企業のSNSは何のためにバズらせるのか?【ツギノジダイコラム】
SNSを使って情報発信をする中小企業が増えています。なかには、ファンを増やしたり、何度もバズらせたりすることに成功している人たちもいます。でも、そんな手法をまねしようとして、バズることが目的になっていませんか?そこで、バズるテクニックではなく、バズって何をしたいのか、ファンになってもらう大切さについて「ツギノジダイコラム」で紹介します。
SNSを使って情報発信をする中小企業が増えています。なかには、ファンを増やしたり、何度もバズらせたりすることに成功している人たちもいます。でも、そんな手法をまねしようとして、バズることが目的になっていませんか?そこで、バズるテクニックではなく、バズって何をしたいのか、ファンになってもらう大切さについて「ツギノジダイコラム」で紹介します。
目次
兵庫県丹波市でプラスチック関連製品の設計や製造を手がける土田化学の4代目・土田翔大さんは、射出成形機で生産する部品が、わずかな傷などを理由に廃棄されていることに気づき、何か活用できないかと投稿しました。筆者は「広くアイデアを募るような形で、改めて投稿してみても良いかと思いました」と返信。すると、約3時間後に次のように再投稿しました。
製品の無駄をなくしたいという思い、アイデアを広く募っていることを明確にしたところ、60リツイート、286いいねがつき、その前の投稿の約10倍となりました。提案も40件ほどが集まったといいます。Instagramでも同様の投稿をして、保育施設での活用につながりました。
とはいえ、今回、再投稿を促したのは、バズらせるためではありません。工夫すれば、土田さんが欲しているであろうアイデアが自然と集まるだろうと考えたためです。最初の投稿を読んだとき、すぐに頭に浮かんだのが下記で紹介する3つの事例です。土田さんにも紹介しました。
側島製罐(愛知県大治町)の6代目石川貴也さんのツイートで「10年で300缶しか売れなかった」という倉庫整理で出てきたオリジナル商品の在庫の写真をツイートしたところ、いろんな用途を提案するコメントが相次ぎました。
石川さんは、Twitterでコメントしてくれた人に丁寧に返事を続けるなかで、アニメやアイドルのファンがグッズを収納する「推し缶」という使い道を見いだします。そんな使い道と相まって、このツイートはその後、テレビや新聞に取り上げられ、何度も話題になりました。
製本業「藤沢製本」(滋賀県大津市)共同代表の藤沢佳織さんは、色とりどりの紙の写真とともに、製本の過程で生まれる紙の端切れ(紙出:しで)を「紙様」と呼び、活用先を探していることを投稿。こちらも返信欄に様々な使い道の提案がありました。
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藤沢さんはその後、「紙様の嫁入り」と題して、オンラインショップで送料と作業代分の価格で販売しています。何度かに分けて販売していますがその都度、売り切れています。このほか、「紙様」を市内の幼稚園・保育園に寄贈する活動は、TVや新聞でも紹介されました。
「紙様」が生まれたきっかけを藤沢さんに聞きました。
紙出の活用法は何年も考えていました。ただ売るような印刷会社もあるけれども、それじゃ面白くないなあとも感じていました。このツイートの1ヵ月ほど前に地元の朝市で試しに紙様を並べてみたところ、すごく反応がよかったんですよ。『ええっ?』と思って。
手芸屋さんと紙出を使ったワークショップも共同でやったのですが、皆さん紙を選ぶのほんと楽しそうにしてて。『あ、私以外にこれにときめく人いるんだ〜』と感じました。
テキトーフォーミー(藤沢さんが立ち上げたブランド)の商品は紙にもこだわっていましたから、紙様を好きな人はかばおのノートも好きになってもらえるかもと、それならもっとたくさんの人の目に触れるtwitter経由で、好きな人に届けたいなあと。そんなツイートでした。
「シコー」(本社・大阪市)は、産業用包装資材メーカーです。主力商品の一つである米袋の生産には繁忙期と閑散期の波があり、閑散期には工場の稼働率が上がらないという課題を抱えていました。知人からのアドバイスもあり、白石忠臣社長はTwitterでアイデアを募集することにしました。
1万回以上RTされ、集まったアイデアは50個以上となりました。バズった投稿がきっかけで、テレビやネットメディアからの取材も相次ぎました。
一方で、白石さんは先々代社長の父から「それ(バズ)がやりたかったことなのか?」と言われたそうです。筆者も「石川さんや藤沢さんのように一人ひとりに返信するのは難しくても、アイデアをどう生かそうとしているのか商品開発の過程を伝えた方がよいですよ」と伝えました。
白石さんのツイートはその後、何でも入れられる物入れ「よろず米袋」の開発や、HANKYUこどもカレッジ」で開かれるイベント「こめぶくろの学校」につながりました。白石さんはこうした商品開発や催事に至る過程を投稿しつづけています。
この3つの事例に共通することは、何に困っているかだけでなく、何をすれば役に立てるかが明確になっているところにあります。
投稿を読んだ人の「まだ使える製品は廃棄せず役立ててほしい」「困っている人がいるので助けたい」など社会の役に立ちたいという思いとつながり、大きな反響を呼びました。
3つの事例を紹介した理由はそれだけではありません。そのあとの製品化にまでつながったのは「誠実さ」があったからではないかと感じています。
3人ともアイデア募集や「助けてほしい」で終わらずに、投稿してくれるファンにコメントを返したり、アイデアを実現する過程を公開したりするなど、アイデアをもらって終わりとしませんでした。
SNSでは、善意を利用した悪質な売り方が横行しています。たとえば、農作物が余っていて廃棄されそうなので買ってほしいという投稿をしつつ、製造元や販売元のほか消費者が真偽を判断できるだけの情報を出さずに販売サイトに誘導するといった手口も時々目にします。
また、フォロワーやいいね数をKPI(重要業績評価指標)として共感を呼びそうなことを書いてみたり、プロフィール欄に誘導する投稿をしたりするなどSNSの運用テクニックがいろんなところで紹介されています。
もちろん、インフルエンサーになることを目標としているのであれば、その戦略もよいかもしれません。しかし、企業の名前を背負ってSNSを運用するのでしたら、一過性ではなく、中長期目線でファンを増やそうという気持ちが必要ではないでしょうか。企業がTwitter運用をまねするのであれば、数ではなく、きちんとファンをつくっている人たちの投稿をチェックしてみましょう。
ツギノジダイコラムは、ツギノジダイ編集部員が、編集や取材、企画などを通じて気付いた新しい視点や、経営のヒントになりそうなポイントを随時お届けします。
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