オンライン営業に必須のスキル 社内に一気通貫の体制を作る方法とは
オンライン営業は対面営業とは異なるスキルが求められます。見込み客の獲得から成約後のCRM(顧客関係管理)まで、一気通貫型の仕組みを整えるには、どのように効果的な運用体制を作ればいいのでしょうか。オンライン営業の専門家が図表も用いながら解説します。
オンライン営業は対面営業とは異なるスキルが求められます。見込み客の獲得から成約後のCRM(顧客関係管理)まで、一気通貫型の仕組みを整えるには、どのように効果的な運用体制を作ればいいのでしょうか。オンライン営業の専門家が図表も用いながら解説します。
目次
前回は「オンライン営業で見込み客をつくるには 商談につなげる工夫」と題し、オンライン営業で見込み客を増やし、商談にこぎつけるための工夫やポイントを事例付きで解説しました。今回は「オンライン営業がうまくいかない理由」の3回目として、オンライン営業の運用体制を作るためのポイントを解説します。
筆者はクライアントから次のような声を聞きます。
「オンライン営業をやりたいが運用体制を作ることができない」。そんな悩みを持つ経営者の方に参考にしていただきたいと思います。
オンライン営業は見込み客の獲得から始まり、案件(商談客)獲得、商談、商談成立後のCRMという4段階で構成されます。まず継続して接触するための許諾を得て、その見込み客に動機付けをし、商談のアポイントメントを獲得します。そして一度受注すると、継続や追加の受注を獲得するためのCRMへと進みます。従来一人の担当者が行っていた営業工程を分業化することで、営業の難易度を下げて全体効率を上げるのが狙いです。
対面営業はゴールが受注なので、高確度の少数の見込み客への商談が中心です。見込み客や案件づくりは手薄にならざるを得ません。つまり対面営業では、少数の「今すぐ客」だけしか相手にすることができないのです。
その点、オンライン営業は業務を細分化することで、担当者の守備範囲が限定されるので、量と質の向上が見込めます。多数の「これから客」をキープしつつ、商談のタイミングを見計らった案件づくりができるようになります。ところが、この営業業務の分業化が簡単ではないのです。
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全ての営業工程を一人が担う場合、対面で会話した相手の属性や反応などによって、受注確度の高低を主観的に判断します。いわゆる営業の勘や嗅覚と言われるものです。この主観的な判断で、追いかけるべきか否かを決めます。
しかし分業の場合、オンライン営業の担当者が対面営業の担当に良質な商談を設定することがゴールになります。主観を排除し、客観的な事実に基づく情報のトスが必要となります。従って、ターゲットの属性情報や受注確度の高低の定義が必要となります。
一般的にこれらの情報は「BANT情報」と呼ばれ、予算、決裁権限、ニーズ、タイミングなどに分類されます。オンライン営業は、データの設計、整備、運用が重要な業務になるのです。
オンライン営業では、見込み客獲得、商談といったプロセスごとに役割とゴールを定め、データの定義をしなければいけません。
例えば、見込み客の獲得は「氏名・役職・連絡先」、案件(商談客)獲得では「顧客が解決したい困り事・現在の状況・解決したい時期・決定権は誰にあるか・予算の有無」といったデータが必要になります。
営業を次のプロセスに進めるには、こうしたデータを確保すると同時に、その質にも責任を持つことになります。
オンライン営業では、すべてのプロセスを理解したうえで社内の運用体制を考えるのが良いでしょう。詳しくは「オンライン営業のプロセス表」(図1、図表はすべて筆者作成)で整理しましたので、参照下さい。
プロセス | 見込み客獲得 | 案件(商談客)獲得 | 商談 | CRM |
---|---|---|---|---|
目的とゴール | 継続接触の許諾獲得 | 商談アポイントメントの獲得 | サービス提供の契約獲得 | 継続取引・追加取引の契約獲得 |
取得データ | ●担当者情報 ・部署名 ・役職 ・氏名 ・連絡先(メールアドレスなど) |
●商談事前情報 ・解決したい困りごと ・現状の実施状況 |
●BANTC情報 ・決裁権限者 ・予算 ・導入時期 ・競合 |
●満足度と周辺の困りごと ・導入後の満足度 ・導入製品以外の困りごと ・現状の実施状況 |
実施内容①企画設計 | ●実施要件の定義(KGI・KPI) ●投下コストと成果の決定 ●チャネルの特定・優先順位の決定 ●運用体制決定 |
●実施要件の定義(KGI・KPI) ●投下コストと成果の決定 ●ナーチャリング設計 ●運用体制決定 |
●商談定義(KGI・KPI) ●投下コストと成果の決定 ●商談プロセスとステイタス定義 ●商談品質の要件定義 ●運用体制決定 |
●CRMの定義(KGI・KPI) ●投下コストと成果の決定 ●CRMの設計 ●運用体制決定 |
〃②データマネジメント | ●見込み化に必要な取得データの項目設計 ●見込み客選別の要件設計 ●インフラ設計・初期設定 |
●案件化に必要なデータ項目の設計 ●案件化の選別要件の設計 ●インフラ設計・初期設定(CRMなど) |
●商談ステイタスに必要なデータ項目の設計 ●インフラ設計・初期設定 (SFA) |
●既存客・休眠客の定義とデータ項目設計 ●アップセル・クロスセル活動の設計 ●休眠抑止・休眠復活活動の設計 ●インフラ設計・初期設定 |
〃③営業ツール制作 | ●営業ツール制作 ・ホームページ制作 ・資料請求用コンテンツ制作 ・コールスクリプト ●コンテンツ運用 ・番組表作成 |
●営業ツール制作 ・WEB制作(事例、顧客の声など) ・メール・SNSコンテンツ制作 ・コールスクリプト ●コンテンツ運用 ・番組表作成 |
●営業ツール制作 ・会社・商品紹介資料 ・提案資料 ・見積書・契約書 |
●営業ツール制作 ・満足度調査の設計 ・アンケート・インタビュー ・困りごと調査 ●アップセル・クロスセル活動 ・定期メール・電話 |
〃④整備・構築 | ●広告配信・測定ツール選定 ・チャネルに合わせたツールを選定 ・WEB ・コール(CTI) ・広告 |
●ナーチャリングツール選定 ・チャネルに合わせたツールを選定 ・WEB ・メール・SNS ・コール(CTI) |
●商談管理ツール選定 ・SFA、Google、Excelなど ●コンテンツツール選定 ・コンテンツ補完・共有など |
同左 |
〃⑤オペレーション | ●運用設計 ・社内・社外役割分担 ・運用フロー作成 ・タスク・スケジュール表の作成 ●実運用 ・ディレクション |
同左 | ●営業マネジメントの設計 ・役割分担 ・運用フロー作成 ●商談品質マネジメント ・取りこぼし調査実施 ・商談・提案品質アップ支援・教育 |
●運用設計 ・社内・社外役割分担 ・運用フロー作成 ・タスク・スケジュール表の作成 ●実運用 ・ディレクション |
営業業務を分業化するための第一歩は、プロセスの分解です。まずはプロセスごとの役割を明確にするために、目的とゴールを設定します。
例えば「見込み客獲得」は継続接触の許諾、「案件(商談客)獲得」は商談アポイントメント、「商談」は契約、CRMは継続取引・追加取引、という獲得数のゴールが考えられます。
次に取得して次のプロセスへ引き継ぐ顧客データを定義します。例えば、商談の担当者はCRMの担当者に、決裁権限者や更新時期、周辺製品の導入状況などを引き継ぐイメージです。
さらに、データ取得からアウトプットするまでの業務要件を企画設計します。これが、いわゆる施策の概要企画になります。
例えば、前回記事で紹介した美容院向けに顧客カルテのシステムを提供しているA社では、見込み客獲得のために「美容院の経営実態に関する調査」を企画設計しました。
美容院オーナーにコロナ禍での経営実態調査を提供する代わりに、オーナーの氏名や連絡先、そして継続的に接触して良いかという許諾を獲得しています。
このプランニングに基づき、アプローチ先の美容院のリスト整備、ネット調査に基づく調査結果の集計、集計結果の見栄えを良くする制作作業、コール運用体制の構築などの業務内容を明らかにします。
営業業務の分解ではこの企画設計こそが肝であり、最も難易度が高いと言えます。なぜなら、ネットの技術やデータ加工などの専門的な知識やスキル、経験が必要になるからです。
コンテンツ制作、データマネジメント、システムインフラの整備構築、オペレーションといった作業は、旧来型の営業とは異なる業務スキルになります。
従来は営業担当が対面することで、見込み客の属性やニーズを理解していました。受注確度を見極め、商談の可否を判断し、商談の際にどのような資料を持参すれば良いかも担当営業の判断です。
ところが、オンライン営業では相手の顔が見えません。属性やニーズ、受注確度などは、全てデータから読み取ることとなります。
誰にどのような情報提供をいつごろアプローチするのか。それを実現するには、データマネジメント、営業ツール制作、オペレーションの役割がとても重要です。
オンライン営業の業務と求められるスキルを、以下の図2にまとめましたので参照下さい。
業務 | 実施内容 | 求められるスキル |
---|---|---|
企画設計 | プロセスごとの施策の企画立案及びマネジメント | プロジェクトマネジメント経験者 |
データマネジメント | データ整備、統合及びデータの運用設計・運用 ほか | 分析業務経験者 |
営業ツール制作 | WEBコンテンツの企画制作及び更新ほか | WEBディレクターまたはWEB制作経験者 |
インフラ整備・構築 | データ・WEB・メール配信・コールなどツール選定と設定 | 情報システムまたは、SIベンダー経験者 |
オペレーション | 広告配信、メール配信、コール業務などの運用設計と運用 | ネット広告会社経験者やコールセンターSV経験者 |
ところが、このような人材の採用は時間もコストもかかります。仮に採用できても、業務に精通した人材がいない場合、育成も評価もできない事態に陥ります。高いコストをかけても定着させられず退職するというのが最悪のシナリオです。
そこで、筆者がお勧めしたいのは外部パートナーの活用です。自社だけではおぼつかないパートを外部パートナーと一緒にプロジェクトを立ち上げ、推進するという手法です。
採用・育成コストの抑制という経済合理性だけでなく、迅速な実施や施策精度を高めることが期待できるからです。
ただ、優秀な外部パートナーを起用しても、全ての工程を引き受けることができるケースはまれです。仮に有能なパートナー企業を見つけても、オンライン営業の全プロセスを完成させるには、最短でも1年~1年半はかかると見ておきましょう。
確実に進めるには課題が大きいところから着手し、一つひとつ着実に形にしていくことをお勧めします。そうすればパートナー選定の幅も広がります。
具体的な進め方は、以下の図3「オンライン営業のロードマップ」にまとめたので、参考にして下さい。
現状分析と優先課題の特定 | 課題解決テーマのプラン作成 | 実行 | 定着 | |
---|---|---|---|---|
概要 | 現在の課題意識、過去の施策、営業体制、営業マネジメント、利用しているツール・インフラなどを整理し、優先テーマを割り出す。 | データマネジメント、見込み客獲得、案件(商談)獲得、商談、CRMの中から優先テーマを決め、プランを策定。 | 決定した運用体制に基づき、役割に定められた業務を運用し、PDCAを回す。 | 実行フェーズで確立した成功パターンを定着化させる。 終わったら、次の課題テーマを決めて実施。 |
実施内容 | ・現状分析(目標とのGAP分析ほか) ・営業環境変化の把握・現状分析 ・営業課題の特定、優先順位付け |
・目的・ゴールの定義 ・予算の設定 ・実行プランの策定 ・運用体制(外部パートナー)の決定 ・タスクスケジュールの作成 |
・データ整備・データ統合 ・インフラ整備 ・業務プロセスフローの作成 ・実施計画に基づく業務運用 ・PDCAの実行 |
定着化に向け、以下の業務を実施 ・運用体制の修正 ・業務プロセスフローの修正 ・継続運用 |
ロードマップをつくる際は、最初に優先課題を決めるための現状分析を行います。現在の課題意識、過去の施策、営業体制、営業マネジメント、利用しているツール・インフラなどを整理し、中心・優先テーマを割り出します。
具体的には、売り上げ目標の精緻化と現状との乖離が、どの顧客セグメントで発生しているのかを明らかにします。
新規顧客と既存顧客でどちらの売り上げが不足しているのか、さらに単価や継続率に乖離が発生しているのか、という具合に掘り下げます。新規顧客の売り上げなら、見込み客の数か、見込み客からの案件化の数なのか、などと分析します。
このように、乖離を掘り下げることで障害発生のプロセスとその要因が特定され、解決すべきテーマの優先順位付けができます。
例えば「新規売り上げが減少し、目標と乖離が発生しており、掘り下げたところ展示会の減少で見込み客の獲得ができていない」という問題があったとします。
この場合は、見込み客の獲得を展示会に依存していることが課題です。したがって、解決すべきテーマは「展示会に代わる見込み客の獲得手段の構築」となります。
また「見込み客は確保できているが、テレワークが進み対面によるヒアリングや動機付けができず案件化の数が減少した」という場合は、対面営業に代わる動機付けと案件化の強化にフォーカスしなければいけません。
課題解決のテーマが決まれば、次に解決に向けたプランを策定します。この段階で、自社に不足しているスキルを補完するための外部パートナーを選定します。外部パートナーに求める内容は、自社の経営資源やリソースとの見合いで選定します。
前述したとおり、オンライン営業の全ての業務に精通しているパートナーは極めて少ないといえます。パートナー会社の得手不得手を理解し、テーマに合わせて選ぶことで、起用ミスを防げます。
では、外部パートナーにはどのような会社が考えられるでしょうか。図4「外部パートナーの分類表」を作成したので参照下さい。
パートナー | 得意業務 | 活用範囲 |
---|---|---|
営業コンサル系企業 | 企画設計、業務フロー・運用体制作り | プロジェクトマネジメントとして伴走 |
リストベンダー系企業 | データの整備・統合 | 名寄せなどのデータ整備、企業情報の付与ほか |
クリエーティブ系企業 | コンテンツの企画制作 | DM・WEBのデザイン制作、WEBツールの構築ほか |
ツールベンダー企業 | 保有しているシステムを導入するまでの指南と初期設定 | システム導入と構築 |
ネット広告会社 | 広告プラン作成と広告運用 | 見込み客獲得の広告配信オペレーション |
CRM系企業 | 業務設計、データマネジメント、コール・メール配信業務 | 案件獲得とCRMのコール・メール配信オペレーション |
上記の「パートナー企業の分類表」を見て、複数のパートナー企業を選定する必要があることは、お分かりいただけたと思います。
ところが、実際、玉石混交のパートナー候補の中から、自社にマッチした外部パートナーを見つけるのは、なかなか難儀です。選ぶ側はリソースも専門知識も限られているからです。
どうしたら、自社に合致するパートナー企業を選ぶことができるのか。続きは次回に解説します。
今回はオンライン営業の体制づくりをテーマに、プロセスの全体像、必要な業務内容、外部パートナーの選定などのポイントを解説しました。皆さんの会社で営業の効率化を進める際には、ぜひ参考にして下さい。
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