自社ブランド育成とOEMの「両輪経営」 両立に役立つ事例集と注意点

事業を伸ばすためには、自社の技術や価値を市場に伝えるために「自社ブランド」を育てつつ、そこで得た知名度や技術への信頼をテコに「OEM(相手先ブランドによる生産)」でも事業を拡大するという、二つの成長エンジンを組み合わせる戦略を提案します。これまでの取材してきた事例を調べていくと、両者の相乗効果によって、より強靭な事業基盤を作ろうとする企業が多くありました。
事業を伸ばすためには、自社の技術や価値を市場に伝えるために「自社ブランド」を育てつつ、そこで得た知名度や技術への信頼をテコに「OEM(相手先ブランドによる生産)」でも事業を拡大するという、二つの成長エンジンを組み合わせる戦略を提案します。これまでの取材してきた事例を調べていくと、両者の相乗効果によって、より強靭な事業基盤を作ろうとする企業が多くありました。
目次
中小企業に自社ブランドが必要な理由は、自社の技術や企画力、商品力を示すことができるからです。BtoB商品はそもそも開示できない商品も少なくありません。また、独自のコンセプトやストーリーを伴ったブランドは、顧客の心に残り、価格競争から脱却しやすくなります。
たとえば、大阪府泉佐野市の神藤タオルは、安価な海外製品との競争を避け、品質にこだわった独自性の高いタオル開発でブランドを確立しました。
「泉州タオル」の伝統製法を継承しつつ、「インナーパイルタオル」や「2.5重ガーゼタオル」といった革新的な製品を生み出し、百貨店やセレクトショップという新たな販路を開拓しています。これは、自社の技術力や品質へのこだわりをブランドという形で顧客に伝え、選ばれる理由を創出した好例です。
ブランドは、製品やサービスの品質に対する顧客の信頼感を得るための役割を担います。一貫した品質管理や優れた顧客サポートはブランドの信頼性を高めます。
さらに、優秀な人材の獲得にもつながることも少なくありません。水門メーカー「乗富鉄工所」(福岡県)はキャンプ用品などデザイン性の高い商品開発を手がけ、デザインを軸にした経営を進めるうちに、若者の採用に成功し、アート系イベントや建築など新たな仕事の相談が舞い込むようになり「ステージが変わった」と実感しています。
中小企業が持つ専門技術や職人技といった無形の価値は、ブランドを通じて初めて市場に理解されるともいいます。このブランド構築の過程は、自社の強みは何か、誰に届けたいのかを深く見つめ直す機会ともなり、経営戦略をはっきりさせる役割もあります。
丹精込めて育て上げた自社ブランドですが、成功しているように見えても売上比率は低いという中小企業は少なくありません。それでも、これまで取材を続けるなかで、取り組む価値があると考えています。
それは、新たなOEMの受注につながることが増えるからです。自社ブランド製品の成功は、その企業の開発力、品質管理能力、そして市場ニーズを捉えるセンスを示す実績となり得ます。OEM先を探している企業からすると、委託先の信頼性を測るための機会にもなります。
香川県の谷川木工芸が好例です。伝統的な讃岐桶樽の技術を活かし、電子レンジ対応の木桶弁当箱「讃岐弁よしの」などの自社ブランド製品を開発。
これがメディアやSNSで注目を集めると、その技術力とデザイン性に着目した企業からのOEMの問い合わせが増えました。現在、売上の8割はOEMが占めていますが、自社ブランドにより認知度が上がった部分も大きいでしょう。
OEMとオリジナルブランドの両軸で展開していくことを3代目の谷川清さんは大切にしています。
「自社ブランドの方が利益率が高いって言いますけど、商品を売るまでには営業費や人件費など経費が必要で、OEMなら広告費を全部持って販売してくれるから、最終的な純利益を考えたら、僕はとんとんか、むしろOEMの方が利益が出るんじゃないかと思う時があるんです」
自社ブランドで注目されたことで、OEMの依頼も増えました。OEMの依頼は清さんが営業で持ち掛けるわけではなく、自社サイトやSNS、メディアを見て新規からの問い合わせが多いと言います。
また、精密機械加工の栗原精機も下請け加工からの脱却を目指し、文具やキャンプ用品などの自社ブランドを立ち上げました。
自社ブランド製品自体の売上は全体の10%程度ですが、この自社ブランドがきっかけで始まった仕事(OEMや共同開発などを含む)からの売上が全体の40%に達しているといいます。これは、自社ブランドが持つ発信力がいかに強力な呼び水となり得るかを示しています。
自社ブランドの存在は、単に「作れる」という事実だけでなく、「市場で評価されるものを作れる」という能力の証明です。これにより、OEMの引き合いにおいても、単なる価格競争に陥るのではなく、技術力や開発力といった付加価値を評価される土壌が生まれます。
下請けとしての受動的な立場から、価値を提案できる能動的なパートナーへと、その関係性を変える力も秘めているのです。自社ブランドがメディア露出やSNSでの評判を通じて広く認知されることは、それ自体が中小企業の技術力や開発力を示す継続的な「広告」となり、従来型の営業活動ではリーチできなかった潜在的なOEMクライアントの目に触れる機会を生み出します。
自社ブランド育成とOEM事業の「両輪経営」は大きな可能性を秘めていますが、二正面作戦とも言え、その実現にはいくつかの課題も伴います。
取材をするなかで、一番耳にする課題は、経営資源の配分です。中小企業にとってリソースは常に限られています。自社ブランドの育成には時間とコストがかかり、一方でOEM事業は安定した生産体制の維持が求められます。両者への適切な資源配分バランスを見極め、どちらか一方への過度な集中がもう一方の成長を阻害しないよう、戦略的な判断が必要です。
また、経営者自身が新規事業である自社ブランドにかかりきりになると、既存事業側で働く従業員からは不満が出やすくなる点にも注意しましょう。
自社ブランドとOEM事業を両立させ、成功を収めている中小企業には、いくつかの共通する「勘所」が見受けられます。
第一に、変化への対応と革新性です。谷川木工芸の電子レンジ対応木桶弁当箱「讃岐弁よしの」は、現代のライフスタイル変化を見事に捉えた製品です。神藤タオルも、伝統製法を守りつつ「インナーパイルタオル」のような独自性の高い製品を開発し続けています。
第二に、自社の強みへの集中と専門化です。富岡食品は、他社があえて手掛けない手間のかかる「いなり寿司の皮」と「がんもどき」に特化することで独自の地位を築きました。
第三に、顧客視点の徹底です。寝具販売の半ざむは、顧客一人ひとりの悩みに寄り添う「コンサルティングセールス」を強みとし、睡眠改善インストラクターなどの専門知識を持つ販売員が最適な寝具を提案しています。
第四に、積極的な情報発信とコミュニケーションです。成功事例の背景には、多くの場合、企業の歴史や創業者の想いといった「物語」が存在します。谷川木工芸の「讃岐木樽」、神藤タオルの「インターパイルタオル」、富岡食品の「富ばあちゃんのいなり」といった、伝統や原体験に根差したブランドストーリーは、製品に奥行きと信頼性を与え、OEMパートナーとしての魅力にもつながっています。
ブランドストーリーは購入者に届いてこそ。SNSやメディア掲載など普段からの丁寧なコミュニケーションが生きてくるといえます。
中小企業がまず自社ブランドを確立し、その認知度と技術力を武器にOEM事業へと展開する戦略は、持続的な成長を実現するための有効なアプローチです。
自社ブランドは企業に独自のアイデンティティと市場での発言力を与え、高付加価値なビジネス展開を可能にします。一方、OEM事業は安定した収益基盤と生産技術の向上をもたらし、それがまた自社ブランドの革新を支えるという好循環を生み出します。
この戦略は、決して容易な道のりではありません。しかし、自社の強みを深く理解し、市場の変化に柔軟に対応しながら、ブランドとOEMのシナジーを追求することで、中小企業はより強固な経営基盤を築けるでしょう。
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