オンライン営業の進化形は「富山の薬売り」 三つのポイントを解説
営業を効率化するオンライン営業のノウハウについて、事例を交えながらこれまで8回にわたって解説してきました。今回は過去の記事を振り返りながら、2023年のオンライン営業を取り巻く環境の変化で、中小企業経営者が押さえておきたい三つのポイントについて解説します。
営業を効率化するオンライン営業のノウハウについて、事例を交えながらこれまで8回にわたって解説してきました。今回は過去の記事を振り返りながら、2023年のオンライン営業を取り巻く環境の変化で、中小企業経営者が押さえておきたい三つのポイントについて解説します。
目次
コロナ禍に突入し非常事態宣言が出された後、「オンライン営業」という言葉を見聞きする機会が増えました。しかし元をたどれば、インターネットが普及し始めた2000年ごろから、デジタルを活用した営業の効率化はスタートしていました。
ネットが普及するまで、買い手に商品情報を持っていくのは担当営業の役目でした。担当営業は圧倒的な情報量を武器に、商品情報の収集から比較検討に至るまで買い手に頼られるポジションを確保していました。
しかし、買い手がネットで情報収集し比較検討できるようになると、情報の非対称性が消滅します。買い手は商品知識が豊富な手ごわい存在へと変化したのです。
「情熱と根性の営業がリスクに オンラインの精度を高める『顧客リスト』」で触れたように、コロナ禍でウェブ商談が普及すると、買い手は商談の効率性や合理性を追求するようになりました。
営業担当はこれまで製品情報に向けていた目線を、市場や業界、顧客へと上げなくてはいけません。顧客を取り巻く経営環境を把握したうえで商談に臨めば、課題解決の提案ができるようになります。
それではオンライン営業の時代に、営業担当者はどうすれば視座を上げることができるのでしょうか。
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それは決して難しいことではありません。自身の情報源を定め、インプットの情報量を増やし、欲しい情報を手元に届けてもらえばいいのです。
具体的には「Googleアラート」というツールを使うといいでしょう。自分が欲しい情報のキーワードをあらかじめ登録しておくだけで、最新情報をメールやRSSに通知してくれるサービスになります。
筆者は営業に関する動向を知りたいので、営業DX、オンライン営業、オンライン商談、セールスイネーブルメント、営業の効率化、商談の効率化といったキーワードを設定します。
これらのワードが含まれる最新情報が毎日、筆者のスマホに届きます。キーワードはいくつでも設定できるので、顧客の企業名やIR情報を設定するのも良い使い方です。
買い手を取り巻く環境を把握できたら、次は顧客自体の理解を深めます。そこで必要となる武器が「顧客台帳」です。顧客台帳の有用性については、過去の連載で富山の薬売りが持つ「懸場帳(かけばちょう)」を例に挙げました。
「懸場帳」には、顧客の住所、氏名、家族構成、配置薬の在庫内容、売り上げや利益のみならず、顧客の健康状態、かかりやすい病気の傾向、よく使われる薬なども書かれています。薬売りはこれを武器に、往訪の際に健康に関する会話や最適な置き薬を提案し、顧客から頼りにされる存在になりました。
オンライン営業で武器になる「懸場帳」は、最適な接触方法やオファーの内容が分かる顧客リストになります。筆者はターゲット企業や名刺のリスト、取引履歴を一元管理したものを「顧客台帳」と名付けています(顧客台帳の作り方はこちらを参照下さい)。
「顧客台帳」を運用しつつ情報を太らせることで、顧客から頼りにされるようになります。
顧客の実態を把握するには、顧客に聞くことが一番手っ取り早い手法です。最近はオンラインセミナーを企画し、申し込む際や終了後にアンケートを取ることで顧客の実態をつかもうとする企業も少なくありません。
以前に書いた「オンライン営業で見込み客をつくるには 商談につなげる工夫を紹介」では、「調査営業」というユニークな事例を紹介しました。
名刺交換すらしたことが無い企業に、その業界に関する調査結果を提供しながらヒアリングし、顧客の実態を把握しているという事例です。
具体的には、営業課題や営業効率を上げるための工夫(集客手法・導入設備など)や、今後注力したい施策をヒアリングし、見込み客の実態とニーズを把握します。ヒアリングした情報は全て「顧客台帳」に記録されるので、顧客理解が深まるだけでなく、適格なオファーができるようになるのです。
顧客台帳を活用することで、営業のタイミングの最適化も図れます。やみくもに営業すると余計な工数がかかりますが、いつどんな提案をすれば良いのかというタイミングを把握しておけば、無駄を最小限に抑えられます。顧客から見積もりの依頼が舞い込んでくる仕組みができれば、さらに営業効率は上がります。
「オンライン営業で『サービス』を収益化 照明設備会社の事例を紹介」という記事では、「予告メール」という営業手法を用いた設備機器メーカーの事例を紹介しました。
顧客台帳を基に部品交換の「予告メール」を配信したところ、64%もの顧客から返信メールや電話がありました。内容は「部品交換の見積もりが欲しい」、「施設・ビルのオーナー向けの説明資料が欲しい」といったものでした。
トラブル対応が中心だった営業から、最適なタイミングで予防保全の案内ができる営業へと進化し、顧客から信頼されるようになったのです。
今後も営業を取り巻く環境は変化し続けます。2023年、オンライン営業がどのように進化するのかを予想してみたいと思います。
これからは、①顧客要求、②AIテクノロジー、③雇用環境という三つの変化に対応する中で、オンライン営業は進化し続けると考えます。それぞれについて解説します。
前述の通り、営業の役目は情報提供からソリューション(課題解決)の時代に入り、営業の武器も製品パンフレットから「顧客台帳」へと変化しています。
顧客は自分を理解している営業から製品を買うようになってきています。自社製品に詳しいだけの営業は弱くなり、顧客課題に詳しく課題解決の提案ができる営業が力を持つ時代になるのです。
例えば、アルバイトのシフト管理から給与計算に至るまで、労務・経理業務の効率化に困っている顧客に対し、ともにシフト管理システムを販売するA社とB社が営業したと仮定します。
A社は自社製品が競合より優れている点について提案する一方、B社は自社のシフト管理ツールと他社の会計システムを連携させて効率化を進めるプレゼンテーションをしました。
この場合、顧客はB社を選びます。顧客の課題を解決するために、他社の製品もお勧めできる営業こそが重宝されるのです。
唯一無二という製品はほとんどなく、機能は均衡しています。一方、顧客の争奪戦が激しくなるばかりで、買い手の購買様式は「何を買うか」から「誰から買うか」へと大きく変化しています。
営業は業界の動向や課題、顧客の課題に精通することはもとより、他社商材にもアンテナを張らなくてはいけません。
AIテクノロジーの導入で、営業を取り巻く技術も変化しています。チャットやメール、予定表、営業記録、取引内容などのデータを集め、顧客へどのようなアクションをするのが良いかをアドバイスしてくれるAIアシスタントが存在しています。
例えば「今日のタスクを教えて」と打ち込めば、AIが次のように回答してくれるツールもあります。
「昨夜会食したA商事のB社長へ、朝一番で御礼と見積書を提示。来週月曜日のC建設のD社長への提案資料を正午までに作成してください。午後は、先週見積書を提案したE社のF社長へ結果確認。G製品の導入を検討しているH専務にフォローの連絡をお願いします」
予定の確認だけでなく、リマインドや営業のタイミングを予測したアクションの推奨、さらには事務処理から顧客への連絡まで代行してくれます。
すでにセールスフォースの「アインシュタイン」というツールでは、データを使って顧客の次の行動を予測したり、予測に基づく顧客への提案を行ったりするなど、営業のAI化機能を実装しています。
Sansanでは人事異動の情報を自動提供してくれます。リーガルフォースでは契約書チェックにおいて、最適解を提示する機能などが実装されています。
営業は誰でも優秀な「AI秘書」を安価に雇うことができる時代へと進化しているのです。
営業の働き方は、オフィスへの出勤からテレワークへと変化しました。雇用形態もゼネラリストを育てる日本型雇用から職務内容を明確にするジョブ型雇用へと変化しつつあります。副業・兼業も普及し始めています。
インターネット大手ヤフーでは100人余りの副業人材を受け入れ、正社員が中核になるという会社の在り方自体を変え始めました。健康機器メーカー・タニタや広告大手・電通のように、退職した社員と個人事業主として業務委託契約を交わす企業も登場しています。
ギグワークや副業の解禁、業務委託で、オンライン営業が進化しやすい労働環境になると考えています。
営業環境の変化が行き着く先は「個人商社」への進化です。
顧客に対して複数メーカーの商材を取り扱い、提案・販売を行うセールス専門の個人事業主を、米国では「セールスレップ」と言います。市場環境や顧客ニーズを把握し、製品提案と同時にメーカーへ適切な助言を行う役割も担っています。
メーカーはセールスレップに対し、販売活動以外に、顧客への提案・取引交渉で得られた製品の改良や改善のアドバイスなど、顧客ニーズに合わせた製品の最適化も期待しています。
日本の営業は今後、デジタルを活用した営業業務の分業化に止まらず、顧客、営業、メーカーにとってより良い仕組みへとダイナミックに進化するでしょう。それはリスクを最小化し、1人当たりの付加価値額を最大化する製造販売の新たな仕組みとも言えます。
顧客は業界や技術課題に詳しい営業パートナーを作ることで、購買組織を最小化できます。メーカーは顧客の要望に詳しいセールスレップを作ることで、製品開発だけでなくセールスの効率化も図ることができます。
そして、営業は顧客とメーカーのハブ機能を強化することで、やりがいをもって働き続けることができるのです。
富山の薬売りが命と同じように大切にした「懸場帳」は、売買できるほどの資産価値があったと言われています(廣貫堂、内藤記念くすり博物館のホームページなど参照)。
営業資産を作って増やし伝承するサイクルこそが、営業の醍醐味であると筆者は考えます。そして「富山の薬売り」の進化形である個人商社(セールスレップ)がたくさん登場し、活気ある日本になることを期待しています。
2023年は営業・販売の効率化について新たなテーマで連載します。ご期待下さい。
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