失注した商談がオンライン営業で復活 フォローアップの成功例を紹介
コロナ禍で加速するオンライン営業によって、顧客への継続的なアプローチが容易になりました。中小企業向けにオンライン営業のノウハウを解説するシリーズ3回目では、ニーズが埋もれていたり一度は失注したりした顧客に、オンラインで丁寧なフォローアップを行い、受注につなげた実例を紹介します。
コロナ禍で加速するオンライン営業によって、顧客への継続的なアプローチが容易になりました。中小企業向けにオンライン営業のノウハウを解説するシリーズ3回目では、ニーズが埋もれていたり一度は失注したりした顧客に、オンラインで丁寧なフォローアップを行い、受注につなげた実例を紹介します。
目次
前回は商談のきっかけを作るオンライン営業をテーマに、売り込み中心から役に立つ情報の提供に変えたことで、商談の機会作りに成功した事例を紹介しました。今回は商談後の取りこぼしを防ぐために、どのようなオンライン営業をすればいいかについて解説します。
「商談したら100%受注」という営業はあり得ません。一般的に商談が受注につながる割合は、20~30%程度と言われています。商談相手のニーズや期待される要求レベル、競合相手の有無などで成約の確度は異なります。顧客を理解した上での商談こそ、取りこぼしを少なくする秘訣です。
従来はどの会社も、商談のアポイントが取れたらまず客先へ赴きました。熱意や場の雰囲気を大切にしながら顧客との距離を縮める「感情型営業」とも言えます。ところが、営業を受ける商談相手の要求が変化しているのです。
有限責任監査法人トーマツの「リモート商談に関する実態調査」(2020年10月)によると、「リモート商談が6割以上」と回答した課長職以上のマネジメント職は、全体の55%にのぼります。会社の規模が大きくなるほどリモート営業の割合は増え、従業員数1万人以上の会社で「リモートが1割以下」という回答は11%にとどまります。
このため、対面で熱意を示す商談ではなく、相手の会社のことを理解したうえで、類似の課題を有する企業への導入事例や、課題解決の提案などを示す「ロジカル型営業」が求められつつあります。
しかし、既存顧客でもない商談相手のことを理解するのは容易ではありません。次章から、オンライン営業で商談相手へのアプローチを粘り強く続けて顧客のニーズを掘り下げ、成果につなげている企業の事例を見てみましょう。
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商談前のヒアリングで、見込み客の要望を確認するのは当たり前です。しかし、関係性ができていない状態で、ニーズや課題を教えてもらうのは容易ではありません。
ウェブコンサル会社のA社は従業員数90人程度の会社で、マーケティングや営業企画の責任者を営業先にしています。商談後のフォローによって相手先企業のことを理解し、一度は失注した商談の復活に成功しました。
A社の商談は80~90%をウェブで行っており、最終的に受注に至る割合は約20%です。失注の内訳を見ると、ニーズが顕在化しておらず情報交換だけを希望していた見込み客が約40%、ニーズは顕在化していたが失注した案件が約60%でした。
A社ではウェブ商談へ移行した結果、商談の数が増加しました。移動時間が不要なウェブ商談では、多い日には1日に10件程度の商談ができます。
従来は上司や先輩が営業同行していましたが、商談数が多くなるにつれ同席が物理的に難しくなりました。
経験豊富な上司や先輩が同席すれば、顧客ニーズの真意を確かめるための深掘り質問や顧客ニーズに合わせて説明の仕方を変えるなど、顧客満足度を上げることができました。しかし、同席が難しくなったことで、顧客が商談に期待していたこととのギャップが生まれやすくなります。
そこで、同社のCS(顧客満足度)推進室が商談後に、相手先企業にヒアリングを実施することにしました。例えば、以下のような問い合わせ内容になります。
昨日は担当営業の藤崎が商談させていただき、ありがとうございました。ところで、商談内容はいかがでしたか?
商談への満足度を測る内容ですが、真の狙いは商談の停滞や取りこぼしの防止です。
ヒアリング項目は主に以下の内容で構成されています。
そして商談相手に項目ごとの点数と総合点を付けてもらいます。点数だけでなく、商談相手から聞き取った定性的なコメントも記載します。
定性的なコメントに商談復活の鍵となるヒントが含まれていることが多いので、アンケートの送付でなく商談翌日に電話をしてヒアリングしました。時間は3分程度。顧客満足度を高めるためのヒアリングなので、ほとんどの方は快諾して頂けます。
ヒアリングの結果、相手が期待していた商談内容と異なった場合は「大変失礼しました。再度商談の機会を頂けませんか」と申し出ます。約6割の顧客は再商談に承諾して頂けました。
営業から会社に報告された失注理由の多くは「価格が合わない」「(相手企業が)提示した予算を用意できなかった」といった、お金にまつわる理由が上位でした。
しかし、商談ヒアリングでふたを開けてみると、「相手に配慮しない一方的な商品説明だった」、「導入障壁を突き崩す提案をもらうことができなかった」という実態が分かったのです。つまり、顧客の実態把握が足りず、要求を正確に理解できていなかったのです。
商談のヒアリング結果には、点数が付いています。これは上司が付けた営業成績でなく、顧客が付けた成績です。この成績表を担当営業だけでなく、営業全員へ共有しました。営業にとっては、顧客から評価されることこそがうれしく、最も誇らしいことだからです。
どうしたら、顧客に評価されるのか――。
顧客の声をもとに、担当営業自身が商談を振り返ることが出来るようになってきました。商談後のフォローを開始した当初は「期待していた商談と違った」という回答が半分以上でしたが、3カ月が過ぎたころには、商談に対する顧客の期待ギャップは3割程度に減りました。
筆者は飲食店やゴルフ場を予約する際、顧客レビュー3.5点以上を目安に選びます。うまさ、サービス、コストなどで利用者の評価が役に立つからです。
一方、飲食店、ホテル、ゴルフ場の運営者は顧客のレビューを参考にサービスを改善します。配膳スピードが遅い、お店が汚い、店員の受け答えがぶっきらぼう、などの評価があれば改善に取り組み、評価を上げる努力をします。
ところが、ビジネスの商談に顧客のレビューはありません。営業担当からの報告はありますが、これでは不十分と言わざるを得ません。
商談の質を向上させるためには顧客視点での客観評価が必要である、と筆者は考えます。
A社の事例は、営業からの報告に加え、営業先からの客観的な評価も加味し、相手に満足していただけるように商談の質を高めるという点で、素晴らしい取り組みです。
A社で商談から受注に至る割合は10%以上向上しました。
建設資材メーカーB社は従業員数30人程度の会社で、建設現場で使用するコーティング剤を製造販売しています。
油を使う現場、水質基準を重視する現場など、状況によって使用するコーティング剤の種類は異なります。本来は建設現場の数に応じて、様々な種類のコーティング剤を継続的に発注していただけるはずです。
ところが実際は一つの建設現場の工期を迎えると取引も終了し、休眠化していました。顧客は同社が建設現場ごとにマッチした商材を多数保有していることを知らないのです。
そこで、同社は「納品後フォロー」に取り組みました。納品日を起点に、30日後、90日後、120日以降の三つの期間に分け、担当営業名でのメールを出したのです。
主な内容は以下の通りです。
30日後 | 90日後 | 120日後以降 |
---|---|---|
納品した製品・サービスに対する満足度を聞くと同時に補充を促す | 納品物以外の製品の試用を促し、困りごとを伺う | 定期的に新製品情報をお知らせする |
メールはツールによる自動配信ですが、受注いただいた製品や納品日などはクライアントに応じて差し込んでいます。また、30日後、90日後のメールは、返信を促す内容に仕立てました。
その結果、顧客からの返信率は30日後のメールは30%強、90日後のメールでも10%程度となりました。製品だけでなく、サービスに対する要望や苦情もあり、返信に対しては社長自ら個別にメールや電話で対応しました。
その結果、新製品の試用希望や追加注文につながっただけでなく、サービスの改善なども行い、休眠化の防止にも成功しました。
新型コロナウイルスの感染拡大から約2年。営業を取り巻く環境は大きく変わり、訪問が当たり前だった商談も、ウェブを活用したリモートになりました。
商談のプロセスも、上司や先輩の指示をその都度仰いでアクションを起こす形から、自主的に考えて行動するスタイルへと変化しています。
コロナが収束したとしても、以前の営業スタイルに後戻りすることはおそらく無いでしょう。リモートが浸透するにつれて、商談相手や顧客からの声は入りづらく機械的な対応になりがちです。
しかし、顧客との関係づくりで重要なのは、商談相手から適格な評価をもらう仕組みを作ることであると、筆者は考えます。
それはリモートでも対面でも変わりません。面と向かって会えないオンライン時代だからこそ、より営業姿勢が問われ、競合他社との差をつけやすいポイントになるのだと思います。
今回は経営環境が変化する中で、営業方法や製品サービスを改善するために真摯に顧客に向かい合っている2社を紹介しました。
両社とも環境変化をチャンスと捉え、顧客から声を聴く仕組みや営業組織作りに取り組んでいます。全社で顧客の課題解決に取り組む。これこそが、経営の原点であると筆者は考えます。
次回はオンライン営業を通じて、保守点検の収益化に成功したメーカーの事例について解説します。
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