顧客との信頼を築くオンライン営業 「お役立ち情報」を成果につなげる
コロナ禍でオンライン営業が広まりました。会ったことのない顧客と信頼関係を作るにはどうしたら良いのか、悩みを深める中小企業の後継ぎも多いのではないでしょうか。オンライン営業サービスを提供するディーキューブ代表取締役の藤崎健一さんが、顧客に寄り添った情報の提供で成果につなげた事例を解説します。
コロナ禍でオンライン営業が広まりました。会ったことのない顧客と信頼関係を作るにはどうしたら良いのか、悩みを深める中小企業の後継ぎも多いのではないでしょうか。オンライン営業サービスを提供するディーキューブ代表取締役の藤崎健一さんが、顧客に寄り添った情報の提供で成果につなげた事例を解説します。
前回は、「オンライン営業のススメ」と題し、利益を4倍にした中小メーカーの事例を紹介しました。今回から「オンライン営業」を始めようと考えている方に向けて、事例を交えながら、そのヒントを解説します。
きょうの新聞に「巣ごもり消費、きしむ物流 コロナで様変わりの新年」という記事が掲載されています。無人搬送車販売の参考情報になるかと思いましたので、ご案内します。
読者のみなさんも、営業マンから、この手のメールやSNSを受け取った経験があるのではないでしょうか。受け取って、嫌悪感を抱く人はまずいないでしょう。むしろ「ありがたい」と感じる方が多いはずです。
「記事を探す手間が省けた」、「私のことを気にかけてくれている」、と感じることもあるでしょう。「手間を掛けてもらって、申し訳ない」と思う方もいるかもしれません。このように、相手に喜ばれる、あるいは関心をもっていただける内容を盛り込んだメールの送付が、オンライン営業では重要です。
売り込み色が満々のメールでは、相手も心を閉ざし、聞きたい情報もヒアリングできなくなるでしょう。売り込みではなく、お客様の役に立つ情報の提供が、信頼関係を作るうえで大切なのです。では、どのようなアプローチが効果的なのでしょう。まずは、「業界関連ニュース」で新規顧客との関係づくりに成功した、食品工場専門の建設会社A社の事例を紹介します。
工場建設には多大の投資が必要で、設備を管掌する役員または工場長が意思決定者となります。A社も従来は展示会への出展や、年数回のリアルセミナーで、新規の見込み顧客へのセールス機会につなげていました。
しかし、コロナ禍で、展示会は軒並み中止され、セミナーも開催できず、リアルで新規顧客との接点をつくることが難しくなりました。A社はどのような手を打ったのでしょうか。
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A社が新たに始めたのは「業界関連ニュース」のメール送付です。手始めに「予備調査」として、ターゲットとなる食品製造工場の新増設や改築を考えている顧客にとって、何が有益な情報かを検討しました。
その結果、食品製造会社向けに、「食品衛生法」の改正に伴う衛生管理基準・HACCPに関する情報、食品業界の動向やニュース記事などの情報を提供しようという結論に至りました。
これらを徹底的に収集してニュース記事に仕立て上げ、今まで展示会やセミナーで名刺交換した人たちに、月1回、メールで届けるサービスを始めたのです。
コンテンツは、A社の企画部が立案し、外部に依頼するなどして制作しており、かなりの工数をかけています。
A社が集めた情報は基本的にネットで収集できるもので、食品製造会社なら知っているのではないか、と思われがちです、
しかし、ターゲットとなる企業の担当者は、A社からメールで届く情報を見れば、自分で調べなくても、業界の最新動向を知ることができるという点が、受け手のメリットになるのです。
「業界関連ニュース」を提供し続けた結果、オンライン営業の担当者が食品製造会社に電話すると、つながるようになりました。時には、御礼を言われることもあり、食品工場の建設に関するコンサルティングなどの受注につながりました。
担当営業が、接点を持てる人数や頻度は限られています。営業活動の中心は、契約間近な成約確度の高い見込み客との商談になります。
ニーズがはっきりしない潜在客との接点を作る活動には、なかなか手が回らないものです。しかし、「業界関連ニュース」を提供することで、ターゲット企業への接触の量と頻度を上げることができ、親近感が増すと同時に、「自社業界に精通している」という信頼感も生まれるのです。
次に、「法令解説やFAQ(よくある質問)」で、物流責任者との接点づくりに成功した昇降機メーカーB社の事例を紹介します。
B社の営業先は、工場や倉庫内の物流責任者になります。物流責任者にとって「最初に知りたい情報」を検討し、業務の安全性と効率性の2項目が挙がりました。
昇降機の安全を規定する法令には、建築基準法と労働安全衛生法があります。
また、効率性を考えるうえで、各都道府県が定めた昇降機設置に関する指導要領の理解が欠かせませんが、一覧化しているページがありませんでした。B社はこれらの点に着目し、法令解説と都道府県の指導要領を、自社のホームページで一覧化しました。
狙いは的中し、法令解説ページへの訪問者が急増。「昇降機の法令解説」を検索する中で、初めてB社を知った方からのアクセスも増えました。
これらの解説ページで、顧客のニーズが喚起されました。次なるステップは、「課題解決」の情報です。B社では「よくある質問(FAQ)」と「導入事例」を提示したのです。
FAQは昇降機の導入に関する不安の解消に役立ち、「導入事例」は課題解決の提案に直結します。
そして最後のステップとして、実物を見たい方向けの展示会を案内します。その際、工場や倉庫に導入した際のレイアウト図面を、無償で作成するサービスを加えました。
このように、提供する情報を「ニーズ喚起」、「課題解決」、「面談」と目的別に用意することで、実際に担当営業が商談で行っていたプロセス自体を、オンライン営業にシフトさせました。
顧客との接点の数は、対面営業と比べて圧倒的に増えました。また、提供する情報の目的を明確にしたことで、相手先の状況をつかめるようになりました。
その結果、営業へ引き渡す商談の量が増え、営業の商談品質も大きく向上したのです。
人から何かをしてもらったとき、「お返しをしないと気が済まない」と感じる心理のことを「返報性の法則」と言います。
たとえば、スーパーマーケットなどの試食コーナーで、店員から勧められて試食すると、「食べさせてもらったのだから、買わないと悪いかな」と思う心理です。
無償で何かをしてもらうことで、返報性の法則が働き、「お返しをしなければ」という心理が生じるのです。さらに相手のことを「心配しています」という気持ちが加われば、より一層「お返し」の確率は高まります。
A社の事例では、コロナ禍という緊急事態下で、顧客の心配事に先回りする配慮が、多くのレスポンスにつながりました。
B社の事例でも、法令や都道府県の指導要領を一覧化し、先回りして解説してあげる点がポイントでした。
オンライン営業で心掛けなくてはいけないのは、中身が相手にとって役立つ情報であること、メール文面の端々から相手のことを思っている気持ちが伝わることです。
メール営業では、「売りたい」という気持ちを捨てて「お役に立ちたい」という思いを前面に活動することが、結果的には成果につながるのです。
今回は、オンライン営業で顧客との接点の量を増やした事例を二つ紹介しました。
営業活動には、新規の顧客作りと既存顧客の深耕開拓の二つがあります。最も注力する活動は成約確度の高い見込み客との商談で、成約確度が低い顧客との接点作りは、後回しになりがちです。
オンライン営業の役割は、営業が後回しにしがちな顧客との接点を作り、つなぎ留め、信頼関係を醸成する点にあります。営業が商談しやすいように場を温める役割を担うのです。
次回は、過去の失注客や休眠客との接点作りや、商談を復活させている事例を踏まえながら、オンライン営業を解説します。
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