オンライン営業のパートナーを選ぶコツ 成功例と失敗例から学ぶ
中小企業がオンライン営業で成果を出すには、外部のパートナー企業の協力が不可欠です。パートナー企業選びを間違わないために、経営者が意識したいポイントについて、成功例と失敗例を交えながら解説します。
中小企業がオンライン営業で成果を出すには、外部のパートナー企業の協力が不可欠です。パートナー企業選びを間違わないために、経営者が意識したいポイントについて、成功例と失敗例を交えながら解説します。
目次
今回は「オンライン営業がうまくいかない理由」3回目として、オンライン営業の運用体制を作るポイントを解説します。
前回記事「オンライン営業に必須のスキル 社内に一気通貫の体制を作る方法とは」では、対面営業とオンライン営業とのスキルの違い、技能が多岐にわたるなどの理由から、外部パートナーの活用を勧めました。今回は中小企業の皆様が外部パートナーを選ぶコツを解説します。オンライン営業をやりたいけど、運用体制を作れないと悩む経営者に参考にして頂きたいです。
まずは連載第1回の「中小企業こそオンライン営業 利益率を4倍にしたメーカー」で紹介した昇降機メーカーの成功例を解説します。
同社の強みは顧客ニーズに合わせた商品企画と製造技術です。従って的確かつ迅速にニーズを把握することが生命線になります。今後の持続的な成長を考え、代理店に依存していた販売体制を直販にシフトすることを決めました。
そこで目を付けたのはホームページの見直しです。顧客からダイレクトに問い合わせをもらうことで直販の商談数の増加を狙ったのです。ただ、社内にはホームページを作るチームが無く、外部の制作会社への依頼を検討しました。
社長は「インターネットの最先端情報と技術を持つホームページ制作会社なら実現できるかも」と考えました。自ら足を運び、今まで同社のホームページ制作を依頼していた会社をはじめ、地元にある制作会社数社と協議しました。しかし、社長の望みを実現してくれそうな会社はありませんでした。
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社長が最終的に選んだのは、ホームページ制作会社でなく顧客リストの運用が専門のCRM(カスタマーリレーションマネジメント)会社でした。
ホームページ制作会社との協議は、デザイン制作やSEO(検索エンジン最適化)などが中心でした。リード獲得後の顧客選別や見込み客から案件化するリレーションなど営業プロセスに踏み込んだ話ができず、ホームページは直販営業を強化・効率化するためのツールに過ぎないことに気づいたからです。
一般的にホームページ制作会社は、依頼先の事業内容や商品・サービスを魅力的に伝えるために、ホームページをデザインすることが仕事です。
一方、オンラインを活用した営業効率化と強化に必要なのは、どうしたら顧客とのリレーションを強化できるか、という営業視点です。見込み客のリストに対して動機づけをして案件化リストへと昇華させ、商談を作る。この営業プロセスとリスト運用が重要となります。
リストにバイネーム(社名・役職・部署名・氏名・連絡先)を付け、リストを選別し、商談可能なステータスへと昇華させるアクションが必要なのです。
昇降機メーカーである同社は営業のタイミングが命です。業容拡大による倉庫の新設・増築、老朽化による倉庫の建て直し、設備の交換など顧客が欲するタイミングを把握しないといけません。
問い合わせが入っても即受注とはなり難く、リードタイムが長い商材であるため、商談後の営業フォローアップが重要になります。せっかく商談しても顧客へのフォローアップを怠ると販売のタイミングを逃し、他社へ取られてしまうからです。
社長が求めていたのは、顧客とのリレーション強化です。営業だけに依存せず、オンラインも活用した営業フォローアップの効率化・自動化で、商談からの取りこぼしを防ぐことが狙いでした。
従ってパートナーに求める要件は、ホームページの刷新そのものではなく、顧客とのリレーション強化の設計と、それを実現するプロジェクトマネジメントなのです。
CRM(カスタマーリレーションマネジメント)会社を選んだことで、名刺、納品書、過去の問い合わせなどの情報をデジタル化し、営業資産となる顧客リストの一元管理が実現しました。顧客リストは、取引が発生していない「見込み客」、過去取引があった「既納客」、現在も取引がある「既存客」の3グループに区分され、顧客属性ごとにリレーションができる状態となったのです。
多くの企業では、ゴールのイメージと求める要件があいまいなために、パートナーの選定を誤ります。同社は最初に社長自らが何度もホームページ制作会社に足を運んだことで、パートナーに求める要件が明確になり、正しい選定ができました。
オンライン営業のプロジェクトマネジャー(PM)には、営業プロセスの設計とITシステムなどの専門知識が求められます。すでにシステムが導入されているクライアントなら、最善案や代替案の提示も要求されます。
プロジェクト運営で問題が出れば、クライアントを巻き込んで解決を主導する役割も担います。
PMはプロジェクトの成否を分ける重要な存在です。そのため、クライアント側は実現したいゴールと具体的な目標などの要求事項を明確にし、それに合ったPMを選ぶことが不可欠なのです。
ところが多くの場合、ゴールがあいまいで要求事項もまとまっていない中でPMを選んでいます。次章ではPM選定を間違えないコツを教えます。
まずは、オンライン営業を構築するプロジェクトの計画書を依頼することから始めます。ただし、PMに丸投げをするのではなく、必要最低限の依頼事項を整理して伝えなくてはいけません。
「現状どのように変えたいのか」、「実現した際にはどんな状態になっているのか」、「それはなぜ必要なのか」と言った企図を示すことが大切です。
依頼された側は企図を理解したうえで、計画書の作成に着手します。計画書には、営業の現状、ゴールの設定、現状とゴールとのギャップ、課題解決の優先順位、体制や役割分担などが記載するのが一般的です。完成した計画書を見れば、PMのスキルやPMへ依頼する要件が明確になります。
もし依頼した企図と異なるアウトプットなら計画書の補正を要請できます。仮に箸にも棒にもかからないアウトプットなら、この段階で契約を終了できるので、リスクを最小限に抑えられます。
さらに、PM選定で重要なのはPMの人と成りの把握です。プロジェクトが始まると、社長や営業部門と一緒に仕事することが多くなり、いくら優秀でも周囲との関係作りが下手だと進行に支障を来します。限られた人数でプロジェクトを動かす中小企業がPMを選ぶ場合、「人となり」は特に重要なファクターです。
プロジェクト計画書はオンライン営業の目的、ゴール、期待する成果、ゴール到達までの手順、フェーズごとの実施事項と成果物、推進体制、必要コストを明確にしたものです。会社の実態を把握し、課題を浮き彫りにする中で実行施策の優先順位を決めなくてはいけません。
計画書作りの手順は下図をご参照下さい。
項目 | 実施概要 |
---|---|
予備調査 |
事業ドメイン、ターゲット顧客、顧客の窓口、競合他社、競合他社と比較した際の優位性、使用している営業ツール、予算計画と実績とのギャップ、その理由と課題などをヒアリングします。 |
業務調査 | 帳票などを活用し、業務内容を把握します。営業やマーケティング業務のプロセス、プロセスごとの業務内容、導入ツール、保有データ、データフローなどを調査します。 |
ゴールの検討 | オンライン営業を構築できた際のゴールイメージと期待成果を検討します。ゴール到達時のあるべき姿を明確するために、業務プロセス・業務ルールや必要なシステム要件を検討します。 |
課題の優先順位 | 実態とゴールとのギャップを明確にし、課題を抽出します。課題に優先順位を付け、ゴールへ到達するまでのロードマップを策定します。 |
実施事項 | ロードマップを詳細化します。いくつかの段階に分け、段階ごとに目的、目標、期間、実施事項、アウトプットを明らかにします。 |
プロジェクト計画 | プロジェクトに必要なコストと体制を明確にします。パートナーの責任範囲と役割を決め、外部パートナーについては、役割ごとに委託する業務要件を明確にします。 |
過去の実績と手順項目ごとのアウトプットを確認することで、PMの実力をおおよそ判断できます。
プロジェクト計画書の依頼だけでコストが発生することを嫌がる経営者もいるかもしれません。しかし、計画書の精緻化こそが最大のリスク回避となります。開始時点での計画があいまいだった故に、後で大きなコストを無駄にした例は枚挙にいとまがありません。
計画書作成の依頼先を間違わないためのポイントを三つお伝えします。
能力と熱意:過去の実績に基づく「仮説提案」がある。
取り組み姿勢:業務上のリスクについても誠実な説明がある。
価格妥当性:PMの1時間あたりの単価が1万円~1.5万円の範囲に収まっている。
計画書ができあがる際には、解決すべき課題が明確になっているはずなので、その役割ごとにパートナー企業を選びます。どのようなパートナーが必要かについては、前回記事の5章をご覧ください。
RFPとは「Request for proposal」の略で、提案依頼書を指します。例えば、入札時に依頼主が提示する条件などが記載された要件書です。
プロジェクト計画書をもとに、目的と背景、ゴール、課題解決のテーマ、社内の役割と体制、依頼する業務範囲、実施期間、予算、選定方法などを記載するのが一般的です。
多くの場合、PMがプロジェクトに必要なチームを選びます。PMが所属する会社で持っている機能は用意できますが、保有していない機能はさらに外部のパートナー企業を選びます。建設業で例えるなら、元請け、下請け、孫請けの構造です。
この場合、PM以外のパートナーの顔が見えづらくなります。
オンライン営業のプロジェクトではチーム間のコミュニケーションを頻繁に取りながら、運用上の課題解決を図ります。力量も顔も見えるチーム編成の方がリスクを抑え、成功確率が高まります。RFPはパートナーの力量と顔を明確にするための重要なツールと言えるでしょう。
ここからは、パートナー選定をシステム会社に丸投げして失敗した経営コンサル会社の事例を紹介します。
約50人の営業担当を抱える同社はサービスの特性上、受注確率のアップには役員との商談が不可欠です。顧客の役員とパイプを持つ紹介者から見込み客を紹介してもらうというルート開拓を進めてきました。
役員との商談情報が営業の生命線で、接触履歴、商談内容、受注・失注理由の情報を大量に保有しています。
ところがコロナ禍で面談がオンラインへとシフトし、紹介ルートの有効性が低下し始め、受注までのリードタイムが長期化しました。
紹介者の獲得競争も激化し、紹介手数料の高騰で紹介ルートの経済合理性が低減しました。そこでオンラインを活用した直販強化と営業の効率化を決めました。
同社の社長が求めていたのは、未接触のターゲット企業の見込み客化と、過去に接触したが受注に至っていない失注客の掘り起こしです。
前者はホームページのリニューアルと見込み客の獲得から商談設定までのプロセス、後者は蓄積したデータから再度商談機会を得るまでのリレーションを強化が必要となります。
優先すべきテーマは見込み化(見込み客獲得)から案件化(商談設定)までのプロセスの見直しとリレーション強化でした。
しかし同社にはSFA(営業支援システム)を構築できる組織機能が無かったため、SFAを提供するシステム会社にプロジェクト体制づくりをほぼ丸ごと委託しました。
受託したシステム会社は取引実績がある中から、システムをカスタマイズできる開発会社、ホームページ制作会社、インターネット広告会社などをパートナーに選びました。
しかし、肝心の営業リストの整備・構築、運営オペレーションを担う会社はそこに含まれていませんでした。システム構築時には、顧客リストの運営オペレーション機能は必要ないからです。
プロジェクトはシステムの構築を中心に進められました。バックヤード業務の整備を優先し、販売管理機能をカスタマイズ構築から着手しました。しかし、結果的には、営業の優先課題となっていた見込み化から案件化までのプロセス強化・リレーション強化は完成しませんでした。
プロジェクトはゴール到達前に終了しましたが、システムをカスタマイズ構築し、利用期間も長期縛りとなったことで、他のシステムへの代替ができないベンダーロックイン状態になってしまいました。
依頼主の必要最低限の要件の提示、プロジェクト開始前の計画書の精査、PM選定の工程が欠落したために、多大なコストを支払うことになった典型例と言えます。
オンライン営業の体制づくりに必要な機能を全て賄える会社は、存在しないと言っても過言ではありません。プロジェクトを進行する場合、必ず複数企業によるジョイントになります。
PMと同じく、機能ごとのパートナー選びはプロジェクトの成否を左右します。RFPを作ってプロジェクトに必要な候補企業をノミネートし、選定する。手間も工数もかかりますが、この工程を踏むことでPMの主観ではなく、客観的でフェアな選定になります。
ただし、この作業はそれなりに大変です。プロジェクト計画書の作成という準備段階が終了したら、次にパートナー企業を選ぶ業務を委託することをお勧めします。
プロジェクトを成功に導くために、PMと役割ごとのパートナー選定が大切であることを解説しました。それ以外にリスクを回避する方法を二つ挙げます。
一つ目は契約期間です。契約期間を長くするほどリスクは大きくなります。途中解約の条件を入れても、ロックインされると実質的な解除ができなくなります。
従って契約の単位は短く分けることをお勧めします。プロジェクト開始前は計画書作りやパートナー企業選定と委託業務の範囲を分けます。プロジェクトを始める際も「第1フェーズ、第2フェーズ」という段階ごとに期間を定めます。
そして委託業務が終了した都度、振り返りを入れます。単にダメだったら終了ということではなく、契約を継続または更新する際に、相互理解を深め、課題解決に向けた仕事の精度を高める効果があります。
二つ目は契約金額に透明性をもたせることです。複数のパートナー企業が参画しても、請求はPMの所属会社から一括でくる場合が多いのが実情です。
委託側にとっては、口座開設や支払いなど事務手続きが省力化されるので決して悪いことではありませんが、透明性のある役務と対価の設定が必要になります。
例えば、PMの役務を業務マネジメントと定義し、これに対して対価を設定するというやり方です。
PM業務のフィーが設定されていないケースをよく目にします。全ての業務項目に元請けの手数料が乗せられていて、PM業務の対価が見えなくなっている、というケースです。この場合、PMの役務に対して、適格な評価が出来なくなります。外部パートナーの業務項目ごとの対価や、PM業務としての対価を明確にすることをお勧めします。全ての業務と対価を明確にすることで、振り返るときも評価や課題解決がやりやすくなります。
以上、オンライン営業の体制をつくるためのポイントを解説しました。次回はオンライン営業の未来像を解説します。
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