オンライン着付けや着物バイク……呉服屋の事例でわかる新規事業の見つけ方
コロナ禍で成人式が中止になり、キャンセルの電話対応に追われるなか、山口県萩市にある呉服屋は、下を向いてばかりはいられないとバーチャル着付けや着物姿でバイクに乗って観光できるサービスを次々と打ち出し、注目されています。新規事業のヒントはどこにあったのかを紹介します。
コロナ禍で成人式が中止になり、キャンセルの電話対応に追われるなか、山口県萩市にある呉服屋は、下を向いてばかりはいられないとバーチャル着付けや着物姿でバイクに乗って観光できるサービスを次々と打ち出し、注目されています。新規事業のヒントはどこにあったのかを紹介します。
目次
今もなお城下町のたたずまいが残る明治維新胎動の地として知られる観光地、山口県萩市で50年以上呉服屋を営んでいる、萩ふくやの福間直彦さんと淳子さん。
2020年の七五三や2021年の成人式などの催事がコロナにより中止となり、打撃を受けました。
キャンセルの電話対応に追われる中、福間さんは「今のままでは対応していけない時代が来た」と感じたそうです。人口減少と高齢化が進む地方において、今までの事業展開ではなく新しい時代に対応した呉服屋のあり方を模索する中、中小企業や起業を目指す人が無料で相談できる萩市ビジネスサポートセンター(はぎビズ)を訪れました。
ヒアリングするなかで見えてきたのは、福間さん夫妻が最も大切にしている「決して押し売りはせず、納得した時に買って貰えればいい」という姿勢でした。
敷居が高く入りにくい呉服屋にならないよう、訪れた人が気軽に楽しくお茶が出来る場を用意しています。また、着物の着付けが苦しかった経験から着物が嫌いになる人を作らないよう、苦しくない着付けも行っています。このように、地域の人に寄り添う呉服屋として歩んできました。
そんななか、お客さんとの何気ない会話の中で、「都会に出た子どもが成人式の着物を選ぶために帰省したくても、コロナで帰省しにくい」という声を聞いた福間さん夫妻。
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人生で何度もない親子で楽しく着物を選ぶかけがえのない時間を無くさないため何とかできないかと考えました。そんな時に、テレビで見たオンライン会議の様子を思い出します。
さまざまな会社を調べて見つけたのが、遠方からでも着付けができるバーチャル着付け体験でした。
バーチャル着付けは、デジタルサイネージの前に立つだけで、着物が体にフィットし試着イメージが分かるというサービスです。
遠方でも事前に写真を送ってもらうことで合成できることから、都会と萩とをオンラインでつなぎ、親子での着物選びを実現することができました。
元々は遠方の方のためにと導入したものですが、着付けの際に濃厚接触をしなければならないことや、着付けをされるお客さんの負担の大幅な軽減につながり、コロナ時代でも安心安全を確保したサービス展開となりました。
お客様との何気ない会話から、コロナ時代で変化したニーズに気づき、スピーディに展開をされたことで、お客様の思い出作りへの貢献はもちろん、ニューノーマルにも対応したサービスとなったことで、メディア取材も相次ぎました。
次に着手したのは、売上のもう一つの柱である着物レンタルサービスです。萩市は城下町の街並みから着物が似合う街日本一に選ばれた場所で、一昔前までは修学旅行や団体パッケージツアーなど待っているだけで観光客が来ていました。
しかし、コロナで観光業は大打撃。
また、SNSの発達により、観光客が自分の価値観で好きな場所やグルメなどを発信できる場所に惹かれるニーズに変化したことを福間さんは感じていました。
しかし、城下町の道はとても狭く、さらに観光地や宿泊施設が点在していることから離れた場所へはタクシーで移動せねばならず、近場でも慣れない着物と草履で歩ける範囲は限られてしまいます。コロナ前から、レンタル客からのお困りの声として寄せられていたそうです。
そんな悩みからアフターコロナの観光を福間さんと模索しました。萩を訪れる観光客データを分析していくと宿泊者は約2割しかおらず、有名な観光地のみ訪れ、市外へ移動してしまう通過型であることが分かりました。
さらにコロナで旅行に行けないもどかしさから、SNS上で#妄想旅行というタグで行きたい場所を伝え合う風潮が誕生するなど、旅の目的地を選ぶ指標の殆どがテレビや雑誌などマスに向けた情報を参考にする「メディア参考型」から身近な人のSNS投稿を見て目的地を決める流れにシフトしていると分析。
訪れて欲しい有名な場所の情報を観光地から発信するやり方ではなく、着物で小道や萩の自然を感じてもらい、観光客自身が自分の「好き」を見つけ発信をする余白を持たせたコンテンツ作りを行うことで、滞在時間が伸び、滞在型の観光客が増え萩の観光に寄与出来ないかとディスカッションしました。ちょうど、その時に福間さんが見つけたのが、着物のまま立ち乗りできる電動バイクでした。
着物のままで乗れる立ち乗り電動バイクをフックに、今まで着物で訪れることが出来なかった地域の観光ガイドをしている団体ともマッチングし連携。
福間さんの強みである地元密着の人脈から、季節ごとの美しい景色を知っている地元カメラマンからの情報を入手。穴場などを盛り込んだオリジナルルートを作り地図上に表示し、利用顧客が今までSNSに投稿した画像のリンクも地図上に表示できるようにしました。
これにより、食べ歩きをしたい人、映える写真を取りたい人、自然の中でゆっくりしたい人、など自分に近い感覚を持った人の写真を参考にルートを決めることが出来るようになりました。
電動バイクの運転には通常免許が必要で、レンタルの際は保険加入や操作方法のレクチャーも行い、安心して運転できるようにしています。速度は30キロまで出ますが、萩の道はスピードが出る真っ直ぐな道や坂道が少ないことから、10〜20キロで街並みを眺めながら運転することができます。
取り組みを萩市や観光業に関わる方にも知ってもらおうと、萩市ビジネスプランコンテストに参加し、見事優秀賞に選ばれました。
コロナ以前から、地域のお客様の心地よい居場所づくりだけでなく、伝統的な着物はもちろん現代のニーズにあったおしゃれな柄との組み合わせ提案など、顧客の声に寄り添ってきた福間さん夫妻。
この度もコロナで変化したニーズの変化を敏感に捉え、コロナ支援のため新たに作られた補助金を事業のために戦略的に活用し、顧客の声に応えることでスピーディに新サービスをリリースしました。
コロナで身動きが取れない事業者も多いなか、呉服店として何が出来るかを模索しお客様ファーストで変化を恐れずチャレンジする姿勢は、地元密着型の小回りが効く地域の呉服屋さんだからこそ出来た変化ではないでしょうか。
はぎビズは今後も地域の事業者に寄り添い伴走サポートしていきます。
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筆者(右)と福間さん夫妻
萩市の街並み
レンタルサービスをはじめた電動バイク
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