目次

  1. 機械加工・電子機器・医療 幅広い領域で事業展開
  2. 自社サイト刷新 求職者への連絡は定型文使わず
  3. 大学から提案 学生アルバイトを受け入れ
  4. 最初の仕事は資材管理アプリの開発
  5. アルバイトを通して感じた「会社の雰囲気が性格に合う」
  6. 将来の右腕と共に事業を拡大 経営理念の実現へ

 エナテックではエンジンの排気部品などを扱う機械加工事業、プリント基盤をコーティングする電子機器事業、医療機器や医療現場の補助器具を扱う医療事業を主な事業としています。

 創業は1919年で社員数は120人、ほとんどは中途社員です。それぞれの事業は好調でしたが、若手社員の継続的な採用が課題となっていました。

 経営戦略室長の榎並幹也さんは「前任の採用担当者は他の業務と兼務だったこともあり、採用活動に力を入れられる体制ではありませんでした。そこで私が担当となり、中途採用も含めて本格的に採用活動を始めることにしました」と語ります。

 幹也さんは大学卒業後、学習塾の講師を経て、2021年4月に採用担当としてエナテックに入社しました。弟の直輝さんは工作機械メーカーで修行した後、2020年4月にエナテックに入社。現在は機械加工事業部製造課の課長を勤めており、将来は2人でエナテックの後を継ぐ予定です。

 採用担当になった幹也さんは、まず採用媒体を新聞の折り込み広告のみだったところから、webの転職媒体に求人広告に変え、自社サイトも刷新して、採用の特設ページを作りました。

 「自社サイトの刷新は応募者獲得の上で影響が大きかったと思います。もともとは電子機器の問い合わせや仕事の受注のためのものでしたが、レイアウトが古くて、求職者が見ても魅力を感じないだろうと思いました。それでデザイナーを入れてHPを刷新、採用については特設ページを作りました」

 自社サイトの刷新で、エナテックの中途社員の年間応募者数は15~20人が、100人以上にまで増えました。

エナテックの旧ウェブサイト
エナテックのリニューアル後のウェブサイト(https://www.enatech.co.jp/company/message/)

 また、高卒採用についても2021年に始めたばかりで、高校への挨拶は外注企業が行って、資料を配って希望者に会社見学してもらう形でしたが、内製で高校への挨拶周りをしていく形に変えました。

 塾講師時代の知り合いの先生を頼って高校へ挨拶に行ったり、挨拶先の学校で、自分の教え子が通っていることを伝えて会話のつかみをとったり、榎並さんの学習塾講師という経験を活かして高校との繋がりを作り、高卒生1人の採用に成功します。

 「採用の経験はなかったため、採用広告の営業担当者や高校・大学など、アプローチできる先から情報収集して、求職者の気持を考えたらどうするべきか想像していきながら進めていきました」

 幹也さんは求職者とのやりとりでは定型文を使わず、一人一人の履歴書を読み込んで、ちゃんと履歴書を読んでいることが伝わるように文面を作ったり、面接時に聞く質問をあらかじめ伝えておくようにしました。

【文面例】
お世話になっております。 株式会社エナテック 採用担当の榎並幹也でございます。 こちらこそお忙しいところ日程調整にご協力いただき誠にありがとうございます。
ご準備にお時間が必要な中、面接実施日が直近となってしまい大変申し訳ございません。
面接につきまして、詳細のご連絡をいたしますので お手すきの際に、下記ご確認のほどよろしくお願い申し上げます。
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以下、面接の詳細です。
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◆日時と場所
・日時:××月××日 午前10時~ (現場見学も含めて1.5時間ほどを見込んでいます)
・場所:株式会社エナテック 本社工場 (道路側右手の青い建物までお越しください)
◆アクセス
・お車でお越しの場合
阪和高速鉄道 和泉/岸和田ICから7分。併設駐車場をご利用ください。
・公共交通機関でお越しの場合
泉北高速鉄道 和泉中央駅から南海バス テクノステージ方面「テクノステージ3丁目東」までお越しください。
◆お持ち物
履歴書、職務経歴書、筆記用具、スマートフォン
※筆記用具、スマートフォンはそれぞれ筆記試験、適性テストで利用いたします。
※適性テストについては事前受験を推奨しております。(お時間40分ほど頂戴します)
こちらのメッセージ送信後、WEB履歴書にご記載のURLにお送りいたします。
◆服装
面接に相応しい格好でお越しください。
◆質問内容
当日は慣れない環境で緊張もされると思いますので あらかじめいくつかご質問事項をお伝えさせていただきます。 以下の内容をお伺いする予定となっております。
・〇〇社を退職された理由
・鋳物の目視検査経験について
・どうして製造業に興味を持っていただけたか
などをお伺いする予定となっております。
お答えしにくい内容がありましたら、お気軽にお申し付けください。
◆その他
以下のURLから会社紹介資料がDL可能となっております。 お手すきの際にご確認いただけると嬉しく思います。
https:~~
◆最後に
明日は朝早くから大変かとは存じておりますが △△様にお会いできることを楽しみにお待ちしております。 どうぞよろしくお願いいたします!

 また、会社の様子が分かるような資料を面接前に送る、相手の人柄を事前に知る為に、やりとりを極力電話にするなど、求職者の辞退や採用のミスマッチが起きそうなポイントを想像して、どうすればいいか細かく工夫しました。

 採用活動の体制を整える中、エナテックでは新卒採用も始めます。

 「自社の魅力をPRすることさえできれば、新卒の学生も採用できる可能性があるんじゃないかと思うようになってきました」と幹也さんは語ります。

 そんな折に、新卒の採用方法を模索していたエナテックは近畿職業能力開発大学校からのアルバイトによる学生受け入れの提案を受けました。

 「元々、私が近畿職業能力開発大学校の卒業生で、知り合いの先生に採用活動の相談に行ったところ、『最近はインターン以外にもアルバイトの受入れという選択肢もある』と言われ、アルバイトの採用を決めました」

 アルバイトの求人を出したところ、次の日には応募があり、吉松さんと吉澤さんがエナテックで働くことになりました。2人は元々友人同士で、大学ではものづくりの設計や加工を学んでいます。卒業後も製造業の仕事を希望していた2人は、ものづくりの勉強をしながらアルバイトができるということで、エナテックへの応募を決意しました。

 戸惑ったのは、現場で働く直輝さんです。

 「兄から、『1週間後にアルバイトの学生が入るから』と急に言われて、何をやってもらうか悩みました。近畿職業能力開発大学校はものづくりに特化した学校ですが、いきなり現場の仕事をお願いするわけにもいきませんし」

 そこで、アルバイトとして働き始めた吉松さんと吉澤さんが最初に任されたのは、スマホやタブレットで使う資材管理用アプリ製作でした。

 今までエナテックでは機械加工の油の発注を紙ベースで行っていましたが、発注モレが課題となっていました。アプリを作ることによって、現場のタブレットで発注処理を行い、承認者のPCに通知が届くことで発注モレの抑制が期待できます。

アプリ導入前の発注用紙

 「AppSheetという、プログラミングをせずにアプリを作ることができるGoogleのサービスを使って作ってもらいました。他社の後継ぎでそれを作った方がいたので、その方に教えてもらいながらだったら作れるかもしれないと思い、彼らにチャレンジしてもらいました」と幹也さんは言います。

 とはいえ、AppSheetは海外のサービス。説明書が無かったり、解説サイトも英語だったりと、開発は容易ではありません。吉松さんも吉澤さんも、アプリの開発はもちろん未経験です。

 吉松さんと吉澤さんは「とりあえずやってみますという感じで始めて、日本語で書かれてる個人ブログなど色んな情報を検索して手探りで作っていきました」と振り返ります。 

 アルバイトは1日2時間の週3日勤務、その中で、計1年2ヶ月の期間(2022年11月時点、現在も継続中)のうち、1カ月で完成させることができました。

発注アプリの使用画面
注文履歴に画面を切り替えると発注した商品が棒グラフで表示される発注アプリ

 幹也さんは、「他にも、アプリのデータを元にグラフを作ってもらったり、現場改善の為の目安箱を運用してもらったりしました。最近では製造のラインに入ってもらったり、現場の5S活動をやってもらったりもしています」と言います。

 彼らの仕事は現場からも好評で、特にアプリについては、タブレットの電池切れで使えない時があると現場から不満が出るほど、実務用のツールとして現場に浸透しています。

目安箱を設置し、社内から改善の意見を求めて報告する仕事も

 2022年2月、吉松さんと吉澤さんはエナテックへの入社を決めます。エナテックとしても、既に長期間アルバイトで勤務しており、2人の人柄も分かっていたため、入社にあたっては簡単な面接を1度、それも「他社をもっと見なくていいのか?」といった意思確認をする程度で選考を終えました。

 内定承諾について、吉松さんは「仕事を続けていく上で、人間関係が大事だと思っていました。エナテックで色んな人と関わって、凄くよくして頂いて、良い会社だなと感じて、ここで働きたいと思って内定を承諾しました」

 吉松さんは、「エナテック以外でもインターンに行ったりしたけど、1日だけだと分からないことも多かったです。大企業だとどの部署に配属になるか分からないですし。僕も人間関係を重視したいと思っていたので、アルバイトを通じてエナテックの雰囲気が自分の性格に合うと感じました」と言います。

 仕事のことで周りに気軽に相談ができる、みんなが気さくに挨拶をしてくれる。そういった小さな事を大切にしていたことから、吉松さんはエナテックの入社を決めました。

 彼らの内定承諾に対して、直輝さんは、囲い込むようなことはしなかったと言います。

 「私達は受け入れる側なので、『入ってくれ』とは言わないようにしていました。私も学生時代に就職活動をしていましたし、色んな会社を見て、良いところ悪いところを見極めて、妥協じゃなく”選択”して欲しいと思っていました。これは私だけではなく、皆がそういう雰囲気で彼らに接していました」

 アルバイトから新卒採用につながったことについて幹也さんは「『うちの会社に新卒の優秀な学生が来るなんて...』という中小企業は多いと思います。弊社も前任の採用担当者や社長でさえもそう思っていたので。ですが、自社に魅力があるなら、それをPRできれば新卒の採用も可能だと思います」と語ります。

 「今は弟(直輝さん)も機械加工事業部として製造の現場にいますが、将来的にはより経営の仕事に注力できるようにして、より強い組織体制を作りたいと思っています。その時に、彼らが右腕として機械加工事業部をリードして欲しいと思います」

 また、エナテックの展望について、幹也さんはこう続けます。

 「経営理念として『社会に貢献し 社員の生活向上を図り 生き甲斐のある 会社造りを目指す』があります。そういった、生きがいや夢を持てる会社づくりをしていきたいと思いますし、彼らにも夢を持って一緒に働いて欲しいと思っています。弟と一緒に、そういった、魅力ある会社にしていきたいです」