京屋染物店 4代目 代表取締役社長 蜂谷悠介(はちや・ゆうすけ)
半纏(はんてん)や浴衣など祭り用品メーカー。1918年に岩手県一関市で創業。小売店や祭り団体などを顧客とするオーダーメイド製造が主力事業で、先代社長までは染色工程を専門としてきた。悠介さんは2010年に事業承継したのち、デザインから縫製まで一貫生産する体制を確立。近年は自社ブランド商品の販売が目覚ましい成長を遂げている。
乗富鉄工所 3代目 取締役 乘冨賢蔵(のりどみ・けんぞう)
水門メーカーとして福岡県内では随一の実績を誇っている。1948年に福岡県柳川市で創業。機械設備の設計・製作・設置・補修といった全工程を一手に引き受けてきた。賢蔵さんは造船所勤務を経て2017年、乗富鉄工所に入社。現在、自社ブランド商品プロジェクトに注力し、職人のクリエイティビティを世に広めようとしている。
前回記事【アトツギDX対談】-製造業の改革(前編)- “製造現場のチームワークを”見える化“で改善!老舗のアトツギがkintoneを選んだワケ
新規事業のキャパシティはどう確保する?
蜂谷 弊社はお祭りに使う半纏や手ぬぐいをまとまった単位で受注生産してきた会社です。一方、新規事業は普段着として使える衣類を消費者向けに製造販売していて、いわゆるファッションブランドを作っています。
事業承継してからしばらくは、お祭り用品の生産だけで手一杯でした。しかし、デジタル活用による“見える化”が転機となりました。製造業特有の連係プレーがスムーズに機能するようになり、業務の効率化が一気に進んだので新規事業に取り組むことができました。
乘冨 キャパシティに余裕がないと新規事業に着手するどころじゃないですよね。“見える化”によって生まれた余裕を新規事業の開発に使ったのは私たちも同じです。自治体向けの水門の製造・設置・修理を手がけてきた会社ですが、新規事業ではアウトドア用品など「職人技を感じられる商品」の製造販売に取り組んでいます。
蜂谷 自社ブランド商品の開発という点で共通していますね。どういう問題意識から、新規事業に着手したのでしょうか?
乘冨 じつは水門の需要は、将来の縮小傾向が見込まれているからなんです。現在はまだまだ忙殺されるぐらいの注文はありますが、九州では河川の整備が一段落しました。水門事業に代わる新しい事業を創り出すことは、社内で共有されていた課題だったんです。
蜂谷 次世代の事業の創造はアトツギのミッションの一つですよね。弊社ではお祭り用品の市場のみに依存していてはいけないという問題意識がありました。地域の伝統であるお祭りは残していきたいけれども、以前に比べると縮小傾向です。時代に合わせて家業を進化させる必要を感じていました。
kintoneの「柔軟性」がアトツギに歓迎される理由
蜂谷 新規事業に着手して「よかった!」と痛感したのが、今回のコロナ禍対応です。お祭りの中止が相次ぐと、既存事業の売上がガクッと落ち込みました。活路として残されていたのが、新規事業の日用品販売でした。社を挙げて新規事業に注力した結果、なんと現在では業績がコロナ禍以前を上回ったんです。
ただ、ビジネスが軌道に乗るとタスクが段違いに増えるので悩ましいですね。さらなる効率化を手探りで進めています。
乘冨 タスク量のコントロールは悩むところですよね。弊社では現在のところ、既存事業と新規事業を両立させることができていますが、ゆくゆくはさらなる効率化を模索するタイミングが来るかもしれません。蜂谷さんは事業拡大に伴ってタスクが増大している現状だと思いますが、どのようにさばいているのか気になります。
蜂谷 既存事業の効率化では「kintone(キントーン)」を活用してきましたが、新規事業でも役立ちました。既存事業の成功体験を、新規事業に応用しています。
そもそもkintoneを選んだ決め手は「なんにでも使える」柔軟性にありました。kintoneの導入当初は、顧客情報や製造工程の管理が目下の課題でしたが、事業を再構築している時期だったので会社のあり方にあわせて自由な使い方をしたかったのです。
導入時点では具体的にイメージしていませんでしたが、現在では新規事業において、販売や在庫の管理といった業務にkintoneを活用しています。これも「なんにでも使える」柔軟性のおかげです。
乘冨 弊社もkintoneを使って業務の効率化を進めてきました。既存事業から新規事業へと活用が広がっていく流れも似ています。まだ私たちは新規事業へ力を注ぎはじめたところなので、蜂谷さんのお話はとても励みになります!「なんにでも使える」柔軟性は、既存事業と新規事業で商売の仕組みが全く異なる弊社にとっても、便利さを感じたポイントです。
既存事業で扱う商品は水門という大型機械で、自治体が主な顧客です。一方、新規事業ではアウトドア用品を小売店に卸しています。新規事業はあらゆる意味で畑違いの市場なので、想定外のタスクも多々ありました。ただ、kintoneはどのような用途でも活用することができたので助かっています。
蜂谷 消費者市場に進出する場合、在庫管理の負担は悩みどころですよね。これもkintoneを使うことで“半自動化”することができます。弊社では商品の出し入れがあるたびにデータ入力することで、「いくらで作った商品が、今いくつあるのか」といった集計が自動的に完了していく仕組みを構築しています。
最近はもっと高度な自動化を検討中です。たとえば手入力しているデータを、バーコードの読み取りで完了するといった仕組みを構想しています。外部のシステムや機器との連携という面でも柔軟に使えるkintoneは便利ですね。
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コミットを引き出すには「エピソード共有」
乘冨 なるほど……弊社でももっとkintoneを新規事業で便利に活用できそうです。中小企業の新規事業に使える人手は限られているので、業務の効率化は重要ですよね。私はいまだに社内を巻き込んでいくことに苦労しています。水門事業に忙殺されていることもあり、新規事業の製造に協力してくれる職人はまだ一部に留まっているのです……。
蜂谷 わかります。既存事業が十分に儲かっている段階では、いたずらに社内の負担を増やしたくないのが経営者の本音だと思います。ただ、次世代の経営者として、余裕のあるうちに柱となる事業を増やしておきたいところですよね。
弊社はコロナ禍の危機を、新規事業で社員が一つになったことで乗り越えられました。新規事業がなかったら大打撃を受けていたでしょう。
私たちの場合、逆境で会社が一つになれた理由は、業績悪化の事実が社内で共有されていたことにあります。kintoneを通じてリアルな会社の数字を誰でも見られますからね。「ここが頑張りどころ」という共通理解が、私が旗を振る以前から社内に生まれていたというわけです。
乘冨 それはすごいですね。社内の微妙な立場にいるアトツギにとって、従業員の理解を得ることはとても大事だと思います。新規事業を進めるにあたって私がエネルギーを注いできたのが「なぜ」の部分を伝えることです。そのために社内でプレゼンする機会を定期的に作っているほどです。
蜂谷 たしかに「なぜ」を伝えることは重要ですね。そこで有効な一手が、新規事業がお客様に喜ばれている事実を伝えることだと思います。
弊社では「お客様の声」を共有するためのオンラインスペースをkintoneで作りました。「この割烹着は夢に向かって頑張る私の“勝負服”です」など商品使用のエピソードが蓄積されています。お客様の人生を豊かにしていることにリアリティが生まれると姿勢が積極的になります。
乘冨 いいですね……!お客様の顔がイメージできるようになると深いコミットが生まれますよね。kintoneを使ったエピソード共有は、私もチャレンジをはじめました。
私の場合、新規事業と既存事業の間の溝を埋めることを意識して、展示会に既存事業を担当する営業も同行してもらっています。お客様と接する機会が有ると無いとではコミットの深さが段違いですね。
「効率化」が仕事を楽しむ余裕に繋がる
乘冨 立ち上げから間もない新規事業は、少人数体制で運営されることが多いと思います。弊社も製造業務は分担できていましたが、営業と事務作業はほぼ私一人が担当する体制がしばらく続きました。
ところが、私が急病で倒れてしまって1カ月ほど業務を離脱したことがあったんですね。一瞬慌てましたが、不幸中の幸いだったのがkintoneを使った情報共有が進んでいたことでした。kintoneを見てもらえば引き継ぎがだいたい完了するので、私が営業や業務から離れることの影響を最小限に抑えられました。
「私が入院した時、もしkintone がなかったら……」と思うとゾッとします。新規事業は限られた人員のやりくりが生命線です。
蜂谷 乘冨さんの体験は「属人化の解消」というkintoneのメリットが新規事業でも発揮されたエピソードだと思います。属人化が解消されると社内が良い雰囲気になりますよね。弊社でも属人化を解消してから、社員同士の自発的な助け合いがよく見られるようになりました。
kintoneを通じてお互いの忙しさがオープンになっているので「あなた働きすぎだから有給休暇を取ったらどう? その仕事は私が引き取るから」など助け舟を出しやすいんですよね。
乘冨 「新規事業による既存事業の圧迫」は、アトツギにとって気になる問題だと思います。既存事業と新規事業が相乗効果を生むことが理想です。
蜂谷 みんなが率先して新規事業に参加してくれるような状態が望ましいですよね。私は“やりがい”による動機付けがポイントだと思います。
例えば、「感謝の気持ちを伝える」「頑張っている人を褒める」など社員同士が認め合うようなコミュニケーションを促進してきました。具体的には、感謝の気持ちを気軽に伝えられる仕組みを作りました。これもkintoneを活用しています。
乘冨 「“やりがい”による動機付け」は弊社でもありました。実は、新規事業の売れ筋となったアウトドア商品は、開発のきっかけが社員の趣味でした。作り手の興味関心を切り口にしていることが、社内のみならず社外を巻き込んだ新展開に繋がっています。たまたま訪れた店舗の方とアウトドアの話で盛り上がったことからコラボ商品が誕生するなど、“アイデアの化学反応”が生まれやすいと思います。
蜂谷 たしかに、作り手の気持ちが“乗ること”は、良い商品を開発するうえで大事ですよね。弊社も社員を起点とする企画を歓迎してきました。
例えば、草木染めに詳しい職人が自分の興味関心を掘り下げて誕生した商品が、岩手県の特産品である漆が採れる木材を原料とした染め物です。
目の前の仕事で手一杯になると、興味を掘り下げる余裕がなくなります。そういう意味で、新規事業の商品開発はkintoneによる効率化が前提にあると思います。煩わしい雑務はできるだけ効率化して、会社の未来を作るための楽しい仕事に社員が専念できるようにしたいですね。
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kintoneは、日々の業務に必要なシステムをだれでも簡単に作ることができる、サイボウズのクラウドサービスです。
導入担当者の93%が非IT部門で、全国20,000社以上に導入されています。
プログラミングなど特別なスキルや知識は不要です。データの登録・共有はもちろん、集計やグラフ化もマウス操作のみで行えます。
スマートフォンやタブレット端末にも対応しているので、外出先からも社内のデータを確認できます。
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