目次

  1. 第一想起とは
  2. あの商品はいま テレビCMによる第一想起からの変化
  3. 中小企業で特定シーンのNo.1を獲得した企業の事例
  4. 特定シーンのNo.1を実践する4ステップ
    1. 独自の価値を発掘する
    2. 「第一想起を獲得する領域」を特定する
    3. 明確なメッセージを練り上げる
    4. 一貫した提供と体験で強化する
  5. 他社が進出していない特定シーンの「なぜ」を分析

 第一想起とは、Top of Mind Awareness:(TOMA)ともいい、「○○といえば?」という特定の商品ジャンルやカテゴリーで真っ先に思い浮かべるブランドのことを指します。

 何かを欲しいと思って商品やサービスを探すとき、よく知っているものが選ばれがちです。

 第一想起は本来、特定のシーンや悩みに対する深い洞察と、それに応える商品・サービスの提供、そして共感を呼ぶメッセージの一貫した取り組みによって、時間をかけて丁寧に築き上げる必要があります。

 消費者は日々、無数の選択肢に直面しており、無意識ではありますが、意思決定の負荷を軽減しようとしています。特定シーンでの第一想起があると、顧客は他の選択肢を幅広く比較検討する手間を省き、特定のブランドを選んでくれるようになります。

 かつて第一想起を獲得するにはテレビCMがもっとも有効でした。ですが、こうした商品を取り扱う企業も、すでに消費者と丁寧なコミュニケーションをとる戦略に変わっています。

 テレビCMで「芸能人は歯が命」というキャッチコピーで一世を風靡(ふうび)した歯みがき剤「アパガード」。歯を白くしたいというニーズのある消費者から第一想起を獲得しました。

 しかし、この製品を開発したサンギ(東京都中央区)は拡大戦略が裏目に出た後は、安売り競争をやめて、出張オーラルケア講座や歯みがき教室など歯の健康を中心としたブランド戦略に舵を切っています。

 「おみそな〜らハナマルキ」というCMで知られるハナマルキ(長野県伊那市)も、味噌のブランド認知度ではトップクラスの一つとなりました。

 しかし、4代目の花岡周一郎さんにトップを交代した後は、マス広告以外にも着目し、社内勉強会、イベント、店頭での試食会、レシピ提供や「食のプロ」との対話など、きめ細かなマーケティングで、これまでに存在しなかった市場を切り開こうとしています。

 「ケンケンミンミンやきビーフン」の歌でおなじみのユニークなテレビCMで知られるケンミン食品(神戸市中央区)もいまは、「47都道府ケンミン焼ビーフンプロジェクト」などSNSで消費者との対話を進めつつ、付加価値を高めようとしています。

 大企業と比べてヒトモノカネが限られる中小企業が第一想起を狙うのであれば、「この商品といえば、○○」からさらにもう一歩踏み込み、特定シーンのNo.1を狙いましょう。これを体現し、顧客の心に深く刻まれている企業の実例を紹介します。

崎陽軒の横浜駅中央店(同社提供)

 シウマイ弁当で全国的な知名度を誇る崎陽軒は、その代表例です。「ナショナルブランドをめざしません。真に優れた『ローカルブランド』をめざします」という明確な理念のもと、全国展開ではなく横浜という地域に深く根差した戦略を貫いています。

 その結果、「大阪に行ったら551蓬莱の豚まんを買うように、横浜市民ではないいち消費者も、横浜に来たからシウマイ弁当買うか、となる」という、まさに「横浜ならではの味」「横浜土産」という特定のシーン・ニーズにおける第一想起を獲得しています。

 これは単に美味しいシウマイを提供するだけでなく、横浜という地域のアイデンティティと、そこでの食体験や土産という消費機会そのものを自社ブランドと強く結びつけた、巧みなブランディングの成果と言えるでしょう。

具材がマグロからサケに変更された際のシウマイ弁当。パッケージの下部に断り書きがある(崎陽軒提供)

 崎陽軒のシウマイ弁当は、横浜訪問時や帰省土産を選ぶ際の行動の一部となっています。ブランドが特定の文脈における習慣の一部として人々の生活に溶け込むことで、その第一想起の地位は格段に強固なものになるのです。

 では、自社が「特定シーンNo.1」の地位を築くためには、具体的にどのようなステップを踏めばよいのでしょうか。以下に4つの主要なステップを示します。

 まずは自社の強みと提供価値を深く掘り下げます。単に「高品質です」といった一般的な説明ではなく、「特定の顧客が抱える、どのような具体的な悩みや不便を、他社よりも効果的に解消できるのか」あるいは「どのような特別な願望を、卓越した形で満たせるのか」を徹底的に問い直しましょう。

 たとえば、富岡食品(埼玉県深谷市)は加工工数が多くてほかの豆腐メーカーが敬遠しがちな、いなり寿司の皮とがんもどきにあえて注力することで独自ブランドを立ち上げることができました。

 経営陣が持つ事業への「情熱」がどこにあるのかを見つめることも、独自の強みや提供すべき価値の核心を発見する上で重要な手がかりとなります。

 次に、その独自の価値が最も生きる「戦場」を具体的に定めます。それは、「働く女性が罪悪感を持たずに深夜の小腹を満たしたいスイーツ」や「環境意識の高い友人に贈るストーリー性のあるギフト」といった特定の利用シーンでしょうか。

 それとも、「都市部で近くに頼れる人がおらず初めての子育てに奮闘する新米ママ」や、「小麦アレルギーを持つため、安心して食べられる食品を探している親」のような、明確な属性や切実なニーズを持つ顧客セグメントでしょうか。

 この絞り込みが、後の戦略の精度を大きく左右します。

 特定したシーンやセグメントの顧客に対し、自社の商品やサービスが「まさにあなたのため」「この状況にぴったり」と疑いようなく伝わるメッセージを作りましょう。

 ブランド名、キャッチコピー、ウェブサイトやパンフレットでの説明、広告表現など、あらゆるコミュニケーションにおいて、ターゲット顧客の心に即座に響き、記憶に残る言葉を選び抜きましょう。たとえば、退職代行の「モームリ」が一般名詞化したように、シンプルで分かりやすいメッセージは非常に効果的です。

 最後に、そして最も重要なのが、特定したニッチ市場での専門性を、商品開発から顧客サービス、マーケティング活動、社内文化に至るまで、すべての顧客接点において一貫して体現することです。

 また、専門性の高い分野で「膜材の第一想起」を目指すマクライフのように、地道な情報発信が、不可欠です。

 第一想起は、裏を返せば「戦略的な除外」をすることだとも言えます。新規事業を立ち上げるときに、市場規模を求めると、少しでも多くの顧客にリーチしようとしがちです。

 しかし、特定シーンでのNo.1を目指すのであれば、定めた領域以外の魅力的に見える機会に対しても、勇気をもって「ノー」と言う覚悟が必要です。選択と集中こそが、ニッチ市場で成功を収める企業の共通項なのです。

 中小企業が厳しい市場競争の中で「第一想起」となるには、自社が最も輝ける戦場を戦略的に選び抜く必要があります。

 ヒントは街中にたくさんあります。まず、街に出て並んでいる商品に目を向けてください。この商品は誰のどんな用途をイメージしているのだろうか、そのためにどんなメッセージを打ち出しているのか。学びのある商品がたくさんあります。特定の商品ジャンルで、第一想起を狙っているのであれば、同じ商品ジャンルがどのような利用シーンを想定しているのかをまとめてください。

 そのうち、どの先行企業も進出していない特定ジャンルが見えてくるでしょう。そのときに、なぜ進出していないのかを深く分析し、自社であればその壁を突破できそうならスモールスタートから挑戦してみてください。