オンライン営業で見込み客をつくるには 商談につなげる工夫を紹介
営業の現場では商談後の進捗は管理できても、商談にたどり着くまでの見込み客や案件をつくる作業は、社内で評価されにくく管理も行き届かないという問題があります。今回は、オンライン営業を活用して見込み客を増やし、商談にこぎつけるための工夫やポイントを、実際の成功事例を交えて解説します。
営業の現場では商談後の進捗は管理できても、商談にたどり着くまでの見込み客や案件をつくる作業は、社内で評価されにくく管理も行き届かないという問題があります。今回は、オンライン営業を活用して見込み客を増やし、商談にこぎつけるための工夫やポイントを、実際の成功事例を交えて解説します。
前回から「オンライン営業が上手くいかない理由」と題し、オンライン営業につまずいてしまうポイントを整理して解説しています。前回記事では、社内にある名刺や納品先のデータから、営業先のリストを作るためのポイントを解説しました。今回は営業先のリストから見込み客をつくるためのポイントを解説します。
多くの中小企業から、商談後の営業進捗は管理できても、商談へ導くための見込み化・案件化は管理が難しいという声を聞きます。悩んでいる経営者の方にぜひ参考にしていただきたいと思います。
ほぼ全ての企業では、営業年度ごとの業績目標値を設定しています。営業組織ごとに目標を定め、受注が見込まれる顧客の名前、商談ステータス、売り上げの見込み時期などを管理しています。毎週の営業会議では、商談の進捗や売り上げ見込みを報告し、不足している対策などを議論しています。
ところが、営業の進捗状況の管理は商談後に偏るケースがほとんどです。商談が生まれる前工程となる見込み客や案件づくりについては、管理が行き届いていないというのが実態です。見込み客づくり、案件づくり、商談の違いについて、表にまとめました。
見込み客づくり | 案件づくり | 商談 | |
---|---|---|---|
ゴール・目的 | 継続的に接触することの許諾を獲得する | 商談のアポイントメントを獲得する | 契約を獲得する |
主な活動 | 製品に関連する情報を継続的に提供する |
製品購入の動機付けを行い、商談対象客を選別する |
お客様の課題解決策を提案し、製品サービスの優位性に納得してもらう |
主な管理指標 | ・名刺獲得数 ・セミナー参加数 ・インバウンド数(問合せ・資料請求) |
・商談設定数 ・接触数 ・情報取得数 |
・受注数 ・商談数 ・提案数 ・見積提示数 |
主な手法 | ・広告の出稿 ・展示会への出展 ・セミナーの開催 ・HPの作成と更新 など |
・DM送付 ・架電 ・メール配信 ・販売パートナーによる紹介 |
・オンライン商談 ・対面商談 ・販売パートナーによる商談 |
表で示したとおり、「見込み客づくり」と「案件づくり」は商談の前工程になります。見込み客づくりとはターゲットリスト(潜在顧客)に接触して担当者情報を取得し、継続的な接触への許可を得る作業です。案件づくりは見込み客の実態や課題を把握して、商材やサービス購入の動機付けを進め、商談に値する顧客を選別することをいいます。
それでは、なぜ見込み客や案件をつくることに関して活動管理ができないのでしょうか。その理由は大きく三つあります。
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一つ目の理由として、高度経済成長時代から培われた営業の多くがルート営業だったことが挙げられます。
決められた顧客へ御用聞きに伺い追加の注文を取ってくる。追加注文が出なければ訪問頻度を高める。以前はそんな営業活動が中心でした。
日本全体が成長する局面では、ルート営業だけで注文の量が増え、営業成績も上がりました。新たな見込み客づくりに注力する必要が無かったといえます。
二つ目の理由は見込み客を獲得する「展示会」という手法の定番化です。
一般社団法人日本展示会協会の調査によると、2019年に開かれた展示会の件数は603件、出展企業・団体の総数は7万7041社、総来場者数は749万484人になります。1人あたり五つの展示ブースを回ると仮定すると、1社平均で約500人の見込み客ができる計算になります。
展示会の来場者に商品のデモンストレーションを行って、名刺を交換し、連絡の許可を得る。そして展示会後に架電して商談のアポイントを獲得するいうのが、お決まりの手法でした。
ところが、新型コロナウイルスの感染拡大で展示会の自粛が進み、見込み客づくりの場が減りました。しかし、多くの企業は定番の手法に慣れてしまっているため、新たな見込み客づくりの手法が確立できていないのです。
三つ目の理由としては、営業マネジメントが挙げられます。営業の評価対象は契約数や売り上げが主流で、契約に至る前工程の「見込み客づくり」や「案件づくり」はほとんど評価されません。
多くの企業では「ターゲットとなる潜在顧客を見つけるには人脈を広げなさい」、「電話で商談アポイントを獲得しなさい」という指導をします。
しかし、人脈を広げたから、見込み客をたくさん作ったからといって評価はしません。契約を獲得して初めて評価に値する活動と見なします。評価対象外である活動に対するマネジメントは、どうしても弱くなります。
ところが、コロナ禍で営業環境は大きく変わりました。展示会が減ってテレワークが浸透し、営業活動の主戦場もオンラインに置き換わりました。「見込み客づくり」や「案件づくり」の定義や指標の設定、マネジメントが、契約数や売上高に大きく影響する時代となったのです。
ここからは「見込み客づくり」を成功させている会社の実例を紹介します。
美容院向けにリピーター獲得を目的とした顧客カルテのシステム提供をしているA社は、見込み客の許可を得ることとニーズ把握を兼ね備えた「調査営業」を行いました。
A社はあらかじめ美容院の経営実態に関するネットリサーチ(調査)を行い、その調査結果を美容院へ送付しました。
ちなみにネットリサーチとは、リサーチ会社が保有するモニターの中から調査対象を選定し、アンケートに回答してもらうサービスです。回収したいサンプル数と調査項目を決めたら、2~3日程度で調査結果を集めることができ、手軽で低コストなのが特徴になります。
調査結果の送付後に「御社も調査にご協力ください。ヒアリングさせて頂いた結果を調査資料としてフィードバックします」と呼び掛けつつ、継続的に接触する許可を得ます。
コロナ禍で美容院オーナーがどのように経営の采配をふるっているかが関心事になっており、許諾は取りやすくなっています。
調査では、営業課題や営業効率を上げるための工夫(集客手法・導入設備など)、今後注力したい施策をヒアリングし、見込み客の実態とニーズを把握します。
半年間で美容院約5千件に調査を持ちかけ、協力してくれたオーナーの割合は5割弱です。オーナーの氏名、メールアドレス、調査結果をフィードバックするための接触許可だけでなく、営業課題、導入設備、今後注力したい施策などの情報も取得しました。
見込み客にできた総数は約2300件で、そのうち商談に値する美容院の数は約1千件。最終的に案件化に成功したのはその半分の約500件に上りました。
筆者の経験だと、一般的なセールスコールによる商談アポ率の平均が1%なので、単純計算で10倍の効果があったことになります。顧客を理解したうえで商談に入れることも加味すれば、その価値は数十倍と言えるでしょう。
ターゲットである潜在顧客に対して、興味を抱く情報を提供し、見込み客と案件づくりに成功した事例になります。
次は、過去に接触した顧客を見込み客にする方法について、連載第1回でも取り上げた昇降機製造販売メーカーB社の事例から紹介します。
B社ではまず売り込みではなく、顧客に役立つ情報を提供しました。具体的には、新製品の紹介、内覧会の案内、導入事例、お客様インタビュー、良くある質問などのコンテンツを作成し、メールで届けたのです。
また、顧客がリクエストしやすいように、カタログ請求、内覧会への参加申し込み、見積もりや図面作成依頼など様々なリクエストを受け付ける窓口もホームページに設置しました。
その結果、疎遠だった未取引客からは、新製品の展示会への参加や資料請求などのリクエストがありました。過去に取引があった顧客からは、工場の新設にあたっての図面設計依頼や問い合わせなどが入るようになりました。
今までホームページやメール経由での問い合わせはほとんどありませんでしたが、スタート直後から月50件程度のリクエストが発生したのです。
リクエストを寄せた顧客を分析すると、事前に「よくある質問」や「導入設置事例」を閲覧していることがわかりました。つまり、見込み客への動機付けに有効な情報とは「よくある質問」や「導入事例」であることが分かったのです。
B社では、安全管理における適法条件への質問に対する回答を事細かに掲載し、昇降機設置までの時間を短縮したり、業務効率を向上させたりした事例などをホームページに掲載していたのです。
最近では案件づくりを強化するために、チャットボットを活用して「よくある質問」や「導入事例」への誘導に注力しています。
最近、「リファラル」という言葉をよく耳にしませんか。リファラルとは顧客の知人や友人を通して紹介してもらう手法のことです。
最近では従業員の紹介によるリファラル採用を重視する企業が多くなっているようです。人材紹介会社の紹介手数料が高騰していることもありますが、何より会社にマッチする人材が獲得できるからです。
会社の風土や方針、仕事内容を理解している従業員が採用候補者を選定し、体験談を通して動機付けを行うことで、戦力人材の獲得につながります。人材紹介会社への紹介料も不要なので、従業員にも入社する人にもインセンティブを支払うことができます。
見込み客や案件をつくるときも、リファラルを生かす企業は数多くあります。建設、住宅、自動車、通信商材などに見られる紹介制度は、まさにリファラル採用の仕組みと同様です。
商材やサービスの利用者にその体験を知人に伝えてもらい、見込み客として紹介してもらいます。そのお礼として、紹介手数料などの特典を提供します。
既存顧客からの紹介は接触許諾の工程が不要になるばかりか、購入に対する動機づけまで代行してもらえるわけです。筆者の経験上、顧客紹介からの契約率は、その他の手法で獲得した見込み客の2倍になり、最も強力な手法と言えます。
ただし、顧客が素晴らしい体験をしていなければお願いすることはできません。逆に嫌な体験を持たれてしまえばネガティブな情報が広まり、将来の商談の芽を摘んでしまう可能性すらあります。
既存顧客の満足度を徹底的に向上させることが、新たな見込み客や案件づくりへの最短距離とも言えます。
営業環境が変化する中で、商談後の営業管理をしているだけは、業績目標を達成することが困難になりつつあります。オンライン技術を駆使した「見込み客づくり」と「案件づくり」はさらに重要になってきます。
そこで多くの企業が、対面営業とオンライン営業との分業制に取り組み始めました。営業プロセスごとのマネジメント力を高めることを狙っています。オンライン営業の評価指標は、先の表で示した通り、見込み客数と商談数。対面営業は契約数、継続率、売上高、これに加え、既存顧客からの紹介数です。
オンライン営業の目標は、対面営業への新規商談の供給数となります。必要な商談数は次のように算出できます。
必要な商談数=新規売上÷顧客単価÷契約率
例えば、新規売上目標が9千万円、顧客単価300万円、契約率30%とした場合、必要な商談数は100となります。
商談数をさらに分解し、見込み客の数、見込み客のステータスごとの数などのKPI(中間目標)へと落とし込み、商談に至るプロセスのマネジメントが機能するようにします。売上目標のみのマネジメントと比べると、商談に至るまでの工程マネジメントが精緻化できます。
ただし、オンライン営業の専門部隊を作ったからといって、すぐに成果が出るとは限りません。
営業先のリストの量と質、見込み客のリスト量、営業先へ提供できる情報の整備状況、オンライン営業担当のスキルなどによって、成果が出るまでの期間は大きく変わります。会社の営業資源の状況と照らし合わせて、マイルストーンや目標設定をすることが大切です。
次回はオンライン営業でつまずくポイントの3回目として、見込み客や案件づくりを担う組織の運用体制ができない理由と解決策を解説します。
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