ナショナルブランドは目指さない 崎陽軒4代目が地元横浜にこだわる理由
2022年春に、崎陽軒の4代目社長に就任した野並晃さん(41)。全国規模の知名度と人気を誇りながらも、「ナショナルブランドをめざさない」という先代の理念を受け継ぎます。異業種や地方とのコラボレーションを積極的に展開しながら、横浜のローカルブランドにこだわるのはなぜなのかを聞きました。
2022年春に、崎陽軒の4代目社長に就任した野並晃さん(41)。全国規模の知名度と人気を誇りながらも、「ナショナルブランドをめざさない」という先代の理念を受け継ぎます。異業種や地方とのコラボレーションを積極的に展開しながら、横浜のローカルブランドにこだわるのはなぜなのかを聞きました。
ーーキャラクターを使ったグッズや他社とのコラボも盛んです。コロナ禍以降加速したのでしょうか。
はい。例えば新横浜の「ホテルアソシア新横浜」では、崎陽軒のコンセプトルームを作ってもらいました。ホテルもコロナで移動が制限されたことの影響を受けたので、地元の方に泊まってもらえる企画としてお話しをいただきました。
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ーーだいぶパンチが効いている部屋ですね。シウマイの包み紙の力がすごい。この雪だるまみたいなキャラは?
これは「ひょうちゃん」といって、シウマイのしょう油入れから生まれたキャラクターです。ひょうちゃんは、広報担当の取締役なんです。
ーーかわいい顔して、けっこう偉いんですね。コラボは地元の横浜限定ですか?
2021年の事例では、栃木県鹿沼市の商工会議所とコラボしました。75周年を迎えた鹿沼商工会議所から、弊社の初代社長(野並茂吉氏)が生まれた地ということでオファーをいただきました。これがJR鹿沼駅前にできた「シウマイ像」です。
ーーこの四角いのが、シウマイですか?
シウマイは手で握って作るので、その「握る」を想起させた像です。東京芸術大学の石井琢郎さんの作品です。
ーー同じ栃木県内の宇都宮市はギョーザの町として知られています。崎陽軒の創業者の出身地も栃木というのは、たまたまですよね?
はい。像を作って終わりでは面白くないので、さらにシウマイをからめた町おこしを一緒に行うことになりました。といっても、崎陽軒が鹿沼市に出店して販売をするわけではありません。弊社は経営理念の中でも「崎陽軒はナショナルブランドをめざしません。真に優れた『ローカルブランド』をめざします」と申し上げているので、広報的なバックアップなどあくまでもお手伝いをさせていただくという立ち位置です。
ーー具体的にはどんな町おこしを?
飲食店やスーパーが、それぞれオリジナルのシウマイを作っています。さらに、シウマイのシュークリームやシウマイの形をしたティッシュケースなども準備し、シウマイというキーワードで町を盛り上げていこうとしています。
ーー「真に優れたローカルブランドを目指す」とのことですが、シウマイ弁当が買えるエリアはどこまでなんでしょうか?
店舗の展開としては、神奈川、東京、千葉、埼玉、静岡が、弊社が出店しているエリアです。全国から「崎陽軒のシウマイ弁当を食べたい」というお声をいただくのですが、それをやるとローカルブランドではなくなってしまいます。ただ、昨年は兵庫県姫路市のまねき食品さんとコラボした「関西シウマイ弁当」を作りました。まねき食品さんからお声がけいただき、地元の方にご愛顧いただける製品を作りたいと生まれたのが、この「関西シウマイ弁当」です。
ーーパッケージやお弁当の見た目は似ています。製造はまねき食品さんが?
はい。シウマイだけ、崎陽軒から納入しております。「関西シウマイ」といって、見た目やサイズは同じですが、昆布だしとかつお節で関西らしさを加えたもので、この「関西シウマイ弁当」と関西地区での催事出店の際に販売する「関西シウマイ 15個入」でしか食べられません。あくまでローカルブランドという形で関西のお客様と接点を持てるよう、関西でしか売らない製品としています。
また、今年は福井県と協定を結びました。北陸新幹線が金沢から敦賀に延伸する(2024年開業予定)のをきっかけに、首都圏に福井の魅力を知ってもらいたいと、鉄道と食をかけ合わせた企画を考えていた福井県から打診をもらいました。まずは第一弾として、来年の3月に、首都圏のエリアで北陸の魅力を発信する企画をいろいろ考えているところです。
ーー崎陽軒のシウマイが、ある種のメディアやプラットフォームとして機能していますね。
ローカルブランドとしての存在を守りながら、いろいろな地域で何かしらの形でつながっていき、全国に崎陽軒を好きになってくれる人たちが増えたらうれしいですね。
ーーファンの熱量を思い知らされたのが、2022年8月、シウマイ弁当の具材のマグロが一時的にサケに変更になったニュースでした。希少性がウケたのかSNSで話題になり、品切れが相次ぎました。
コロナによる流通の停滞や、弊社の購買力不足によって、2021年の秋ぐらいからマグロの調達が難しくなり始めました。綱渡り状態のなか、いざ綱から落ちた時にどうするかを検討していました。
マグロの代わりにサケを入れようと決めたのですが、ずっと変えるのではなくて、1週間と期間を限定することにしました。そして8月の頭ぐらいに、もう綱を渡れなくなると分かったので発表させていただきました。
結果的にはいい評判というか話題にはなったので、結果オーライではあったんですが、お客様に本来のシウマイ弁当を提供することができませんでした。さらに期間限定のレアものだからと品切れになって、普通に買いたい人も買えなくなってしまい、二重にご迷惑をおかけしてしまいました。だからこそ、お弁当の形を変えてはいけないんだなと。今の状態を今の価格帯でお買い求め続けていただける限りにおいては変えずにやっていきたいと思っています。
ーーそういう誠意が伝わったからこそ好意的な反応だったのでしょう。
コストダウンのためにしれっと具材が変わっていたらいやですよね。情報発信はいいことだけじゃなく、悪いことも含めてきちんと出さないとお客様からの信頼は得られないと思い至りました。
ーー最後に改めて、そこまで横浜にこだわり、全国展開されない理由を教えて下さい。
元々、崎陽軒は初代横浜駅(現在の桜木町駅)の構内で営業を始めました。タバコやサイダー、牛乳といったものを販売しており、創業から20年間はシウマイを売ってない会社だったんです。当時の横浜は歴史が浅く名物がなかったため、ないのなら作ってしまおうと初代社長が手がけたのがシウマイでした。
自ら「横浜名物」と言っていますが、横浜の方々にご愛顧をいただいているため、我々の中ではシウマイやシウマイ弁当は横浜市民のものという認識なんです。崎陽軒はあくまで製品の製造と販売を横浜市民から委託されているという思いで取り扱わせていただいています。ですので、横浜市民がどんどんナショナルブランドにするべきだと思うのであれば別ですが、おそらく地元でしっかり頑張れと思われていると解釈しています。
それに経営的な側面では、全国展開すると大資本との戦いになります。やはり横浜との深い関わりがあるからこそ、大資本ではできないことをやっていて、それが会社としての生き残り方だと思っています。
ーー地域限定だからこその価値もあります。大阪に行ったら551蓬莱の豚まんを買うように、横浜市民ではないいち消費者も、横浜に来たからシウマイ弁当買うか、となる。
やはり帰省のシーズンには需要が増えますが、買って帰った先でも崎陽軒のシウマイが売っていたら、帰省みやげの価値がなくなっちゃうと思うんですよね。だからこそローカルの色をちゃんと作っておかないといけない。そういった販売のありかたは常に考えつづけています。
また青年会議所で全国47都道府県を回らせてもらったときに、それぞれの地域に違いがあることがこの国の魅力のひとつだと思いました。もちろん食もその1つの要素です。そして、その地域のことを1番理解されているのは、そこに暮らしている方で、その地域の人たちが頑張らないとその地域は盛り上がらない。我々は、この横浜を盛り上げるために、1番頑張らなければいけないと思っています。
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