ヒット商品「ねこずかん」生みの親が語る 中小企業PR企画のヒント
猫のイラストに好きな名前を入れられる印鑑「ねこずかん」のヒットを皮切りに、様々な動物でシリーズ化した「ずかんシリーズ」は、これまで1200以上のメディアで紹介され、累計13万本以上を売り上げました。生みの親である岡田商会2代目の岡山耕二郎さんは、現在では中小企業のPRサポート事業も立ち上げています。岡山さんの考える、中小企業におけるPR企画のヒントとは? 事例とともに分かりやすく解説します
猫のイラストに好きな名前を入れられる印鑑「ねこずかん」のヒットを皮切りに、様々な動物でシリーズ化した「ずかんシリーズ」は、これまで1200以上のメディアで紹介され、累計13万本以上を売り上げました。生みの親である岡田商会2代目の岡山耕二郎さんは、現在では中小企業のPRサポート事業も立ち上げています。岡山さんの考える、中小企業におけるPR企画のヒントとは? 事例とともに分かりやすく解説します
目次
「ねこずかん」はなぜヒットしたのでしょうか。それをひも解くため、岡田商会の歴史を少し振り返ります。
1980年から印鑑の町工場を営んできた岡田商会は、長く卸売業を専門にしていました。2000年からエンドユーザーへのネット販売を開始しましたが、売り上げは芳しくありませんでした。価格競争に苦しみ、2015年には大きな赤字に転落。企業の存続さえも、危ぶまれる状況にありました。
「何かを変えなければ危うい」と考えた岡山さんは、猫のイラスト入り印鑑「ねこずかん」を考案し、2015年末に販売を開始。2016年1月にプレスリリースを配信したところ、テレビや新聞などを含む30以上のメディアで紹介されました。
プレスリリース配信以前にはたった4本しか売れなかった「ねこずかん」は、配信後3日間で5000本を売り上げ、岡山さんはメディアの影響力に驚かされたと言います。
「ねこずかん」は、なぜメディアからの注目を集めたのでしょう。岡山さんによると、プレスリリースの配信と自社公式ツイッターでの情報発信以外に、特別なことはしなかったと言います。
「猫のイラスト入りの可愛いビジュアルと、銀行印としても使える実用性のギャップが魅力となり、こちらからお願いせずともメディアからの取材依頼が次々に入りました」と岡山さんは当時を振り返ります。
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もともと猫好きだった岡山さんが、「手続きに必要だから」ではなく「この商品が欲しい」と付加価値を感じて購入してもらえるような印鑑を目指して考案した「ねこずかん」。
前例のない新しいコンセプトの商品がヒットするという保証はありませんでしたが、会社の業績が悪化するなか「出来る事はすべてやってみよう」という思いで、商品化を進めたといいます。
「中小企業は大企業と比べて世間からの認知度が低く、それゆえ自社の商品やサービスを生活者に知ってもらうためには工夫と努力が必要です。その反面、小さな組織であるからこそビジネス上の決断が迅速にできるという強みもあります。大企業が“売れる保証が無いから”とためらってしまうような斬新な商品を思い切って世の中に出すことで、それが思わぬ反響を呼び、一挙に全国ブランドへと成長する。中小企業はそんな可能性を秘めています」(岡山さん)
それではメディアからの注目を集め、生活者に応援してもらえるような商品やサービスを考案するには、どのような視点を持つと良いのでしょう。そのヒントを、岡山さんは自らがPRのサポートをした2つの事例を交えて解説します。
「ネコリパブリック」(本社:東京都台東区)は 「この世のすべての猫たちに、お腹いっぱいになる幸せと安心して眠れる場所を提供する」というミッションを軸に、さまざまなビジネスを展開する中小企業です。
2019年7月にオープンした保護猫カフェ「ねこ浴場」では、昭和の大衆銭湯をイメージした店内で、まるで湯船で疲れを癒すかのように、ネコと触れ合うことができます。
店内の猫はすべて保護猫で、猫を家族として迎え入れたい人とのマッチングの場にもなっています。「ねこ浴場」は、そのユニークなコンセプトが話題を呼び、プレスリリース配信後、テレビを含む30媒体以上のメディアで紹介されました。
2021年9月に始動したプロジェクト「SAVE THE CAT HIDA」では、岐阜県飛騨市のふるさと納税の仕組みを利用して資金を調達し、飛騨市内の過疎化や高齢化といった地域課題に対し、さまざまな猫事業を通して解決する、ソーシャルビジネスの立ち上げを目指しています。
「自社の利益だけを追うのではなく、社会の課題解決を目指して活動する企業姿勢が、猫好きの人に限らず多くの人からの共感を呼び、プロジェクトには2022年5月時点で1億7千万円以上の支援金が集まっています。自分たちは社会にどのような貢献ができるのかという視点で商品やサービスを見つめ直すことで、生活者から応援してもらえるような企画のアイディアが浮かんでくるかも知れません」(岡山さん)
大阪を拠点とする女性下着ブランド「ヘブンジャパン」では、2022年4月に、大阪の代表的な言い回しである「知らんけど」という表現を使って、面白おかしいポスターで自社の商品やサービスの強みを伝えるキャンペーン企画「ヘブンジャパン?知らんけど。ポスター」を実施しました。
モデル出演、写真撮影、キャッチコピー、デザインの全てをヘブンジャパンの社員が担当し、クスッと笑ってしまうユニークな10枚のポスターを作成しました。
企業の公式ツイッターで紹介したところ「さすが大阪の会社。ツボを押さえてる!」「ホーム画面にしたい」などのコメントとともに広く拡散されました。さらに、プレスリリースの配信がきっかけで、テレビやウェブなどのメディアで紹介され、下着カタログの資料請求数が2倍になりました。
「PRの基本は『売らずして売る』。商品を売ることを考え過ぎると、面白みの無い企画になってしまいがちです。キャンペーンを企画する際には、まず自社ブランドに親しみを持ってもらうことを重視すると良いでしょう。そのブランドを気に入れば、自然と商品にも興味が湧いてくるはずです」(岡山さん)
岡山さんの経験上、中小企業がPRで力を入れるべきポイントは、プレスリリースの配信とソーシャルメディアの活用。それぞれのコツを次のように説明します。
中小企業から「プレスリリースを配信しても反応がない」という相談を受けることがあります。多くの場合、メディア関係者が取材したくなるような興味深い内容を提供できていない事が原因です。まずは、メディア関係者が思わず紹介したくなるような企画とは何かを考え、プレスリリースを配信することが重要です。
プレスリリースをきっかけにメディアに紹介されたら、その実績を持って地元の新聞社やテレビ局へアプローチしてみましょう。そこでまた取材されたら、全国版の新聞やテレビ局へというように、段階的にメディアとの関係を築くと良いでしょう。
見た目がおしゃれであったり可愛かったりする商品であればインスタグラム、拡散されそうな面白い商品やサービスであればツイッター、話し上手なスタッフがいる場合にはユーチューブなど、自社の強みを最大限に生かす事のできるソーシャルメディアを選びましょう。
商品紹介をする場合は売ろうとせずに、価値や魅力を伝えることが大事です。自社の商品やサービスに対する思い、開発秘話などを添えて、自身の熱が伝わるような内容での発信を心がけましょう。組織が小さい分、社内での確認やソーシャルメディアの運用ルールが過剰にならず、担当者や開発者のリアルな声を発信できるのが、中小企業の強みです。
自社の商品やサービスへの熱意をいろいろな視点から伝える事で、共感したり、応援してくれたりする人が徐々に増えていきます。
最後に、中小企業はどのような心構えでPRに取り組むと良いのでしょうか。
「欲しくもないものを、売り込まれるのは誰にとっても嫌なものです。これは、メディアや生活者とのコミュニケーションにおいてもまったく同じです。メディア関係者は取材したくなるような面白いネタを探していますし、生活者は自分の好みの情報や生活に役立つ情報を求めています。自社の商品やサービスを売り込むよりも先に、そうした欲求にどうすれば応えられるかと考え伝えていく事から始めましょう。そういった受け取り手に対する真摯な姿勢でコツコツ情報発信を続けることで、徐々に共感者が集まり、“売ろうとしなくても売れる”企業へと成長する事ができるでしょう」(岡山さん)
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