情熱と根性の営業がリスクに オンラインの精度を高める「顧客リスト」
オンライン営業にうまく対応できない中小企業は少なくありません。担当者の情熱や根性に頼る営業はむしろリスクになり、精度の高い顧客リストの活用による効率的な営業が求められています。中小企業がオンライン営業につまずく理由を探りながら、精度の高いリストで顧客ニーズを引き出す方法を解説します。
オンライン営業にうまく対応できない中小企業は少なくありません。担当者の情熱や根性に頼る営業はむしろリスクになり、精度の高い顧客リストの活用による効率的な営業が求められています。中小企業がオンライン営業につまずく理由を探りながら、精度の高いリストで顧客ニーズを引き出す方法を解説します。
目次
前回まではオンライン営業の取り組みに成功した中小企業の事例を紹介しました。業界関連ニュースで見込み客のニーズ顕在化に成功した建設会社、商談後のフォローで取りこぼし防止に成功したWEBコンサルティング会社、メンテナンス収入の効率化を進めた設備機器メーカー、営業利益を4倍にした工場設備機器メーカーを取り上げています。
これらの事例ではすぐに成功に至ったように思われますが、いずれも成功を実感するまでにはいくつかの失敗がありました。
今回から「オンライン営業がうまくいかない理由」と題し、オンライン営業に着手する際につまずくポイントを3回にわたって解説します。最短距離でオンライン営業を成功させたい経営者の方に、ぜひ読んでいただきたいと思います。
経営者がオンライン営業に期待するのは、営業の効率化です。対面だけで活動していた時よりも、商談機会の量・質ともに上回ることが求められます。
営業現場では商談を獲得する手法として、古くから「テレアポ専任チーム」というものがありました。「アポイント獲得専門の担当を配置し、1人あたり1日100件程度の架電をすれば、商談とアポイント獲得の両方を抱える営業よりも案件を多く獲得できる」という期待があったのです。
ところが新型コロナウイルスの感染対策で、その手法はうまくいかなくなりました。顧客側の「働き方」と「商談への期待」が変化し、営業環境にも大きな影響があったからです(参考記事)。一体どういうことなのか。次章以降で詳しく見ていきましょう。
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「働き方」の変化とはテレワークの浸透です。会社規模や業種によって異なりますが、営業先の会社に電話しても担当者につながりにくく「テレワークのため不在です」と言われることが多くなりました。
担当者の携帯電話やメールアドレスを知らないとつながらない、という状況も起きています。
リモートになったことで営業先が抱く「商談への期待」も大きく変化し、効率性・合理性を追求するようになりました。対面する時間も情報提供する時間も惜しむようになりつつあります。
有限責任監査法人トーマツの「リモート商談に関する実態調査」(2020年10月)によると、「面談は30分以内を希望」という回答が5割を占めました。
「課題を理解してもらったうえで、短時間で商談したい」、「こちらが気付かない課題の提示や解決策を教えてほしい」など、営業先が手ごわい買い手へと変わりつつあるのです。
このため、旧態依然としたテレアポ専任体制では失敗します。変化に適した営業スタイルの見直しが必要なのです。
営業スタイルをテレアポからオンラインに切り替えようとしても、うまくいかない中小企業は少なくありません。つまずいてしまう四つのポイントを紹介します。
細かい点は他にもありますが、上記の四つのポイントをクリアすることで、オンライン営業を最短距離で成功に導くことが出来ます。今回はリストマネジメントの軽視で発生するリスクと、成功させるための方法を解説します。
対面とオンラインの大きな違いは、関係性をつくる過程です。対面営業では、担当者が「この会社を取引先にしたい」と決めたら様々な手段で接触を試みます。
一度断られたとしても、あきらめずに何度も足を運び、買い手の担当に顔と名前を覚えてもらって親近感を醸成。懐に入り込んで会話できる関係性をつくります。
そこで初めて顧客の顔が見えるようになり、部署名、役職、導入製品、課題、契約期間などを把握し、ニーズを理解できる状態になります。
ところが、オンライン営業では買い手となる営業先に足を運ぶことはありません。対面ではまったく顔が見えずゼロの状態から懐に入り込み、会話できる関係づくりをしなくてはいけません。
無鉄砲に接触してもうまくいかないばかりか、逆にリスクにもなりかねません。
何度も電話をすると嫌悪され、あきらめずに粘り強くコンタクトを試みようとすると、オプトアウト(接触拒否)され、二度と接触できない状態に陥ります。最悪、ネット上で「A社は相手の都合も顧みず迷惑電話をする会社」などとネットで拡散されかねません。
実際、検索サイトで「会社名」を入力するとサジェスト機能で「迷惑電話」というワードが表示されるケースが散見されます。こうなると、ブランドを損ないかねず、まだ見ぬターゲット企業への接触も困難になります。
営業の情熱や根性を買ってくれる時代は終わりを迎えつつあります。むしろ「私の貴重な時間を邪魔した」と受け取られ、悪評を流されるリスクまで生じるのです。
リストは単なるアプローチ先一覧ではありません。どの顧客企業の誰に、いつ、どのようなオファーをしたら良いのかといった、顧客を理解するための情報を指します。
リストづくりの第一歩として、社内にある情報のリスト化やデータ化から始めることをお勧めします。
社内には納品書、名刺、請求書などの顧客情報が存在するはずです。これらをデータ化し、整理統合することで顧客を三つに分類します。
①名刺も納品書があり、請求書も発行されている | ②名刺と納品書はあるが、請求書は過去のものしかない | ③名刺はあるが、納品書も請求書もない |
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現在も取引がある既存顧客 |
何らかの理由で取引が無くなった休眠顧客 |
過去に提案したが何らかの理由で失注した顧客 |
名刺だけでは、取引実績や購入した商材、購入時期が分かりません。しかし、名刺情報に納品と請求のデータを追加することで、「誰が、いつ、何を購入したのか、または購入してくれなかったのか」、「取引が現在も続いているのか」が分かります。
さらに直近の接触時期や商談内容を追加すると、顧客の輪郭がもっと明確に浮かび上がります。
例えば、未取引の顧客には過去の提案時期、提案内容や失注理由を追加することで、顧客ニーズとのギャップによる失注なのか、それとも提案先や提案タイミングが悪かっただけなのかが見えてきます。
休眠顧客に対しても、取引終了時期、その理由、代替商材の購入有無などを加えると、次なる商機のタイミングが見えてきます。
前回の記事で紹介した設備機器メーカーの事例では、休眠客リストに納品情報の詳細を追加することで、メンテナンスを収益化する商機が見えるようになり、顧客からの依頼獲得に成功しました。
それでは、どのように情報のリスト化やデータ化を進めればいいのか解説します。
具体的な手順は、三つのステップになります。
最初の障壁は、紙からのデジタル化です。「手打ちでデータ入力したら時間と労力がかかる」と諦めがちですが、人が名刺や納品書・請求書を読み込み、手打ちでデータ入力する時代は終わりました。
紙の文書をスキャナーで読み込み、文字を認識してデジタル化するOCR(Optical Character Reader)技術が進化したからです。
スマートフォンに名刺管理アプリをダウンロードし、カメラで名刺を撮影したら、デジタル情報へ変換できます。納品書や請求書も同様に様々なOCRサービスが登場しています。ただし、完璧な状態ではないので、社内でのデータ補正は必要です。
データを突合するうえで、「法人番号」を付与すれば、作業を大幅に軽減できます。法人番号とは国税庁が指定した13ケタの法人の番号のことです。個人番号(マイナンバー)と違って公表されており、誰でも自由に利用できます。
経済産業省からは法人番号付与ツールが公表されており、法人名と法人所在地をアップロードすると、法人番号を付与することができます。これを活用することで、データ突合作業が簡単になります。
最後に、データ運用ルールづくりです。せっかく整備したデータも、放置しておくと陳腐化します。名刺交換や納品書、請求書は日々増え、企業情報も刻移転による住所や電話番号の変更、社名変更、合併、閉鎖などによって刻々と変わります。
いつ、誰が、どのデータをデジタル化し、マスターリストに追加更新するか。作業をルール化し運用することで、初めて生きたデータとなります。
「貴社のターゲットを教えて下さい」。そんな問いに対し、顧客像を分かりやすく流暢に語ることができる営業はまれですが、詳細な顧客データを整備をすることで、攻略すべきターゲット像がもっと明確に見えてきます。
例えば「食品工場を複数保有し竣工から20年以上が経過している食品メーカー」、「SDGs(持続可能な開発目標)を掲げ、工場の省人化や衛生管理に関する困りごとを抱えている会社」という具体像が挙げられるのです。
そんなとき、名刺や納品書、請求書だけでは、会社の規模や業種に関するデータがつかめません。ましてや工場の数や竣工からの経過年数、SDGsに関する情報などもありません。
そこで、必要な情報を得るために、営業先のホームページなどに記載されている企業概要やプレスリリース、拠点や工場の情報などを収集します。
最近は会社のホームページから企業情報を取得し、自動的にリスト化する技術が進歩しています。
これらの情報と自社のリストを突合することで、顧客像がより明確になります。突合できなかった企業は、また見ぬ将来の顧客リストとなります。
顧客像を明確にすることがリストの役目になります。そして、不明な情報を顧客にヒアリングし、商機を把握することがオンライン営業の役割なのです。
顧客リストづくりで参考になるのは、300年もの間、脈々と受け継がれてきた富山の薬売りのビジネスモデルです。
富山の薬売りが持っている「懸場帳(かけばちょう)」には、顧客の住所・氏名だけでなく、家族構成、配置薬の在庫内容、売り上げや利益などが記載されています。さらには、健康状態、かかりやすい病気の傾向、よく使われる薬なども書かれています。
薬売りはこの情報を基に、各家庭の薬の在庫状態を把握し、次回訪問時の補充計画を考えました。さらには家を訪ねる際には、健康に関する会話や最適な置き薬の提案まで行い、信頼関係の向上に役立てていたのです。
各家庭に薬を運ぶだけでなく、ホームドクターのような付加価値を提供していたからこそ、300年も継続するビジネスになりました。
「懸場帳(かけばちょう)」は、現代の顧客リストづくりでも十分通用する考え方です。顧客像を明確にし、ターゲットを定め、商機を見いだすオンライン営業の柱はリストです。情報を追加するほど貴重な経営資産になるのです。
次回は、見込化・案件化の活動管理が出来ない失敗例と解決策について解説します。
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