病院向け事業の老舗に婿入り入社

 病院向けの機器および消耗品事業を展開する三田理化工業は、1949年に現在の大阪市北区で創業されました。営業部門と技術部門の両方を有しており、設計・製造・販売・修理をワンストップで手がけています。入院している乳幼児のミルクの準備をサポートする「調乳システム」が主力事業です。現在の事業規模は、従業員40数名、売上は年間7億円規模となっており、全国のNICUで赤ちゃんが使う哺乳瓶の7割は三田理化工業の洗浄機で洗われているそうです。

 「日本全国の赤ちゃんの命を守る仕事として、みんなが誇りを持って働いています」と、語るのは専務取締役を務める千種純さん(32歳)です。現社長の千種康一さんの次女と結婚したことをきっかけに、3代目の後継者として入社しました。2017年のことです。

 「大学の法学部を卒業した後の5年間、東京の総合商社に勤務していましたが、結婚前の妻から家業に後継者がいないことを相談されました。企業経営そのものに関心があり、まずは事業についてお話を聞かせてもらうことにしました。“後継者不在で事業が継続できなくなれば全国の病院が困った事態に直面する”と、事業が持つ社会的責任を熱く語る社長が印象的でした」と、後継者として入社したきっかけを教えてくれました。

入社後すぐに営業部門に配属、案件の引き継ぎに苦戦

 入社後、「まずはお客様と接することが重要」という社長の意見に共感し営業部門に配属された純さんですが、引き継ぎ作業に戸惑います。引き継ぎに使われたA3用紙1枚の一覧表には、企業名・担当者名・1行メモなど基本的な項目が表面的に列挙されているだけでした。

 「詳しい情報はすべて各担当者の頭の中にあるといった状況でした。入社からしばらくはお客様訪問をするなかで、必死に情報収集したことを覚えています。人は優しいが、新人が馴染むまでに厳しい道のりがある会社だと思いました」と、苦労話を笑って語ります。

 純さんは「未来の新入社員に同じような引き継ぎの苦労をさせたくない」「売り上げの状況すら見えないこのままだと、事業を受け継ぐことができない」という思いから、入社から3カ月が経った頃、ITを使った改革に取り組み始めます。

 この改革には、営業機会の掘り起こしという目的もありました。「機器の修理は故障の連絡を受けて動き始めることが多かったのですが、本来ならば定期点検によるトラブル予防がお客様にとって理想的です。経営の視点で考えても、定期点検によるトラブル予防を推進できればスケジュールの見通しが立つというメリットがありました。しかし、納入や修理の履歴など顧客情報が共有されていないため、提案のタイミングを逃してしまうこともありました」と、当時に注目した課題について説明します。

システム構築の知識がないところからのスタート

 情報共有の仕組み作りを目指して純さんが導入したのは、サイボウズのクラウドサービスkintone(キントーン)でした。数多のITツールがあるなかでkintoneを選んだ決め手の一つが「使い勝手」でした。

 「ITツールの導入は入社3カ月目で、いきなり大きな失敗をするわけにも行きませんでした。まだ社員のことをよくわかっておらず誰にも頼れない状態だったため、私一人で、まずは小さく進める必要がありました。しかも文系学部出身でシステム構築の知識は皆無だったので、できるだけ直感的な操作であれこれ試しながら導入を進められるITツールを探しました。中でもkintoneは、ドラッグ&ドロップといった簡単なマウス操作で情報共有システムを構築できるなど、使い勝手が良く「これなら自分でもできそう」という安心感がありました」

 もう一つの決め手が「幅広い用途で使えること」です。機器の定期点検をスムーズに進めるには、営業部門と技術部門の連携が欠かせないと考え、両部門で共通して使用できるシステムを探していました。「kintoneは営業支援ツールといった切り口に留まらず、幅広い用途に使える点が魅力的でした」と純さんは語ります。

kintoneについてより詳しく知る

提案型の攻めの営業に進化

 まず売り上げを見える化したことで、大きな変化が現れます。販売の傾向が見える化し、勝ちパターンができたのです。売り上げの内訳3割程度の比率に留まっていた機器点検の売り上げが5割まで高まるなど、戦略的な営業力の向上を実現しました。「コロナ禍で2020年には病院を訪問することが難しくなりましたが、点検の件数が伸びたので売上を下支えできました。顧客情報を社内で確認できるため、リモートの営業活動をタイムリーに進められたのも大きかったです」

営業部門が活用するアプリ。対応履歴を集約している

 また、提案時の工数も大幅にカットすることができたそうです。「以前は商談のたびに顧客情報や過去の経緯をとりまとめていたので、1件あたり1時間半ほどを費やして準備していました。商談の準備のために残業をするような状態でしたが、現在はkintoneで顧客情報を確認するだけなので5分もかかりません」

 「各担当者の入力した情報が、顧客情報アプリに集約されており、顧客名・納品内容・納品時期・訪問履歴などあらゆる情報が一目瞭然です。納品から一定期間が経過した顧客を簡単に抽出できるため、営業担当が提案のタイミングを逃しません。また、新人は顧客情報アプリを閲覧すれば、1つの画面で網羅的に情報を得られるので私がかつて経験したような苦労をしなくてもよくなりました」

 情報の入力画面は業務ごとに設計されており、各担当者の連携がスムーズになるように工夫されています。「例えば修理業務の担当者がタスクのステータスを「修理完了」にすると、請求処理を担当する事務員に通知が飛びます。このように入力と連絡が一体となっているので、業務の抜け漏れが発生しません」 

 さらに、クレーム対応の負担も軽減されました。kintoneが導入される以前は、クレームの報告や各責任者への連絡といった社内コミュニケーションがFAXやメールで行われており、進捗の把握が難しいことから社内のストレスが大きかったそうです。また、時間がかかるFAXやメールのコミュニケーションではクレーム対応が長引くこともありました。

 「クレーム対応がペーパーレス化したのも大きな効果でした。kintoneを見れば進捗を簡単に把握できるため、無駄な承認待ちの時間が生まれませんし、紙がなくなることもありません。 もしクレーム対応の流れがどこかで止まっていても、すぐに状況を把握できるのでスピーディーに問題解決に動くことができます。そのため、クレーム対応に必要な期間が短くなりました」

個人で管理していた顧客情報をkintoneで一元管理

会社全体に広がる kintoneの活用

 導入から4年が経った現在、全社員にアカウントが与えられるなど、kintoneの活用方法は大きく進化を遂げています。「まず、休暇届けの紙をなくしました。小さいことですが、この紙のやり取りがなくなっただけで社員のストレスが大きく減りました。以前の紙のフォーマットは、まずB5で印刷して、半分切ってから提出しないといけなかったので手間がかかっていました。総務部のメンバーからも、有給休暇の日数管理が以前に比べてやりやすくなったと好評です」と語ります。

以前の紙のフォーマット
休暇届をkintoneに変更し、紙のやり取りがなくなる

 さらに消耗品工場ではkintoneを活用した生産管理の効率化も進んでいます。「どの製造ロットが、今どの工程にあるか、といった進捗をリアルタイムで確認できるようになりました。ロットごとに、洗浄が終わった日、滅菌が終わった日、と日程を登録し、最後の出荷判定日が入力されれば一覧表示から消える、という形式になっています。現場にはタブレットがあり、直接一覧から日付を入力することですぐに作業の完了を報告できます」

 「以前は生産管理を表計算ソフトで管理していたのですが、現場の方が紙に手書きで書いたものを表計算ソフトに打ち直す、ということをしていましたので、その作業がなくなっただけでも手間軽減になりました。また、不良が発生した際、ロット番号で検索すれば、製品情報の詳細がすぐに参照できるのも便利です。紙では検索できませんから」

 コロナ禍ではリモートワークを余儀なくされる場面もありましたが、kintoneにはチームの一体感を保つ側面もあったそうです。

 「社員同士の対面機会が激減しましたが、kintoneでスケジュールを管理していたことが功を奏しました。カレンダーを通じてお互いの様子がわかるため、リモートワークが広がっても連携をスムーズに行うことができました。最近では、日常の出来事をSNS感覚で投稿できる掲示板を作るなどカジュアルなコミュニケーションができる場としての活用を試みています」 

過去の失敗経験を活かし、こだわった「ルール作り」

 情報共有の改善は成果が出るまでに、2年の時間を必要としました。社内浸透に時間がかかった理由について「当初はkintoneの入力をルール化していなかったからです」と純さんは説明します。

 「後継者という立場でしたが、新入社員としての遠慮から、ルール化のお願いをためらってしまいました。しかし、部門長にkintoneの入力をルールとして徹底してほしいとお願いしたところ、入力することを当たり前にできたそうです。さらに「商談の準備時間が短くなる」などの具体的な効果が見え始めてからは、一気に現場に浸透していきました。フレッシュな視点からのルール作りは、一般の新入社員には難しいからこそ、後継者であり、新人でもある私に期待される役割の1つかもしれません」と語ります。

 使い勝手の改善が絶えず続けられていることも、さらなる浸透を促しています。「初めて使う人でも迷わず入力できるように細かな工夫を盛り込むようにしています。カラーリングやボタンレイアウトなど、社員の好みに合わせて何度も変えてきた部分も少なくありません。控えめな社員も多いため、“何か困ったことはないですか?”と積極的に改善要望を引き出す工夫もしています。 kintoneの使い勝手の向上や業務アプリの開発のために社内ヒアリングを繰り返すうちに、社内でいち早く私の立ち位置が明確になり、自身の各部署の業務理解が深まりました」

カスタマイズしたポータル画面。デザインは社員の好みにあわせて工夫している

後継者の最初の一歩にkintoneを

 入社間もない時期から、ITを使った業務改革を推進してきたことについて純さんは次のように振り返ります。「後継者は漠然としたプレッシャーにさらされて焦りを覚えることが少なくないのではないでしょうか。私も“何かを変えなくては”と焦る時期がありました。突破口になったのがkintoneによる改革のスモールスタートです。後継者としての役割を果たしている実感のほか、関数やデータベース構築を習得するなど自分の成長機会に繋がりました。後継者の最初の一歩をサポートしてくれる存在として、kintoneをオススメしたいと思います」

サイボウズのクラウドサービス 【kintone(キントーン)】

kintoneは、日々の業務に必要なシステムをだれでも簡単に作ることができる、サイボウズのクラウドサービスです。
導入担当者の93%が非IT部門で、全国20,000社以上に導入されています。
プログラミングなど特別なスキルや知識は不要です。 データの登録・共有はもちろん、集計やグラフ化もマウス操作のみで行えます。
スマートフォンやタブレット端末にも対応しているので、外出先からも社内のデータを確認できます。