目次

  1. 自主性とは
    1. 自主性の意味
    2. 自主性と主体性の違い
    3. 自主性が高い人の3つの特徴
  2. 自主性の高い部下・社員がいる組織のメリット
    1. 事業改善のスピードが早い
    2. 人材採用につながる
  3. 自主性を高める・育てる5つの方法
    1. 自主性を伸ばす場作り
    2. 社員のモチベーションアップ
  4. 自主性の高い人材づくりが事業成長につながる

 そもそも、自主性とはどのようなことを指すのでしょうか。自主性の意味や、自主性と似た言葉の「主体性」との違い、自主性が高い人の特徴について解説します。

 自主性とは、「誰かから指示される前に自分から率先して行動できること」です。

 ビジネスの場面で考えてみましょう。例えば、上司が部下に事細かに指示を出さないと、部下が行動を起こさない状況であれば、この部下は「自主性が低い」といえます。

 反対に、上司から事細かに指示を出される前に、自分から行動している部下は「自主性が高い」といえます。

 自主性がなく、手取り足取りすべて教えないといけない「自主性が低い」人材が組織に存在した場合、その人材に教えるための時間が多く発生してしまいます。

 そのため、多くの経営者は「自主性が高い人材に入社してもらいたい」「社員の自主性を育成したい」と望んでいるのです。

 自主性と似ている言葉に「主体性」があります。

 「言われる前に自分から動く」という意味を持つことが共通点ですが、「自主性」と「主体性」にはどのような違いがあるのでしょうか。

 「主体性」には、何をするべきか自分で考え、自分で決めて行動できるという意味が含まれます。

 例えば、新入社員に対する場面で考えてみましょう。

 新入社員は仕事をどう進めればいいのか分からないため、最初は決められた業務手順に沿って、事細かに指示をする必要があるでしょう。

 しかし一定の期間が経てば、仕事にも慣れ、上司から事細かに指示をしなくとも、自ら業務手順通り仕事をこなすことができるようになります。この状態は「自主性が高い」といえます。

 さらに、決められた業務手順の他に、自分が担当している仕事における課題を発見し、その課題の解決方法を自分で考え、自らの責任で解決方法を実行できるようになると、「主体性が高い」状態になります。

 「自主性」は行動力の高さに重きを置いていますが、一方の「主体性」は課題や対処法などを自ら考える力の高さに重きを置いています。その意味で、「主体性」を持つためには創造性や責任感が必要だといえます。

 では、具体的にどのような人材が「自主性が高い」といえるのでしょうか。以下では自主性が高い人の特徴を3つ解説します

①好奇心や探究心が強い

 自主性が高い人材の特性は、行動力が高いことです。その行動力はどこから来ているかというと、好奇心や探究心の高さから来ています。

 自分が担当している仕事に興味を持ち、よりよい仕事にしたいという思いがあるからこそ、素早い行動を起こすことができるのです。

 私が会社員時代に関わった同僚の事例です。この同僚は伝統工芸品の職人に対する経営支援を担当していました。

 この同僚は、担当していた伝統工芸の特性を自ら調査するとともに、他の伝統工芸の職人が行っているよい事例などを他の社員に聞いて調べるなどして、その支援先に助言していました。

 この同僚の行動力は、支援先の伝統工芸品への高い好奇心や探究心がなければ生まれなかったものでしょう。

②成長意欲が高い

 自主性の高い人材は、成長意欲も高い場合が多く見受けられます。

 「早く成長して成果を出したい」という気持ちから行動力が高まり、仕事でも成果をだします。

 私が知り合った、ある中小企業の広報担当者の事例をご紹介します。

 生活雑貨品を製造販売する企業の広報担当者Aさんは、自社商品が新聞に掲載されてなかったことを広報戦略上の課題としていました。生活雑貨という商品の特徴から、主婦向けの生活雑誌に自社商品が紹介されることはあったものの、より影響力がある新聞に掲載されていなかったのです。

 そこで約1カ月間、毎日複数紙を読み比べ、どのような内容が記事にされているのか研究をしました。

 結果、この企業の商品が災害時でも役立つという切り口を発見し、メディアにアプローチをしたところ、地域紙や全国紙の掲載を獲得しました。

 その新聞を見たという顧客からの問い合わせも相次いでいるといいます。

 この社員の「この商品の認知度をあげ、売り上げ拡大に貢献したい」という高い成長意欲は、高い自主性と行動力につながっているといえます。

③柔軟な対応ができる

 さらに、自主性が高い人材は、柔軟な対応ができることも特徴です。

 状況ごとに異なる対応が求められる業務では、マニュアル通りに決まった仕事をしていると、想定外の事態が発生した場合に対応ができなくなります。

 一方、自主性が高い人材は、想定外の事態でも原因と対処法を素早く考え、上司の指示を仰いで行動に移すことができます。

 例えば、私は会社員時代に、約2,000名が来場する展示会の運営の手伝いをしていたことがあります。その展示会運営主担当者の事例をご紹介します。

 展示会にはさまざまな顧客が来場するほか、出展している企業からもさまざまな問い合わせが来ますが、その問い合わせ一つひとつに対して上司に「どうすればいいですか」と聞いていては、展示会が混乱してしまいます。

 この展示会の主担当者は自主性・主体性ともに高い人材だったのですが、さまざまに起こるトラブルや問い合わせに対し、瞬時に担当者や上司に問い合わせて対応を協議していました。

 このように自分で責任を持って対応を決める柔軟性は、自ら率先して動く自主性と深く関係しています。

 自主性の高い部下・社員がいると、「事業改善のスピードが早い」「人材採用につながる」といったメリットを得られます。以下で詳細を解説します。

 自主性の高い部下・社員が多い組織は事業改善のスピードが早いです。

 なぜなら、そうした組織では、それぞれの社員が素早く意思決定できるよう、連絡や相談をスムーズに行う環境が整っているためです。社員同士でスピーディーにコミュニケーションをとることができれば、組織全体の意思決定のスピードも早くなり、事業改善も素早く行うことができます。

 VUCAと呼ばれる先行きが不透明な今の時代は、市場環境が一気に変わってしまう可能性もあります。自主性の高い社員たちで構成された組織であれば、状況が刻々と変化する場合でも、素早く改善を図り、事業を伸ばすことができるでしょう。

 自主性の高い部下・社員が多い組織は、人材不足にならない傾向があります。

 後述するとおり、社員の自主性が高い組織は、社員同士なんでも言い合える環境が整っていて、活気があるためです。

 活気がある企業では、社員が「この楽しい会社の仲間になってほしい」と友人・知人に声かけする場合が多いので、結果的に人材が集まってくるのです。私の知っている経営者からも「社内に活気があると人手に困らない」という話を聞いたことがあります。

 名が知られていない中小企業にとって、人材確保は難題です。

 自主性の高い社員を育成し、活気のある企業をつくることができれば、「多くの人から働きたいと思われる会社」になれるため、人材確保に困らなくなります。

 社員の自主性を高める、育てる方法を考える上でヒントになるのは、「自主性を伸ばす場作り」と「社員のモチベーションアップ」という2つの視点です。

社員の自主性を高める5つの方法
社員の自主性を高める5つの方法(デザイン:吉田咲雪)

 社員は企業の雰囲気や文化の影響を受けて行動します。そのため、社員の自主性を高めるためには、まず、企業の「場作り」を意識的に行わなければなりません。以下では、自主性を伸ばす場作りのポイントを3つ紹介します。

①失敗を責めない 

 まず、自主性が高い社員が多く在籍している企業は、総じて「失敗を責めない」という企業文化が醸成されています。

 変化の激しい今、新規事業を多く排出している企業も、その裏で失敗している事業を抱えています。

 しかし、そうしたアグレッシブな企業は、「失敗は成功のもと」ということわざどおり、チャレンジ自体を称賛するカルチャーをつくっています。たとえチャレンジが失敗しても、成功のための布石をつくったという風にとらえるわけです。

 そのようなカルチャーをつくる方法のひとつとして、社員のチャレンジを評価する制度をつくることが挙げられます。失敗してもチャレンジをしたか、そのチャレンジから何を学んだかを人事評価で評価するのです。

 失敗を責めるのではなく、チャレンジを評価するカルチャーをつくることで、社員の自主性を高めることができます。

②最終責任は社長が取ると明言する

 社員の自主性が高い企業では、経営者が「責任は私(社長)が取るから、思いっきりやれ!」と宣言していることが多く見受けられます。

 いくら自主性が高い社員でも、失敗して責任を取らされてしまうと思うと、行動することをためらってしまいます。

 しかし、「責任は社長がとる」と明言することで、社員は安心して行動できるようになります。「自分に任されている仕事は社長も見守ってくれている」と感じられるようになるためです。

 前項の「失敗を責めない」こともそうですが、社員の自主性を高めるためには、社員が失敗を恐れず安心して行動できる場作りが重要になります。

③何でも言い合えるコミュニケーション環境を整備する

 何でも言い合えるコミュニケーション環境を整えることもまた重要です。

 自主性の高い人材は行動力が強みです。しかし、行動する際に他の社員に相談しにくい雰囲気では、せっかく自主的に行動したことが、組織にとっては裏目にでてしまうこともありえます。

 筆者が過去にインタビューした、自主性の高い人材が集まっている企業では、社員の誕生日を祝い合ったり、非公式の飲み会を行ったりと、社員が交流し合うイベントを積極的に開催していました。

 プライベートも含めた人となりを理解し合うことを通じて、社員同士がお互いに相談しやすくなり、何でもいいあえる企業風土を作ることができるのです。

 こういった交流イベントのほか、チャットなどのITツールを活用し、連絡や相談、意思決定が素早くできるコミュニケーション体制を整えることも重要です。

 ある中小企業では、メールの代わりにチャットツールを導入し、業務連絡以外の「雑談」ができるコーナー(チャンネル)をつくっていました。

 その結果、会社ではなかなか話す機会が少ない社員の好きなことや趣味など「意外な一面」を知ることができたそうです。ITツールを上手く活用すれば、仕事だけでは知ることが難しい人柄を理解することができます。

 また、チャットツールによっては文字情報のほかに、スタンプを用いて感情も伝えることができます。文字だけでは冷たい印象を与えがちですが、「いいね!」や「ありがとう!」といった感情もスタンプで共有することにより、社員同士のコミュニケーションが活発になったそうです。

 新規事業開発を行うなど社員の自主性が不可欠な組織では、ITツールの活用を含む社員同士のコミュニケーション環境の整備が欠かせません。 

 社員の自主性を高め、積極的な行動を促すためには、社員のモチベーションアップが必要です。以下では社員のモチベーションを高める方法を2つ紹介します。

①意思決定プロセスのスピードを高める

 自主性が高い人材は、行動力が高いことが特徴です。

 しかし、その高い行動力を実践する場がなければ、自分の持ち味を活かすことができず、モチベーションが下がってしまいます。モチベーションが下がれば行動力は低下するでしょう。

 自主性が高い社員のモチベーションを向上させるには、意思決定プロセスができる限り短い組織体制を構築する必要があります。なぜなら意思決定に時間がかかると、いつまでたっても行動ができず、社員の行動意欲が削がれてしまうためです。

 意思決定のスピードを高める方法として、積極的に権限移譲を行う方法が挙げられます。

 例えば、社内で新事業開発をする際に、既存の業務内容ではわからなかった課題が現れることがあります。そのように新しい課題を解決する場合、必ず社長の判断が必要になる組織だと、意思決定に時間がかかってしまいます。

 そこで、新事業開発に成功している企業の多くは、新規事業専任の担当者を設置し、ある程度意思決定の権限を移譲しています。

 権限を移譲すると、部下は自主的・積極的に行動することができます。もちろん経営者は事業の方向性が間違わないように助言を行ったり、重要な意思決定に関わることが求められます。しかし、適度な権限移譲は、部下の自主性を生かし、スピーディーな新規事業開発を行うことにつながっていくのです。

②顧客の声を知る機会を作る

 製造業の企業で、「顧客の声を聞いたことがない」という社員の声を耳にすることがあります。

 顧客の声を聞く機会がないと、製品をつくること自体が目的になってしまいます。

 そしてその製品がどのように使われているのか、顧客のどんな課題を解決しているのかわからなくなってしまい、「どうやって製品を作るか」が焦点になってしまうのです。

 そこで、新規事業開発に取り組んだある中小企業では、新規事業開発のチームに製造部門の社員も参画し、営業部門の社員とともに、顧客の声を直接聞く機会をつくりました。

 この取り組みにより、製品部門の社員も、自分が作っている製品がどのように役立っているかを知ることができました。すると社員たちは顧客目線で考えた意見も出せるようになったのです。

 このように社員のモチベーションを高めるための方法として「顧客の声を知る機会をつくる」ことも有効です。

 自主性の高い人材は「行動力」が高いことが特徴です。

 したがって、その高い行動力を生かせるような職場環境づくりや、上司・経営者の働きかけが有効であることを解説しました。

 外部環境が刻々と変わる今、自主性の高い人材を集め、スピード感がある組織運営をすることが求められます。

 経営者は「失敗してよいこと」「責任は自分が取ること」を明言されることからはじめてみてはいかがでしょうか。