MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは 事例を踏まえて解説
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは、経営コンサルタントで著述家の故ピーター・ドラッカーが提唱したもので、経営の中核に置くべき概念・フレームワークです。ドラッカーは、MVVの重要性を特に日本の経営者に対して説き続け、実際に実践している経営者は少なくありません。そこで、MVVの策定や浸透させる手順を事例を踏まえつつ解説します。
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは、経営コンサルタントで著述家の故ピーター・ドラッカーが提唱したもので、経営の中核に置くべき概念・フレームワークです。ドラッカーは、MVVの重要性を特に日本の経営者に対して説き続け、実際に実践している経営者は少なくありません。そこで、MVVの策定や浸透させる手順を事例を踏まえつつ解説します。
目次
MVVとは、Mission(ミッション)・Vision(ビジョン)・Value(バリュー)の略語で、ピーター・ドラッカーが提唱したものです。
MVVは、企業経営の中核に置くべきもので、ドラッカーはその重要性を強く訴えています。
Mission、Vision、Valueとは、見たところ似たようなニュアンスのように見えますが、厳密にはそれぞれ意味が違います。それぞれの言葉の意味をご紹介します。
ミッションとは、もともとはキリスト教用語で、「神から与えられた使命」すなわち「その人がやるべきこと」です。企業においても同様で、それぞれの企業に対して「神から与えられた使命」すなわち「その企業がやるべきこと」です。
では、具体的に「その企業がやるべきこと」とは何でしょうか。
それは「我が社の存在理由は何か?」「我が社は何の仕事を何のためにしているのか?」といった問いに言い換えることができます。
この問いへの答えがミッションであり、問いに明確に答えられる企業が自らが何をすべきかはっきり理解している企業です。
いくつか例を見てみましょう。
いずれもシンプルですが、自分の存在理由ややるべき仕事の内容は何かが、わかりやすく示されています。
ビジョンは、企業が目指す理想像です。それぞれの企業が目指す「あるべき姿」と言ってもいいでしょう。
ミッションがそれぞれの企業がやるべきことを定義する一方、ビジョンは企業が目指す方向性を示すものです。ミッションとビジョンは、往々にして混同されがちですが、明確に分けた方がよいと筆者は考えています。
先程の企業は、次のビジョンを掲げています。
バリューは、それぞれの企業の価値観です。
当然ですが、価値観は企業によって違います。お金が大事だとする企業もあれば、お金よりも何らかの価値を生み出す方がいいとする企業もあります。また、価値観はひとつではなく、複数ある場合もあるでしょう。
先程の企業のバリューをご紹介します。
バリューは、ミッションを果たしたり、ビジョンにたどり着くため企業の行動指針を固める基本要素、といってもいいかもしれません。
では、なぜ企業経営においてMVVが重要なのでしょうか。
MVVが重要である第一の理由は経営効率の向上です。
MVVが明確な企業は、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営リソースを効率的に事業に投入でき、経営の無駄を省くことが可能になります。
一方、MVVが不明確な企業は、企業リソースを分散投入しがちになり、本来はやるべきでない仕事などに費やしてしまったりします。
MVVとは航空機パイロットにとってのフライトプランのようなものです。フライトプランがあることによって、航空機パイロットはもっとも効率的で安全なフライトが可能になります。
MVVが重要である第二の理由はブランディングです。
MVVが明確な企業は、特にMVVが社会や消費者の支持や賛同を得られた場合、ブランドが高く評価される可能性が高まります。
また、ミッションやバリューが消費者へ直接リーチすることで、企業の製品やサービスの認知を広げることが可能になります。
一方、MVVがない、または不明確な企業の場合、そうした恩恵を得ることは難しいでしょう。
MVVが重要である第三の理由は人材確保です。
MVVが明確な企業には、MVVに賛同する人材が集まる可能性が高まります。また、同じミッションやビジョンを追求しているという一体感から組織の団結力が高まり、離職率を下げるなどリテンションコスト(社員の退職を防止するためのコスト)を低水準にできます。
では、ここでMVV策定の手順をお伝えします。筆者は、以下のステップを経ることをお勧めしています。
MVV策定の第一のステップは、MVVを策定するメンバーを決めることです。
筆者は、優れたMVVとは、企業のステークホルダー全員のコンセンサスをまとめて作られるものではなく、どちらかというと経営者や創業者の個人的な思いや理念から生まれるケースが多いと考えています。
実際に、アメリカの多くのスタートアップ企業においては、MVV策定が経営者の重要な仕事のひとつとなっているケースが少なくありません。
日本の企業においても同様に、経営者や創業者を中心にMVVを策定するメンバーを決めるべきでしょう。
メンバーは、共同創業者など会社のカルチャーや歴史を熟知している人、営業やマーケティングなど顧客と直に接する仕事をしている人、採用や教育などの人事関連の担当者などにも声をかけるといいでしょう。
MVVを策定するメンバーが決まったら、次のステップはミッションを決めることです。
上述したように、
「我が社の存在理由は何か?」
「我が社は何の仕事を何のためにしているのか?」
「そもそも我が社は何を目指して創業したのか?」
「我が社が最優先にすべき仕事は何か?」
といった問いに対し、答えを出さなければなりません。
ここでのポイントは、①経営リソースをできるだけ客観的に把握した上で答える、②「やれること」を明確にするとともに「やりたいこと」を明確にすることです。そして、答を100-200文字程度にまとめてください。
ミッションが決まったら、次のステップはビジョンを決めることです。ミッションと同様に、以下の問いに対する答えを出さなければなりません。
「我が社の5年後のあるべき姿は何か?」
「3年後の我が社の売上と利益はどの程度か?」
「10年後の我が社の主たる仕事は何か?」
といった問いに対し、答えを出さなければなりません。そして、ミッションと同様に、答を100-200文字程度にまとめてください。
ビジョンが決まったら、次のステップはバリューを決めることです。ミッション、ビジョンと同様に、以下の問いに対する答えを出さなければなりません。
「我が社は何を目指して仕事をしているのか?」
「我が社が大切にしている価値観は何か?」
「我が社が守るべき規範や原則は何か?」
といった問いに対し、答えを出さなければなりません。そして、その答えからキーワードを抜き出してください。そして、それをバリューステートメントにリライトします。
なお、バリューステートメントは、必ずしも長文の文章である必要はなく、シンプルなフレーズでも大丈夫です。例えば、マリオット・インターナショナルのバリューステートメントは、
We Put People First(私たちは人を第一に優先します) We Pursue Excellence(私たちはエクセレンスを追求します) We Embrace Change(私たちは変化を受け入れます) We Act with Integrity(私たちは誠実に行動します) We Serve Our World(私たちは世界に仕えます) |
となっています。
ミッション、ビジョン、バリューが決まったらそれぞれステートメントにして告知しましょう。社内での告知に加え、ホームページ、ソーシャルメディア、プレスリリースなどを使って社外にも告知しましょう。
MVVは、策定がゴールではありません。上述した経営効率の向上・ブランディングの実現・人材確保につなげるためには、MVVを社内に浸透させる必要があります。そのためには、とくに次の2点を実施するとよいでしょう。
最近はだいぶ少なくなりましたが、昔の多くの企業では、朝礼などの際に社是つまりMVVを頭に刻み込んでもらうために社員全員で唱和していました。これは今でも効果的な浸透方法だと言えるでしょう。
朝礼などを行っていない企業でも、打ち合わせなどの開始前にMVVを全員で唱和することで、同様の効果が得られることが期待できます。
社員をMVVに則って評価することも重要です。特にバリューに則って社員を評価することで、会社がMVVを重視していることが社員に理解され、MVVについての関心とコミットメントを高めることが可能になります。
評価に伴うインセンティブは、昇給や昇格などにとどまらず、表彰やアナウンスメントなどでも十分な効果があります。
ビジネス環境の変化などにより、MVVを再構築する必要が生じるケースがあります。事業を再構築する際などにMVVを作り変える場合、注意点は何でしょうか。
MVVを作り変える必要が生じるのは、経営悪化など既存事業に問題が生じた場合が多いでしょう。その場合、既存事業そのものの現状分析を行う必要があります。
既存事業に構造的な問題があり今後改善の可能性はないのか、事業転換などの必要はないのか等々、SWOT分析やPEST分析などを活用して現状を客観的に把握してください。
同時に既存MVVの現状分析を行うことも大切です。社員、株主、取引先などを対象に、既存MVVについてヒアリングし、問題点や要検討事項などを聞き出しましょう。
ミッションステートメントがわかりにくい、ビジョンステートメントが長すぎる、バリューステートメントが理解できない等々、改善すべき内容を明らかにしてください。
既存事業および既存MVVの現状分析を行ったら、最初にMVVを策定したときのメンバーを再度招集し、変更案を詰めていきます。
現代はVUCAの時代と言われています。
VUCAとは、Volatility(変動制)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)からできた造語です。要するに先が見えない複雑で不安定な時代ということです。
そんな時代の中、MVVを明確にすることで自社の現在と未来像を明らかにし、軸足を持つことが可能になります。MVVを策定していない企業は、今すぐにでも策定することをおすすめします。
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