされている先生もいますが、「手元が見づらく、どこで苦戦しているか、詰まっているかが分かりづらかったり、適切にアドバイスできていなかったりすることがある」とオンラインならではの教える側・習う側の難しさもあるようです。
ディスカッションの中で、もう一つ注目したのが「作品の展示」です。手芸作家さんの多くは、自身が制作したものをハンドメイドマーケットと総称されるモール型ECサイトに登録して販売しています。ただ、作家として「実物を見て選んでもらいたい」「購入者とコミュニケーションを取りたい」という思いもあり、実店舗への展示・委託販売のニーズがあるとのことでした。
手芸愛好家に共通するのは「どんな作品も完成させられるように上達したい」という思い。また作家の多くも、そういった愛好家と作品や教室を通じてリアルにつながっていきたいという思いを抱えており、現在の作品や手芸用品の流通の主役であるネットだけでは、叶えられていないかもしれません。
そこに、ヒントがあると考えました。
そこで、槇下さん、千早さんに「手芸マキでオフラインのハンドメイドマーケットを主催し、店頭で開催しませんか?」と提案しました。
コンセプトは「手芸好きの集まるお店」。
手芸を始めたい人、上手になりたい人、自分の手芸作品を知ってほしい人、いろいろな想いを持って手芸に関わる人のコミュニティを手芸マキが生成する。
作家さんや手芸好きの方が集まってくれば、当初は購入目的でなかったとしても、その品揃えや接客力を強みにして、購買につなげることが出来る、という狙いです。
槇下さんから「それなら投資もせずにすぐに実施できる」と声が上がりました。千早さんも「手芸に関心を持つ人がお店に来てくれれば、マキの良さを伝えられる。早速、手芸教室の先生に持ちかけてみたい」と提案に賛同したため、サービス化を進めることとなりました。
こうして企画されたのが、『手芸マキのハンドメイドマーケット』。作家さんの展示即売会となるマルシェ、真似したい作家さんを探して学ぶ手芸教室、その作家さんの作品を見せる店頭展示の3つを合わせて準備を進めました。
さらに「より多くの方がマキを使うきっかけにしたい」という槇下さんの経営判断で、販売するものや展示品、手芸教室のキットは「手芸マキで買ったものでなくてもOK」として出店のハードルを下げることが出来ました。
千早さんがなじみのある手芸作家さんに持ち掛けたところ、非常に喜ばれて支持を受けました。これにも手ごたえを得て、「手芸マキのハンドメイドマーケット」がスタート。地域の手芸作家さんの作品の委託・展示販売のほかに、複数の作家さんが出店する「マルシェ」、そして作家さんを先生とした「手芸教室」を各店舗で企画して開催していきます。
この取り組みはコロナ禍で苦戦する手芸用品店の新たなチャレンジということで話題になり、地元TV局から取材が入り、地域の情報誌にも取り上げられるなど注目を集めました。当初は数店舗の試験的な取り組みだったこのハンドメイドマーケットも、開始から半年ほどでほぼ全店で開催する企画となりました。
イベントの企画と告知、作家さんの紹介など、各店舗でのSNSでの情報発信も活性化し、店舗と作家さん、そして手芸を趣味とする顧客がつながっていきます。
イベントを開催する週の来店客数は通常週より30%以上増えており、マルシェの定期開催や手芸教室への入会を通じて顧客の定着も進んでいます。体験や交流という価値を通じて、店舗に賑わいが戻り、マキの品揃えやスタッフの接客力商品・サービス購入による売上アップにつながっています。
今回の取り組みのポイントは、最終的に売上に繋がる強みである「品揃えと接客力」を設定した上で、来店をしてもらうためのきっかけとなる「価値」を「見える化」したことです。
カギとなったのは、手芸愛好家や手芸作家さんが抱えている「不」。実店舗が果たす役割を打ち出したことで、手芸が上手になりたい、自分の作品を実店舗で販売したい、というニーズを満たし、お店に行く理由を作ることが出来ました。
コロナ禍で行動習慣が変わった、ということはマーケティングに大きな影響を及ぼしているのは事実です。ただ、顧客行動原則は「自身の不を解消する」ことに基づいていて、その「不」をどう捉え、自社の持つ強みで解消するか、という大枠の方向性は変わっていないと考えています。
パンデミックと言われて間もなく3年が経とうとしています。インバウンドの再開をはじめ、風向きはまた変わっていくかもしれません。手元にある情報や材料を十分に吟味した上で、未来を仮説立てして打ち手を講じていくことが大切です。私たちは、そういったチャレンジする経営者と一緒になって考える伴走者であり続けます。
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