「大企業病」に陥らないために アジャイル組織に変えた企業の事例を紹介

大企業病とは、保守的で非効率的な企業体質のことを指します。大企業病は、事業規模に関わらず組織が硬直化すると起こります。しかし「うちの社員はチャレンジ精神がない」「営業と製造の悪い」という課題はもしかすると仕組みで解決できるかもしれません。そこで、柔軟性や機敏性を重視したアジャイル組織に変えたい経営者のヒントとなる中小企業の実践事例をこれまでの取材のなかから紹介します。
大企業病とは、保守的で非効率的な企業体質のことを指します。大企業病は、事業規模に関わらず組織が硬直化すると起こります。しかし「うちの社員はチャレンジ精神がない」「営業と製造の悪い」という課題はもしかすると仕組みで解決できるかもしれません。そこで、柔軟性や機敏性を重視したアジャイル組織に変えたい経営者のヒントとなる中小企業の実践事例をこれまでの取材のなかから紹介します。
目次
大企業病とは、事業規模とは関係なく、硬直化してしまった組織のことを指します。意思決定の遅延は社員のモチベーションを低下させ、新しいアイデアの提案意欲を削ぎます。その結果、イノベーションが減少し、組織の関心は顧客ニーズよりも内部プロセスへと向かいがちになります。
「大企業病」の典型例と注意すべき兆候を整理しました。
症状 | 典型例 | 注意すべき兆候 |
---|---|---|
顧客ニーズより社内ニーズ | 顧客からフィードバックを無視し、社内意向で製品仕様を決める | 「昔からこうだ」という理由で顧客の要望が通らない |
部署間の仲が悪い | 営業と製造部が情報共有せず、顧客からのクレームにつながる | 部署間で責任の押し付け合いが頻発する |
意思決定が遅い | 現場からの提案が商品開発・改善の決定に数ヶ月かかる | 社内提案は稟議・役員会が必須。役員が多忙で承認が下りない |
チャレンジ精神がない | 社員から企画立案・改善提案が出ない | 若手から意見が出てこない、モチベーションが高い人材の離職 |
「大企業病」の克服には、社内コミュニケーションの活発化と社員への権限委譲、ビジョンの共有などの手段があります。実際の企業事例とともに紹介します。
社内コミュニケーションの活発化のためには、様々な工夫をしている中小企業があります。
たとえば、エレベーターホールに設置される押しボタンや階の表示灯などを手がける「島田電機製作所」(東京都)は、地元の専門学校に通う未来のエステティシャンを招いてのエステやマッサージの施術、メイクアップ講座、同じく専門家を招いてのヨガ講座などさまざまなイベントを開きました。
5代目社長の島田正孝さんは「一見するとただの遊びのように思えるかもしれません。でもこのようなイベントを体験すると、その人の素が出るんです。その素の状態でコミュニケーションを重ねることで、より関係性は深まっていきますし、業務でのパフォーマンスにもつながると考えています」と話しています。
さらに、社内にも交流が生まれる場を設けました。会社のマスコットキャラクターの名前をもとにした「ボタンちゃんカフェ」と呼ばれるカフェスペースや、広さ600㎡のフリースペースに、卓球台やビリヤード台、トレーニングマシンなどが置かれたプレイルーム「遊び場」です。
職場のレイアウトは、組み立て部門と事務部門の間に壁がないようにし、壁にはいつでもアイデアを出せるボードが貼られ、全従業員の意見が共有できる工夫も見られます。
ねじ製造業「金剛鋲螺(びょうら)」(大阪府)は、未来工業創業者・山田昭男氏の著書『日本でいちばん休みの多い会社』をヒントに、改善提案制度を見直した結果、年間提案件数は前期比30倍に増えました。提案を通して各自の頑張りが見える化されたことで、承認・称賛し合う雰囲気も生まれつつあるといいます。
リユース大手のコメ兵ホールディングスは、2008年のリーマン・ショックで売上高が落ち込んだとき、広告宣伝や求人の権限を本部の部長から現場の店長へと委譲。4代目社長の石原卓児さん「現場の裁量権を増やし、お客様のニーズに合ったサービスを迅速に行う体制を整えました」と話します。
三重県で学校給食、産業給食、福祉施設に、1日1万4千食を提供する食品メーカー「オーケーズデリカ」の3代目の杉本香織さん(51)は、トップダウン型から従業員を頼る「逆ピラミッド経営」に転換。面接や昇給の機会を増やしたり、権限委譲を進めたりして風通しのよい組織に変えました。
神奈川県で3校を展開する芸大・美大受験予備校「湘南美術学院」も、運営する金沢アトリエ2代目の尾竹仁さんが、経営者と社員の垣根を払った「フラット経営」に取り組んでいます。
予算の執行・管理などの決裁権限を現場に委譲することにしました。しかし、これまで社長の指示で動くことに慣れた従業員に、いきなり委譲してもうまくいきません。そこで、2017年ごろから取り組んだのは、社内への情報公開です。経営情報を部署長に公開し、経営者との議論で会社の方針を見直すようにしました。
現在は決算報告会で、各部署の正社員や役職付きパートタイマーにも経営情報を公開しています。
企業のビジョンを明文化することは、社員が共通の目標に向かって努力できる環境を整えます。
側島製罐(愛知県)6代目の石川貴也さんは、代表取締役に就任した2023年、「社長」という肩書をなくして、みんなで経営する自律分散型の組織となることを掲げました。
そのために、一人ひとりの判断軸となる経営理念(MVV=Mission,Vision,Values)づくりに取り掛かりました。ビジョン”宝物を託される人になろう”を、みんなで1年かけて生み出しました。
製品を原価割れしないような価格で販売するなどといった最低限のルールは作っていますが、社員それぞれの仕事の基準は、MVVに沿っているかどうか。
これまでは、上司に許可されない限り、行動が禁止されていたのですが、これからは社員それぞれの判断に任せ、MVVに沿っていて関係者の反対がない限りは、あらゆる行動が許可される状況に変えたのです。
「大企業病」の克服は一度きりの修正ではなく、機敏性と顧客中心主義を維持するための継続的な努力が必要です。組織が活気に満ち、競争力を維持できるよう、うまく現場の意見を吸い上げられるような仕組みづくりに心を配りましょう。
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