オンライン営業で「サービス」を収益化 照明設備会社の事例を紹介
機械や設備機器などは導入営業だけでなく、導入後のメンテナンス営業が収入増の鍵です。顧客へのフォローアップを容易にするオンライン営業によって、「サービス」を効率的に収益化する道が開けます。今回は、メンテナンス営業の自動化を図った中小メーカーの事例などを紹介します。
機械や設備機器などは導入営業だけでなく、導入後のメンテナンス営業が収入増の鍵です。顧客へのフォローアップを容易にするオンライン営業によって、「サービス」を効率的に収益化する道が開けます。今回は、メンテナンス営業の自動化を図った中小メーカーの事例などを紹介します。
前回は、商談からの取りこぼしを防止する「商談後フォロー」をテーマに、失注や商談が停滞する顧客との商談復活に成功したウェブコンサル会社の事例を紹介しました。今回は販売後の保守・点検や部品交換などのメンテナンス営業を効率化して、収益化したいと考える経営者の事例をもとに、アフターフォローに関する受注を呼び込むオンライン営業のヒントを解説します。
今後の建設市場の動向を心配する設備機器メーカーの方から、筆者のもとに「保守メンテナンスの営業効率を上げて収益化につなげたい」という声がよく寄せられます。
障害対応は緊急を要するため、即時対応が必要となります。顧客側も自社のお客様へ不便をかけているため、待ったなしの要求をしてきます。筆者も真冬にオフィス空調機が故障し、従業員や来社したお客様がコートを羽織って仕事せざるを得なくなったため、ビル管理会社へ火急の対応を求めた経験があります。
機械製造・設備メーカーの側からすると、突発的で緊急性が高い事態への対応は、業務の効率を著しく低下させます。ところが顧客へ提示する修繕費用は、もうけをあまり乗せない良心的な価格にしているケースが多々見られ、無料で修理することさえあります。これでは効率化どころか収益化すらできません。
中小企業の多くは品質が高い「モノ」の製造・販売を重視しながら、メンテナンスという「サービス」で収益化する意識が低かったと、筆者は考えます。仮にメンテナンスのメニューがあっても、その営業に人手を割けず、売り上げが小さいにもかかわらず人手がかかるなどの理由で、収益化ができていない企業が多いのが実情です。
しかし、オンライン営業で顧客への継続的なアプローチができれば、メンテナンス事業は新たな収益源に成長する可能性を秘めています。次章からは、オンライン営業でメンテナンス営業を効率化・省人化する取り組みを実践している企業の事例をもとに、アフターフォローの収益化について考えます。
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中小企業が少ない人数でトラブルに対応しながら、メンテナンス契約を獲得するのは容易ではありません。
そんな中、中小の商業施設やビル管理会社をターゲットに照明設備を販売しているA社は、導入先へのメンテナンス営業をオンライン化して、少人数でも効率的に契約を獲得することに成功しました。
メンテナンス営業を効率化するポイントは、トラブル発生時に対応する「待ち受け営業」から、トラブルを予防するための「攻め営業」へとスタイルを変更することです。
つまり、営業担当者が営業を仕掛けるタイミングを逃さないようにコントロールする点が重要になります。
A社では、部品の耐用年数に達する1年前を「営業タイミング」に決め、顧客にテスト段階として「事前予告メール」を約150件案内することにしました。例えば、以下のような内容です。
2019年に納品したXY0031製品の部品交換時期が間もなく到来します。お見積もりのご要望がございましたら、申しつけ下さい。
なお、昨今、半導体不足により、部品交換までのリードタイムを6か月頂いております。交換される場合は早めにご相談下さい。
メールは営業が直接送るというアナログな手法でしたが、効果は絶大でした。電子メールでの連絡後に、返信メールや電話をもらった確率は64%にも上りました。
見積もり依頼や施設・ビルのオーナー向けの説明資料の要求など、寄せられた反響も様々でした。
今まではトラブル発生後に連絡が入り、不測の事態の対応に追われていた営業活動が、先回りして営業できる状態になったのです。
ところがその効果は限定的でした。事前予告メールをルール通りに実施しない営業がいたからです。
営業は常に顧客対応に追われています。「事前予告メール」の対象リストを作ったり配信したりすること自体、かなり手間がかかるので後回しにされてしまったからです。
そこで営業のムラを無くし、誰でもルール通りに事前予告メールを送るようにするため、営業対象リストの生成とメールでの連絡作業を自動化しました。つまり、トラブル予防のための「攻め営業」をオンライン化・自動化したのです。
具体的には、顧客に納品した製品の部品耐用年数を起点に「事前予告メール」を配信できるデータを作成しました。
データ作成の際に重要なポイントは二つあります。
一つ目は顧客情報の整備です。製品の部品交換やメンテナンスに関する情報を提供するので、請求書の宛先でなく設備を管理する責任者の情報、つまり納品先責任者の部署名、氏名、メールアドレスが必要となります。
二つ目は、納品した製品の部品耐用年数です。設備機器の部品数は数百に上りますが、交換が必要な主要部品を10程度のカテゴリーに絞り込みました。納品年月日と耐用年数に基づき、次回の部品交換年月日を明らかにします。
製品を納品しているのだから、簡単に出来るだろうと思う方もいるでしょう。ところが、いざデータ作りに取りかかると非常に骨の折れる作業になります。
過去の納品先情報は紙のままなのでデジタル化しなくてはいけないうえ、担当者が異動している場合は新担当者の情報を確認しなくてはいけない、などのデータ整備作業が発生するからです。
トラブルに随時対応するフロー型収入から、定期的なメンテナンスというストック型収入への構造変革を図るオンライン営業の取り組みは、まだ初期段階です。それでもすでに、全売上高の1割を超える規模まで成長してきました。全社的な成果が明らかになった際に、改めて当欄でご報告したいと思います。
A社のように販売後のメンテナンスなどのアフターフォローに注力している企業が広がっています。筆者が注目している事例も紹介します。
空調設備機器メーカーのダイキン工業では、アフターサービスやメンテナンスの申し込みを24時間365日受け付ける専用サイトを設置しています。
トラブルが発生した際に、業務に支障が出ないようにすぐ復旧させたいという顧客心理を理解している様々な工夫があります。例えば「AIによる故障診断」では、トラブルの症状を入れると次々と詳細な質問が繰り出され、解決策まで導いてくれます。
「よくあるご質問」では、製品別のお困りごとランキングが出現し「AIによる故障診断」と同様に解決策まで指南してくれます。
「動画でサポート」では修復方法を動画でわかりやすく説明。それでも、修復できない場合は「修理のご相談・お申し込み」の手続きへ進む流れになっています。
同社の「お客様サポートサイト」は、AI技術や動画を活用することで、突発的で緊急を要するトラブルを迅速に処理できるようにしました。そして、顧客から「修理のご相談・お申し込み」が入る工夫がされています。
先にご紹介したA社の「顧客から依頼が入るメンテナンスのオンライン営業」を実現している好事例と言えます。
日本の中小企業の多くは品質の高い「モノ」の製造・販売を重んじ、丈夫で壊れないモノづくりは製造業の美徳とされてきました。
ところが、今後も設備投資市場が成長し続けるとは限りません。「保守点検・メンテナンスのサービス化」や「営業のオンライン化」は、持続可能で安定した経営基盤づくりへの有効な手段の一つと言えます。
経営環境の変化に対応したサービスや営業の変革を進めたいという経営者の方々にとって、今回の記事が参考になれば幸いです。
次回は、営業のオンライン化を具現化する手法を解説します。
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