「石屋=墓石」だけじゃない 最高級の御影石を使った新ブランドの器が人気
最高級の御影石からできている墓石の端材から高級レストランや旅館で納期まで半年待ちとなるほどの人気の器が誕生しました。「匠」と呼ばれる石職人の高い技術力に事業コンセプトを掛け合わせて生まれた新規事業を岡崎ビジネスサポートセンター・オカビズから報告します。
最高級の御影石からできている墓石の端材から高級レストランや旅館で納期まで半年待ちとなるほどの人気の器が誕生しました。「匠」と呼ばれる石職人の高い技術力に事業コンセプトを掛け合わせて生まれた新規事業を岡崎ビジネスサポートセンター・オカビズから報告します。
愛知県岡崎市は、日本3大石品生産地といわれ、古くから栄えてきました。良質な花崗岩(御影石)が採掘できる日本3大石品生産地(岡崎市、香川県庵治町牟礼町、茨城県真壁町)の一つであり、優秀な石職人をたくさん抱える石製品の街。
今でも、墓石や石灯籠、石細工など様々な石製品を製造する会社や工場が街中にたくさんあります。
しかし、石材を取り巻く環境は厳しく、石材市場はこの20年で急激に縮小。2000年に約4500億円だった市場規模は2015年に約2500億円と半減。以降、縮小の一途を辿っており、従来の墓石や石像、灯篭などの需要は減少傾向にあります。
こうしたなか、岡崎市にある創業94年の稲垣石材店も墓石の製造・販売を主な事業としてきました。これまでの歴史や伝統、技術を存続させつつ、次の100年に向けて「石屋=墓石」だけではない石の魅力を伝える方法を摸索していました。
2016年に家業へ戻り社業に励んできた、稲垣遼太さん。順調に行けば、今後4代目として事業運営を期待されています。人々のライフスタイルの変化に合わせて「墓じまい」のサービス化や、お墓の統合を「お墓の2世帯住宅」と銘打ち商品展開するなど、創意工夫で新たな展開に取り組んでいます。
そんな稲垣さんは、墓石を製造する過程で生まれる端材が廃棄されていることに注目しました。端材を利用して制作した、石のお皿をCreema(ハンドメイド、手作り、クラフト作品を販売できるオンラインマーケット)に出品したことがきっかけで神戸のステーキレストランから問い合わせが入り、デザインを決めるところから約1年かけてオーダーメイドの石のお皿を納品。その後も継続した受注に繋がり、可能性を感じたといいます。
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「フリマアプリで一部反響もあり、端材を活用した石製の食器に可能性を感じているが、思ったようには売れていない…今後どうしたらよいのだろうか……」
そう考えた稲垣さんは、オカビズに相談に訪れました。そのなかで、意見交換を通じて事業コンセプトを改めて練り上げていきました。まず、主力である墓石製造から出た端材は、そのままでは産業廃棄物になってしまいますが、そもそもは最高級の御影石であるという点に着目しました。
「最高級の御影石から、熟練した職人の手仕事によって生まれたオーダーメイド石食器」とコンセプトを明確に再定義。そして、稲垣石材店という屋号から「い」「な」「せ」の三文字を使い、新ブランド「INASE(イナセ)」として展開することとなりました。
この商品には3つの特徴があります。
こうした特徴は日本有数の石の街で90年以上続く石屋として地盤のある稲垣石材店さんがもともと持っていた強みです。
INASEのターゲットは、高級外食市場と設定し、新たな販路開拓をすすめることになりました。以前訪れた高級フレンチ料理店で、サービスプレート(お料理が始まる前に置かれている飾り皿のことです)として、御影石でできた石版が置かれていたことを思い出し、素材そのものの持つ上質さが高級外食の現場で評価されるに違いないと考えたからです。
ダイレクトーメールや訪問など地道な営業から、採用事例が徐々に生まれ、そこから評判となり、ヒット商品に成長しています。
販売から1年半ほどですが、すでに会社全体の1割弱を占めるまでに成長し、一時は受注を中断するほどに。現在でも、納期は半年待ちとなるほどの人気ぶりだそうです。
国内外のミシュラン星付きレストランや高級旅館などでの採用が相次いでいます。たとえば、2つ星のフランス料理店 ラ・ヴァガボンド(LA VAGABONDE・名古屋市)や、おなじく2つ星の寿司店 鮨 志の助(金沢市)などに採用されたほか、フランス、シンガポール、ドバイ、他海外の高級レストランなどにも納品が進んでいるそうです。
また新たに百貨店でのポップアップショップの開設などの商談も進んでいます。
INASEは、これまで未利用だった墓石の端材をいかし、新たな付加価値を付け加え「アップサイクル」ともいえる取り組みとなりました。SDGsで定められた「12.つくる責任、つかう責任」に合致したものともいえるでしょう。
新たな事業展開を主導した、稲垣さんはINASEの取り組みついてこう語ります。
「この5年の間にも、岡崎の石屋が2軒、3軒と廃業していく姿を目の当たりにしました。徐々にお墓参りやお墓を立てるという文化が薄まりつつあることに危機を感じ、こうした習慣の息づく生活を後世に受け継いでいくのが弊社の使命であると考えています。
時代は変化していくものですが、石像彫刻の職人だった曾祖父の代から変わらず「お客様のお役に立てる石屋でありたい」という信念を貫き、石そのものの本質的な価値を伝えるという原点に立ち返ってINASEブランドを立ち上げました。石はものすごく種類が多く、奥が深いです。
それを加工する職人の技術力の高さを感じてもらい、活躍の場をつくりたい、そしてつくる人も受け取る人も互いに満足するいいものを生み出したい、そうした想いからオーダーメイドにこだわりました。今後は器に限らず、シンプルに石が魅力的だと思ってもらえるようなものを創り、世に出していきたいと考えています」
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