目次

  1. 悩みに沿った寝具の提案で差別化
  2. 就職先が倒産して欧州を放浪
  3. 「将来が不安」と感じた理由
  4. 新店で作ったコンサルの実績
  5. 本店を改装して品ぞろえも拡大
  6. 骨格診断をマットレス選びに
  7. メーカー志向で工場も立ち上げ
  8. 年商は1.7倍、目指すは製造小売業

 半ざむは小田急線向ヶ丘遊園駅近くの商店街に店を構えています。1876(明治9)年に創業した呉服と雑貨を扱う大和屋がルーツで、佐保田さんの祖父栄寿さんが1949年に寝具店の半ざむを設立しました。屋号は創業者の佐保田範左ヱ門が「ハンザムエさん」「ハンザムさん」と呼ばれたのに由来します。

1949年当時の半ざむ(半ざむ提供)
1949年当時の半ざむ(半ざむ提供)

 複数店を抱えた時期もありましたが、現在は2017年にリニューアルした本店のみです。マットレスと枕をはじめとした寝具全般、タオルやパジャマなどの雑貨類、オーダーカーテンなどを販売。綿布団の打ち直し、羽毛布団やウレタンマットレスのクリーニングにも対応しています。

 年商はこの数年、4億5千万円から5億円で推移し、従業員数は現在30人です。売り場面積は660平方メートルで「神奈川県内最大級」をうたい、高反発マットレスの豊富な品ぞろえが売りです。骨格と寝姿勢を元にした独自の指標を用いて、睡眠の悩みに沿った最適なマットレスの提案で差別化しています。

寝具をはじめ雑貨類をきれいにディスプレーしています(半ざむ提供)
寝具をはじめ雑貨類をきれいにディスプレーしています(半ざむ提供)

 「両親が楽しそうに仕事をする姿を見ていました」という佐保田さんは、小学校の卒業文集に「日本一の布団屋になる」と書くほどでした。

 「社長になるには人より厳しい環境を」と、大阪の全寮制の中高一貫校に進学。「中高は離れていても両親とずっと手紙でコミュニケーションを取っており、働く両親の姿を尊敬していました」

 大学卒業後、呉服販売会社に就職。早ければ入社1年半ほどで店長になれる会社で、後継ぎとして販売と店舗マネジメントが早く学べると思いました。実際、入社2年で店長に就任します。

 しかし、店長就任から10カ月後、呉服販売会社が倒産。その後、半年かけて欧州を20カ国ほど放浪します。父が仕入れのために行っていた欧州へのあこがれがありました。

 そこでは欧州と日本の寝具店との違いに驚きました。「どの国でも寝具は専門店化が進んでいました。フランスやイタリア、ドイツは寝具店といえばマットレス専門店ばかりでした」

 欧州の寝具店は、高価格帯と低価格帯にはっきり分かれ、低価格品はまともに陳列されない扱いでした。

 専門店化と高付加価値化を目指すーー。後を継いだ時のイメージが固まりました。

 佐保田さんは帰国後、静岡県の寝具店で修業を積みます。1年間でしたが「学ぶことは多かった」と振り返ります。

 その店は寝具を仕入れるだけでなく、ものづくりの段階から関わり、睡眠の質向上にこだわっていました。睡眠の悩みを解決できる商品がなければ自分たちで作って提供する大切さに触れました。

 2008年に家業に入った佐保田さんがまず驚いたのが、社内に仕組みやルールがなかったことです。マニュアル、営業管理に必要な書類、会議資料をつくるためのフォーマットもなく、マネジメントに必要なツールが何一つ整備されていませんでした。

 佐保田さんはまず、経営計画を策定します。マニュアル類や資料作成用のフォーマットの作成も手がけましたが、仕事の合間を縫って作業したため、完了したのは2020年の社長就任直前でした。

佐保田さんは家業の将来に危機感を覚え、改善に動きました
佐保田さんは家業の将来に危機感を覚え、改善に動きました

 販売面でも課題がありました。家業に戻った当時は品ぞろえに目立った特徴はなく、売れるものは何でも仕入れて売っていました。

 佐保田さんは、お得意様を対象に一定期間、宝石などと一緒に寝具を売る催事販売にも危機感を覚えました。寝具店は催事販売で売り上げを作る傾向があり、当時の半ざむも4日間ほどの催事を年2回実施。年間売り上げの15%近くを稼いでいました。

 「しかし、催事販売に集まるお客様は5年後や10年後は来られなくなると思われる高齢の方ばかりでした。子どもや家族は一緒に来なかったので下の世代には明らかに不評です。このままだと関係は途切れるので、将来が不安で仕方がなかったです」

 佐保田さんは、顧客の睡眠時の悩みに応じた商品を提案・販売するコンサルティングセールスにかじを切ろうとします。修業先の寝具店のように「睡眠」を切り口にすることにしたのです。

 しかし、経営は比較的安定しており、従業員や家族からは強い反発を受けました。「『帰ってきた息子が何か言っているな』ぐらいの受け止め方しかされず、店内では完全に浮いていました」

 理解してもらおうと、従業員一人ひとりと繰り返し話し合いますが、相手にされません。

 そんな時、佐保田さんは千葉県市川市に開店する半ざむの店舗(現在は閉店)に行くことに。呉服販売会社時代の同期に声をかけ、コンサルティングセールスを試してみたのです。

 それまでの売り方は、顧客の悩みの解決につながる最適な商品を提案するより、店員が売りたいもの売る側面が強かったといいます。

 しかし、市川市の店舗で顧客の悩みに応じたマットレスや枕を提案して販売したところ、好成績をあげました。そうした実績をもとに、本店でも2013年ごろからコンサルティングセールスでマットレスと枕を売ることにしました。

 そのために、佐保田さんが強化したのがホームページ(HP)です。2017年の本店の建て替えで仮店舗を設けた際、売り上げが下がったのも理由でした。

2017年に建て替えた本店(半ざむ提供)
2017年に建て替えた本店(半ざむ提供)

 それまでのHPは、店舗と商品の紹介のみでしたが、睡眠の悩みに応じた商品を提案する寝具店という強みを広く発信。例えば、HPに「寝具コラム」を設け、佐保田さんや販売員が「ウレタンマットレスのクリーニングのススメ」、「買ったばかりのマットレスが合わない!どうしたらいい?」といったコンテンツを展開しています。

 佐保田さんは睡眠の専門知識を深めるため、睡眠改善インストラクター(一般社団法人日本睡眠改善協議会認定)など六つの資格も取得しました。

高反発マットッレスの品ぞろえは関東随一といいます(半ざむ提供)
高反発マットッレスの品ぞろえは関東随一といいます(半ざむ提供)

 建て替え後の本店は、主に30代を意識し、カジュアルなインテリア店の雰囲気を醸しだす外装と明るく開放感のある落ち着いた内装に。マットレスは10種類から40種類、枕は7種類から24種類に拡大しました。

 現在はマットレスと枕だけで売り上げの40%程度を占めるまでになり、年配者中心だった客層も30代男性が大幅に増えました。

枕のラインアップも大幅に増やしました(半ざむ提供)
枕のラインアップも大幅に増やしました(半ざむ提供)

 半ざむでは顧客にマットレスを提案する際、骨格を考慮した独自指標を取り入れています。

 「マットレスは安くない商品ですが、『体に合わず今は使っていない』といった声を耳にすることがあります。寝具選びのプロとして悔しくてたまりませんでした」

 マットレス選びの指標として主に用いるのがBMI(身長と体重から算出する肥満度)です。体重が重ければ硬め、軽ければ柔らかめということになります。佐保田さんは文献などで調べた結果、2018年にマットレスを選ぶ際は骨格を加味することが重要という結論に至りました。

 佐保田さんによると、骨格は大きく6タイプに分類されるといいます。顧客の骨格ごとにどういうマットレスが合うか。1年かけて検証し、顧客の反応を確かめながら、返品がほぼなくなるものを最適な商品として提案しました。

顧客の骨格に合わせてマットレスを提案しています(半ざむ提供)
顧客の骨格に合わせてマットレスを提案しています(半ざむ提供)

 2019年から本店で骨格診断を始めました。当初は手でなぞって判定していましたが、現在は、大手寝具メーカーの東京西川が開発した非接触寝姿勢判定システム「ピマピッタ」を使用。診断やヒアリングの結果から適したものを提案し、店内で寝比べてもらっています。

 六つの骨格タイプに当てはまらない顧客には、理想に近いマットレスとベッドパッドを一緒に提案しています。

 ベッドパッドは汗取りや汚れ防止に使うイメージですが、本来は寝心地の調整に使うものです。マットレスだけで最適な寝心地が得られなければ、ベッドパッドの併用を提案しています。

 一時期は年間10台程度あったマットレスの返品がこの数年はゼロになりました。

 2020年、佐保田さんは病気がちだった父に代わり社長に就任します。本店でコンサルティングセールスを始めた2013年ごろから経営を主導していたこともあり、スムーズな交代となりました。

半ざむがOEMで提供するウォッシャブルリネンとウールベッドパッド(半ざむ提供)
半ざむがOEMで提供するウォッシャブルリネンとウールベッドパッド(半ざむ提供)

 半ざむでは、OEM(相手先ブランド製造)によるオリジナルの枕、マットレス、カバーリング(シーツ、枕カバーなど)、羽毛布団、ベッドパッドなども販売しています。

 オリジナル商品を製造する工場は、寝具関連の工業組合の会員リストを参考に直接交渉で開拓しました。クレームなど顧客の声を集約して、協力工場にも共有。問題点や改善点を分析し、商品開発に生かしています。

半ざむオリジナルブランド「SOS(Sleep On Sheep)」のウレタンマットレス(半ざむ提供)

 今後は創業150年の2026年に向けて、完全オリジナルのマットレスを開発・販売する構想を練っているところです。

 佐保田さんはメーカー志向も強めています。2022年、山梨県都留市に縫製工場「ハンザムソーイング」を自己資金で立ち上げました。定年退職した取引先の副社長を迎え入れ、職人たちも引き入れています。

「Wake up」シリーズの掛け布団カバー(半ざむ提供)
「Wake up」シリーズの掛け布団カバー(半ざむ提供)

 製造しているのは、オリジナルのカバーリングシリーズ「Wake up」です。肌触りのよい天然素材を使い、多少値が張ってもいいものはほしい人たちがターゲットです。価格帯は枕カバーが1990円〜5500円、掛け布団カバー(シングル)が5990円〜1万2600円、マットレスシーツ(シングル)が4990円〜9900円になります。

 「Wake up」は自社販売だけでなく、高付加価値商品を扱っている20社ほどにも卸しています。同じ専門店の仲間にも価値ある商品を提供したい、という佐保田さんの思いがあります。

 現在、半ざむで販売している商品の構成は仕入れ商品が約75%、オリジナル商品が約25%です。「店の付加価値を上げるには、ものづくりをするしかないと思っています。SPA(製造小売業)のような形を目指したいです」

 半ざむのように歴史の長い寝具店は、綿布団を作ったり中の綿の打ち直しをしたりするなど、ものづくりやメンテナンスにも関わってきました。佐保田さんは子どものころから、祖母が縫い物をする光景なども見ていた記憶も土台に、SPAを進めています。

佐保田さんはものづくりやメンテナンスも強化し、睡眠の質向上に貢献する考えです
佐保田さんはものづくりやメンテナンスも強化し、睡眠の質向上に貢献する考えです

 佐保田さんが半ざむに入った2008年当時は、寝具とカーテンの店舗販売のみでした。現在は、オリジナル商品を出したりネット通販に本腰を入れたりするなど、年商は当時より1.7倍ほど拡大しました。

 「ここまではおおむね、順調にきたと思っています。失敗しながらも成長できている感覚はあります」