目次

  1. 国土強靭化とは
  2. 第1次国土強靱化実施中期計画のポイント
  3. 進行するインフラ老朽化に対応する2030年目標
    1. 道路施設
    2. 鉄道施設
    3. 港湾施設
    4. 上下水道施設
    5. 航路標識
    6. 卸売市場
    7. 公営住宅
    8. 避難所や教育の現場となる学校等

 国土交通省の公式サイトによると、国土強靱化とは、自然災害に強い国づくり・地域づくりを目指す取組のことです。

 気候変動に伴い、自然災害が激甚化・頻発化しているだけでなく、今後、南海トラフ地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震などの大規模地震による大きな被害が起こる可能性があります。

南海トラフ巨大地震 首都直下地震 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震
人的被害(死者) 最大約29.8万人 最大約2.3万人 最大約19.9万人
資産等の直接被害 約224.9 兆円 約47.4兆円 約25.3兆円
生産・サービス低下による被害を含めた場合 約270.3 兆円 約95.3兆円 約31.3兆円

 2013年施行の「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」をもとに閣議決定された「国土強靱化基本計画」などにもとづいて対策が進められてきました。

 2025年6月6日に政府が閣議決定した「第1次国土強靱化実施中期計画」は、2026年度からの5年間で実施すべき政策をまとめています。

 内閣官房の公式サイトに掲載された第1次国土強靱化実施中期計画は、現下の人件費・資機材価格の高騰や、人口減少・少子高齢化に伴うコスト増大や工期延伸といった課題が顕在化していることに対応し、「災害外力・耐力の変化」、「社会状況の変化」、「事業実施環境の変化」という3つの観点から対策を進めることが基本的な考え方としています。

 「推進が特に必要となる施策」の事業規模は、今後5年間でおおむね20兆円強程度を目途とし、今後の資材価格・人件費高騰等の影響については予算編成過程で適切に反映するとしています。

 この計画の主な柱は以下の5つです。

  1. 国民の生命と財産を守る防災インフラの整備・管理(5.8兆円)
  2. 経済発展の基盤となる交通・通信・エネルギーなどライフラインの強靱化(10.6兆円程度)
  3. デジタル等新技術の活用による国土強靱化施策の高度化(0.3兆円程度)
  4. 災害時における事業継続性確保をはじめとした官民連携強化(1.8兆円程度)
  5. 地域における防災力の一層の強化(1.8兆円程度)

 今回の計画の大きな焦点の一つは、5つの柱の複数項目にまたがる「進行するインフラ老朽化への対応」です。

 高度経済成長期に整備されたインフラは老朽化が進んでおり、著しい劣化や損傷が「災害耐力の低下」をもたらし、災害時に被害を拡大させる懸念があります。

 2025年1月に埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故は、目に見えない形で忍び寄るインフラの老朽化対策が急務であることを浮き彫りにしました。

 この「災害耐力の低下」と、気候変動による「災害外力の増大」という、いわば「複合災害」の発生を回避するため、計画では「インフラ長寿命化基本計画」等に基づき、老朽インフラの修繕・更新を強力に推進し、予防保全型メンテナンスへの移行を図ることが明記されています。その際、防災・減災対策と一体的に進めることで、効率的・効果的な取り組みを目指します。

 具体的なインフラ老朽化対策の2030年度の目標は、各分野で設定しています。目標は、南海トラフ地震などを考慮して、おおむね20年から30年程度を一つの目安として設定しました。ただし、30年超かかる対策でも、地域ごとに異なる災害リスクの実情や緊急性等を踏まえて、優先順位をつけています。

 国および地方公共団体が管理する橋梁(約9万2000橋)の修繕完了率を2030年度までに80%に、緊急輸送道路の舗装(約8300km)の修繕完了率を61%とします。

 耐用年数を超えて使用され、予防保全が必要な鉄道施設約470ヵ所の老朽化対策完了率を79%に、青函トンネル施設(約180か所)の老朽化対策完了率を17%とします。

 全国932港にある老朽化した港湾施設約2.5万ヵ所の予防保全対策完了率を90%とします。

 漏水リスクが高く、社会的影響が大きい大口径水道管路(口径800mm以上)約600kmの更新完了率を32%に、損傷リスクが高い大口径下水道管路約5000kmの健全性確保率を100%に引き上げます。

 老朽化等対策が必要な航路標識(1468ヵ所)の整備完了率を2030年には74%とします。

 全国の主要な卸売市場(64ヵ所)のうち、今後10年以内に実施すべき老朽化した卸売市場(全国10ヵ所)の対策完了率を20%と置きました。

 特に老朽化した全国の公営住宅団地5500ヵ所の更新や老朽化対策のための改修の完了率100%を目指します。

 避難所や防災拠点等にもなる国立大学法人等が保有する施設のうち、点検等により早急な対応が必要とされた施設(築45年以上かつ200㎡を超える棟に存在する落下・崩落の危険性のある天井、外壁、内壁、窓・ガラス及び照明器具:600万㎡)・設備(避難所機能の確保に必要な主要配管・配線:4564km、基幹設備:5991台)の落下・崩落対策完了率を76.4%とします。