体験学習キットも宅配弁当も 次々と新規事業を生む電気工事会社
新型コロナウイルス拡大によって、既存事業のビジネスモデルを見直す企業が増えています。意思決定や変革のスピードが強みである中小企業にとっては、いまが今後の事業展開を決定づける重要な時期でもあります。今回は、埼玉県狭山市の電気工事会社の社員から続々と新規事業が生まれている理由について、狭山市ビジネスサポートセンター(Saya-Biz)が紹介します。
新型コロナウイルス拡大によって、既存事業のビジネスモデルを見直す企業が増えています。意思決定や変革のスピードが強みである中小企業にとっては、いまが今後の事業展開を決定づける重要な時期でもあります。今回は、埼玉県狭山市の電気工事会社の社員から続々と新規事業が生まれている理由について、狭山市ビジネスサポートセンター(Saya-Biz)が紹介します。
狭山市加佐志にある電気工事会社「根本電気」は、根本武社長が2017年に独立して立ち上げた電気工事会社で、マンション、店舗、オフィスなどの新築躯体工事から、改修工事まで電気工事全般を行っています。
妻の根本ゆかりさんが副社長として、そして次男、三男、長女、次女の4人の子どもたちが社員の中心として働いています。
ゆかりさんがSaya-Bizに初めて相談に訪れたのは2019年の秋、その頃は新型コロナウイルスの影響などだれも予測していなかった時期でした。会社の事務所を建て直すのを機に、その一角でカフェもしくは飲食店を開きたいということでした。
「子供6人、孫7人を育ててきた。職人も自分の子供と思って、お弁当を作ってきた。大家族であるが故、地域の皆さんにもこれまで支えられてきた。だからこそ、自分に出来る『食』を通じて地域に貢献できる、そんな場をつくりたい。また、今はアパレルメーカーで働いている長女が、仲間と共に事業を手伝ってくれると話している。きちんと事業を築き上げて娘に渡したい」
話を伺っていくと、もともと電気工事士として約10年現場で働いていたというゆかりさんは営業や、各社との取り決めなど、全ての現場管理をしていると言います。「なんてパワフルでエネルギッシュな方なんだ!」。それが第一印象でした。
子どもたちに、そして現場の職人さんに多くのお弁当を作り、パワーを与えてきたゆかりさん。コンセプトは「おふくろの味」しかない!ターゲットはまずは現場の職人さんにしようか。
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お弁当自体に特徴があった方がいい、狭山市内の農家さんの野菜を取り入れて「地産地消」を謳おうか。狭山茶も付けられるといい…。Saya-Bizでの相談を活用しながら事業の準備を着々と進めていた矢先に、新型コロナウイルスが拡大。タイミングの見極めを余儀なくされてしまったのです。
しかし、そこで立ち止まらないところが根本電気のすごいところです。翌2020年、コロナ禍の真っただ中に新たな事業が立ち上がりました。オリジナル照明器具の製造販売メーカー『VALO』(バロ)です。
ゆかりさんと共に事業を立ち上げるためアパレル会社を退職し、根本電気に入社した長女の松島彩乃さん。彩乃さんが初めての現場でおしゃれな居酒屋さんの照明工事を経験し、「照明器具を自分で作れたら」と電材屋で材料を購入して自身で製造してみたのがスタートでした。
「電気工事だけでなく、インテリア含む内装トータルコーディネートを実現したい」との思いから、当初の吊るし型の照明器具だけでなく、雑貨やスタンドライトなど商品の幅も広げています。
『VALO』はフィンランドの言葉で『灯』『光』という意味。暮らしに欠かせない電気を、照明器具を通して灯や光に変え、暖かい空間を演出し届けたいという思いが込められています。
コロナ禍という環境もあり、事業開始後しばらくはECサイトでの販売を中心とし、状況をみてポップアップの出店や一部雑貨店への委託販売を行っている状態でしたが、Saya-BizではVALOのライトが単なる「おしゃれ雑貨」に留まらず、電気工事会社だからこその「職人感」が伝わる商品であることに着目しました。
その特徴とコロナ禍の環境を鑑みて、子どもをターゲットにした新商品「お家でオリジナルライト作り体験学習キット」をご提案しました。
お子さまとおうちでつくれる組み立てキットとともに、自由研究にも使える学習シートを添付することで、身近な電気についての学習に加えて、創造・課題解決のトレーニングの要素も取り入れました。
また、狭山市近郊のマーケットやブランドイメージの近い事業者様もご紹介しマッチング。今後は「電気工事職人が教えてくれる」ワークショップ開催や、地域事業者や行政と協力したイベントのコーディネートも手掛けながら、販路拡大を促進していきます。
そして2021年には、待望のゆかりさんの新事業『TALO』(タロ)が立ち上がりました。『TALO』はフィンランド語で『家』という意味。
これまで家族に提供してきた味を、お客さんと家族になった気持ちで提供していきたい。そんな思いが込められています。提供方法こそ、当初検討していた飲食店から宅配専門のお弁当販売という形に方向転換しましたが、ゆかりさんの事業コンセプト「おふくろの味」は変わりません。
お弁当のネーミングも「かあちゃんの現場弁当」としました。
現在は、「おかずは全て、かあちゃんの手作り」「野菜はもちろん、肉・魚も必ず含まれる5品目以上のおかずで栄養バランス抜群」「甘さやしょっぱさなど多様な味付けで、御飯がすすむ!ボリュームも満点」「日替わりメニューで飽きないおいしさ」、そんな特徴を前面に出しながら、工事現場や撮影現場などへの宅配と、キッチンカーを活用したイベントへの出店を中心に販路を広げています。
今後は当初から計画していた市内の農家さんとのコラボレーションによる地産地消やフードロスの取り組みも実行に移していきたいと考えているところです。
彩乃さんにVALOを始めた背景を伺ったときに、こんなお話がありました。
「もともと母(ゆかりさん)も私も、電気工事事業だけでなく、会社を大きくしていくために自分たちの強みを生かしてできる事業は何かを考えていました。コロナでTALOは一回見直すことになりましたが、事業をするための勉強する時間だったと思っていますし、逆にVALOはその中でもすぐに始められると思ったので始めました。むしろコロナで新たな事業をするスピードが加速したと思っています」
「店舗での直接購入ではなくてECでの購入希望者が増えた」「口コミでの集客に限界が来たので、情報発信に本腰を入れないと厳しい」「これまでは親企業から製造,修理などの委託を受けていたが、今後は自社ブランド製品を作っていきたい」。
経済産業省による事業再構築補助金も追い風となってか、新規事業に取り組む企業は増えています。
新事業を展開する上で、技術やネットワークなど自社の強みを生かしていくことはもちろん重要です。しかし、それだけではなく、根本電気の事例のように、先の読めない環境でも事業を推進していく行動力やエネルギーを持つ社員が存在していることが、本当の強みになるのではないでしょうか。
新規事業は「何としても挑戦したい」「この事業をカタチにしたい」という強い意志と熱量を持って臨まなければ動き出しません。
そしてそれは経営者だけでなく、担当する社員も同様です。社員発の新規事業が続々誕生する企業の秘密、それは社員の「やりたい」を受け止め、応援し、チャレンジできる環境づくりにあるのかもしれません。
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