目次

  1. 2020年までに高い成長を果たした12産業
  2. 12産業が急成長した3つの要因
    1. 技術またはビジネスモデルの劇的な変化
    2. 投資のエスカレーションメカニズム
    3. 大きくまたは成長している潜在市場
  3. 2040年までに高い成長が見込まれる18産業
    1. 成長が継続する産業
    2. スピンオフする産業
    3. 新たに出現する産業

 マッキンゼーのホワイトペーパー「The next big arenas of competition」(PDF)によると、MGIは、2005~2020年のデータにもとづき、高い成長と市場シェアの大きな変動を示した12の産業を特定しました。この12産業は以下の通りです。

  • ソフトウェア
  • 半導体
  • コンシューマーインターネット
  • eコマース
  • 家電製品
  • バイオ医薬品
  • 産業用エレクトロニクス
  • 決済
  • ビデオ・オーディオエンターテインメント
  • クラウドサービス
  • 電気自動車(EV)
  • 法人向け情報サービス

 この12産業は、2005年から2020年にかけて年率10%の収益成長率を記録したのに対し、他の産業はわずか4%でした。市場総額に占めるシェアを、2005年の12%から2020年には34%へとほぼ3倍に増やしています。

 12産業の経済利益のシェアは2005年、全体の9%(530億ドル)を占めるにすぎませんでしたが、2019年には49%(2500億ドル)にまで拡大しました。そのため、12産業ではグローバル大企業が生まれました。

 この12産業が成長した背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)というトレンドがあります。グローバルなインターネット接続性、情報処理・通信コストの継続的な指数関数的改善、低変動費と強力なネットワーク効果を持つソフトウェア主導のビジネスモデルなどが、有利に働いたとMGIはみています。

 さらに、詳しく分析すると、高い成長と市場シェアの大きな変動をもたらす3つの要素が見つかったといいます。

 一つ目は、新しい技術やビジネスモデルが市場に劇的な変化をもたらすことです。例えば、eコマースにおけるオンラインでの売買、ストリーミングビデオにおけるオンデマンド配信、EVにおける従来のガソリン車からの転換などです。

 二つ目は、競争力を維持または向上させるために、企業が継続的に投資を拡大する必要があるメカニズムです。例えば、クラウドサービスにおけるデータセンターへの巨額投資や、ストリーミングビデオにおけるコンテンツ開発への投資競争などです。

 三つめは、技術やビジネスモデルの変化によって、大規模で成長の速い市場が切り開かれることです。これは、既存の巨大市場のシェアを奪う場合もあれば、新たな需要を生み出す場合もあります。

これまでの分析から得られた知見をもとに、MGIは2040年までに高い成長とダイナミズムを示す可能性のある18の産業を挙げました。

 MGIのモデルシナリオでは、これら18産業は、2022年の7.2兆ドルから2040年までに29兆~48兆ドルに成長する可能性があります。これは年平均成長率(CAGR)8~11%に相当します。

 MGIは、18産業を3つのグループに分類していました。

 12産業のうち、今後も高い成長とダイナミズムを維持する可能性が高い産業です。

半導体 

 AI、機械学習、ロボティクス、自動運転といった技術トレンドが、複雑でドメイン固有のチップの需要を牽引します。特に生成AIの演算能力需要は2030年までに年率約125%で増加する可能性があります。研究開発や製造への投資が活発に行われ、各国政府も支援しています。市場シェアの変動は、汎用チップからドメイン固有チップへのシフトや、テクノロジー企業による垂直統合によって起こりえます。

クラウドサービス

 企業のクラウドへの移行継続に加え、AIなどの新技術による演算ニーズが成長を牽引します。数少ない主要プレイヤーが市場の多くを占めていますが、コストや利便性が重視されるにつれて競争が激化する可能性があります。

電気自動車

 従来の自動車市場からシェアを奪いながら成長しています。

デジタル広告

 インターネット収入の主要な源泉として成長が続くと予想されています。消費者のメディア利用時間が増加し、特にデジタルフォーマットへのシフトが進むことが成長要因です。新たなフォーマットや「ウォールドガーデン」の動向がシェア変動に影響します。

 12産業に含まれていた小さな領域が、大きく成長し、一つの産業となる可能性のある分野です。高い成長とダイナミズムを示すことで新しい成長分野となる可能性のある産業です。

AIソフトウェアおよびサービス

 ソフトウェア産業からスピンオフしたアリーナ候補です。特に生成AIの登場は劇的な技術変化であり、企業での導入が急速に進んでいます。分析AIと生成AIの発展が生産性を向上させ、2040年までに1.5兆ドルから4.6兆ドルの収益規模になる可能性があります。市場のダイナミズムは、フロンティアモデル構築の高コストや計算能力への依存、オープンソースモデルの発展などによって形成される可能性があります。

ストリーミングビデオ

 ビデオ・オーディオエンターテインメント産業からスピンオフした成長候補です。オンデマンドストリーミングがビジネスモデルの劇的な変化をもたらし、コンテンツ開発への投資競争(ストリーミング戦争)が起こりました。高速インターネットアクセスの拡大が成長要因です。過去10年で新規参入が減り、統合が進んでいます。

デジタル広告

 コンシューマーインターネット産業からスピンオフした成長候補です。

 既存産業との関連性が比較的低い、新しく出現する可能性のある産業です。成熟度は様々ですが、いずれも高い成長と市場シェアの変化の初期兆候が見られます。

宇宙産業

 国家主導の投資が拡大の基礎となり、防衛・情報、民間セグメントが成長を牽引します。ロケット製造・打ち上げサービスでは一部の主要プレイヤーが市場シェアを占める可能性が高い一方、民間セグメントでは政府機関との連携による新規参入機会も存在します。

サイバーセキュリティ

 デジタル化の進展に伴い、サイバー攻撃の脅威が増大し、需要が継続的に増加しています。

バッテリー

 EVや定置型エネルギー貯蔵システム(BESS)が市場拡大の主要因となります。EVが2040年までにバッテリー市場全体の84%から88%を占める可能性があります。

モジュール建築

 オフサイト製造による効率化と品質向上、建設現場での安全性向上などが成長要因となりえます。

ビデオゲーム

 消費者のエンターテインメント支出に占めるシェアが増加し、2040年までに44%に達する可能性があります。

ロボティクス

 特に生成AIとロボティクスの融合が、物理世界とのインタラクション能力を劇的に向上させ、複雑なタスク実行を可能にする可能性があります。自律型汎用ロボット市場は高いダイナミズムを示す可能性が高い一方、研究開発やデータ収集に巨額の投資が必要なため、プレイヤー数は絞られていく可能性があります。

産業用および一般向けバイオテクノロジー

 バイオベースの素材や製品が従来の素材の代替となりうるか、消費者の需要や受け入れがどの程度進むかなどが成長・ダイナミズムのスイング要因となります。

次世代航空モビリティ

 特に電動垂直離着陸機(eVTOL)などの旅客輸送がまだ黎明期にある産業です。成長があればそれ自体が大きなシェア変動となります。市場がある程度の規模に達すると、規模の経済や顧客獲得の競争により、主要プレイヤーへの集約が進む可能性があります。

肥満および関連疾患治療薬

 GLP-1アゴニストなどの新しい治療薬の登場により、巨大な未開拓市場が開かれつつあります。

原子力発電

 エネルギー移行と脱炭素化のシナリオ、およびコスト競争力に依存しますが、新規プラント建設の可能性があります。市場シェアの変動は限定的である可能性が高いですが、開発途上国への進出機会は存在します。

自動運転シェアカーサービス

 ロボタクシーなど、自動運転技術を用いたライドシェアサービスです。詳細な成長要因やダイナミズム要因は文書中で別途解説されています。